【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・山ノ内瑛

桜の影

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 京都駅にはやけに人が多くて、私はアキラくんとしっかりと手を繋ぐ。

「夏でもこんなに人多いんだ?」

 さすが世界的観光都市。京都らしいねぇ、と私は呟く。

「や、今日は」

 アキラくんはくるり、とあたりを見回した。

「宵山やから」
「よいやま?」
「ん」

 アキラくんは頷く。

「祇園祭や」
「祇園祭!」

 私は思わず反復した。そうなんだ、祇園祭!
 そういえば、ちらほらと浴衣姿のひとたちが。

「聞いたことある。今日なの?」
「や、1ヶ月間ずっとそうや」

 アキラくんは説明してくれる。さすがおばあちゃんが京都人。

「1か月もお祭りするの!?」
「それこそ春に来たときに話した例の神さんのお祭りやで。病気避けのお祭りや、言うてみたら」
「へえ」
「帰り、何時やっけ」

 アキラくんは新幹線の切符を取り出す。

「18時か」
「少し寄れるかな」
「微妙やな~」

 今日のは夕方からの祭りなんや、とアキラくんは言う。

「じゃあさ、時間ずらそうよ」
「ええの?」
「大丈夫だと思う」

 アキラくんから切符を受け取って(今回のは敦子さん持ち)窓口で変更してもらう。

「20時半か」
「いける?」
「ん、大丈夫やろ」

 少しアキラくんは嬉しそうに私の手を繋いだ。

「好きなの? このお祭り」
「これ、いうか」

 そう言って、優しく目を細めたアキラくんが言葉を続ける。

「いつかな、祭りとかな、華ときたいな思うててん」
「そうなんだ」

 私は返事をしながら、胸の奥がギュッと痛む。……私はどれだけのことをこの人に我慢させてきてるんだろう。

「……あのさ」

 ん? って優しい顔で私を見るアキラくんに、私はこの感情をうまく言葉にできそうにない。

「ええと」
「どしたん?」

 結局出たのは、別の言葉。

「……あの、手。離さないでね? その」

 暗い夜道は、怖いから。
 お祭りで、相当に明るいのかもしれないけれど。

「死んでも離さへんから安心しとき」

 アキラくんはしっかりと頷いてくれた。

(知ってたけど)

 そう答えてくれるのは、ちゃんと分かってたけど……それでもそれを口にしてもらえるのは、ものすごい安心感があった。
 バス乗り場まで移動して、バスに乗り込む。まずはお墓参り、だ。
 駅で買ったお花を膝に、私とアキラくんは並んで座る。この時間はそんなに混まないみたいだった。

「華のお父さんがこっちの人なんやっけ?」
「そういう訳でもないみたいんだけど、先に亡くなったお父さんのお墓が京都なんだって」

 あんまり記憶はない。
 大きくてあったかい人だったのは、覚えてるけれど。

「それで、敦子さんが同じお墓に入れたんだって。離れ離れにならないように」
「そか」

 窓の外で、京都の景色が流れていく。
 東西南北に真っ直ぐになってるはずの通りが、中心部から離れるにつれその方向を変えてしまう頃、お墓があるっていうお寺の最寄りのバス停に着く。

「この辺は観光客もおらへんのやな」
「ねー。あ、こっちかな」

 しゃわしゃわ、と鳴きはじめのセミが鳴く道を歩いていく。
 やがて小さなお寺が見えてきた。門を潜ってすぐ左手に、墓石が並んでいる。

「ええと」

 手分けしてお墓を探す。

「華、これ違う?」

 アキラくんに呼ばれて、私はそのお墓に近づいた。
 桜の木が夏の日差しに青々とした葉を反射させてるその下、濃い影のそこに、そのお墓はあった。
 私はお墓の横の御影石に、おかあさんの名前があるのを確認する。
 そっとそれに触れた。夏の日差しの下なのに、日陰だからか、少しひんやりしていた。
 私は少しだけ、目を閉じる。

 お墓参りを済ませて、私たちはバスに乗る。

「とりあえずカフェやっけ?」
「うん、行ってみたいとこあるんだ」

 メインはお墓参りで、それは間違いないんだけど、アキラくんとお外デートはこんな時でないとできないから。

「あ、そうだ」

 バスのやけにひんやりとしたクーラーに少し身を縮めながら、私は手帳を取り出す。

「みて」
「……かっわいい」

 なんだか想定外な反応をされてしまった。照れるぞ!
 この間送ってもらった、おかあさんと私の写真。アキラくんはなぜだか嬉しそう。

「懐かしいなぁ、初めて会った時こんなやったな」
「そうだけど。ちがうよ、これ。おかあさんなの」
「美人さんやなー」

 アキラくんはまじまじと写真を見つめた。

「せやけど、あんま似てへんな」
「お父さん似みたいなんだよね」

 私はえへへ、と笑う。アキラくんも笑った。

「どうしたん、これ。おばーさんがくれたん?」
「ううん、違って」

 私は説明する。差出人のない手紙。

「それでね、嬉しくて。……アキラくん?」
「ん? あ、すまん」

 なぜだか険しくなったアキラくんの表情を覗き込む。さらりと髪を撫でられた。

「手紙、ほかになんもなかったん?」
「うん、そうなの。多分柚木くんかなぁって」
「……せやな」

 アキラくんは小さく頷く。私は首を傾げた。ほかに思いつく人はいないんだけれどな。
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