【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鹿王院樹

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「華は、設楽華は」

 樹くんは訥々と話し出した。落ち着いた声が講堂に響く。

「食欲旺盛だ」
「!?」

 思わずぐるんと首を回して樹くんを見た。唐突になにを!?

「ウチの手伝いをしてくれてるヒトは炊飯器を一升炊きに買い替えたと」
「!?」

 うっそまじ!? そ、そうだったの!?

「あ、いや、これは俺も家族も食べるから、華だけのせいではないのだが」

 慌ててフォローされた。

(お米、美味しいんだもん……)

 時期とお料理に合わせてお米の銘柄まで変えてくれちゃってたんだもん……。

「それに、よく笑う。ええと、関西弁で言うとゲラだ」

 ゲラて。どこで知ったのその単語。たしかにツボに入ると止まらないけれども。

「少し泣き虫だし、すぐに拗ねるし、寝起きはあまり良くないし、眠くなるとどこでも眠るし」
「ちょ、ちょっと待って樹くん」

 私は樹くんの制服の裾をつかむ。い、一体何の話をされているので……!?
 樹くんは優しく笑った。

「そして、まっすぐなヒトだ」

 思わず樹くんを見つめた。

「誰かを理解しようと努めてくれる人で、誰かを傷つけたくないと願う人だ」

 樹くんは静かに続けた。私は胸がぎゅうっと痛くなる。

「だから、……お前たちの言う"不正"や"嫌がらせ"など、華は一切関与していない、とここで断言しよう」

 樹くんは胸を張る。

「鹿王院樹の名前にかけて、設楽華がそんな人間ではない、と確言しよう。確約しよう」

 ブーイングしてた男子たちは所在なさげに目線を動かす。
 青花だけは、訝しげな目で樹くんと私を交互に見つめていた。

「だから、……」

 樹くんは少し考えるように黙った。ちらり、と私を見て少し「ふむ」って顔をする。

「?」

 軽く首をかしげると、樹くんは少し笑った。それから言う。

「だから、俺の許婚に酷いことを言わないでほしい。傷つけないでくれ。……以上だ」

 樹くんは黙ってマイクを私に返す。私は慌てて受け取って、樹くんを見上げたけれど、樹くんは私の頭を軽く頭を撫でたあと、さっさと自分の席に戻ってしまった。

(ええと、)

 私は視線を前に向ける。男子たちは私から目線をそらす。

(選挙演説、戻っていいのかな……)

 そう思いながら壇上に向かおうとした時、ちん! と鉦の音がした。

「設楽華さん、時間いっぱいです」
「……はーい」

 冷静な選挙管理委員会の先輩のお声。うう、容赦ないよう。

(仕方ない、公約はポスターに大きく書いて)

 あとは選挙活動で伝えていくしかないか……。もともと、ダメ元なんだし!
 私は一応壇上に戻って、ぺこりと頭を下げてから舞台袖に引っ込んだ。舞台袖の椅子に座り込むと、横に座った千晶ちゃんが「おつかれ」と背中を叩いてくれる。

「私、なーんにも主張できてないっす」
「でも一番インパクトあったわよ」

 くすくす、と千晶ちゃんが笑った。

「相変わらず愛されてるわねぇ」
「あ、あい」

 私は思わず瞬きをして千晶ちゃんを見つめた。頬に熱が集まる、うう、急にそんなこと言うから!

「ご馳走さまでした~ってかんじ。そりゃお兄様も修行にフランス行くわ」
「修行?」
「なんかそんなこと言ってたわよーあのお兄様」

 ……真さん、相変わらず何考えてるか分からないなぁ。

「そろそろ帰国だけど」
「げ」
「気持ちわかるー」

 ケタケタと千晶ちゃんは笑った。

「ま、とりあえず」

 千晶ちゃんは立ち上がる。

「決起集会でもしますか」

 私はきょとん、と千晶ちゃんを見上げた。決起集会?


 言われた時刻にカフェテリアへ行くと千晶ちゃんが手を振ってくれた。

「え、あれ、なんで」

 私は足を止めてじっと千晶ちゃんがいるテーブルを見つめた。千晶ちゃんが、っていうより、みんな。

「ようお疲れ」
「華ちゃん大変だったね」
「クッキー食べる?」
「マカロンもあるでー」
「ポスターは任せてよ、ハナ」

 黒田くんに、ひよりちゃんに、秋月くんに、アキラくんに、圭くんまで!

「え、なんで!?」
「手伝わせてーや」

 アキラくんが笑った。

「そうだよ」

 ひよりちゃんも「むん!」と気合の入った顔で言ってくれた。

「華ちゃん立候補なんて! ぜーったい手伝う!」

 私はしばらくぽかん、として……それから目頭が熱くなるのを感じた。

「なんで泣くんだよ」

 黒田くんの呆れたような口調の、でも優しい声。私は何度も頷いた。

(ダメ元で、なんて思っていたけど……)

 ぐっと気合をいれた。

(みんながいてくれるなら、何が何でも当選しなきゃ!)

 私たちがしてる苦労を、下の学年の子たちにさせる訳にはいかない!

「ちなみに言い出しっぺの応援団長、樹くんは部活が長引いてます~」

 千晶ちゃんがそう言って、私は「ええっ!?」と大声で聞き返した。涙も引っ込む。

「樹くんが!?」
「華ちゃんの力になってほしい、って頭下げてきたんだよ」

 秋月くんが言う。

「そんなことなくても、全然手伝う気まんまんだったけどね!」

 ひよりちゃんがそう言って、アキラくんが「当たり前や!」と続いてくれた。

「絶対当選やで華! ほらコレ」

 アキラくんが紙袋から取り出したのは、目のない達磨。

「だるま!? でかっ!?」

 よく選挙速報とかで見かけるサイズ……。

「どこから持ってきたのコレ」
「ウチに余ってたぶん」

 現役国会議員の娘、千晶ちゃんが言う。ていうかコレ、余るもんなの……?

「ほらほら片目入れて華ちゃん」

 ひよりちゃんに促されて、私は用意されてた筆でだるまの片目に丸を描く。

「絶対両目に入れたろな!」

 私より気合入ってそうなアキラくんに言われて、私は思わず笑ってしまった。
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