【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鹿王院樹

イースターの卵

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 イースターといえば卵、樹くん曰く「卵探し」なイベント、エッグハント。この学校では卵型のオーナメントが隠してあって、それを見つけると景品がもらえる。

「絶対見つけ出す、カフェテリアスイーツ年間パスポート」
「気合い入ってるね~」

 くすくす、と大村さんが笑った。

「入るよ! そりゃぁ!」

 私は力説する。

「1年間、カフェテリアのスイーツ食べ放題なんだよ……!?」
「なんだよ、と言われましても」

 大村さんは、配られたプリントを見て首をかしげる。

「わたし、この学食1万円分無料のほうがいい」
「そっちもいいんだよ……! そっちもいいんだけれどっ私はスイーツをとるっ」
「まだ見つけてもないのに~」

 ふふ、と笑う大村さんは、可愛らしいピンクのドレス。レンタルの分だ。

「結局、クラスの人に誘われたんだよね?」
「あ、いや、まぁ、お互い余り物っぽかったし? ね?」

 少し照れつつ言う大村さんに、私は樹くんから聞いた「お見合い」の話を少し思い出した。なるほど、効果はあるのかもしれない。

「でもその人とエッグハントするんだよね?」

 うふふ、と口に手を当てて笑う。ちょっとからかっちゃえ。可愛いんだもんなぁ大村さん!

「ちょ、もー」

 照れて笑うと可愛さが増しますね!

「設楽さんどうするの?」
「特に誰とも約束してないけど」

 誰かと落ち合ったら、一緒に探そうかなくらい。

「そっか、じゃあまたパーティで! 年間パス、みつかるといいね!」
「みつけるよ! じゃあね」

 手を振る大村さんと中庭付近で別れ、そこかしこを探しつつ歩く。なかなかないなぁ。それともこの辺は探され尽くしているのだろうか……。

「設楽」
「黒田くん」

 よう、と軽く手を上げる黒田くん。男子はスーツなんだけど、黒田くんは道着だった。

「サボる気満々だね?」
「人聞き悪ぃこと言うな」

 にやりと黒田くんは笑った。

「自主練行くだけだ」
「興味ない? たまご」
「ねーなぁ」

 そう言って、私を少し見つめる。

「似合ってるな」
「そ、そう?」

 真紅のドレス。真さんがどうのこうの言ってたやつだけど、コンシェルジュさんオススメだったし。

「おう」

 黒田くんはにかりと笑った。

「いちばん綺麗なんじゃねーの」
「え」
「なんてな、じゃあな」

 軽く手を振ってさっさと武道場方面に歩いて行ってしまう。

(お世辞でも嬉しいなぁ)

 ちょっと感謝しつつ、校内へ戻る。

(……なかなかない)

 うーん、と首をひねる。正確には、卵はあったのだ。でも私が欲しいカフェテリア年間パスではなかったので、戻しておいたのだ。1人一個と決まっているから。

(どのあたりに、)

 なんて考えつつひとりで歩いていると、「設楽さん」と声をかけられた。

「?」

 振り向くと、3人の女の子。揃いのピーコックグリーンのドレスを着て、目元を隠す仮面をしていた。

(? イースターってそんなイベントだっけ?)

 ハロウィン混じってるなぁ、なんて思いつつ見ていると、真ん中の子が口を開いた。

「鹿王院くんが呼んでたよ」
「え、あ、そうなの?」

 私は少し緊張しながら答えた。女の子たちは笑う。

「付いてきて」

 手を取られる。

「? はい」

 言われるがままに、付いていく。階段を登り、途中エッグハントの何人かとすれ違いながら、教室棟4階の隅っこまで。

(こんなところに?)

 普段、半分倉庫としてしか使われていないような教室。使ってない机や椅子が所狭しと並べられていた。

「あの、本当に樹くん、」

 そう言った時には、ぴしゃり! と扉が閉められていた。

「え、」
「しばらくそこにいなさい!」
「許婚だからって、いい気になってんじゃないわよ!」
「そーよそーよ、同情と鹿王院くんの優しさだけで許婚でいられているのに!」
「あなたがいるせいで、鹿王院くん誘いたい人がいても誘えないんじゃないの!?」

 口々に彼女たちはそう言って、嘲るように笑った。

「パーティ終わるまでそこにいなさい!」
「終わったら開けてあげる!」

 きゃははは、という声が遠ざかって行く。

「え、待って、開けて!」

 扉を叩いてみるけど、反応はない…々というか、もういないんだろう。扉を開けようとガタガタ揺さぶる。

(……鍵はかかってないのに)

 途方にくれて、しゃがみこむ。

(……同情、か)

 やっぱり、側から見ててもそうなのかな。釣り合ってない、樹くんの優しさと同情につけこんでるような、そんな許婚に見えてるんだろうな。
 私の中の誰かが「ほらみろ」と笑っているような気さえする。
 少し俯くと、ドレスの裾が見えた。

(……なに、気合い入れちゃってるんだろ)

 ぽろりと涙が溢れる。

(お化粧落ちちゃう)

 大したことはしてないけど、でも……綺麗だって言われたくて、頑張ったんだけど。

(無意味なのかも)

 全部全部。涙が溢れた。

(だって、どうせ来年には樹くんは別な女の子に恋をする)

 もしそうならなくたって、いずれは。

(そしてそうなれば、私といることは樹くんにとって"地獄"なんだ)

 未だに忘れられない。真さんのスマホ越しに聞いた、樹くんの声。
 そしてこの間の、樹くんの言葉。"好きでもない人間に好かれるのは迷惑だ"。

「うう、」

 しゃくりあげてしまう。こんなことで、泣きたくないのに。

(あの子達も言ってた)

 "誘いたい人"ーーほかに、いたのかな。いるのかな。エスカレーター組からしたら有名なのかな。

(私って、……、邪魔なのかな)

 ふと気づく。

(あ、私。なに思い上がってたんだろ)

 ぱちり、と瞬きを数回。ぽろぽろとこぼれて行く涙。

「……私、悪役令嬢なんじゃん」

 邪魔で当たり前なんだ。
 心がすうと冷えた。なのに涙は止まらない。
 もう一度しゃくりあげた瞬間、ガン! と扉を叩く音がした。

「華!?」
「……樹くん」

 何とか答えると、「待っていろ」とドア越しの声。何かガタガタと音がしてから、扉が開かれた。

「……華!」

 息を切らせて、樹くんが立っていた。

(そんなことをするから)

 私は見上げながら、泣く。

(勘違いしちゃうでしょ)

 樹くんは屈んで、私の頬に手を当てた。

「すまない、怖かっただろう」

 私はぶんぶんと首を振る。

「華」

(優しい声で呼ばないで)

 私はぎゅうと手を握りしめた。

(私、愛されてるかもなんて思うから)

 だから、そんな目で見ないで、樹くん。
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