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【高校編】分岐・鍋島真
これが恋なら
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「ちょっと華、顔上げて。真さんも」
敦子さんが戸惑った声で言う。というのも仕方ないと思う。
都内の敦子さんのオフィス、そこに真さんはなんの迷いもなく突入していった。
「お約束はありますか?」
という受付のおねーさんに、真さんはキラキラオーラを飛ばしながら「とにかく連絡して貰えば大丈夫だから」とにこやかに微笑む。おねーさんは少しポーッとしながら「は、はい」なんて答えてるから真さん怖いよ!
(というか、私から連絡すれば良かったのでは)
スマホを取り出して思う。けれど、すでに受付のおねーさんは「あちらのエレベーター五階でございます」とか言ってるから、話は通っちゃったらしい。
「華」
エレベーターの中で、真さんは私を引き寄せて言う。
「ヤキモチ妬いた?」
「は?」
「さっき受付の人に」
「いえ、妬いてませんけど……」
「あは、ザンネン」
何がザンネンなのか分からないけれど、真さんは私の耳を甘噛みしながら「華だけだよー」なんて言うから赤くなる。何してるのほんとに!
そして真さんは、エレベーターを降りて敦子さん見るや否や、頭を下げた。私も慌て下げる。
社員さんたちも戸惑った視線で私たちをみてる。
「ああもう、とにかくこっちへ」
応接室だろうか、そんな部屋に通される。ぽすりとソファに座った敦子さんは、とても難しい顔をした。
「説明してもらえる?」
立ったままの私たちに、敦子さんは言った。
「華さんを僕にください」
「それは以前お断りしたはずですけど?」
敦子さんの答えに、私は思わず真さんを見上げた。え、いつそんなことお願いしてたの!?
真さんは飄々とした表情を崩さずに口を開く。
「改めまして、というところでしょうか」
「改めましても何もないです。華には許婚がいるの。……華、あなた何考えてるの」
「敦子さん」
私は頭をもう一度、深々と下げた。
「お願いします、なんか、私、……ほんと自分でも納得いかないし理解全くできないし気が違ったんじゃないかと思ってるんだけど、この人じゃないとダメみたいなんです」
「あは、なかなか言うよね君ね」
真さんは少し楽しそうに言った。
敦子さんは眉を軽く顰めて「けれどね、」と口を開く。それを真さんが軽く制した。
「華さ」
「はぁ」
「ちょっとお外でお茶でもいただいておいでよ」
「なぜ?」
「今からね」
真さんは、人差し指を口の前に立ててにっこりと微笑んだ。優雅っていうか閑雅っていうか。思わず見惚れた。
「秘密のおはなし」
「なにそれーー」
首根っこ掴まれて、ぽいと廊下に出されてしまった。ガチャリなんて鍵をかける音までする。もう!
「うー、子供扱いされた」
ぷんすかだ。オトナだっての!
廊下にしゃがみ込んでいると、心配そうに敦子さんの秘書さんに(何度かあったことがある)声をかけられた。40代くらいの超絶美人な女性。
「華さま、大丈夫ですか? 一体なにが」
「えへへ」
とりあえず笑う。
「大丈夫でっす」
「そうですか? ……とりあえずお茶でもいかがですか。いい和菓子いただいておりまして」
「いただきますいただきます」
すぐに立ち上がった。どーせ蚊帳の外なら好き勝手過ごしてやるんだもんねー。へーんだ。
秘書さんに秘書室? みたいなとこに連れてってもらって、ほんとにお茶を淹れてもらう。
「すみません、お仕事中に」
お邪魔しちゃってるよなー。
「いえいえ、今空いていたので」
にこにこしながら、秘書さんは小皿をコトリと私の目の前に置いてくれた。
「……きれい」
めちゃくちゃ綺麗な和菓子だった。菊の形をしてて、花びらが時計回りに青とピンクと紫のグラデーション! 中央には金粉が散らされてて……!
「えっほんとに戴いていいんですかっ」
「もちろんです」
秘書さんがクスクス、笑った。
「どうぞ」
「いっただきまーす」
遠慮なく!
もぐりと口に入れる。
「しあわせ~」
「お菓子も幸せですわ、そんなに美味しく食べてもらえて」
くすくす、と笑いながら秘書さんは私の向かいに座り、自分の湯呑みを手に持った。
「ところで、突然どうなさったんです? あの方、確か鍋島議員のご長男ですよね?」
「あ、はい。結婚しようと思って」
「あー、なるほど。結婚ですか。はいはいはい……けっこんん!?」
思わずびくりと身体を引く。えええ、って感じで秘書さんはあんぐりと口を開いていた。
「ええと、お、お付き合いをされてた、ってことですか?」
「いえ?」
私は首を傾げた。多分違う。
「は?」
「なんか、さっきプロポーズされました」
ああ、それは違うな。ずっと。
(ずっとあの人、)
思わずくすりと笑う。
(ずうっとプロポーズしてた)
しつこいくらいに。
「はぁ……それはそれは……」
秘書さんはびっくりしたまま続ける。
「でも、あまりにお早いというか。恋の勢いといいますか、なんといいますか」
「恋?」
私は首を傾げた。
「恋なんかしてないですよ」
「ほえ!?」
秘書さんは変な声を出した。
「好きではない?」
「好きというか、恋というか、ではなくて」
うーん、と悩む。なんだろこれ。
「執着?」
「執着、ですか?」
「なんかドロドロしてます」
「はー」
秘書さんは感心したように私を見て、それからふと笑った。
「華さま」
「なんですか?」
「華さま、十分に恋なさってますよ」
きょとんと私は秘書さんを見つめる。
(これが恋なら)
うーん、てちょっと悩んじゃう。
(前世でしてた恋ってなんだったんだろ?)
敦子さんが戸惑った声で言う。というのも仕方ないと思う。
都内の敦子さんのオフィス、そこに真さんはなんの迷いもなく突入していった。
「お約束はありますか?」
という受付のおねーさんに、真さんはキラキラオーラを飛ばしながら「とにかく連絡して貰えば大丈夫だから」とにこやかに微笑む。おねーさんは少しポーッとしながら「は、はい」なんて答えてるから真さん怖いよ!
(というか、私から連絡すれば良かったのでは)
スマホを取り出して思う。けれど、すでに受付のおねーさんは「あちらのエレベーター五階でございます」とか言ってるから、話は通っちゃったらしい。
「華」
エレベーターの中で、真さんは私を引き寄せて言う。
「ヤキモチ妬いた?」
「は?」
「さっき受付の人に」
「いえ、妬いてませんけど……」
「あは、ザンネン」
何がザンネンなのか分からないけれど、真さんは私の耳を甘噛みしながら「華だけだよー」なんて言うから赤くなる。何してるのほんとに!
そして真さんは、エレベーターを降りて敦子さん見るや否や、頭を下げた。私も慌て下げる。
社員さんたちも戸惑った視線で私たちをみてる。
「ああもう、とにかくこっちへ」
応接室だろうか、そんな部屋に通される。ぽすりとソファに座った敦子さんは、とても難しい顔をした。
「説明してもらえる?」
立ったままの私たちに、敦子さんは言った。
「華さんを僕にください」
「それは以前お断りしたはずですけど?」
敦子さんの答えに、私は思わず真さんを見上げた。え、いつそんなことお願いしてたの!?
真さんは飄々とした表情を崩さずに口を開く。
「改めまして、というところでしょうか」
「改めましても何もないです。華には許婚がいるの。……華、あなた何考えてるの」
「敦子さん」
私は頭をもう一度、深々と下げた。
「お願いします、なんか、私、……ほんと自分でも納得いかないし理解全くできないし気が違ったんじゃないかと思ってるんだけど、この人じゃないとダメみたいなんです」
「あは、なかなか言うよね君ね」
真さんは少し楽しそうに言った。
敦子さんは眉を軽く顰めて「けれどね、」と口を開く。それを真さんが軽く制した。
「華さ」
「はぁ」
「ちょっとお外でお茶でもいただいておいでよ」
「なぜ?」
「今からね」
真さんは、人差し指を口の前に立ててにっこりと微笑んだ。優雅っていうか閑雅っていうか。思わず見惚れた。
「秘密のおはなし」
「なにそれーー」
首根っこ掴まれて、ぽいと廊下に出されてしまった。ガチャリなんて鍵をかける音までする。もう!
「うー、子供扱いされた」
ぷんすかだ。オトナだっての!
廊下にしゃがみ込んでいると、心配そうに敦子さんの秘書さんに(何度かあったことがある)声をかけられた。40代くらいの超絶美人な女性。
「華さま、大丈夫ですか? 一体なにが」
「えへへ」
とりあえず笑う。
「大丈夫でっす」
「そうですか? ……とりあえずお茶でもいかがですか。いい和菓子いただいておりまして」
「いただきますいただきます」
すぐに立ち上がった。どーせ蚊帳の外なら好き勝手過ごしてやるんだもんねー。へーんだ。
秘書さんに秘書室? みたいなとこに連れてってもらって、ほんとにお茶を淹れてもらう。
「すみません、お仕事中に」
お邪魔しちゃってるよなー。
「いえいえ、今空いていたので」
にこにこしながら、秘書さんは小皿をコトリと私の目の前に置いてくれた。
「……きれい」
めちゃくちゃ綺麗な和菓子だった。菊の形をしてて、花びらが時計回りに青とピンクと紫のグラデーション! 中央には金粉が散らされてて……!
「えっほんとに戴いていいんですかっ」
「もちろんです」
秘書さんがクスクス、笑った。
「どうぞ」
「いっただきまーす」
遠慮なく!
もぐりと口に入れる。
「しあわせ~」
「お菓子も幸せですわ、そんなに美味しく食べてもらえて」
くすくす、と笑いながら秘書さんは私の向かいに座り、自分の湯呑みを手に持った。
「ところで、突然どうなさったんです? あの方、確か鍋島議員のご長男ですよね?」
「あ、はい。結婚しようと思って」
「あー、なるほど。結婚ですか。はいはいはい……けっこんん!?」
思わずびくりと身体を引く。えええ、って感じで秘書さんはあんぐりと口を開いていた。
「ええと、お、お付き合いをされてた、ってことですか?」
「いえ?」
私は首を傾げた。多分違う。
「は?」
「なんか、さっきプロポーズされました」
ああ、それは違うな。ずっと。
(ずっとあの人、)
思わずくすりと笑う。
(ずうっとプロポーズしてた)
しつこいくらいに。
「はぁ……それはそれは……」
秘書さんはびっくりしたまま続ける。
「でも、あまりにお早いというか。恋の勢いといいますか、なんといいますか」
「恋?」
私は首を傾げた。
「恋なんかしてないですよ」
「ほえ!?」
秘書さんは変な声を出した。
「好きではない?」
「好きというか、恋というか、ではなくて」
うーん、と悩む。なんだろこれ。
「執着?」
「執着、ですか?」
「なんかドロドロしてます」
「はー」
秘書さんは感心したように私を見て、それからふと笑った。
「華さま」
「なんですか?」
「華さま、十分に恋なさってますよ」
きょとんと私は秘書さんを見つめる。
(これが恋なら)
うーん、てちょっと悩んじゃう。
(前世でしてた恋ってなんだったんだろ?)
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