506 / 702
【高校編】分岐・黒田健
(side健)
しおりを挟む
設楽がなんか気合の入ったカオで桜澤に向かっていくから、俺はその手を取って止めた。
「設楽」
「あれ? 黒田くん」
どうしたの? なんてきょとんと俺を見上げる設楽は、さっきまでの気合いはどこへやら、って感じだ。
俺を見て、俺だけに意識が向いて。
肩から、力が抜けた。
……そうさせてるのが俺だってのは、正直妙に誇らしい。
ギャラリーが少し、ざわめく。「写真の」なんて聞こえるから、そーいや俺と設楽、写真撮られてたなと気がついた。
(しっかし)
白、白、白のブレザーの群れで、俺の黒い詰襟学生服は浮きまくりだ。なんだか笑える。
「……な、んで」
小さく、ほんとうに小さくーー桜澤が呟く。
「よお桜澤。そういう目のやつに会うのは二度目だよ」
「……なんの話」
さっきまでの小動物然とした雰囲気をガラリと脱ぎ捨てて、桜澤は低く言う。
……同時に、自分の周りにいる「攻略対象」(らしい、設楽の話によると)の奴らが自分を守るためじゃなくて、どうやら自分を「逃がさない」ために集まっている、ってことにも気がついたみたいで軽く眉を寄せて、鹿王院を見上げた。
鹿王院の厳しい目つきを桜澤は受け流し、首を傾げた。
「話が見えないなぁ」
「さっきの目だよ、……ホトケでも見てるよーな目」
淡々と、詰めていく。
「残念だったな」
俺はざり、と地面を踏んで一歩、近づく。
「俺は殺しても死なねーんだ」
「……へえん」
それってとても楽しそうね、と桜澤は言う。
「でも、それとあたし。何か関係、ある?」
「ある」
設楽が、何か不安そうに俺の制服の裾を掴む。その手を、俺は握った。
(大丈夫)
そう、言葉にしなくても伝わったらしい。設楽はすこしだけ、頬を緩めた。
「……青、ちゃん」
男の声に、桜澤は面倒臭そうに視線を上げた。その視線の先にいるのは、白井。
警察官二人に付き添われ、すこし窶れたカオで桜澤を見る。
その後ろには、親父もいた。
「もう、終わりにしよう」
「なにが? あなた、誰?」
桜澤は笑う。とても綺麗な、笑顔なんだろう。
……俺には、作り物にしか見えないけれど。
「このまま、だと。オレ、死刑になる」
震える声で、白井は言った。
設楽が不思議そうにする。……あの連続殺人、犯人がコイツらだってのは、設楽は知らないから。
(結局。正攻法しかなかったんだよな)
俺は思い返すーー結局、何もはかない白井に対して俺……というか、警察が取ったのは地道な作業だった。
一件一件の、事件の立証。
証拠の積み重ね、「刑事は足だよ」を地でいく作業の繰り返し。
そうして、警察は……つうか、親父は白井に告げた。
「このままだと、お前ひとりの罪になるぞ?」
何人死んだと思ってるんだ?
そのことばを、白井は多分予想していたんだろう。多分、どっかで常に考えてた。ふたりめか、3人めのときには。
ぐ、と唇をかんで、うなだれたーーらしい。
「日本の死刑基準は、だいたい3人なんだ」
白井が吐いた、って報告のあった日のこと。親父は淡々と俺に言った。
「2人で可能性は上がり、3人なら確定、みたいなとこはある」
だから、ーー白井には恐ろしかった、んだろう。
もし白井ひとりの罪となれば、白井の死刑は確実だったから。
「……君に、殺されるのなら、いい」
桜がやたらと舞い散る庭園で、白井は震える声で桜澤に言った。
「けれど! オレは怖い! 死刑はいやだ! オレは、オレは……君に殺されたいんだ」
震えながら近づく白井に、桜澤は目線を向け、それから天を仰いだ。
「……当然、証拠も揃ってるのよね?」
独り言のようなそれに、俺は目線だけで頷く。ふうん、と桜澤はつぶやいた。
「こんな衆人監視をえらんだのは、……そっか、あたしを死なせないためね?」
桜澤は薄く笑う。
警察が一番懸念したのは、桜澤の自殺、だった。
おそらくそれくらいは平気でやるだろう、とーー俺もそう思っていた。
コイツの前では、自分の命も他人の命も、全く重さがない。
(設楽いわく……ゲームだから、だっけか?)
ここが「ゲーム」の世界だから、桜澤にとっては「死」は全然リアルじゃない。
キャラクターがひとり、いなくなるだけ。
そんな背景は警察は知らないだろうけれど、それでも桜澤を死なせないために監視を多くする必要があった。
(どう動くかわかんねーから)
じゃあいっそ、群衆の中で逮捕しようと、異例中の異例ではあるけれど、そう決まったのが昨日。
バタバタと鹿王院に連絡をとり、場をセッティングしてもらったけど、……やっぱすげえな、と舌を巻く。
完璧、オーダー通りのシチュエーションを一晩で仕掛けた。
鹿王院と目が合う。
俺と設楽を見てて、俺は鹿王院を見返す。てめーがどんだけ凄くても、設楽だけは渡せねー。
桜澤が薄く笑う。
「残念、残念、残念……もうすこし楽しみたかったのに」
「認めるのか、桜澤」
親父の声に、桜澤は目を閉じた。
もう、なにも話さないーーそんな覚悟の顔に、そう見えた。
ぶわりと桜が舞って、設楽がすこし、眩しそうに目を細めた。
「設楽」
「あれ? 黒田くん」
どうしたの? なんてきょとんと俺を見上げる設楽は、さっきまでの気合いはどこへやら、って感じだ。
俺を見て、俺だけに意識が向いて。
肩から、力が抜けた。
……そうさせてるのが俺だってのは、正直妙に誇らしい。
ギャラリーが少し、ざわめく。「写真の」なんて聞こえるから、そーいや俺と設楽、写真撮られてたなと気がついた。
(しっかし)
白、白、白のブレザーの群れで、俺の黒い詰襟学生服は浮きまくりだ。なんだか笑える。
「……な、んで」
小さく、ほんとうに小さくーー桜澤が呟く。
「よお桜澤。そういう目のやつに会うのは二度目だよ」
「……なんの話」
さっきまでの小動物然とした雰囲気をガラリと脱ぎ捨てて、桜澤は低く言う。
……同時に、自分の周りにいる「攻略対象」(らしい、設楽の話によると)の奴らが自分を守るためじゃなくて、どうやら自分を「逃がさない」ために集まっている、ってことにも気がついたみたいで軽く眉を寄せて、鹿王院を見上げた。
鹿王院の厳しい目つきを桜澤は受け流し、首を傾げた。
「話が見えないなぁ」
「さっきの目だよ、……ホトケでも見てるよーな目」
淡々と、詰めていく。
「残念だったな」
俺はざり、と地面を踏んで一歩、近づく。
「俺は殺しても死なねーんだ」
「……へえん」
それってとても楽しそうね、と桜澤は言う。
「でも、それとあたし。何か関係、ある?」
「ある」
設楽が、何か不安そうに俺の制服の裾を掴む。その手を、俺は握った。
(大丈夫)
そう、言葉にしなくても伝わったらしい。設楽はすこしだけ、頬を緩めた。
「……青、ちゃん」
男の声に、桜澤は面倒臭そうに視線を上げた。その視線の先にいるのは、白井。
警察官二人に付き添われ、すこし窶れたカオで桜澤を見る。
その後ろには、親父もいた。
「もう、終わりにしよう」
「なにが? あなた、誰?」
桜澤は笑う。とても綺麗な、笑顔なんだろう。
……俺には、作り物にしか見えないけれど。
「このまま、だと。オレ、死刑になる」
震える声で、白井は言った。
設楽が不思議そうにする。……あの連続殺人、犯人がコイツらだってのは、設楽は知らないから。
(結局。正攻法しかなかったんだよな)
俺は思い返すーー結局、何もはかない白井に対して俺……というか、警察が取ったのは地道な作業だった。
一件一件の、事件の立証。
証拠の積み重ね、「刑事は足だよ」を地でいく作業の繰り返し。
そうして、警察は……つうか、親父は白井に告げた。
「このままだと、お前ひとりの罪になるぞ?」
何人死んだと思ってるんだ?
そのことばを、白井は多分予想していたんだろう。多分、どっかで常に考えてた。ふたりめか、3人めのときには。
ぐ、と唇をかんで、うなだれたーーらしい。
「日本の死刑基準は、だいたい3人なんだ」
白井が吐いた、って報告のあった日のこと。親父は淡々と俺に言った。
「2人で可能性は上がり、3人なら確定、みたいなとこはある」
だから、ーー白井には恐ろしかった、んだろう。
もし白井ひとりの罪となれば、白井の死刑は確実だったから。
「……君に、殺されるのなら、いい」
桜がやたらと舞い散る庭園で、白井は震える声で桜澤に言った。
「けれど! オレは怖い! 死刑はいやだ! オレは、オレは……君に殺されたいんだ」
震えながら近づく白井に、桜澤は目線を向け、それから天を仰いだ。
「……当然、証拠も揃ってるのよね?」
独り言のようなそれに、俺は目線だけで頷く。ふうん、と桜澤はつぶやいた。
「こんな衆人監視をえらんだのは、……そっか、あたしを死なせないためね?」
桜澤は薄く笑う。
警察が一番懸念したのは、桜澤の自殺、だった。
おそらくそれくらいは平気でやるだろう、とーー俺もそう思っていた。
コイツの前では、自分の命も他人の命も、全く重さがない。
(設楽いわく……ゲームだから、だっけか?)
ここが「ゲーム」の世界だから、桜澤にとっては「死」は全然リアルじゃない。
キャラクターがひとり、いなくなるだけ。
そんな背景は警察は知らないだろうけれど、それでも桜澤を死なせないために監視を多くする必要があった。
(どう動くかわかんねーから)
じゃあいっそ、群衆の中で逮捕しようと、異例中の異例ではあるけれど、そう決まったのが昨日。
バタバタと鹿王院に連絡をとり、場をセッティングしてもらったけど、……やっぱすげえな、と舌を巻く。
完璧、オーダー通りのシチュエーションを一晩で仕掛けた。
鹿王院と目が合う。
俺と設楽を見てて、俺は鹿王院を見返す。てめーがどんだけ凄くても、設楽だけは渡せねー。
桜澤が薄く笑う。
「残念、残念、残念……もうすこし楽しみたかったのに」
「認めるのか、桜澤」
親父の声に、桜澤は目を閉じた。
もう、なにも話さないーーそんな覚悟の顔に、そう見えた。
ぶわりと桜が舞って、設楽がすこし、眩しそうに目を細めた。
0
あなたにおすすめの小説
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる