【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鍋島真

【side真】

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 僕がその男が華を連れ込んだとかいう建物に踏み込んだとき、男は華に腕を噛まれて悶絶しているところだった。

「イタイタイイタイクッソこのアマ!」
「ひゃれ、ひゃほほさん」

 華は男に噛み付いたまま、僕に視線を向けるーー全く、君は強いよ。
 ただ僕の怒りは振り切れてる。

「なるほど僕はこいつを殺したらいいのかな」
「よくありません」

 僕に駆け寄ってくる華の制服は乱れてる。何をされそうになったかなんて、容易に想像がつくーー。
 この、シックマザファッカー。ブチコロス。

「ところで華ちゃん、口元にお米粒がついてるよ」

 僕はふわりと華を抱きしめながらそう告げる。ほんの少し、震えていたから。

「あ、さっきカツ丼食べてたんで」

 震える声をごまかすように、華は言うから付き合ってあげる。

「セオリーだね」
「留置所といえばカツ丼なので」

 私は伝統を大事にする女なのです、と華はそのおっきな胸を張る。
 少し落ち着いたみたいだった。
 僕が来たから?
 市内の、移転が決まった警察署の旧本棟、その留置所に華が連れ込まれた、と連絡が入って、僕は犯人の殺し方について考えながらここに飛び込んできた。

「というか、護衛さんなんていたのですねー」

 のんびりした声の華。

「ここに入る前に、その人止めてくれたのですが」

 逮捕状がある、取り調べは女性警官が当たる、それ以上邪魔をするなら公務執行妨害で逮捕する、そう言われて仕方なくその護衛さん(相良サンではない)は敦子さんと弁護士と僕に連絡した、ということらしい。

「ご、護衛もなにも、見張りだろう」

 男は震える声で言う。

「お前は常盤家から勘当されかけているらしいじゃないか! お前がどうなろうと、常盤家は関知しないと」
「それ、誰に聞いたんですか?」

 華の声が固い。

「そ、それは」
「尿路結石?」

 僕の言葉に、男はぽかんとする。あ、間違った。

「桜澤桜澤」
「……っ、彼女は関係ない!」
「あるんじゃーん」

 僕は微笑む。

「よーしどんな風に死にたい?」
「殺すな殺すな」

 背後から僕の頭を掴んだのは、相良サンで。

「遅い」
「弁護士軍団引き連れて来てんだよこっちは」

 お前いるから大丈夫だろ。
 相良サンは苛つきと嫉妬を隠そうともしてない声で言う。
 ふうん。

「やだヤダ男の嫉妬は醜いですよ」
「ほっとけ」
「ロリコン」
「だから違うって……」

 華がゆっくり首を傾げた。

「相良先生?」
「あー、連絡がきて」
「ヤダ学校にも連絡行ってるんですか」

 噂になんないといいなぁ、とシュンとする華の頭を相良サンはさりげなく撫でた。

「大丈夫俺しか知らないから」
「僕のお嫁さんに触らないでミスターロリマックス」
「なにそれなんのあだ名なの!?」

 僕たちがたいへんウエットに富んだ会話を楽しんでいるうちに、男は弁護士さんたちに取り囲まれて、狼狽を顔中に浮かべていた。

「そ、そんなはずは……え? この女は誰からも好かれていないから、本人さえ脅しておけば、何をしてもバレないって」

 腕の中で華がものすごく渋い顔をするから、一応言ってあげる。

「なになにどーしたの華チャン、すくなくとも世界で僕だけは君を愛してるし食べたいし舐めたいし24時間えっちぃことしてたいよ?」
「なんか最後が余計です……いや最後だけじゃないですね!? 愛してるだけで良くないですか!?」
「そんな言葉じゃ僕の愛は語り尽くせないよ」

 ふん、と笑って男を見遣る。
 目があったから、教えてあげる。

「ひとつ君はデカイ間違いをしてる」
「……は?」
「この子、設楽華チャンじゃありまっせぇ~ん」
「……は?」

 間抜けに「は?」しか言わない脳味噌お豆腐オジサンに向かって、僕は自己紹介をしてあげる。

「この子は鍋島華ちゃん」
「……っ、別人?」

 おどおど、と男はまだ挙動不審。馬鹿だね。

「別人ではないよ? 旧姓、設楽サンだからね」
「きゅ、旧姓……?」
「そして、僕は鍋島真くん。華ちゃんの世界一愛しい夫だよ。普段はダァリンって呼ばれてるんだヨロシクね」
「呼んでません呼んでません」

 華の冷たい声は無視して、男はぽかんを通り越してアホみたいな顔で僕たちを見回す。

「ところで」

 声と共に、こつん、こつん、とヒールの音がした。

「お、ラスボス」

 僕の呟きに、華は眉をひそめる。

「言いつけますよ」
「聴こえていましたよ真さんーーまったく」

 部屋に入って来たのは、常盤敦子その人で。
 常盤コンツェルンの総帥。
 怒りを隠そうともせず、男を睨みつける。

「ところで、聞き捨てならないのですがーー」

 男に詰め寄る。
 こつん、こつん、とヒールがなる。

「あたしの可愛い孫が、誰からも愛されてないですって?」
「ひ、え、……あ、だって」

 男はきょろきょろとしたあと、しゃがみ込む。

「だま、された……?」
「騙されたもクソもありません」

 そのあとやっと部屋に駆け込んできたのは、警察官とスーツ姿の男性数人。

「白井っ、お前なにやってるんだッ!?」

 白井と呼ばれた男は、イヤイヤと首を振って、ただ「騙されたんです騙されたんです」と震えながら蹲った。
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