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【高校編】分岐・相良仁
梅雨の日
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「あら、設楽サン」
紫と青のグラデーションが美しい紫陽花は、少し前に降った梅雨の雫に彩られていた。
その紫陽花の前でそう話しかけられて、私は振り向いた。そこにいたのは金髪のボンキュッボン(語彙が古い)美女。
「……アリソン先生」
ALTの先生。なんでか仁のネクタイ掴んでた……あ、仁に聞き忘れてた。どんな関係なのか。
(たまに2人でいるとこ見かける)
そう思うと、なんだか心がもやもやとした。
「観光ですカ?」
「ええ、まぁ」
「地元なのニ」
不思議そうなアリソン先生。
……いいじゃないですか、女子高生が休みの日に鎌倉のお寺の紫陽花巡りをしたって。中身が結構いい年なので、こういうの楽しいんですよう。のんびり、まったり。
「……先生も観光ですか?」
「そーデス。そろそろ帰国したいんで、その前に観光しとこーと」
先週はキョートまで行ったんですよ、と先生はにこりと笑った。
「そうですか」
答えつつ、不思議に思う。
(帰国?)
早くないかな、新任の先生のはずなんだけど。1年経たないで帰国?
「お一人ですカ?」
「はぁ」
答えながら、紫陽花を見つめる。
「フーン」
先生はちょっと考えた後、ニコリと笑った。
「じゃー、設楽サン。案内してもらえませんカ」
「え、どこをです」
「この辺り?」
「えーと」
嫌ですとは言いづらい雰囲気です。
曖昧に笑っていると、ふと髪に触れられた。髪を耳にかけられる。
「気づかなかった」
先生の目が細くなる。唇も優しく弧を描く。綺麗な笑顔。
「似合ってますね、ピアス」
「……はぁ」
少し後ずさりしながら答えた。仁からもらった小さな花のピアス。
「知ってますカ?」
「?」
首を傾げて先生を見ると、先生の目がほんの少し、嗜虐的に輝いたように見えた。
「相良センセーも、ピアス開けたみたいなんです、よ」
私の表情は、一瞬固まったかもしれない。どうだろう。
「少しお話しませんカ」
「ええと」
少し迷う。でも、下手に探られるよりいいし、……私も気になる。仁とどんな関係? とか……聞けはしないけど、探れるかな。
私はおずおずと頷いた。
北鎌倉の、線路沿いにあるアジアンカフェ。
雨が降ってなくて、少し気持ちが良かったのでオープンテラスに通してもらった。
「おごりますヨ」
「いえ、おごりだとお腹いっぱい食べれないんで」
遠慮しちゃうからね。
アリソン先生はきょとんと私を見た。
「気にしないでください……あ、私、ランチのBで」
「じゃあワタシはAで」
「わたしも」
唐突に混じってきた声に、私はその人を見上げた。
「? 小西先生」
「駅からふたり、見かけてね」
にこり、と笑う養護教諭の小西先生。私は何度か瞬きする。肩で息してるし、どうしたんだろう。
「楽しそうじゃないですか。混ぜてください」
「……いいですヨ」
アリソン先生は貼り付けたような笑顔で言った。
じきに料理が運ばれてくる。
私のセットは生春巻き、エビのココナッツ揚げ、鳥のフォー、蓮のサラダ。
「パクチー、ワタシ、ニガテなんですよね」
アリソン先生は、私のフォーに入った大量のパクチーを見て顔をしかめる。
「美味しいですよう」
「まぁ現地ではこんなに入れないとか聞くけどね」
小西先生は少し微笑んで言った。
「美味しいよね」
「ですよねー」
にこっ、と笑って微笑み合う。小西先生はとても嬉しそうに微笑み返してくれた。
先生たちはココナッツカレーに、青パパイヤのサラダ、生春巻き、豚唐揚げの甘辛ソース。
豚唐揚げをこっそり見てしまうと、アリソン先生が苦笑してエビと交換してくれた。
「や、優しいっ。ありがとうございますっ」
「設楽さん、交換じゃなくて普通にあげる」
謎に小西先生は私に豚唐揚げをくれた。そんなにお腹空いてるように見えましたでしょうか?
……空いてるんですけども。
デザートは、バイン・フランというプリン。プリンなんだけど、氷が乗ってる。濃厚で美味しい!
「プリンにかき氷だなんて……!」
「あんまりナイ組み合わせですヨネ? というか、設楽サンってどんな胃してるの?」
「うふふ」
追加で鶏肉のカシューナッツ炒めとライス(香り米)を追加して食べてしまったのです、私は。
「ここ、美味しいですねー、初めて来たけど」
「ですネ」
アリソン先生は笑ってそう言って「ところでアナタと相良センセーはどういうご関係で?」とぶっこんで来た。蓮の実茶を吹き出しそうになる。
「え、え?」
「あのヒト、アナタに執着してますよネ?」
ね、小西センセー? とアリソン先生は首を傾げた。
「……お答えはしかねます、が」
小西先生はふと目線をそらした。
「仲は良いのではないかと」
「あの、そんな、変なことは」
「ナイ? 同じような時期にピアスなんか空けて?」
私はしどろもどろになってしまう。
「あの、その、」
「勝手に生徒との仲を疑うの、やめてもらえませんかね?」
ばん、とテーブルに手をついたのは仁だった。いつの間に。
そこからは早口の英語の会話だったので、私はほとんど聞き取れなかった。うう、文章にしてくれたら多分、分かるんだけど……リスニング苦手なんだよなぁ。
小西先生は聞き取れてるみたいで、時々会話に入ってた。
(む、)
私は助かった、という安堵と、なんだか蚊帳の外にされちゃった、っていう疎外感で少し心がごちゃごちゃになった。
だって気づいてしまったから。
(わざわざ英語で話すってことはさー、)
蓮の実茶に目線を落とす。
(私に聞かれたくないこと、だってことだよね)
またほんの少し、心臓がぎゅうっと痛くなった。
紫と青のグラデーションが美しい紫陽花は、少し前に降った梅雨の雫に彩られていた。
その紫陽花の前でそう話しかけられて、私は振り向いた。そこにいたのは金髪のボンキュッボン(語彙が古い)美女。
「……アリソン先生」
ALTの先生。なんでか仁のネクタイ掴んでた……あ、仁に聞き忘れてた。どんな関係なのか。
(たまに2人でいるとこ見かける)
そう思うと、なんだか心がもやもやとした。
「観光ですカ?」
「ええ、まぁ」
「地元なのニ」
不思議そうなアリソン先生。
……いいじゃないですか、女子高生が休みの日に鎌倉のお寺の紫陽花巡りをしたって。中身が結構いい年なので、こういうの楽しいんですよう。のんびり、まったり。
「……先生も観光ですか?」
「そーデス。そろそろ帰国したいんで、その前に観光しとこーと」
先週はキョートまで行ったんですよ、と先生はにこりと笑った。
「そうですか」
答えつつ、不思議に思う。
(帰国?)
早くないかな、新任の先生のはずなんだけど。1年経たないで帰国?
「お一人ですカ?」
「はぁ」
答えながら、紫陽花を見つめる。
「フーン」
先生はちょっと考えた後、ニコリと笑った。
「じゃー、設楽サン。案内してもらえませんカ」
「え、どこをです」
「この辺り?」
「えーと」
嫌ですとは言いづらい雰囲気です。
曖昧に笑っていると、ふと髪に触れられた。髪を耳にかけられる。
「気づかなかった」
先生の目が細くなる。唇も優しく弧を描く。綺麗な笑顔。
「似合ってますね、ピアス」
「……はぁ」
少し後ずさりしながら答えた。仁からもらった小さな花のピアス。
「知ってますカ?」
「?」
首を傾げて先生を見ると、先生の目がほんの少し、嗜虐的に輝いたように見えた。
「相良センセーも、ピアス開けたみたいなんです、よ」
私の表情は、一瞬固まったかもしれない。どうだろう。
「少しお話しませんカ」
「ええと」
少し迷う。でも、下手に探られるよりいいし、……私も気になる。仁とどんな関係? とか……聞けはしないけど、探れるかな。
私はおずおずと頷いた。
北鎌倉の、線路沿いにあるアジアンカフェ。
雨が降ってなくて、少し気持ちが良かったのでオープンテラスに通してもらった。
「おごりますヨ」
「いえ、おごりだとお腹いっぱい食べれないんで」
遠慮しちゃうからね。
アリソン先生はきょとんと私を見た。
「気にしないでください……あ、私、ランチのBで」
「じゃあワタシはAで」
「わたしも」
唐突に混じってきた声に、私はその人を見上げた。
「? 小西先生」
「駅からふたり、見かけてね」
にこり、と笑う養護教諭の小西先生。私は何度か瞬きする。肩で息してるし、どうしたんだろう。
「楽しそうじゃないですか。混ぜてください」
「……いいですヨ」
アリソン先生は貼り付けたような笑顔で言った。
じきに料理が運ばれてくる。
私のセットは生春巻き、エビのココナッツ揚げ、鳥のフォー、蓮のサラダ。
「パクチー、ワタシ、ニガテなんですよね」
アリソン先生は、私のフォーに入った大量のパクチーを見て顔をしかめる。
「美味しいですよう」
「まぁ現地ではこんなに入れないとか聞くけどね」
小西先生は少し微笑んで言った。
「美味しいよね」
「ですよねー」
にこっ、と笑って微笑み合う。小西先生はとても嬉しそうに微笑み返してくれた。
先生たちはココナッツカレーに、青パパイヤのサラダ、生春巻き、豚唐揚げの甘辛ソース。
豚唐揚げをこっそり見てしまうと、アリソン先生が苦笑してエビと交換してくれた。
「や、優しいっ。ありがとうございますっ」
「設楽さん、交換じゃなくて普通にあげる」
謎に小西先生は私に豚唐揚げをくれた。そんなにお腹空いてるように見えましたでしょうか?
……空いてるんですけども。
デザートは、バイン・フランというプリン。プリンなんだけど、氷が乗ってる。濃厚で美味しい!
「プリンにかき氷だなんて……!」
「あんまりナイ組み合わせですヨネ? というか、設楽サンってどんな胃してるの?」
「うふふ」
追加で鶏肉のカシューナッツ炒めとライス(香り米)を追加して食べてしまったのです、私は。
「ここ、美味しいですねー、初めて来たけど」
「ですネ」
アリソン先生は笑ってそう言って「ところでアナタと相良センセーはどういうご関係で?」とぶっこんで来た。蓮の実茶を吹き出しそうになる。
「え、え?」
「あのヒト、アナタに執着してますよネ?」
ね、小西センセー? とアリソン先生は首を傾げた。
「……お答えはしかねます、が」
小西先生はふと目線をそらした。
「仲は良いのではないかと」
「あの、そんな、変なことは」
「ナイ? 同じような時期にピアスなんか空けて?」
私はしどろもどろになってしまう。
「あの、その、」
「勝手に生徒との仲を疑うの、やめてもらえませんかね?」
ばん、とテーブルに手をついたのは仁だった。いつの間に。
そこからは早口の英語の会話だったので、私はほとんど聞き取れなかった。うう、文章にしてくれたら多分、分かるんだけど……リスニング苦手なんだよなぁ。
小西先生は聞き取れてるみたいで、時々会話に入ってた。
(む、)
私は助かった、という安堵と、なんだか蚊帳の外にされちゃった、っていう疎外感で少し心がごちゃごちゃになった。
だって気づいてしまったから。
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