【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

桜ひらひら

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 桜が散る。舞う。
 桜吹雪に祝福されるように、新入生たちが講堂へ向かっていた。真新しい制服。希望に満ちた表情。これから、入学式が始まるのだ。
 私はそれを眺めている。ヒロインちゃんを探している。

「いやお前すっげー怪しいから」

 呆れたような仁の声。

「ほっといて」

 第二社会科準備室の窓、カーテンを引いたその隙間から、私は双眼鏡から目を離さず答えた。多分向こうからは、私の顔は見えてないはず!

「これが私の天王山なのよ」
「心配すんな」

 仁は、私の髪の毛をさらりさらりと撫でる。

「いざとなれば、お前連れて逃げてやるから」
「……どこに?」
「どこがいい?」
「……考えとく」

 肩をすくめて答えて、でも逃げたくはないなと思う。

「というか、ヒロインちゃんが普通にいい子なら問題ないのよ……!」
「俺としてもそれを願うね」
「問題は! 松影石宮の二の舞になることなのっ」

 私は拳を握りしめた。

「なんで"ヒロイン"になっちゃってて、それでああも変な方向に行っちゃうかな!?」
「まー、そりゃ……自分が主人公の世界なんか嬉しくてたまらんだろ」
「みんなが!」

 私は振り返り、びしりと仁を指差した。

「一人一人が、自分の人生の主人公ですっ!」
「そうは思わなかったんだろ、松影も石宮も」
「うう」

 私は再び、カーテンの隙間から双眼鏡で新入生を監視し始める。

「そっちパターンの子だったら、どうしよう……うちの子たちに手を出さないで欲しい……」
「どんな立場だよ」
「親戚の叔母的な」

 ふう、とため息をつく。

(樹くんもアキラくん圭くんももほんといい子だし)

 イヤな子だったら、何されるかわかんない……! 全力で逃げて欲しい。
 もう1人の攻略対象のはずのトージ先生、はなんと去年の段階では学校にいなかった。仁情報で、今年新採の先生としてやってくるらしい。謎のタイムラグ。

「……なにしてるの?」
「せっかく2人きりなのに構ってくれないからちょっかい出してる」

 背後から軽く抱きつくみたいにして、ゆるゆると私のお腹を撫でていた。

「やめてよぅ」

 少し気弱な声になる。

「どこ触ってるの」

 布ごしだけど。

「腹」
「そ、そんなにお肉ないよ」

 多分。うん。多少つまめばつまめるけど、とか思ってたら「ふーん」と仁はシャツに手を入れてきた。

「ぎゃあ!」
「ほんっと色気ねーなー」

 仁は楽しそうだ。さすがに双眼鏡から目を離す。振り向いて「それはすみませんでしたね!」と軽く仁をにらんだ。

「やっとこっち向いた」

 嬉しそうな仁に、思わず気勢を削がれる。少し眉を下げると、後ろから抱きしめるような姿勢に戻された。

「えい」
「わ、ほんと何さわってんの」
「へそ」
「やめてよお腹壊すじゃん!」
「迷信迷信」
「そ、そうなの……?」

 ていうか、おへそってあんまり触られたことないんだけど……なんか力が抜ける。

「薄い腹だなぁ、もう少し肉付きよくてもいいんだけどなー」
「そりゃまだ子供だもの」

 成長途中のからだ。もどかしいくらいに。

「……そだな」

 仁は私から手を離す。

「仁?」
「コーヒーでも飲むか?」
「? うん」

 私はテーブルに座る。ヒロインちゃん探しもちょっと休憩だ。入学してくるのは間違いないのだし……仁に見せてもらった新入生名簿。確かにヒロインちゃんの名前があった。

「ほい」
「ありがとー」

 淹れてもらったコーヒーを飲む。

「新学期どうだ」
「先生らしいことを聞いてくるね」
「そりゃお前、先生だもん」

 テーブルの向かいに座って、嘯く仁。さっきまで"生徒"のおへそなんかいじってたくせに。

「勉強は大丈夫。先生がた、去年と大体一緒みたいだし」

 問題は生物かなぁ、トージ先生どうなんだろ。そんなこと考えていると、仁はじっと目を細め、横に座りなおしてきた。

「?」
「他の男のこと考えた?」

 にこり、と微笑まれる。

(えーと?)

 考えた、といえば考えたけれども。

「え、いや、別に」
「そうかな」

 ひょい、と抱え上げられて、膝に乗せられた。相変わらず飽きる気配のないこの体勢。

「ほんとかな」
「ちょ、やめ」

 首筋を仁の唇が這う。ちろりと舐められて、びくりと反応してしまう。ーー恥ずかしいなぁもう!

「考えたけど、授業分かりやすいかなって思っただけ!」

 多分これ顔真っ赤だ。

「ふうん? で、設楽さん、他はどうかな」

 ふざけた感じでそう言われた。ワザとらしいリップ音と共に首筋にキスを落とされ、脇腹をゆるゆる撫でられる。

「クラス替えは? 友達できそうかな」
「仲良い子、また同じクラスだしっ」
「どうしたの? 顔が赤いよ」
「誰のせいだ、と」

 ニヤニヤと仁は私を覗き込む。軽く睨むと、嬉しそうに耳を噛んできた。

「ぎゃー!」
「委員会はうまくやれそう?」
「ふ、風紀委員」

 私は半身をねじって、仁の胸を押す。

「それよ! なんなのあの分厚いマニュアルは!」

 鼻息荒く言うと、仁はさすがに苦笑いした。

「あれなー」
「男女で校則違いすぎるし!」

 元々男子校と女子校が合併してできた学校であるこの青百合学園は、なんと校則が男女別々のままなのだ。
 比較的ゆるい、自由な感じの男子校の校則。たとえば染髪も個人の判断に任されるーーといっても、たいていが「いいトコのおぼっちゃん」なこの学園の生徒には、目立った染髪の生徒はいない。
 一方女子校は「良妻賢母、貞淑」だのと戦前のようなことを謳う古臭い校則のままだ。

「何度か改革案でたんだけど、そのたびにOG会の反対でぽしゃるんだって、敦子さんが言ってた」
「女の敵は女ってやつだな」
「今時さ、ポニテとお団子が禁止ってなんなのよ」

 うなじは「殿方を煽るのでダメ」らしいのだ。なんだそりゃ!

「作った人がうなじフェチなだけじゃん!?」
「んー」

 仁は少し考える仕草をして、「うなじ見せて」とにこりと笑った。

「なにそれ?」
「いいから」

 前をむかされる。また仁に背中を向ける格好。何されるか分かんないんですけど……。
 仁は私のうなじの髪を(と言っても、ショートボブだから長いわけじゃない)かきあげる。

「なるほどなるほど」
「なによ」
「別にイヤらしくない」
「ほら!」
「でも美味しそう」
「は!?」

 ちゅ、と(やっぱりワザとらしいリップ音と一緒に)仁はうなじにキスをした。

「も、こら」

 口を塞ぐように、大きな手で顎を覆われる。もう片方の腕は、お腹に回ったまま。指先で骨盤のあたりをそっと撫でられた。

「ん、」

 抵抗しようとするけど、離される気配はないーーっていうか!
 ぴりっとした痛み。

「は、」
「かーわいー声」

 唇を離した仁がからかうように言う。

「待って仁、これキスマーク付けた!?」
「さあね」
「さぁねじゃないー!」

 私はうなじを押さえる。

「髪あるから、見えない見えない」
「見えないけど! もー!」

 私は真っ赤になって怒るけど、仁は楽しそうに笑うばかりで全然反省してる気配はなかった。本当にもう!
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