【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・山ノ内瑛

【番外編】初秋の夜

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 アキラくんが大学を卒業して、関西のプロバスケチームに入って──しばらく経った日のこと。
 一緒に暮らしだして、半年、くらい。
 私の記憶は相変わらずフワフワしてて、でも日常生活は大丈夫だったし、アキラくんも支えてくれてて。

(役に立ててるのかなぁ)

 晩ご飯を作りながら、そんなことを考える。
 週に何回か、カフェでバイトはしてるけど……。

(お荷物感、半端なくない!?)

 練習から帰ってきたアキラくんは「うお、うまそ!」とぶりの照り焼き見て目を輝かせてくれて、なんていうか、未だに照れる。

「普通のやつ、っていうか簡単なやつなんだけど」
「ていうか、うま!」

 にか、ってアキラくんは笑う。
 アキラくんはスポーツ選手だからめちゃくちゃ食べる。
 おかずも沢山用意して、栄養のこととか考えて──そういうの、実は楽しかったりする。
 食べ終わったあと、アキラくんはソファに座って、私を膝に乗せて抱きしめて本を読む。

「難しそう」

 思わず呟いた。
 法律、の本。
 アキラくんはいま所属してるチームがあるのと同じ市内にある大学の、大学院で法律の勉強までしてる。

「んー」

 アキラくんは頷く。

「せやねん」
「やっぱり~」
「せやけどな」

 アキラくんは少し笑った。

「必要な勉強やから」
「必要な」

 うん、ってアキラくんは頷いた。
 私は私で、自分の本を開く。
 スポーツ栄養学の本。

「そっちも難しそうやけどな」
「楽しいんだよね」
「……そか」

 アキラくんはちゅ、と私のこめかみにキスをして。
 私はアキラくんを見上げた。
 重なる唇。

(好き)

 好き、って思う。
 大好き、愛してるって。
 ……私にあるのは、それだけだったり。
 アキラくんの唇が、首筋に移動して、柔らかく吸われて、舐められて。
 アキラくんがチーム決まったときに、初めて……抱かれて。
 もう何回もそういうことしてるけど、未だに、なんていうか、恥ずかしい。

「……電気、消そ?」
「嫌」
「恥ずかしいよ!」
「恥ずかしがる華がええの」

 アキラくんが楽しげに言う。

「っ、あ、そだ! 私、やらなきゃいけないことがっ」

 食器とか洗わなきゃ! って言うと。

「いま俺とおるより優先することあんの」

 甘いキスが降ってきて、どうにも抵抗できなくて──。
 起きたら、ベッドにいて、ていうか朝で。
 慌てたけどキッチンはきれいに片付いてて。

「おはよ華」

 ぎゅ、って後ろから抱きしめられた。

「アキラくん」
「!? どないしたん!? 腹でも痛い!?」

 涙目で見上げる。
 ほんとに、私。

「……私、アキラくんの役に立ってるの?」
「は!? どないしたん」
「なんか、記憶ないし。結局家事も色々させてるし」
「え、好きでやってんねんで?」
「そうかも、だけど。そうかもだけど~」

 私は思い切り泣いてしまう。
 なんか、不安だったのかな。
 好きな人の役に立ててるのか、好きな人に必要としてもらってることに……引目を感じてたのかな。

「華」

 アキラくんは優しく言う。

「華はな、おるだけでええねん」
「なにそれ~」
「もうおるだけで俺な、強なれんねん」
「……やだ」
「ワガママやな~」

 アキラくんはケタケタ笑って、私を抱き上げた。

「華おらんかったらな、多分俺ここまで頑張れてないねんで?」
「……そ、なの?」
「うん。ほんまの俺、めちゃ弱やし」
「うそだー」
「ほんまほんま。やから」

 アキラくんは少し、弱気な顔になる。

「やから、そんなん思わんとって? 華はもうおるだけで太陽みたいなモンなんやから」
「言い過ぎじゃ」
「ない。全然ないー」

 アキラくんは私を抱き上げたまま、くるくる回る。

「わぁ!」
「なー、華」
「な、なぁに」

 ぴたり、と止まって。
 私を見つめて、とっても優しい目で、アキラくんは笑った。

「結婚しよか。そろそろ」
「……え、あ」

 元々プロポーズ自体はされていたけど、なんとなく延ばし延ばし、になってた。

「華おらへんかったら、俺、生きていかれへんし」
「そんなこと」
「あんねん。別に、形なんか関係ないねんけど、けどでも、華がずうっと俺とおってくれるっていう証拠ちょうだい」
「……私でいいの?」
「華がいい」

 柔らかく唇を吸われて。
 その身体が、ちょっとだけ震えてて。

「……緊張してる?」
「断られたらどないしようとは思ってる」
「断るわけないのに?」
「分からんやんか~」

 はぁ、とアキラくんはびっくりするくらい私にキスを落としてきて。
 ……アキラくんも、不安。

(お互いさま、なのかも)

 私も、アキラくんも、お互いが好きすぎて。
 それでも一緒にいたい、って気持ちは同じだから。

「……不束モノですが」
「……うん」

 良かった、って感じでアキラくんは深く、深く息をついて。
 なんか私は泣いちゃって。
 アキラくんは、涙にキスして、そして笑った。
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