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【高校編】分岐・鹿王院樹
イースターの卵
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イースターといえば卵、樹くん曰く「卵探し」なイベント、エッグハント。この学校では卵型のオーナメントが隠してあって、それを見つけると景品がもらえる。
「絶対見つけ出す、カフェテリアスイーツ年間パスポート」
「気合い入ってるね~」
くすくす、と大村さんが笑った。
「入るよ! そりゃぁ!」
私は力説する。
「1年間、カフェテリアのスイーツ食べ放題なんだよ……!?」
「なんだよ、と言われましても」
大村さんは、配られたプリントを見て首をかしげる。
「わたし、この学食1万円分無料のほうがいい」
「そっちもいいんだよ……! そっちもいいんだけれどっ私はスイーツをとるっ」
「まだ見つけてもないのに~」
ふふ、と笑う大村さんは、可愛らしいピンクのドレス。レンタルの分だ。
「結局、クラスの人に誘われたんだよね?」
「あ、いや、まぁ、お互い余り物っぽかったし? ね?」
少し照れつつ言う大村さんに、私は樹くんから聞いた「お見合い」の話を少し思い出した。なるほど、効果はあるのかもしれない。
「でもその人とエッグハントするんだよね?」
うふふ、と口に手を当てて笑う。ちょっとからかっちゃえ。可愛いんだもんなぁ大村さん!
「ちょ、もー」
照れて笑うと可愛さが増しますね!
「設楽さんどうするの?」
「特に誰とも約束してないけど」
誰かと落ち合ったら、一緒に探そうかなくらい。
「そっか、じゃあまたパーティで! 年間パス、みつかるといいね!」
「みつけるよ! じゃあね」
手を振る大村さんと中庭付近で別れ、そこかしこを探しつつ歩く。なかなかないなぁ。それともこの辺は探され尽くしているのだろうか……。
「設楽」
「黒田くん」
よう、と軽く手を上げる黒田くん。男子はスーツなんだけど、黒田くんは道着だった。
「サボる気満々だね?」
「人聞き悪ぃこと言うな」
にやりと黒田くんは笑った。
「自主練行くだけだ」
「興味ない? たまご」
「ねーなぁ」
そう言って、私を少し見つめる。
「似合ってるな」
「そ、そう?」
真紅のドレス。真さんがどうのこうの言ってたやつだけど、コンシェルジュさんオススメだったし。
「おう」
黒田くんはにかりと笑った。
「いちばん綺麗なんじゃねーの」
「え」
「なんてな、じゃあな」
軽く手を振ってさっさと武道場方面に歩いて行ってしまう。
(お世辞でも嬉しいなぁ)
ちょっと感謝しつつ、校内へ戻る。
(……なかなかない)
うーん、と首をひねる。正確には、卵はあったのだ。でも私が欲しいカフェテリア年間パスではなかったので、戻しておいたのだ。1人一個と決まっているから。
(どのあたりに、)
なんて考えつつひとりで歩いていると、「設楽さん」と声をかけられた。
「?」
振り向くと、3人の女の子。揃いのピーコックグリーンのドレスを着て、目元を隠す仮面をしていた。
(? イースターってそんなイベントだっけ?)
ハロウィン混じってるなぁ、なんて思いつつ見ていると、真ん中の子が口を開いた。
「鹿王院くんが呼んでたよ」
「え、あ、そうなの?」
私は少し緊張しながら答えた。女の子たちは笑う。
「付いてきて」
手を取られる。
「? はい」
言われるがままに、付いていく。階段を登り、途中エッグハントの何人かとすれ違いながら、教室棟4階の隅っこまで。
(こんなところに?)
普段、半分倉庫としてしか使われていないような教室。使ってない机や椅子が所狭しと並べられていた。
「あの、本当に樹くん、」
そう言った時には、ぴしゃり! と扉が閉められていた。
「え、」
「しばらくそこにいなさい!」
「許婚だからって、いい気になってんじゃないわよ!」
「そーよそーよ、同情と鹿王院くんの優しさだけで許婚でいられているのに!」
「あなたがいるせいで、鹿王院くん誘いたい人がいても誘えないんじゃないの!?」
口々に彼女たちはそう言って、嘲るように笑った。
「パーティ終わるまでそこにいなさい!」
「終わったら開けてあげる!」
きゃははは、という声が遠ざかって行く。
「え、待って、開けて!」
扉を叩いてみるけど、反応はない…々というか、もういないんだろう。扉を開けようとガタガタ揺さぶる。
(……鍵はかかってないのに)
途方にくれて、しゃがみこむ。
(……同情、か)
やっぱり、側から見ててもそうなのかな。釣り合ってない、樹くんの優しさと同情につけこんでるような、そんな許婚に見えてるんだろうな。
私の中の誰かが「ほらみろ」と笑っているような気さえする。
少し俯くと、ドレスの裾が見えた。
(……なに、気合い入れちゃってるんだろ)
ぽろりと涙が溢れる。
(お化粧落ちちゃう)
大したことはしてないけど、でも……綺麗だって言われたくて、頑張ったんだけど。
(無意味なのかも)
全部全部。涙が溢れた。
(だって、どうせ来年には樹くんは別な女の子に恋をする)
もしそうならなくたって、いずれは。
(そしてそうなれば、私といることは樹くんにとって"地獄"なんだ)
未だに忘れられない。真さんのスマホ越しに聞いた、樹くんの声。
そしてこの間の、樹くんの言葉。"好きでもない人間に好かれるのは迷惑だ"。
「うう、」
しゃくりあげてしまう。こんなことで、泣きたくないのに。
(あの子達も言ってた)
"誘いたい人"ーーほかに、いたのかな。いるのかな。エスカレーター組からしたら有名なのかな。
(私って、……、邪魔なのかな)
ふと気づく。
(あ、私。なに思い上がってたんだろ)
ぱちり、と瞬きを数回。ぽろぽろとこぼれて行く涙。
「……私、悪役令嬢なんじゃん」
邪魔で当たり前なんだ。
心がすうと冷えた。なのに涙は止まらない。
もう一度しゃくりあげた瞬間、ガン! と扉を叩く音がした。
「華!?」
「……樹くん」
何とか答えると、「待っていろ」とドア越しの声。何かガタガタと音がしてから、扉が開かれた。
「……華!」
息を切らせて、樹くんが立っていた。
(そんなことをするから)
私は見上げながら、泣く。
(勘違いしちゃうでしょ)
樹くんは屈んで、私の頬に手を当てた。
「すまない、怖かっただろう」
私はぶんぶんと首を振る。
「華」
(優しい声で呼ばないで)
私はぎゅうと手を握りしめた。
(私、愛されてるかもなんて思うから)
だから、そんな目で見ないで、樹くん。
「絶対見つけ出す、カフェテリアスイーツ年間パスポート」
「気合い入ってるね~」
くすくす、と大村さんが笑った。
「入るよ! そりゃぁ!」
私は力説する。
「1年間、カフェテリアのスイーツ食べ放題なんだよ……!?」
「なんだよ、と言われましても」
大村さんは、配られたプリントを見て首をかしげる。
「わたし、この学食1万円分無料のほうがいい」
「そっちもいいんだよ……! そっちもいいんだけれどっ私はスイーツをとるっ」
「まだ見つけてもないのに~」
ふふ、と笑う大村さんは、可愛らしいピンクのドレス。レンタルの分だ。
「結局、クラスの人に誘われたんだよね?」
「あ、いや、まぁ、お互い余り物っぽかったし? ね?」
少し照れつつ言う大村さんに、私は樹くんから聞いた「お見合い」の話を少し思い出した。なるほど、効果はあるのかもしれない。
「でもその人とエッグハントするんだよね?」
うふふ、と口に手を当てて笑う。ちょっとからかっちゃえ。可愛いんだもんなぁ大村さん!
「ちょ、もー」
照れて笑うと可愛さが増しますね!
「設楽さんどうするの?」
「特に誰とも約束してないけど」
誰かと落ち合ったら、一緒に探そうかなくらい。
「そっか、じゃあまたパーティで! 年間パス、みつかるといいね!」
「みつけるよ! じゃあね」
手を振る大村さんと中庭付近で別れ、そこかしこを探しつつ歩く。なかなかないなぁ。それともこの辺は探され尽くしているのだろうか……。
「設楽」
「黒田くん」
よう、と軽く手を上げる黒田くん。男子はスーツなんだけど、黒田くんは道着だった。
「サボる気満々だね?」
「人聞き悪ぃこと言うな」
にやりと黒田くんは笑った。
「自主練行くだけだ」
「興味ない? たまご」
「ねーなぁ」
そう言って、私を少し見つめる。
「似合ってるな」
「そ、そう?」
真紅のドレス。真さんがどうのこうの言ってたやつだけど、コンシェルジュさんオススメだったし。
「おう」
黒田くんはにかりと笑った。
「いちばん綺麗なんじゃねーの」
「え」
「なんてな、じゃあな」
軽く手を振ってさっさと武道場方面に歩いて行ってしまう。
(お世辞でも嬉しいなぁ)
ちょっと感謝しつつ、校内へ戻る。
(……なかなかない)
うーん、と首をひねる。正確には、卵はあったのだ。でも私が欲しいカフェテリア年間パスではなかったので、戻しておいたのだ。1人一個と決まっているから。
(どのあたりに、)
なんて考えつつひとりで歩いていると、「設楽さん」と声をかけられた。
「?」
振り向くと、3人の女の子。揃いのピーコックグリーンのドレスを着て、目元を隠す仮面をしていた。
(? イースターってそんなイベントだっけ?)
ハロウィン混じってるなぁ、なんて思いつつ見ていると、真ん中の子が口を開いた。
「鹿王院くんが呼んでたよ」
「え、あ、そうなの?」
私は少し緊張しながら答えた。女の子たちは笑う。
「付いてきて」
手を取られる。
「? はい」
言われるがままに、付いていく。階段を登り、途中エッグハントの何人かとすれ違いながら、教室棟4階の隅っこまで。
(こんなところに?)
普段、半分倉庫としてしか使われていないような教室。使ってない机や椅子が所狭しと並べられていた。
「あの、本当に樹くん、」
そう言った時には、ぴしゃり! と扉が閉められていた。
「え、」
「しばらくそこにいなさい!」
「許婚だからって、いい気になってんじゃないわよ!」
「そーよそーよ、同情と鹿王院くんの優しさだけで許婚でいられているのに!」
「あなたがいるせいで、鹿王院くん誘いたい人がいても誘えないんじゃないの!?」
口々に彼女たちはそう言って、嘲るように笑った。
「パーティ終わるまでそこにいなさい!」
「終わったら開けてあげる!」
きゃははは、という声が遠ざかって行く。
「え、待って、開けて!」
扉を叩いてみるけど、反応はない…々というか、もういないんだろう。扉を開けようとガタガタ揺さぶる。
(……鍵はかかってないのに)
途方にくれて、しゃがみこむ。
(……同情、か)
やっぱり、側から見ててもそうなのかな。釣り合ってない、樹くんの優しさと同情につけこんでるような、そんな許婚に見えてるんだろうな。
私の中の誰かが「ほらみろ」と笑っているような気さえする。
少し俯くと、ドレスの裾が見えた。
(……なに、気合い入れちゃってるんだろ)
ぽろりと涙が溢れる。
(お化粧落ちちゃう)
大したことはしてないけど、でも……綺麗だって言われたくて、頑張ったんだけど。
(無意味なのかも)
全部全部。涙が溢れた。
(だって、どうせ来年には樹くんは別な女の子に恋をする)
もしそうならなくたって、いずれは。
(そしてそうなれば、私といることは樹くんにとって"地獄"なんだ)
未だに忘れられない。真さんのスマホ越しに聞いた、樹くんの声。
そしてこの間の、樹くんの言葉。"好きでもない人間に好かれるのは迷惑だ"。
「うう、」
しゃくりあげてしまう。こんなことで、泣きたくないのに。
(あの子達も言ってた)
"誘いたい人"ーーほかに、いたのかな。いるのかな。エスカレーター組からしたら有名なのかな。
(私って、……、邪魔なのかな)
ふと気づく。
(あ、私。なに思い上がってたんだろ)
ぱちり、と瞬きを数回。ぽろぽろとこぼれて行く涙。
「……私、悪役令嬢なんじゃん」
邪魔で当たり前なんだ。
心がすうと冷えた。なのに涙は止まらない。
もう一度しゃくりあげた瞬間、ガン! と扉を叩く音がした。
「華!?」
「……樹くん」
何とか答えると、「待っていろ」とドア越しの声。何かガタガタと音がしてから、扉が開かれた。
「……華!」
息を切らせて、樹くんが立っていた。
(そんなことをするから)
私は見上げながら、泣く。
(勘違いしちゃうでしょ)
樹くんは屈んで、私の頬に手を当てた。
「すまない、怖かっただろう」
私はぶんぶんと首を振る。
「華」
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だから、そんな目で見ないで、樹くん。
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