【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鍋島真

【side真】僕のお嫁さん

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 愛しの我が奥さんが「よっしゃやったんでえ!」顔をして鼻息荒くムンとして(とても可愛い)いたから、僕はその綺麗な脳天に向かってチョップを振り下ろした。てい。

「いたい!」
「そんなに痛くないよ」
「へ? 真さん?」

 しお、って感じで華からやる気(?)が抜けて行く。
 僕の顔見たから。
 ねえ見た? って僕は華のコト好きなやつらに自慢したい。華さあ、僕のこと好きだから僕の顔みたら毒気が抜けちゃうんだよ愛されてるからさ! 僕ったら!

「なにしてるんですか」

 ぽけっとした顔で言われて、この場でチューして押し倒して僕と華の仲というものを自慢したい気持ちにはなるのだけれど、それはグッと我慢して。

「尿路結石の治療にきました」

 にこりと笑って答えると、ふ、と華は気の毒そうに桜澤青花を見遣った。
 青花は訝しげに僕を見てる。なんだよその目。気持ち悪いなぁ。

(ああ、華)

 君がね、そんな風に同情してやる価値はこの女にはないんだよ?

「さて」

 僕はぱん、と手を叩く。
 誰もが僕に注目してる。
 僕は美しくて、綺麗で、怪物的に僕であり続けるから。

「では皆さまご注目。今から重大発表をしまーす」

 ざわ、とほんの少しだけ、衆目がざわめいた。

「華、おいで」

 呼ばれるがままに、華は僕のそばまで。うん、いいね、可愛いね。

「この子僕の奥さんでーす」

 なんか、シンとした。
 あれ? どうしたんだろ?
 めちゃ反応したのは、尿路結石ちゃんで、なんかキイキイ喚く。

「はーーーーー!?!?!?」

 その汚い顔面を僕に向けないで欲しい。でも仕方ない。

「え、なんで言っちゃうんですか」

 華がボーッとした顔で言うから、にこりと微笑む。

「ノリ」
「……ノリ」
「そそそ。あとね、ここに来たのは。この子~」

 僕は指を刺す。
 桜澤青花。
 僕の敵。

「桜澤さん。あの子の"断罪"」

 特に考えなく使った言葉だけれど、華と桜澤は強く反応した。

「だ、断罪ッ! されるべきは設楽華でしょう!?」
「だからさぁ顔面性器」

 僕は斜めにソレを見る。

「この子は鍋島華。僕のお嫁さん」

 きゅ、と腕の中に華を閉じ込める。

「ねえ君、周りを見てごらんよ、冷静にさ」

 桜澤は「は?」って顔をしてる。

「その子たち、君に恋してる?」
「……そ、そうよ」

 なぜか胸を張って桜澤は言う。

「わたしは愛されてるの」
「なんでやねん」

 吐き捨てるように、山ノ内検事の息子さんは呟く。

「華のためや言うからこんな茶番付きおうとんねん。サッサと終わらせてぇや鍋島サン」
「……というわけでね」

 桜澤はものすごく間抜けな顔で、自分の状況を確認する。
 肩は抱かれてるわけではなくて、掴まれていて。
 寄り添われているわけではなく、見張られている。
 守るためでなく、逃がさないためにーー。

「……え?」

 大混乱の一言が出たところで、ハイ、復讐開始。

「君は誰からも愛されてない好かれてない必要とされてない求められていない」

 僕は微笑む。
 できるだけ優雅に、できるだけ綺麗に、できるだけ閑雅に。

「いらない。いらない。君はいらない」
「……なんの、話」
「さてここで僕はお友達を紹介します」

 す、と前に出てきてくれたのは、こっそり群衆に紛れてくれてた「次のオモチャ」の男の子。
 アリサちゃんの次に、桜澤のターゲットにされた可哀想で自業自得な少年A。
 彼はすうっと指をさす。
 桜澤を、まっすぐに。

「ぼくはこの人に苛められていました」

 ざわ、と群衆の一部(桜澤の取り巻き男子)がざわめいた。

「なにを根拠に!」
「つうかお前誰だ」

 少年Aは何も反応しない。反応しないよう、よくよく言い含めてあったから。

「自殺ごっこをさせられました。万引きをさせられました。痴漢をさせられました盗撮をさせられました、そしてまた自殺ごっこをさせられました」

 淡々と彼は言う。

「別のイジメにも加担、……しました。これはぼくの意志で、桜澤さんに従いました。女の子の口に」

 ひゅ、と息を吸って、少年Aは続ける。

「女の子にクチでさせました。ぼくはそのクチに出しました、桜澤さんはそれを見て笑いました、笑っていました」

 お腹を抱えて笑っていました。
 そう言って少年Aは黙り込む。
 群衆もしんとする。あまりの内容に、それを静かに話した少年Aに対してどんな感情を持てばいいのかわからない、そんな感じで。

「あ、……たし、知らない」
「今更言い逃れはするなよ桜澤」

 低い声がして。
 そこにはもう一人の少年。お姫様を守りきれなかった男の子。守り続けてる男の子。
 アリサの幼なじみ、小野くんだった。
 彼が押すのは、一台の車椅子。
 すわっているのは、ひとりの少女。
 痩せ細った彼女の目は、それでも強く輝いて。

「あたしは」

 掠れた、小さな声。だけれど、大きく聞こえた。響いた。
 細く、細くなった腕をなんとか持ち上げて、彼女は、磯ヶ村アリサは桜澤を指し示す。

「あたしは、あの子に、いじめられました」
「……ッ、あ、あんた誰」

 知らない知らない知らない、と桜澤は言う。
 逃げ出そうとした身体を、樹クンに抑えられて、助けを求めるように見上げた目線は凍りつく。
 樹クンが向けてるのは、それだけ冷たい目線だった。

「まだ終わりじゃないよ? 君がこの世にいちゃいけない理由はまだあるよ、ねえ、君は」

 僕は微笑む。
 君は華を傷つけた。

「万死に値する」
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