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【高校編】分岐・黒田健
私の彼氏かっこよくて死ねる
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「見てええええ大村さん松井さんんんん黒田くん一番だったぁあ」
私はひとり、興奮して大村さんと松井さんを揺さぶっていた。
「はいはいはいお幸せで何よりなことですって」
けっ、て顔で大村さんは言った。松井さんはニコニコしてくれてる。
今日は黒田くんの通う高校、中高一貫私立の男子校の体育祭だ。運動部がどこも強豪なのもあるのか、どの競技も白熱している。
「ていうか、パン食い競争ってあるんだね」
「実物は初めて見たね」
二人の会話に頷く。
たしかにそうかも。食中毒とか、衛生上の心配でだろうか、アニメや漫画でよく見るパン食い競争は、少なくとも私はだけれど、実際に学校でやったことはない。
そんな珍しいパン食い競争、黒田くんは一位でゴールしたわけだけども。そのパン食い競争もかなりの白熱っぷりで、黒田くんの組以外のときも、見ていて面白かった。
「袋に入ってるんだね」
私はまじまじと、そのあんぱん(らしき)パンを見つめた。透明のビニール袋に入ったパン。まぁ、そのままぶら下げたら、それこそ衛生的にアウトな気もするしね。
「黒田くんたべないのかなあ」
私はじっと黒田くんを見つめる。一位の旗のところに並ぶ黒田くんは、あんぱんの袋をあけることなく、同じクラスの人の応援に精を出していた。他の人はもう食べちゃったりしてるんだけど。
しばらくして全員が走り終わって退場して、応援席に戻り始める。
「おう」
目の前を通りかかった黒田くんが手を上げてにやりと笑う。体操着、少し日焼けしたおでこにハチマキ、うん、相当贔屓目に見ちゃってるかも、なんだけどーーかっこいい。似合う。
「おめでとー! いちばん!」
「パン食い競争だからなぁ」
黒田くんは少し苦笑いした。
「けど、まぁ、いいか」
そう言って、目の前でパンの袋を破る。
(? いま食べるのかな)
ぼうっと見ていると、何やら神妙な顔つきでそれを私の口に突っ込んできた。
「ふが!」
黒田くんは面白そうに笑う。
「近くのパン屋のやつらしいぜ。時々食うけど結構美味い。じゃあな」
ひらひらと手を振り、黒田くんは今度こそ応援席に戻っていった。
「らぶらぶー」
「ね、らぶらぶー」
大村さんと松井さんに、からかうように言われる。
「うへへへ」
「否定しないんかい」
突っ込まれた。だってさ、ほんとなんだもん。
というか、……しかし男子校、雰囲気がすごい「濃い」気がする。普段、といってもまだ2ヶ月くらいだけど、女子ばかりの中で生活しているからかなぁ。
「なんとなく付いてきてみたけど、濃いね」
大村さんが少しびっくりしたように言った。
「あ、やっぱそう思う?」
「うん。濃い」
なんだろう、一体何が濃いんだかは分かんないんだけど、とにかく濃いのだ。
「声かな」
松井さんがぽつりと言った。
「声が太い」
「あー」
「かもー」
ほとんど同時にそう言ったとき、私の視界の隅で、黒田くんが誰かに話しかけられているのが見えた。
「む」
「どうしたの?」
大村さんに聞かれて「なんでもないよ」と微笑むけど、私は見てしまった。
(女性の先生、いるんだー……)
いるか。そりゃ、いるよ。うちの学校だって、男性の先生いるもの。
(でもさ、なんか照れてなかったいま!?)
黒田くん。話しかけられて、なんか照れてる顔してた、ような。……むう。
ひとりでヤキモチ妬きつつ、しばらく三人で競技を見つめる。
「あ、あの人イケメン」
「紹介してほしー」
なんて言い合う大村さんと松井さんの二人。なるほど、単に私の付き添いに来てくれただけじゃなくて、これ目当てか!
「や、必ずしもお二人のタイプがご紹介できるかは、ですね」
なんとなく、しどろもどろ。
「わかってるよー、ほら、普段男子と接さないからテンション上がってるだけ」
「ね、ふふふ」
中身が大人なので、テンションが上がる気持ちはそこまでないのだけれど、二人の気持ちはなんとなく分かる。
前世で女性ばかりの部署にいたとき、たまに来る宅急便のおにーさんに、みんなでテンション上がった記憶があるもんなぁ。
「でも、あ、例えばあの人なんか、設楽さんもイケメンだと思わない? あ、てか彼氏くんの先輩だっけか」
そう言って指差す先にいたのは……水戸さんだ。黒田くんの先輩。
「や。まぁ、確かにかっこいいとは」
思うけど、と言った瞬間、ぽん、と肩を叩かれる。
「設楽」
「くくく黒田くん!」
私は一人で慌てる。違うのかっこいいとは思うけどそれは一般的な意見であって! 個人的な見解とはまた違うんです!
でも、慌ててたのは私だけで、黒田くんはいつも通りどこか飄々としていた。
「昼、食堂開いてるらしいから連れてくわ。暑いだろ? 体調大丈夫か」
室内なら空調効いてるからな、と言う黒田くんに私はしゅんとなる。
(や、優しい……)
ひとりでヤキモチ妬いてたのが申し訳なくなる。
「あー、えっと大村さんと松井さん? 昼、食堂でいいっすか」
「あ、わたしたちは帰りまーす」
松井さんたちは手をあげる。
「別々だけど、用事あるんで」
「そっすか。気をつけて」
ぺこりと黒田くんは頭を下げて、また歩いて行ってしまう。今度は応援席じゃないから、今からまた別の競技に出るんだろう。
「大事にされてるねー、設楽さん」
そう言われて、ますます申し訳なくなった。
(でもなぁ、私だけなんだろうな)
なんて思う。
ヤキモチ妬いたり、一挙手一投足にドキドキしちゃったりするのは。
(中身はずうっと年上なのにな)
情けなくなって、ふと空を見上げる。梅雨入りもまだだっていうのに、すっかり夏めいた空が少し眩しすぎるくらいに感じた。
私はひとり、興奮して大村さんと松井さんを揺さぶっていた。
「はいはいはいお幸せで何よりなことですって」
けっ、て顔で大村さんは言った。松井さんはニコニコしてくれてる。
今日は黒田くんの通う高校、中高一貫私立の男子校の体育祭だ。運動部がどこも強豪なのもあるのか、どの競技も白熱している。
「ていうか、パン食い競争ってあるんだね」
「実物は初めて見たね」
二人の会話に頷く。
たしかにそうかも。食中毒とか、衛生上の心配でだろうか、アニメや漫画でよく見るパン食い競争は、少なくとも私はだけれど、実際に学校でやったことはない。
そんな珍しいパン食い競争、黒田くんは一位でゴールしたわけだけども。そのパン食い競争もかなりの白熱っぷりで、黒田くんの組以外のときも、見ていて面白かった。
「袋に入ってるんだね」
私はまじまじと、そのあんぱん(らしき)パンを見つめた。透明のビニール袋に入ったパン。まぁ、そのままぶら下げたら、それこそ衛生的にアウトな気もするしね。
「黒田くんたべないのかなあ」
私はじっと黒田くんを見つめる。一位の旗のところに並ぶ黒田くんは、あんぱんの袋をあけることなく、同じクラスの人の応援に精を出していた。他の人はもう食べちゃったりしてるんだけど。
しばらくして全員が走り終わって退場して、応援席に戻り始める。
「おう」
目の前を通りかかった黒田くんが手を上げてにやりと笑う。体操着、少し日焼けしたおでこにハチマキ、うん、相当贔屓目に見ちゃってるかも、なんだけどーーかっこいい。似合う。
「おめでとー! いちばん!」
「パン食い競争だからなぁ」
黒田くんは少し苦笑いした。
「けど、まぁ、いいか」
そう言って、目の前でパンの袋を破る。
(? いま食べるのかな)
ぼうっと見ていると、何やら神妙な顔つきでそれを私の口に突っ込んできた。
「ふが!」
黒田くんは面白そうに笑う。
「近くのパン屋のやつらしいぜ。時々食うけど結構美味い。じゃあな」
ひらひらと手を振り、黒田くんは今度こそ応援席に戻っていった。
「らぶらぶー」
「ね、らぶらぶー」
大村さんと松井さんに、からかうように言われる。
「うへへへ」
「否定しないんかい」
突っ込まれた。だってさ、ほんとなんだもん。
というか、……しかし男子校、雰囲気がすごい「濃い」気がする。普段、といってもまだ2ヶ月くらいだけど、女子ばかりの中で生活しているからかなぁ。
「なんとなく付いてきてみたけど、濃いね」
大村さんが少しびっくりしたように言った。
「あ、やっぱそう思う?」
「うん。濃い」
なんだろう、一体何が濃いんだかは分かんないんだけど、とにかく濃いのだ。
「声かな」
松井さんがぽつりと言った。
「声が太い」
「あー」
「かもー」
ほとんど同時にそう言ったとき、私の視界の隅で、黒田くんが誰かに話しかけられているのが見えた。
「む」
「どうしたの?」
大村さんに聞かれて「なんでもないよ」と微笑むけど、私は見てしまった。
(女性の先生、いるんだー……)
いるか。そりゃ、いるよ。うちの学校だって、男性の先生いるもの。
(でもさ、なんか照れてなかったいま!?)
黒田くん。話しかけられて、なんか照れてる顔してた、ような。……むう。
ひとりでヤキモチ妬きつつ、しばらく三人で競技を見つめる。
「あ、あの人イケメン」
「紹介してほしー」
なんて言い合う大村さんと松井さんの二人。なるほど、単に私の付き添いに来てくれただけじゃなくて、これ目当てか!
「や、必ずしもお二人のタイプがご紹介できるかは、ですね」
なんとなく、しどろもどろ。
「わかってるよー、ほら、普段男子と接さないからテンション上がってるだけ」
「ね、ふふふ」
中身が大人なので、テンションが上がる気持ちはそこまでないのだけれど、二人の気持ちはなんとなく分かる。
前世で女性ばかりの部署にいたとき、たまに来る宅急便のおにーさんに、みんなでテンション上がった記憶があるもんなぁ。
「でも、あ、例えばあの人なんか、設楽さんもイケメンだと思わない? あ、てか彼氏くんの先輩だっけか」
そう言って指差す先にいたのは……水戸さんだ。黒田くんの先輩。
「や。まぁ、確かにかっこいいとは」
思うけど、と言った瞬間、ぽん、と肩を叩かれる。
「設楽」
「くくく黒田くん!」
私は一人で慌てる。違うのかっこいいとは思うけどそれは一般的な意見であって! 個人的な見解とはまた違うんです!
でも、慌ててたのは私だけで、黒田くんはいつも通りどこか飄々としていた。
「昼、食堂開いてるらしいから連れてくわ。暑いだろ? 体調大丈夫か」
室内なら空調効いてるからな、と言う黒田くんに私はしゅんとなる。
(や、優しい……)
ひとりでヤキモチ妬いてたのが申し訳なくなる。
「あー、えっと大村さんと松井さん? 昼、食堂でいいっすか」
「あ、わたしたちは帰りまーす」
松井さんたちは手をあげる。
「別々だけど、用事あるんで」
「そっすか。気をつけて」
ぺこりと黒田くんは頭を下げて、また歩いて行ってしまう。今度は応援席じゃないから、今からまた別の競技に出るんだろう。
「大事にされてるねー、設楽さん」
そう言われて、ますます申し訳なくなった。
(でもなぁ、私だけなんだろうな)
なんて思う。
ヤキモチ妬いたり、一挙手一投足にドキドキしちゃったりするのは。
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