【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

【最終話】青空【side仁】(仁ルート本編完結、番外編等少し続きます)

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 目の前で、華が泣いている。

「……なんで泣くの」
「だ、だって」

 国際空港のロビー。大きなはめ殺しの窓の向こうには、夏の入道雲と、飛び立つ航空機が見える。
 今日は華が日本を立つ日。
 俺が、華を見送る日。

「1年くらい、会えないんだよ?」
「すぐじゃん」
「なんでそんなに余裕なの~!?」

 涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、華は俺にしがみつく。
 俺は周りの目線なんか全然気にしないで、華の背中をぽんぽん、と撫でる。
 ……これくらいの接触は許されるんじゃないかなぁ。
 まぁ、国際空港なだけあって外国人も多い。ハグなんか、そんなに目立たない……多分……。

「卒業まで会えないわけじゃない」
「ほぼ卒業じゃん~!」

 次に華に会えるのは、華が通う全寮制の学校での卒業前のパーティー。
 それまで、一切の接触禁止。
 メールも、手紙すらも。
 クリスマスだって、年末年始だって、華は学校から出られない。
 ちなみに卒業前のパーティーというのは、6月にあるガーデンパーティー、らしい。
 なんでも、家族や「婚約者」を招いてのパーティーらしく、これから華が通う学校がどういう目的のものか、ハッキリしてるなぁと思う。
 良家のお嬢様の、花嫁学校。

(馴染めるかな)

 それこそ、無理だったら辞めてもらっていいんだけどなぁ。
 俺が親父と縁切りすりゃいいだけだし?
 なんて思ってたのがバレたのか、華は俺を見上げて少し睨みつけてくる。

「リタイアなんかしないよ」
「うーん」
「ちゃんと、やり切る……よし」

 俺から離れた華は、ぱん、と両頬を叩いて気合を入れ直した。

「もう泣かない。だって、やるって決めたんだもん」
「……お前らしいや」

 そう言って笑うと、華は泣きはらした瞳でへにゃりと笑った。
 そっと頬の涙を指で拭う。

「触れたらダメなんじゃなかったっけ?」

 いつも通りな軽口に、ちょっと安心する。

「特例だろこんなの」

 泣きはらした顔で、飛行機なんか乗せられませんって。
 華は嬉し気に俺の手に頬を寄せる。胸が苦しくて痛くて熱い。

「……んな学校行かずに、素直に俺に拐われてりゃいーのに」
「ヤダよ、正々堂々、仁の横に立ってたいもん」
「……そっか」
「そうだよ」
「華」
「ん?」

 俺を見上げる華に、俺は告げる。

「愛してる」

 華はびっくりしたように俺を見つめる。

「ずっとずっと、何があっても、愛してる」
「うん」
「だからーーありがとう」
「なにが?」

 また、華の声が滲む。あー、泣かせちゃったか。そんなつもりじゃなかったのに。まぁしょうがない。

「ありがとう。俺といる未来を選んでくれて」
「……ばか!」

 華がまた俺の胸に飛び込んできた。俺は今度は、ぎゅうっと彼女を抱きしめる。

「浮気、しないでね」
「するわけないだろ」
「知ってるけど、知ってるけど!」
「俺はね、一途なの」
「うん」
「骨の髄まで、愛してる」

 華の、そんなに大きくない身体のどこにこんなに、ってくらい涙か溢れてきてる。大きくしゃくり上げながら、華は俺を見つめる。

「私だって、私だって大好き。愛してる」
「……うん」

 泣かないつもりだったのに、不覚にも俺の涙腺も緩んでしまった。

「あは」

 華が楽し気に笑う。

「仁って、結構泣き虫だよね?」
「……お前に言われたくないなぁ」

 お互い、涙でぐしゃぐしゃのまま、顔を見合わせて笑い合う。
 心の底から、この人を離したくないと思う。1年近くも会えないなんて、連絡すら取れないだなんてーー身体が切り刻まれるみたいだと。
 だけれど、彼女が決めたことだ。
 俺はそれを尊重したい。
 だって、これからの人生をずっとずっとずっと一緒に歩く、パートナーなんだから。


 はめ殺しの窓の向こうを、華が乗った飛行機が飛んでいく。

(さて)

 俺は思う。華の前では随分痩せ我慢したけど、果たして俺の精神状態は無事で済むのか? 華がいなくて。

「何せ、骨の髄まで愛しちゃってるからなぁ」

 そう言って、もう一度、空を見上げた。優しい青。きらきらの入道雲。
 飛行機はすでに遥か高く、ぐんぐんと高度を上げて行く。
 この空の先で、華はどんな風に過ごすんだろう?
 願わくば、せめて楽しい1年でありますように。

「あー」

 俺は小さく、そう呟いた。
 あの日の青とは……「彼女」の魂が煙になったあの日の青と、随分違う。
 濃い青、夏の色。
 次に会うとき、君はどんな風になっているだろう。
 少しは大人っぽくなってんのかな。

(似合わねー)

 おしとやかな華を思い浮かべて、俺は泣きながら肩を揺らして、少しだけ笑った。
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