【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

実行委員会

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 私が通ってる女子高は超進学校なだけあって、勉強はかなり厳しい。しかもその上、部活動(もしくは委員会)は必ず入らなきゃならないから、私は迷ってしまう。入学から2週間後の、明日が提出期限だ。

「部活かぁ」
「設楽さん、なにかしてた?」

 放課後、同じクラスの大村さんが話しかけてくれる。入学式で話しかけられて以来、ちょっと仲良くなりつつある。

「帰宅部だったんだよね。高校も、部活より、委員会のほうが楽しそうかなって」
「ああ、そうかな」
「うん、文化祭の企画運営とか楽しそう」
「かもね」

 私たちが眺めているのは、各部活動と委員会のパンフレットだ。

「生徒会役員は選挙で選ばれるけど、実行委員会は希望者なんだね」

 "実行委員会"は学校行事を企画・実行するのが仕事だ。主なイベントは体育祭と文化祭だとパンフレットにはある。

「さっそく体育祭があるから大変かもだけどねぇ」

 体育祭は5月なかば。あとちょうど1ヶ月くらい。

(いきなりバタバタするかもだけど)

「楽しそうだしやってみようと思うの」

 どうせやんなきゃなら、興味あることしてみたい。

「わたしもそうしようかな」

 大村さんがそう言ってくれて、心強い。私たちはそろって入部希望届を職員室に持っていく。

「はい、確かに受け取りました」
「……すっごい謎なんですけど、なんで相良先生今年も担任?」
「さぁ赤い糸じゃない?」
「やめてくださいセクハラですよ」

 相良先生は、はっはっはと笑った。
 そのまま生徒会室へ行くように言われて、私たちは連れ立って廊下を歩く。

「え、そうなの? 偶然にしてもすごいね」
「小学校からだもん」

 相良先生、担任5年目。

「なんか新鮮味がない」
「3年ごとくらいで、任期付で契約してってるのかな」
「かもねー」

 なんて言いながら、生徒会室をノックする。こんこん。
 ぴたり、と中の喧騒が止んだーーそう、生徒会室はザワザワと声が飛び交っていたのだ。
 ばたん! と扉が開く。
 メガネの三つ編みおさげの女子、リボンタイの色は緑だから3年生だと思う、が飛び出てきた。

「も、もしかして実行委員会希望者?」
「あ、え、はい」
「やったあああ猫の手が来た! 猫が来た!」

 先輩は私たちの首根っこを文字通り掴んで生徒会室に引きずり込む。中には10人くらいの人たちが(当然全員女子)がいた。リボンタイは緑と青、3年と2年。ちなみに私たち1年生は真紅。

「ハイコレ全部折り曲げて!」
「え、なにこれです、ってパンフレット?」

 体育祭のパンフレットのようだ。A4サイズで印刷してある。これを二つ折りしていくらしい。大量にある。

(え、何枚くらいだろ)

 10センチあるかないか、くらいの厚さ。

「これ、近隣住民の皆様に配布する分! 配布して五月蠅くしますのご挨拶周りも手分けして行くからそのつもりでっ」
「え、い、いつですか!?」
「来週っ、て、あ、ごめんなさい私、実行委員長の鹿島です」
「し、設楽と」
「大村です」
「了解。じゃあ始めましょう!」

 鹿島先輩はぱん、と手を打つ。

「提携の高校にもご挨拶にいくから、その分のパンフレットも頼みます」
「提携校?」

 私が首をかしげると、鹿島先輩は眉をひそめた。

「野蛮な男子校ですが、提携してしまってるからにはしかたありません」
「や、野蛮」

 どんな高校だろう。

「とーにーかーくー、時間がありません! みなさん一致団結して乗り越えましょう!」

 鹿島先輩の言葉に拍手が起きる。

「……、相当人手不足だったみたいだね」
「ね」

 私と大村さんはこっそり顔を見合わせた。
 せっせとパンフレットを折り曲げまくっていると、すっかり日も暮れてしまった。

(迎えにきてもらお)

 すっかりウチの専属になってしまった運転手の島津さんにメールを送る。お子様スマホだ。ネット検索とかはできないやつ。相変わらず、敦子さんは私に情報統制を敷きたがってる。

(…….心配されてるのは分かるけど)

 もう高校生なのになぁ。中身はすっかり前に大人ってのは別にして。

(ま、大人からしたら高校生なんかまだお子様だもんね)

「遅くなったけど大丈夫?」

 鹿島先輩が聞いてくる。大村さんは「家、近いんです」と笑った。

「設楽さんは?」
「ウチは鎌倉なんですけど」
「え、うそ、ごめん。電車1時間くらい? けっこう遠いよね」
「大丈夫です、迎えきてもらうんで」

 もうちょっと作業できます、と言うと鹿島先輩は「ありがと」と笑った。

「どうしても修羅場るのよねー、今の季節は。実行委員会は生徒会の一部だから、入学式とかのイベントもお手伝いしなきゃだし、同時進行で体育祭の企画だもんね」

 はぁ、と先輩はため息をつく。

「けど、充実は間違いないから!」

 先輩はぐっと手を握りしめた。

「達成感すごいよ!」

 にこり、と微笑まれて、私たちも思わず微笑み返した。

「ところで、申し訳ないんだけど、明後日ね。例の提携校に挨拶にいくんだけど」
「ああ、あの、野蛮な」
「そう、野蛮な」

 先輩は眉をひそめる。

「すっごいジロジロ見られるしヒソヒソされるしイヤなんだけど、……って、ごめんなさい、嫌な先入観を」
「いえ」

 私は苦笑いした。潔癖な女の子からしたら、その年頃の男子はあまり受け付けないこともあるかもしれない。

「とにかく、そこにね、設楽さんか大村さん、一緒に来てくれない? 一応、新一年生紹介しなきゃで」
「え、私たち2人だけなんですか?」

 新入生、と言うと鹿島先輩はゆっくり頷いた。

「ええと」

 がっしり、と肩をつかまれる。その目は「逃がさない」と言っていた。

「うふふ」
「うふふふふ」

 とりあえず笑い合う。うう、ほんとに人手不足なんだぁ。

「その学校、横浜にあるんだけど…….そうだ、設楽さんさえよければ、お願いできない? そのまま帰宅していいから」
「あ、いいですよ」

 大村さんは少し申し訳なさそうに手を合わせた。

「いいかなぁ。私、その日塾で」
「全然平気」

 私は頷いて、その野蛮な男子校とはどこのことだろう、なんて思っていた。
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