【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

【side健】

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 最初は雀とか、らしい。小さな生き物。やがて「そいつら」は物足りなくなる。それは鳩になり、カラスになり、猫になり、犬になり、人になる。 

 シリアルキラーの、特徴。

 5月末。設楽が修学旅行に行ってる間に、またあの近所で動物が殺される。
 今度は猫だった。
 地域猫、っていうやつか。野良猫とどう違うかはわかんねーんだけど、とにかくその三匹の猫は殺鼠剤入りの猫缶で殺された。

「物騒ねぇ」

 朝食の席、かーさんは注意を促す回覧板を眺めながら親父に言う。

「あなたさっさと逮捕してよ」
「俺の担当じゃない」
「警察官でしょう」
「まぁそう言うな、しかし」

 親父は目を細めて、何かを考えるように言った。

「カラス、猫、か。なぁこの辺、外飼いの犬なんかいたっけ」
「なぁに急に」

 かーさんは首を傾げた。

「最近はどこのお宅も室内飼いよねぇ」
「ふうん」

 親父はそのまま目線をテレビに戻した。テレビでは横浜に新しくできたパンケーキ屋だかなんだかの特集をしている。

「華さん、こういうの好きそうだな」

 言われて、テレビをまじまじと見つめる。分厚いパンケーキ、生クリーム、フルーツ。
 設楽が食べてるとこを想像する。幸せそうな顔。食べたくなるような顔。パンケーキじゃなくて、設楽を。

「……好きだろうな」

 端的に答えると、かーさんが嬉しそうに反応する。

「あらあ、デートにいいじゃない」
「あんまりあいつ、人混みとか好きじゃない」

 テレビの中のその店は、すごい人だかりだった。設楽が行きたいなら行くけど、俺から誘うのはあまりしたくない。少し疲れるようだから。

「あ、そうなの」

 じゃあ少し落ち着いてからね、とかーさんは笑って続けた。

「ねえ、寂しい?」
「なにが」
「だって」

 くすくすとかーさんは笑う。

「2週間も会えてないのよ」

 あなたと華ちゃん、とかーさんは言う。設楽の修学旅行は、ヨーロッパだかに2週間。豪勢だと思う。

「毎日メールしてる」
「あら、そうなの」

 かーさんは拍子抜けしたように言った。

「じゃ、別に寂しくないわねえ。会えないうちに愛は育つのよ? わたしとお父さんなんて」
「ご馳走様」
「聞いて行きなさい健、俺とかーさんの愛のメモリーを」
「行ってきます」

 バカ夫婦は置いといて、さっさと玄関に向かう。朝練だ。

(寂しくない、わけがない)

 スニーカーに乱雑に足を突っ込む。

(修学旅行か)

 やっぱり(前ほどではないにしても)嫉妬心は、ある。今頃なにしてんだろ、とか思うこともある。
 けど、疑わない。それは設楽に対してすっげー失礼だ。あの時の設楽を思い出すと、胸が痛くなる。……正直な話、綺麗だったな、とも思うけれど。

(まぁ、いいか)

 俺のチンケな嫉妬やら、んなもんはどうだっていい。設楽が修学旅行楽しければそれでいいし、……今日、会える。
 そう思うと少し心が弾む。同時に気になるのは、あの女のこと。
 桜澤。「カラス殺し」あいつか?

(傷つける時だけがリアル……だっけか)

 そう言っていた。
 確証は何もない。けれど、勘のようなものが痛いくらい俺に告げている。あの女に近づくな。
 問題はーー桜澤が、何やら設楽に執着しているらしい、という点にあった。


 朝練、授業、放課後も部活ーーで、挨拶もそこそこに学校を飛び出す。
 今までだって、2週間会えないこともあった。
 けれど「いつでも会える」という安心感があって。

(それに、……いまの学校じゃなかったしな)

 思わず、苦笑する。
 やっぱり俺は独占欲が強すぎるのかもしれない。設楽のことを、何一つ疑ってなんかないのに、それでも嫉妬するなんて。他の男に近づいて欲しくないなんて。
 設楽の家の前でメールすると、すごい勢いで玄関が開いた。

「黒田くんっ」
「おう」

 片手を上げる。俺はいつも通りにできてんだろーか。

「ただいま」

 微笑む設楽は、少し眠そうに目を細める。

「あれ、すまん、着いたばっかか」
「うん、飛行機遅れちゃって~」
「疲れてんじゃねーの」
「全然? ビジネスクラスだったし」

 全席ビジネスクラスなんだよ、楽ちんだったよ、と設楽は笑って、髪をかき上げた。その手首に、俺からのブレスレットがついてて、なんていうか、満たされる。たった、それだけで。

「設楽」
「ん?」

 無防備な彼女に、すっとキスをして離れた。設楽は俺を見て幸せそうに笑って、少し目線をそらして「会いたかった」と呟いた。

「俺も」
「……えへへ」

 照れたように、設楽は髪の毛に触れる。その仕草さえいちいち可愛くて、俺は苦しくて仕方ない。
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