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分岐・鍋島真
真紅(side真)
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そんなわけで正々堂々正面突破。
立派な鉄格子の門扉。軽く探るけど、内側からも外側からも、鍵がないと開けられないタイプみたいだ。用心深いことで。
「え、結局インターフォン押すの?」
「お邪魔しまーすくらいはね」
僕は施設の入り口あるそれを押す。
じきに出てきた信者っぽい男の人は、門扉の鉄格子の先で不可思議そうな顔をした。
「こんにちはお届け物でーす」
「は? 宅配?」
んなわけないじゃんなんで高校生(しかも制服)とスーツの二人組が宅配なんだよそんなんだからカルトにだまされちゃうんだよなぁ、そう思いながらにっこり微笑む。僕の大嫌いな僕の笑顔で大抵のヒトはウットリしちゃうから、男は完全に僕の笑顔に油断してくれちゃってた。だから僕は鉄格子に腕を突っ込んで、勢いよくその男をこちらに引きつける。
ごいん、ってそいつの頭と鉄格子がぶつかる音がして、男はへんなうめき声を残してしゃがみこむ。僕はそいつの襟首を挟んで離さない。
「相良さんこいつ鍵もってませんかね身体探って」
「あーもーなんでそうバイオレンスなんだろ君って」
だけど言われた通りにしてくれて、やっぱりそいつは鍵を持ってた。相良さんが開けてくれる。男から手を離す。
ガラリガラリと開く鉄の門扉。
「お、おい」
ふらつきながら、抵抗しようとする男の頭を土足で地面に押し付けた。茶色い革のローファー。ぐりぐりぐりぐり。
「ねえねえ~よく頭が高いって言われなーい?」
「普通は言われることねぇよ、何普遍的な質問みたいなトーンで聞いてんだよお前怖いな、ほら足離して」
相良さんに止められた。相良さんはなぜか持ってる粘着テープでぐるぐる巻きにして、男を植え込みの影に突っ込んだ。
「んー! んー!」
「大人しくしててね、そうしたらそのうち衰弱死できるからね……」
よしよし、と頭を撫でながら言った。おでこが赤くなってた。かわいそうに。
「んー!? んー!」
「お前はいちいちヤなこと言うなぁ」
そっちこそいちいち文句を言う相良さんと、施設をぐるりと見渡す。
「教会のほうかな」
「ですかね」
明らかに安普請な施設と、防音しっかりしてそうな教会。誘拐した千晶を監禁するとしたら教会だろうと思う。
重厚な木製のトビラをぎいい、と開ける。天井にはステンドグラス。聖母子の姿と、百合と薔薇。その下には磔にされたイエスの十字架。
「ま、ままま真さんっ」
さっきまで聞いてた不快な声が教会に響く。
石宮瑠璃がステンドグラス、その下に立っていた。
「き、教会のみんなにお、お礼を言いに来てくれたんですね!?」
「あいつヤベーな、とんでもポジティブ電波ちゃんだな」
相良さんが僕の代わりに適切な語彙で表現してくれた。うん、あのポジティブっぷりだけは見習いたい。
「そーだよー? ねえみんなどこにいるのかなー?」
「きょ、教祖様と皆さんはいま、地下です」
「地下? ああ、ここの?」
隅の方に、地下へと向かう階段が見えた。
「は、はいっ。儀式の準備をしておられます」
「儀式?」
「はい!」
石宮はまっすぐな目で微笑んで小首を傾げる。
「教祖様が、救世主をお産みになるために血が必要なのだそうです」
「血?」
「はい、乙女の血が」
背中を虫酸のような悪寒がぞくりと駆け上がった。
止める相良さんを無視して階段を駆け下りる。石でできたそれで、僕は何度か滑りかける。なんでローファーなんか履いてきたんた僕は。
地下にいたのは、数人の男と、ひとりの女。
「お兄様!?」
叫んだのは、椅子に縛り付けられてる千晶で、思ったより元気そうで安心する。制服のままだ。真っ黒なセーラー服。スカーフだけが白い。
「お、無事だな」
追いついた相良さんが言う。
「えーと。とりあえず僕、千晶助けるんで相良さんあの人たちやっつけちゃってください」
「気楽に言ってくれるよな!」
相良さんはそれでも笑うから、素人なんか目じゃないんだろうなと思う。さすが元軍人。それも特殊部隊だ。
「……突然なんです?」
女が言う。赤いサラリとしたワンピースに、青いショールを羽織って……西洋画に描かれるマリアの"お約束"と同じ色合いの服装。
え、なに、聖母マリア意識? そういうの、痛いんだけど……。そういえばメシアを産むだの産まないだの。
「あっは、僕たち正義の味方でーす」
「よく言えたな」
呆れたように相良さんが言う。
「僕はいつだって秋霜烈日ですよ……、まぁ別に何でもいいんだけど、僕の妹、返してもらいますね」
「へえ?……あら、動かないで?」
女の視線が僕らの背後へ向かう。
「ちょうど、妹さんのお友達もいらしてくれたみたいよ?」
(お友達?)
息を飲んで振り向くと、そこには華がいた。石階段の踊り場。
(なんで)
学校に残してきたはず。
華は、だらりとした肢体を信者の男に預けて、目を固く固く閉じてーー真っ黒なセーラー服と、真紅のスカーフ。
(赤?)
そんなはずはない。華と千晶の学年のスカーフの色は白のはず。雪のような白。華にも千晶にも良く似合う、モノトーンの色彩。
その時、華の墨染のごときセーラー服から、ぽたりと雫が滴った。
僕は目を見開く。
赤黒いそれは、ぽたりぽたりと石段に染みを作っていた。
立派な鉄格子の門扉。軽く探るけど、内側からも外側からも、鍵がないと開けられないタイプみたいだ。用心深いことで。
「え、結局インターフォン押すの?」
「お邪魔しまーすくらいはね」
僕は施設の入り口あるそれを押す。
じきに出てきた信者っぽい男の人は、門扉の鉄格子の先で不可思議そうな顔をした。
「こんにちはお届け物でーす」
「は? 宅配?」
んなわけないじゃんなんで高校生(しかも制服)とスーツの二人組が宅配なんだよそんなんだからカルトにだまされちゃうんだよなぁ、そう思いながらにっこり微笑む。僕の大嫌いな僕の笑顔で大抵のヒトはウットリしちゃうから、男は完全に僕の笑顔に油断してくれちゃってた。だから僕は鉄格子に腕を突っ込んで、勢いよくその男をこちらに引きつける。
ごいん、ってそいつの頭と鉄格子がぶつかる音がして、男はへんなうめき声を残してしゃがみこむ。僕はそいつの襟首を挟んで離さない。
「相良さんこいつ鍵もってませんかね身体探って」
「あーもーなんでそうバイオレンスなんだろ君って」
だけど言われた通りにしてくれて、やっぱりそいつは鍵を持ってた。相良さんが開けてくれる。男から手を離す。
ガラリガラリと開く鉄の門扉。
「お、おい」
ふらつきながら、抵抗しようとする男の頭を土足で地面に押し付けた。茶色い革のローファー。ぐりぐりぐりぐり。
「ねえねえ~よく頭が高いって言われなーい?」
「普通は言われることねぇよ、何普遍的な質問みたいなトーンで聞いてんだよお前怖いな、ほら足離して」
相良さんに止められた。相良さんはなぜか持ってる粘着テープでぐるぐる巻きにして、男を植え込みの影に突っ込んだ。
「んー! んー!」
「大人しくしててね、そうしたらそのうち衰弱死できるからね……」
よしよし、と頭を撫でながら言った。おでこが赤くなってた。かわいそうに。
「んー!? んー!」
「お前はいちいちヤなこと言うなぁ」
そっちこそいちいち文句を言う相良さんと、施設をぐるりと見渡す。
「教会のほうかな」
「ですかね」
明らかに安普請な施設と、防音しっかりしてそうな教会。誘拐した千晶を監禁するとしたら教会だろうと思う。
重厚な木製のトビラをぎいい、と開ける。天井にはステンドグラス。聖母子の姿と、百合と薔薇。その下には磔にされたイエスの十字架。
「ま、ままま真さんっ」
さっきまで聞いてた不快な声が教会に響く。
石宮瑠璃がステンドグラス、その下に立っていた。
「き、教会のみんなにお、お礼を言いに来てくれたんですね!?」
「あいつヤベーな、とんでもポジティブ電波ちゃんだな」
相良さんが僕の代わりに適切な語彙で表現してくれた。うん、あのポジティブっぷりだけは見習いたい。
「そーだよー? ねえみんなどこにいるのかなー?」
「きょ、教祖様と皆さんはいま、地下です」
「地下? ああ、ここの?」
隅の方に、地下へと向かう階段が見えた。
「は、はいっ。儀式の準備をしておられます」
「儀式?」
「はい!」
石宮はまっすぐな目で微笑んで小首を傾げる。
「教祖様が、救世主をお産みになるために血が必要なのだそうです」
「血?」
「はい、乙女の血が」
背中を虫酸のような悪寒がぞくりと駆け上がった。
止める相良さんを無視して階段を駆け下りる。石でできたそれで、僕は何度か滑りかける。なんでローファーなんか履いてきたんた僕は。
地下にいたのは、数人の男と、ひとりの女。
「お兄様!?」
叫んだのは、椅子に縛り付けられてる千晶で、思ったより元気そうで安心する。制服のままだ。真っ黒なセーラー服。スカーフだけが白い。
「お、無事だな」
追いついた相良さんが言う。
「えーと。とりあえず僕、千晶助けるんで相良さんあの人たちやっつけちゃってください」
「気楽に言ってくれるよな!」
相良さんはそれでも笑うから、素人なんか目じゃないんだろうなと思う。さすが元軍人。それも特殊部隊だ。
「……突然なんです?」
女が言う。赤いサラリとしたワンピースに、青いショールを羽織って……西洋画に描かれるマリアの"お約束"と同じ色合いの服装。
え、なに、聖母マリア意識? そういうの、痛いんだけど……。そういえばメシアを産むだの産まないだの。
「あっは、僕たち正義の味方でーす」
「よく言えたな」
呆れたように相良さんが言う。
「僕はいつだって秋霜烈日ですよ……、まぁ別に何でもいいんだけど、僕の妹、返してもらいますね」
「へえ?……あら、動かないで?」
女の視線が僕らの背後へ向かう。
「ちょうど、妹さんのお友達もいらしてくれたみたいよ?」
(お友達?)
息を飲んで振り向くと、そこには華がいた。石階段の踊り場。
(なんで)
学校に残してきたはず。
華は、だらりとした肢体を信者の男に預けて、目を固く固く閉じてーー真っ黒なセーラー服と、真紅のスカーフ。
(赤?)
そんなはずはない。華と千晶の学年のスカーフの色は白のはず。雪のような白。華にも千晶にも良く似合う、モノトーンの色彩。
その時、華の墨染のごときセーラー服から、ぽたりと雫が滴った。
僕は目を見開く。
赤黒いそれは、ぽたりぽたりと石段に染みを作っていた。
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