【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

私の彼氏かっこよくて死ねる

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「見てええええ大村さん松井さんんんん黒田くん一番だったぁあ」

 私はひとり、興奮して大村さんと松井さんを揺さぶっていた。

「はいはいはいお幸せで何よりなことですって」

 けっ、て顔で大村さんは言った。松井さんはニコニコしてくれてる。
 今日は黒田くんの通う高校、中高一貫私立の男子校の体育祭だ。運動部がどこも強豪なのもあるのか、どの競技も白熱している。

「ていうか、パン食い競争ってあるんだね」
「実物は初めて見たね」

 二人の会話に頷く。
 たしかにそうかも。食中毒とか、衛生上の心配でだろうか、アニメや漫画でよく見るパン食い競争は、少なくとも私はだけれど、実際に学校でやったことはない。
 そんな珍しいパン食い競争、黒田くんは一位でゴールしたわけだけども。そのパン食い競争もかなりの白熱っぷりで、黒田くんの組以外のときも、見ていて面白かった。

「袋に入ってるんだね」

 私はまじまじと、そのあんぱん(らしき)パンを見つめた。透明のビニール袋に入ったパン。まぁ、そのままぶら下げたら、それこそ衛生的にアウトな気もするしね。

「黒田くんたべないのかなあ」

 私はじっと黒田くんを見つめる。一位の旗のところに並ぶ黒田くんは、あんぱんの袋をあけることなく、同じクラスの人の応援に精を出していた。他の人はもう食べちゃったりしてるんだけど。
 しばらくして全員が走り終わって退場して、応援席に戻り始める。

「おう」

 目の前を通りかかった黒田くんが手を上げてにやりと笑う。体操着、少し日焼けしたおでこにハチマキ、うん、相当贔屓目に見ちゃってるかも、なんだけどーーかっこいい。似合う。

「おめでとー! いちばん!」
「パン食い競争だからなぁ」

 黒田くんは少し苦笑いした。

「けど、まぁ、いいか」

 そう言って、目の前でパンの袋を破る。

(? いま食べるのかな)

 ぼうっと見ていると、何やら神妙な顔つきでそれを私の口に突っ込んできた。

「ふが!」

 黒田くんは面白そうに笑う。

「近くのパン屋のやつらしいぜ。時々食うけど結構美味い。じゃあな」

 ひらひらと手を振り、黒田くんは今度こそ応援席に戻っていった。

「らぶらぶー」
「ね、らぶらぶー」

 大村さんと松井さんに、からかうように言われる。

「うへへへ」
「否定しないんかい」

 突っ込まれた。だってさ、ほんとなんだもん。
 というか、……しかし男子校、雰囲気がすごい「濃い」気がする。普段、といってもまだ2ヶ月くらいだけど、女子ばかりの中で生活しているからかなぁ。

「なんとなく付いてきてみたけど、濃いね」

 大村さんが少しびっくりしたように言った。

「あ、やっぱそう思う?」
「うん。濃い」

 なんだろう、一体何が濃いんだかは分かんないんだけど、とにかく濃いのだ。

「声かな」

 松井さんがぽつりと言った。

「声が太い」
「あー」
「かもー」

 ほとんど同時にそう言ったとき、私の視界の隅で、黒田くんが誰かに話しかけられているのが見えた。

「む」
「どうしたの?」

 大村さんに聞かれて「なんでもないよ」と微笑むけど、私は見てしまった。

(女性の先生、いるんだー……)

 いるか。そりゃ、いるよ。うちの学校だって、男性の先生いるもの。

(でもさ、なんか照れてなかったいま!?)

 黒田くん。話しかけられて、なんか照れてる顔してた、ような。……むう。
 ひとりでヤキモチ妬きつつ、しばらく三人で競技を見つめる。

「あ、あの人イケメン」
「紹介してほしー」

 なんて言い合う大村さんと松井さんの二人。なるほど、単に私の付き添いに来てくれただけじゃなくて、これ目当てか!

「や、必ずしもお二人のタイプがご紹介できるかは、ですね」

 なんとなく、しどろもどろ。

「わかってるよー、ほら、普段男子と接さないからテンション上がってるだけ」
「ね、ふふふ」

 中身が大人なので、テンションが上がる気持ちはそこまでないのだけれど、二人の気持ちはなんとなく分かる。
 前世で女性ばかりの部署にいたとき、たまに来る宅急便のおにーさんに、みんなでテンション上がった記憶があるもんなぁ。

「でも、あ、例えばあの人なんか、設楽さんもイケメンだと思わない? あ、てか彼氏くんの先輩だっけか」

 そう言って指差す先にいたのは……水戸さんだ。黒田くんの先輩。

「や。まぁ、確かにかっこいいとは」

 思うけど、と言った瞬間、ぽん、と肩を叩かれる。

「設楽」
「くくく黒田くん!」

 私は一人で慌てる。違うのかっこいいとは思うけどそれは一般的な意見であって! 個人的な見解とはまた違うんです!
 でも、慌ててたのは私だけで、黒田くんはいつも通りどこか飄々としていた。

「昼、食堂開いてるらしいから連れてくわ。暑いだろ? 体調大丈夫か」

 室内なら空調効いてるからな、と言う黒田くんに私はしゅんとなる。

(や、優しい……)

 ひとりでヤキモチ妬いてたのが申し訳なくなる。

「あー、えっと大村さんと松井さん? 昼、食堂でいいっすか」
「あ、わたしたちは帰りまーす」

 松井さんたちは手をあげる。

「別々だけど、用事あるんで」
「そっすか。気をつけて」

 ぺこりと黒田くんは頭を下げて、また歩いて行ってしまう。今度は応援席じゃないから、今からまた別の競技に出るんだろう。

「大事にされてるねー、設楽さん」

 そう言われて、ますます申し訳なくなった。

(でもなぁ、私だけなんだろうな)

 なんて思う。
 ヤキモチ妬いたり、一挙手一投足にドキドキしちゃったりするのは。

(中身はずうっと年上なのにな)

 情けなくなって、ふと空を見上げる。梅雨入りもまだだっていうのに、すっかり夏めいた空が少し眩しすぎるくらいに感じた。
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