【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・山ノ内瑛

続く雪

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「えらい素直に吐いたらしいであのオッサン」

 アキラくんが言うには、だ。あの警察官、白井(さん)は、青花との関係を認めたらしい。
 あれから約1週間。
 青花は普通に学校に来てるし、相変わらずな感じだし……少し、怖い。

「華を脅すことに成功したら、また会ってやると言われたんやって」
「ほえー」

 さすがヒロイン(の顔面)だなぁ、と感心してるとアキラくんは細いため息をついた。

「……ほんま、何もなくて良かった」
「ありがと、ね?」
「ん」

 よしよし、と頭を撫でてくれてるのはアキラくんの家のソファでのこと。
 なにやらアキラくんのお父さんからお話があるらしく、学校終わりにお邪魔したのです。

(……ウチの子と別れてくれとかだったら、どうしよ)

 変なことに巻き込みまくってるし。
 なんだか不安になってる私のこめかみに、ちゅ、と口づけ。

「大丈夫やで華」
「……アキラくん、何か知ってるの」
「んー」

 私とアキラくんは、ソファに並んで座って、お話したりなんとなくイチャついてみたり。

「教えて」
「……親父の方が詳しいから」

 そう言ってアキラくんは、私の手を取って小さく笑った。

「詳しい?」

 そう聞き返したとき、がちゃりと開くリビングのドア。

「あ、お邪魔してます」

 立ち上がって、ぺこりと挨拶。

「ごめんねお待たせして」

 スーツ姿のアキラくんのお父さんは、にこりと笑っている。

「わざわざご足労いただいちゃって」
「いえ、全然」

 むしろたくさんイチャつけて楽しかったです、みたいな……。

「飯は出前でも取るから」
「わ、ほんま?」

 アキラくんが少し嬉しそうに言う。

「晩飯作んのめんどくさーって思っててん」
「せやろ」

 ケタケタと親子で笑い合う。笑顔はお母さんそっくりだけど、笑い方はお父さんに似てるかもしれない。
 血の繋がりなんか、少なくともこの親子にとってはあんまり関係ないことみたいだな、なんて思う。
 ダイニングテーブルで、ピザの広告を三人で眺めながら注文を決める。
 注文のあと、お父さんがコーヒーを入れてくれた。
 マグカップに入った、あったかなホットコーヒー。

「アキラ、砂糖入れすぎちゃうか」
「疲れとんねん学生は」
「まったく」

 呆れたように言うお父さんも、なかなか砂糖多目のタイプ。……うん、やっぱり親子。

「で、華さん」

 お父さんは、ふと私に水を向けた。

「わざわざ来てもらったのには、理由があります。あまり、外で話せない理由が」
「……はい」

 なんだかホッコリしてた私は慌てて気合を入れ直す。そうだ、ここに呼ばれたのはお夕食に呼ばれたわけじゃない。

「すでにアキラから聞いてるとは思いますが」

 ちら、とアキラくんに視線。
 アキラくんも肯く。

「あの警察官、白井は……桜澤青花、あなたと昨年春ごろトラブルになったあの少女との繋がりを白状しました」

 私は頷いた。

「もちろん、この段階で桜澤さんから話を聞くことも可能です。ですが」

 一瞬置いて。
 きゅ、とアキラくんが手を握ってきた。

(?)

 ちらりとアキラくんを盗み見る。
 心配そうな目線とぶつかる。……どうしたのかな。

「もしかしたら、……別の事件にも関わっているかもしれません」

 アキラくんのお父さんはつづける。

「青百合学園の文化祭。あの薔薇園で」

 その言葉に、私は息を飲む。
 文化祭で起きた事件というと、ひとつしか思い浮かばない。ーーおかあさんを、殺した犯人。
 そいつが、目の前に現れた。

(……招待状がなくては入れないから)

 私はぐるぐると考える。

(学園内の誰かの手引きじゃないかとは、思っていたけれど)

 ……青花、だったのか。
 きゅ、とアキラくんの手を握りしめてから、お父さんの話の続きを聞く。

「桜澤さんは、あの犯人、あいつとーー関わりがある可能性があります」

 だから、とアキラくんのお父さんは立ち上がり、頭を下げた。

「華さん。ほんまに巻き込んでしまって申し訳ないと思ってます」
「え、あ、お父さん!?」
「せやけどコレは、俺にとってもやり残した事件なんです」

 やり残した、事件……?

「囮になれ、とまでは言いません。つうか、させません。せやけど」

 ぐ、とアキラくんのお父さんは唇を噛む。

「もう少しだけ、桜澤さんとあの男を泳がせといてもええやろうか」
「……親父」

 アキラくんの低い声。

「確認、やけどな? ほんまに華には被害ないねんな? 今回みたいな」
「警察の方でも警備する。桜澤さんとの直接的な接触はもうないはずや」

 アキラくんは黙り込む。
 私は、私は……。

(どうしよう)

 どうすべきなんだろう。
 迷いながら、ふ、とさっきの言葉を思い出す。
 "やり残した事件"……。

「……おとうさん」
「はい」
「さっき、やり残した、って仰ってました」
「はい」

 お父さんの、関西なまりの、はっきりとした返事。

「……てことは」

 私は目線を落として、口を開く。

「まだ事件、終わってないんですね」
「はい」

 即答、だった。

「終わってません」

 私はきゅ、と目を瞑る。
 暗闇を落ちてくる雪。大きな雪片。あの日の雪空。

(……お母さん)

 まだ、事件、終わってなかったんだって。
 あの日の雪は、まだ止んでない。
 私の心で、まだ降り続いてる。

(そろそろ、……止んでもいいのかな)

 ねえ、お母さん。
 私は目を開く。
 お父さんに向けて、私は頭を下げた。

「お願いします」

 アキラくんが私を握る手が、強くなる。私もそれを握り返してーー続けた。

「どうか、事件を」

 顔を上げた。
 目線がかち合う。

「終わらせてください」
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