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【高校編】分岐・相良仁
次の約束(side仁)
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「仁って割と涙腺ゆるいよね」
華がからかうみたいに言うから、俺は「むっ」て顔して華を見た。ついでに繋いでる手に力を入れる、少しだけ。
「いたたたっ」
「あんな死に方するから」
「わ、私のせい!?」
「そーだよ」
俺は華からふい、と視線を逸らすと小さく言った。
「お前以外のことで泣かないもん」
「へえ?」
「マジだよ」
ちょっと拗ねてるみたいな口調になってしまった。
でもまぁ、仕方ないと思う。有り体に言えば、なんていうか、華を好きすぎる。大好きすぎる。大切すぎる。……言えないけど。照れるから。
「……あ」
「なんだよ」
華はふ、と目線を上げた。
「あのですね」
「うん」
「ゆばまんじゅう……」
華の目線の先を見て、それから笑ってしまう。多分、食べたいのもあるけど俺が少し沈んじゃったから気を使われた。
「食え食え。でかくならんぞ」
「これ以上でかくなりたくはないんだけど……」
さっき恐ろしいフラペチーノ完食しておきながら、この逡巡はなんなんだ。
「いや細い方だと思うけど」
「そーかなぁ、もっとスレンダーなほうが」
「……まぁスレンダーではない」
俺は華を眺める。細いんだけど、……まぁ本人に言うと失礼かもだから言わないけど、ムネがでかいから、本人的には少しふっくらして見えるのかもしれない。
「う、でしょ?」
「でもまぁ、まだ大丈夫」
ひょい、と華を持ち上げてみせる。
「わ、や、やめてようっ」
「ほらまだ軽い軽い」
「人が見てるからーっ」
周りはアホなカップル見る目で見てくる。知るか、俺は多分今、人生で一番幸せなんだから。
華がぎゃあぎゃあ言うから仕方なしに下ろす。
「な?」
「なにが"な?"なのか分かんないんだけどっ、でも、うん。食べる」
華は鼻息荒く言った。そこまで気合いいれなくても、と笑ってしまう。
ゆばまんじゅうを2つ買って、ひとつ渡す。少し申し訳ない顔をされた。
「あのさぁ、これくらい出すよ」
「いーよ、俺結構もらってんの、お前のばーさんから」
「むぅ」
難しい顔でゆばまんじゅうに噛み付いた華だけど、すぐに頬が緩んだ。
「おいし」
「だな」
俺はうなずく。揚げてあるからカロリーまた高そうだけど。
「まぁいっか、東照宮って広そうだし」
「行ったことあんの?」
「ない、かな?」
華は首を傾げた。多分、前世を含めて考えてる。
「ないはず」
「俺も」
「日本史の先生なのに!」
華はケタケタ笑った。
「言ったな? こっから授業モードに入るからな」
「……それはヤダ」
華は甘えるみたいに俺を見る。
「だって、せっかくデートなのに」
「……」
抱きしめるのを我慢した俺を褒めて欲しい。胸が痛い。可愛すぎて。
「なにその難しいカオ」
「ほっとけ」
俺は華の手を引いて歩き出す。顔見てたら色々しちゃいそう。
石でできた階段を華の手を引いて登る。
「う、お腹いっぱいの身体にはちょっとキツイ……」
「おぶってやろうか?」
からかうように言うと「遠慮しまーす」と眉をひそめて華は言う。かるく汗ばんでて、ちょっとどきりとした。
「遠慮すんなよ」
「いやするでしょ」
そんな中身のない会話をぽつぽつしながら歩いていく。ふと道が広がって、華は「わあ」と広い砂利道を歩きながら嘆息する。
「けっこうでかい」
「なー……あ、着物」
レンタルだろうか。着物、というか浴衣だ。楽しげな女の子たちとすれ違う。
「お前も着る?」
「んーん、暑そうだから」
華は首を振る。まぁ昔から結構、こういうやつだ。俺が笑うと、華はおずおず、って感じで聞いてくる。
「……着て欲しい?」
「ん? いや」
華の頭をぽん、と撫でた。
「華が着たいなら、と思っただけ。いや似合うとは思うし見たいけど、別に今日じゃなくていいよ」
みーんみんみん、と辺りの木々からセミの声が降り注ぐ。湿度もけっこうあるから、浴衣は暑いと思う。
「じゃあさ、今度着る。仁も着て」
「いいけど、どこで」
「分かったことがあって」
華は少し楽しそうに笑った。
「今日みたいに遠出したらデートできますよね?」
「……まぁそうなりますねぇ」
「京都とか!」
「あー、懐かしいな、修学旅行」
2億くらいかかったんだっけ、なんとなくやってみたあの仕掛け。
「秋になったらいこー、京都着物デート!」
楽しげに華は言う。俺は頷きながらなんとなく、じわりと思う。「次」の約束できるっていいよな。生きてるからできることだ。
「ほかに行きたいとこねーの」
「んー、北海道?」
ウニ丼、と華は真剣な顔で言うから、俺は笑ってしまった。ウニでもいくらでも、好きなだけ食わせてやるよ。
「でも北海道、日帰りはキツくないか」
「泊まり、無理かなぁ」
華は上目遣いで俺を見るし俺は俺で「なんとかなるんじゃないの」とか思っちゃうから、なんか、ダメだ……。
「……泊まりはもう少し先だな」
「ちぇー」
華はそういうけど、残念なのは泊まりがダメだからか、ウニ丼が食べられなかったせいか。
「東北くらいならなんとか」
「ん、じゃあそうしよ! 焼き牡蠣とか食べにいこうー」
すっかり華はご機嫌で言う。
「あ」
「なに?」
「ほらこれ、後水尾天皇の御宸筆」
いつのまにかたどり着いてた陽明門で、俺は額を指差した。
「へ?」
「これがあったから、幕末にここ燃やされずに済んだんだぞ。倒幕派に」
「……ほんとにセンセーモードになられるとは」
華は呆れたように俺をみあげて、それから楽しげに笑った。
華がからかうみたいに言うから、俺は「むっ」て顔して華を見た。ついでに繋いでる手に力を入れる、少しだけ。
「いたたたっ」
「あんな死に方するから」
「わ、私のせい!?」
「そーだよ」
俺は華からふい、と視線を逸らすと小さく言った。
「お前以外のことで泣かないもん」
「へえ?」
「マジだよ」
ちょっと拗ねてるみたいな口調になってしまった。
でもまぁ、仕方ないと思う。有り体に言えば、なんていうか、華を好きすぎる。大好きすぎる。大切すぎる。……言えないけど。照れるから。
「……あ」
「なんだよ」
華はふ、と目線を上げた。
「あのですね」
「うん」
「ゆばまんじゅう……」
華の目線の先を見て、それから笑ってしまう。多分、食べたいのもあるけど俺が少し沈んじゃったから気を使われた。
「食え食え。でかくならんぞ」
「これ以上でかくなりたくはないんだけど……」
さっき恐ろしいフラペチーノ完食しておきながら、この逡巡はなんなんだ。
「いや細い方だと思うけど」
「そーかなぁ、もっとスレンダーなほうが」
「……まぁスレンダーではない」
俺は華を眺める。細いんだけど、……まぁ本人に言うと失礼かもだから言わないけど、ムネがでかいから、本人的には少しふっくらして見えるのかもしれない。
「う、でしょ?」
「でもまぁ、まだ大丈夫」
ひょい、と華を持ち上げてみせる。
「わ、や、やめてようっ」
「ほらまだ軽い軽い」
「人が見てるからーっ」
周りはアホなカップル見る目で見てくる。知るか、俺は多分今、人生で一番幸せなんだから。
華がぎゃあぎゃあ言うから仕方なしに下ろす。
「な?」
「なにが"な?"なのか分かんないんだけどっ、でも、うん。食べる」
華は鼻息荒く言った。そこまで気合いいれなくても、と笑ってしまう。
ゆばまんじゅうを2つ買って、ひとつ渡す。少し申し訳ない顔をされた。
「あのさぁ、これくらい出すよ」
「いーよ、俺結構もらってんの、お前のばーさんから」
「むぅ」
難しい顔でゆばまんじゅうに噛み付いた華だけど、すぐに頬が緩んだ。
「おいし」
「だな」
俺はうなずく。揚げてあるからカロリーまた高そうだけど。
「まぁいっか、東照宮って広そうだし」
「行ったことあんの?」
「ない、かな?」
華は首を傾げた。多分、前世を含めて考えてる。
「ないはず」
「俺も」
「日本史の先生なのに!」
華はケタケタ笑った。
「言ったな? こっから授業モードに入るからな」
「……それはヤダ」
華は甘えるみたいに俺を見る。
「だって、せっかくデートなのに」
「……」
抱きしめるのを我慢した俺を褒めて欲しい。胸が痛い。可愛すぎて。
「なにその難しいカオ」
「ほっとけ」
俺は華の手を引いて歩き出す。顔見てたら色々しちゃいそう。
石でできた階段を華の手を引いて登る。
「う、お腹いっぱいの身体にはちょっとキツイ……」
「おぶってやろうか?」
からかうように言うと「遠慮しまーす」と眉をひそめて華は言う。かるく汗ばんでて、ちょっとどきりとした。
「遠慮すんなよ」
「いやするでしょ」
そんな中身のない会話をぽつぽつしながら歩いていく。ふと道が広がって、華は「わあ」と広い砂利道を歩きながら嘆息する。
「けっこうでかい」
「なー……あ、着物」
レンタルだろうか。着物、というか浴衣だ。楽しげな女の子たちとすれ違う。
「お前も着る?」
「んーん、暑そうだから」
華は首を振る。まぁ昔から結構、こういうやつだ。俺が笑うと、華はおずおず、って感じで聞いてくる。
「……着て欲しい?」
「ん? いや」
華の頭をぽん、と撫でた。
「華が着たいなら、と思っただけ。いや似合うとは思うし見たいけど、別に今日じゃなくていいよ」
みーんみんみん、と辺りの木々からセミの声が降り注ぐ。湿度もけっこうあるから、浴衣は暑いと思う。
「じゃあさ、今度着る。仁も着て」
「いいけど、どこで」
「分かったことがあって」
華は少し楽しそうに笑った。
「今日みたいに遠出したらデートできますよね?」
「……まぁそうなりますねぇ」
「京都とか!」
「あー、懐かしいな、修学旅行」
2億くらいかかったんだっけ、なんとなくやってみたあの仕掛け。
「秋になったらいこー、京都着物デート!」
楽しげに華は言う。俺は頷きながらなんとなく、じわりと思う。「次」の約束できるっていいよな。生きてるからできることだ。
「ほかに行きたいとこねーの」
「んー、北海道?」
ウニ丼、と華は真剣な顔で言うから、俺は笑ってしまった。ウニでもいくらでも、好きなだけ食わせてやるよ。
「でも北海道、日帰りはキツくないか」
「泊まり、無理かなぁ」
華は上目遣いで俺を見るし俺は俺で「なんとかなるんじゃないの」とか思っちゃうから、なんか、ダメだ……。
「……泊まりはもう少し先だな」
「ちぇー」
華はそういうけど、残念なのは泊まりがダメだからか、ウニ丼が食べられなかったせいか。
「東北くらいならなんとか」
「ん、じゃあそうしよ! 焼き牡蠣とか食べにいこうー」
すっかり華はご機嫌で言う。
「あ」
「なに?」
「ほらこれ、後水尾天皇の御宸筆」
いつのまにかたどり着いてた陽明門で、俺は額を指差した。
「へ?」
「これがあったから、幕末にここ燃やされずに済んだんだぞ。倒幕派に」
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