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【高校編】分岐・鹿王院樹
ウワサ!?
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呆然として「あの、いや、なんで、違うよ?」とアタフタとしか言い訳できない私に、大村さんは吹き出した。
「へっ」
「あはは、分かってるって知ってるって! たださ、へんなウワサになってて」
「ウワサ?」
「設楽さん、もう鹿王院くんの赤ちゃん産んでるとか産んでないとか」
「ええっ!?」
私は大きく目を見開いた。
「な、ななななななんで!? そんなわけないじゃん! だいたいいつ産むのっ」
「ほら、しばらく設楽さん休んでたじゃん、修学旅行前に」
「あ、あれは樹くんの海外での試合の応援に行ってた時でっ」
たしかにしばらく休んだけれどっ!
ていうか、産んですぐに修学旅行……それも海外旅行とか、どんだけ体力あるんだよっ。
「え? てか、そんなに慌てるってことは、ほんと?」
「んな訳ないでしょ! もう! からかって!」
ニヤニヤしながら言ってくる大村さんに、私はむくれてみせる。
「ていうか、なんでそんなウワサに……?」
「んー、なんだかね、青百合組の誰だかが、設楽さんと鹿王院くんがオムツだのミルクだの買ってるの、見たって」
「あー……」
私は額に手を当てた。あれか!
(ていうか、あの子か! 同じお店にいた子!)
ジロジロ見られたとは思ってたんだよなぁ……。
「その反応的に、少しは当たってるの?」
「ミルクとか買ってたのはほんと。でもあれ、いまウチにいる親戚の赤ちゃん用のやつ……」
「あ、お使い頼まれてたのね」
納得する大村さんに、私は弱々しく頷いた。ちょっと違うけど、まぁいいや。
「でも、なんだか設楽さんの言葉にものすごい赤ちゃんのお世話してる感があって、お使いとかじゃなさそうだとかも言ってたけど」
「……まぁ、それはそれで。えー、やだな、樹くんに迷惑かからないといいんだけど」
私は軽く眉を寄せた。
樹くんは、私みたいなペーペー(?)のいち学生とは違うのだ。部活も全国クラスだし、なんなら世代別の代表にも呼ばれちゃってる。変なウワサで足を引っ張るわけにはいかないのです……。
「むしろ鹿王院くん、なんか満足そうにしてるらしいよ」
「なぜに!?」
「さぁ。でもまぁ、予想はつくけど」
「なに?」
「これで設楽さんに変な虫が付きにくくなったと思ってるんじゃない」
「虫!?」
ふう、とため息をついた。
(過大評価しすぎだよ~)
樹くんは、昔から私が魅力的すぎるだの虫がつくだのなんだのと、心配してくれている。杞憂だ。ほんとうに。
(なんていうか、許婚バカなんだよね)
うん、と頷く。多分そう。なんか、恋愛フィルター的なアレで、心配になってるだけで実際そんなことないのに。
「まー、特クラには信じてるひといないよ。設楽さん、近くで見てるし。ただ、他のクラスとか、特に学年が違うと信憑性高く広まってるみたい」
「学年」
私は繰り返して、少し冷や汗をかく。
(……てことは、一年生にもそのウワサ、広まってるんだよね?)
さっと顔が青くなる。てことは、あの子にもそのウワサ、届いちゃってるよね!?
「どしたの、設楽さん?」
大村さんがそう言った時だった。
「設楽華ッ!」
教室の扉ががらりと開き、私の名前は大声で呼ばれた。
(う、き、来たっ)
桜澤青花だ。
私はびくりと肩を揺らし、大村さんが「げっ、ぶりっ子1年」と小さく言った。
「ぶりっ子?」
「あ、知らない? 親とかが使う言葉でさ、ぶりっ子? なんていうんだろ、男子の前で性格変わる感じの~」
「あ、あは」
そうか、ぶりっ子って古い言葉なのか。使わないのか。世知辛いな……。
「なにをコソコソ取り巻きと話し込んでいるの設楽華!?」
「取り巻きぃ?」
大村さんは、少しカチンときた表情で「ぶりっ子」の青花をにらむ。
「わたしが、いつ設楽さん取り巻いたのよ! この子のご機嫌なんて取ったことないわよ! むしろからかう対象よ!」
びしり、と指をさされた。それはそれで、なんか切ない。
「そんなことはどうだっていいの!」
青花は髪を振り乱して私に詰め寄る。
「あんな変なウワサを立てて、どうしようっていうの!? あたしに樹クンを諦めさせようとしてるのね!?」
「……あのー、いや、違ってですね?」
「きっとそうよ、そうなんだわ! ふふん、バカね! これくらいで、あたしと樹クンとの赤い糸は断ち切れないわよっ」
いっそ堂々と言い放つ青花を見る周りの視線は、なんていうか、とても寒々しい。というか、完全に痛い子見てる感じだし、なんならちょっと引いてると思う。
そんな周りの状況を一切気にせず、青花は「さあ! 取り消して! そのウワサを!」なんて詰め寄ってくる。ふつうに怖い。
つい後ろに一歩下がったとき、そのまま誰かに抱きすくめられた。
「?」
「何度も言っているな、桜澤。華に近づくなと」
ものすごく冷たい声に、私はその人を見上げる。私を抱きしめて青花を見下ろすように睨みつけていたのは、やっぱりというか何というか樹くんで、私は少し安心して身体を預けてしまう。
そのほんの少しの仕草にも、樹くんは反応して、抱きしめる腕に力をこめてくれた。
(なんでだろ、)
すごく安心する。ここにいれば安全だって確信できる腕の中で、私はひっそりと息をついた。
「へっ」
「あはは、分かってるって知ってるって! たださ、へんなウワサになってて」
「ウワサ?」
「設楽さん、もう鹿王院くんの赤ちゃん産んでるとか産んでないとか」
「ええっ!?」
私は大きく目を見開いた。
「な、ななななななんで!? そんなわけないじゃん! だいたいいつ産むのっ」
「ほら、しばらく設楽さん休んでたじゃん、修学旅行前に」
「あ、あれは樹くんの海外での試合の応援に行ってた時でっ」
たしかにしばらく休んだけれどっ!
ていうか、産んですぐに修学旅行……それも海外旅行とか、どんだけ体力あるんだよっ。
「え? てか、そんなに慌てるってことは、ほんと?」
「んな訳ないでしょ! もう! からかって!」
ニヤニヤしながら言ってくる大村さんに、私はむくれてみせる。
「ていうか、なんでそんなウワサに……?」
「んー、なんだかね、青百合組の誰だかが、設楽さんと鹿王院くんがオムツだのミルクだの買ってるの、見たって」
「あー……」
私は額に手を当てた。あれか!
(ていうか、あの子か! 同じお店にいた子!)
ジロジロ見られたとは思ってたんだよなぁ……。
「その反応的に、少しは当たってるの?」
「ミルクとか買ってたのはほんと。でもあれ、いまウチにいる親戚の赤ちゃん用のやつ……」
「あ、お使い頼まれてたのね」
納得する大村さんに、私は弱々しく頷いた。ちょっと違うけど、まぁいいや。
「でも、なんだか設楽さんの言葉にものすごい赤ちゃんのお世話してる感があって、お使いとかじゃなさそうだとかも言ってたけど」
「……まぁ、それはそれで。えー、やだな、樹くんに迷惑かからないといいんだけど」
私は軽く眉を寄せた。
樹くんは、私みたいなペーペー(?)のいち学生とは違うのだ。部活も全国クラスだし、なんなら世代別の代表にも呼ばれちゃってる。変なウワサで足を引っ張るわけにはいかないのです……。
「むしろ鹿王院くん、なんか満足そうにしてるらしいよ」
「なぜに!?」
「さぁ。でもまぁ、予想はつくけど」
「なに?」
「これで設楽さんに変な虫が付きにくくなったと思ってるんじゃない」
「虫!?」
ふう、とため息をついた。
(過大評価しすぎだよ~)
樹くんは、昔から私が魅力的すぎるだの虫がつくだのなんだのと、心配してくれている。杞憂だ。ほんとうに。
(なんていうか、許婚バカなんだよね)
うん、と頷く。多分そう。なんか、恋愛フィルター的なアレで、心配になってるだけで実際そんなことないのに。
「まー、特クラには信じてるひといないよ。設楽さん、近くで見てるし。ただ、他のクラスとか、特に学年が違うと信憑性高く広まってるみたい」
「学年」
私は繰り返して、少し冷や汗をかく。
(……てことは、一年生にもそのウワサ、広まってるんだよね?)
さっと顔が青くなる。てことは、あの子にもそのウワサ、届いちゃってるよね!?
「どしたの、設楽さん?」
大村さんがそう言った時だった。
「設楽華ッ!」
教室の扉ががらりと開き、私の名前は大声で呼ばれた。
(う、き、来たっ)
桜澤青花だ。
私はびくりと肩を揺らし、大村さんが「げっ、ぶりっ子1年」と小さく言った。
「ぶりっ子?」
「あ、知らない? 親とかが使う言葉でさ、ぶりっ子? なんていうんだろ、男子の前で性格変わる感じの~」
「あ、あは」
そうか、ぶりっ子って古い言葉なのか。使わないのか。世知辛いな……。
「なにをコソコソ取り巻きと話し込んでいるの設楽華!?」
「取り巻きぃ?」
大村さんは、少しカチンときた表情で「ぶりっ子」の青花をにらむ。
「わたしが、いつ設楽さん取り巻いたのよ! この子のご機嫌なんて取ったことないわよ! むしろからかう対象よ!」
びしり、と指をさされた。それはそれで、なんか切ない。
「そんなことはどうだっていいの!」
青花は髪を振り乱して私に詰め寄る。
「あんな変なウワサを立てて、どうしようっていうの!? あたしに樹クンを諦めさせようとしてるのね!?」
「……あのー、いや、違ってですね?」
「きっとそうよ、そうなんだわ! ふふん、バカね! これくらいで、あたしと樹クンとの赤い糸は断ち切れないわよっ」
いっそ堂々と言い放つ青花を見る周りの視線は、なんていうか、とても寒々しい。というか、完全に痛い子見てる感じだし、なんならちょっと引いてると思う。
そんな周りの状況を一切気にせず、青花は「さあ! 取り消して! そのウワサを!」なんて詰め寄ってくる。ふつうに怖い。
つい後ろに一歩下がったとき、そのまま誰かに抱きすくめられた。
「?」
「何度も言っているな、桜澤。華に近づくなと」
ものすごく冷たい声に、私はその人を見上げる。私を抱きしめて青花を見下ろすように睨みつけていたのは、やっぱりというか何というか樹くんで、私は少し安心して身体を預けてしまう。
そのほんの少しの仕草にも、樹くんは反応して、抱きしめる腕に力をこめてくれた。
(なんでだろ、)
すごく安心する。ここにいれば安全だって確信できる腕の中で、私はひっそりと息をついた。
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