無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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序章・新たなる邂逅編

北支部のエース

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澄男すみおさま」

澄男すみおさん、おはようございまー……って、もう夕方っすけど……」

 徐々に焦点があっていく。視界の左端に御玲みれい、右端にカエル、上端にシャル、下端にナージのケツ―――。

「お、おい! なにしようと……!? うーん……」

「脳震盪起こしたんですから、そんな急に立ち上がったらダメですよ」

 勢いよく身を起こしたせいで、また仰向けに逆戻り。カエルたちはそんな俺の姿にウェェェェイとパリピみたいな感覚でハイタッチし合ってやがる。

 クソが。後でブチのめす。

「お、目ぇ覚めたか」

 記憶だとさっき聞いたばっかの声。カエルの話だと今は夕方らしいが、だとすると結構寝ていたってことなんだろうか。

 ぼんやりした意識の中、手で色々触って今の自分の体勢を確かめる。すると、なぜか御玲みれいに頬をつねられた。

「ちょっと、どこ触ってんですか」

 視界が完全に戻る。あんまりにも痛かったのでなにしやがる、と言おうとしたが、触れている場所をようやく認識した瞬間、怒りが一気に鳴りを潜めていく。 

「す、すまん……わざとじゃないんだ。視力が落ちててぼんやりしてて……」

「分かってますから早くどけてくれますか」

「た、ただちにッ」

 ぼんやりしていたとはいえ、御玲みれいのお腹とか胸とかぺたぺたしていたのはクッソ恥ずかしい。ぬいぐるみどもがクスクス嗤ってやがるが、自分に非がある以上こればかりはデカく出られない。

 ゆっくりと起き上がると、御玲みれいに膝枕して寝こけていたこともようやく把握し、さらに恥ずかしくなる。

「こ、こほん……で、お前だr……ん!?」

 北支部内の夕焼けが見える見晴らしの良いテラスの席。御玲みれいの膝枕から起き上がってようやく垣間見た声の主は、俺だけじゃない。御玲みれいやぬいぐるみどもだって、知らない奴じゃなかったのだ。

「お、お前……!?」

「あ? どっかで会ったか?」

「いや、今回が初だけど……お前、レク・ホーランか!?」

 気怠そうに金髪を掻きむしる、黄金色の瞳。俺より身長が高いであろう、その金髪の野郎は、俺が会いたいなと思っていた北支部最強格の一人、レク・ホーランその人だったのだ。

 訝しげな表情で睨まれるが、俺には分かる。睨んでいるわけじゃない。気怠そうな態度と鋭い眼光とつり目のせいで、顔を顰めるとまるで睨んでいるように見えるだけなのだ。俺だって高校生時代は、それで誤解されてよく理不尽に喧嘩売られたものである。 

「レクゆーめー」

「うれしかねぇよ、悪名だろ」

「でもゆーめーじゃん」

 レク・ホーランの横で黒光りする何かに氷菓を持たせている真っ黒なポンチョを着た少女。肩まで無造作に伸ばした黒くて長い髪、そして見れば見るほど透明に見える真っ青な瞳が、レク・ホーランと俺を交互に見つめる。

 背が低いので御玲みれいより年下に見えるが、氷菓を舌で舐める仕草が妙に色っぽい。

「というか……なんであの百足ここにいんの!?」

 少女が氷菓を持たせている相手。昼間、俺の体に巻きついて霊力をことごとく奪い、他の虫型魔生物とは比にならん圧倒的威圧感と存在感を醸し、俺を思考停止に追いやったあの百足だった。

 支部内の請負人も、金髪野郎も、氷菓ぺろぺろしているポンチョ女も、全く動じる気配なし。まるで北支部のマスコットとでも言わんばかりに、支部の中に溶け込んでやがる。

澄男すみおさま。困惑する気持ちはわかりますが、まずは彼らの話を聞きませんか」

 御玲みれいの顔は驚愕と辟易が混ざった表情だ。御玲みれいは俺と違って先に事情を把握できたんだろうが、内心は半信半疑なんだろう。

 流川るせん家以外で魔生物を使役している奴がいたなんて、とても信じがたい状況だから。

「まあまずはお互い自己紹介といこうか。俺はレク・ホーラン。横のコイツはブルー・ペグランタン」

「よろー」

「んで、この百足はむーさん。察しの通り魔生物だが、ブルーに使役されてるから敵じゃない。一応、北支部の可愛いマスコットだ」

 百足がマスコットとは、中々世紀末だ。うちのぬいぐるみどもが颯爽とポジション掻っ攫っていく未来も遠くないかもしれない。

「俺は澄男すみおだ。三日前にここに来た」

御玲みれいです。彼の侍女です」

「俺の名は、カエルそーたいちょー!! この世で最高にカッコいい男!!」

「ナージだ。座右の銘は一日三排泄。よろしくなゴールデンウンコ」

「ボク、シャル! 最近はフィ◯トフ◯ックとス◯ルフ◯ックにハマってる可愛いおじたん! よろしくね!」

「俺の名はミキティウス。パンツをこよなく愛し、パンツを信仰せし者。さあ、あなたたちもパンツ教に入信し、全知全能なる神パン=ツーに忠誠を」

 分かっていたことだったが、後半五匹ぐらいの自己紹介で俺は額に手を当てた。

 やめろお前ら。御玲みれいはいいとして、お前らの自己紹介はわけがわからんから。

 それに今はお前ら以外にも情報量多くて対応できないからボケるな。突っ込む余裕ないんだよ。

「なんだソイツら。お前、使役者テイマーだったのか?」

「そんなわけわからんもんになった覚えはねぇが。コイツらは俺の……えっと……使い魔だ。お手伝い妖精みたいな」

「……使役テイムしたわけじゃないのか?」

「テイムって何? 別にそんなんした覚えねぇけど? 使い魔だが仲間みたいなもんだし」

 レク・ホーランはブルー・ペグランタンに視線を送るが、肩をすくめながら首を左右に振る。

 テイムだのテイマーだのわけがわからん。一応、任務請負機関ではペット的な存在は``使い魔``とかいうお手伝い妖精みたいな立ち位置で一緒に行動させることが可能だとかなんとかチュートリアルで言っていたから、その通りにコイツら全員俺の使い魔として登録しただけなんだが。そんな気にすることなのか。

 首をかしげる俺だったが、真剣な表情でレク・ホーランがこっちを見てきた。

「あのな新人。一応言っとくと使い魔ってのは、本来意志疎通ができない、主人に無条件で百パーセント従順な存在のことを言うんだぜ? ソイツら明らか意志もってるし、見たところ知能もある。使い魔ってのは無理があると思うぞ」

「じゃあどうしろと」

「んー……ん? なんだブルー」

 さっきまでのほほんと氷菓を舐めていたブルー・ペグランタンが、レク・ホーランの肩を優しく叩く。横でむーさんとかいう巨大百足がレク・ホーランを見下すように見つめ、僅かに首を縦に振る動作をした。まるで会話でもしているみたいだ。

「あのぬいぐるみみたいなの、こっちからてだししなきゃだいじょーぶだってさ」 

「ホントかむーさん? アンタが言うなら信じるぜ?」

「だいじょーぶ、むこうからしかけてきたらよーしゃしないって」 

 おおっと、この百足、見た目どおり過激だな。どうやらブルー・ペグランタン経由で意思疎通できるらしい。

 そっちだって意思疎通できる奴もってんだから、カエルたちが疑われるのはおかしくないか。そもそも魔生物って意思疎通できないはずだし、マジでなんなんだよ、その百足。

「あん? 舐めた口きいてんなオメェ、糞食わせんぞ」

「まあまあナージ、相手が相手だ。波風立てない方が無難だぜ」

「そうは言うがよカエル、舐められたら終いだぜ? まあこの状態で殺り合うのは分が悪りぃけどよ、勝てねぇ相手でもねぇぞ?」

「えー、ボクやだよ。今の姿けっこー気に入ってるしさー。せっかくち◯こ着脱可能になったのに」

 ぬいぐるみどもから不穏な空気が流れ始めた。

 そりゃ容赦しないとか言われたら、不快になるわな。俺だって面と向かって言われたらキレるし、相手の態度次第では殺しはしないが、二度と舐めた態度とれなくする程度にはブチのめしてる。

 でもここでコイツらと戦っても何の足しにもならないし、俺としては戦いたくない。

 あの百足とは一触即発の状況になったから分かるが結構強い。多分竜人化して身体能力倍増させねぇと勝てないかもしれない。霊力ごっそり持ってったところからして霊力吸収能力も持っているし、霧で全ての気配を遮断させられるから接敵し放題だし、かなり厄介だ。

 俺とは戦う気が最初からなかったみたいだが、他にも隠し玉を持っているだろうし、戦うのは愚策でしかない。

「お前らやめろ。敵じゃないってんなら目くじら立てなくていい。それより」

 レク・ホーランに目を向ける。あの百足との砌を思い返したことで記憶が蘇った。

 そういや御玲みれいにクソみたいな劣情を垂れ流していた、あのザコどもはどこに行ったのか。まだアイツらの始末が終わってない。レク・ホーランから色々話は聞きたいが、とりあえずソイツらを消し炭にするのが先だ。

「近くに俺らと同じ支部勤めの請負人が二人いたはずだが? 三十歳ぐれぇの」 

「ああ、ソイツらならもう帰したぞ」

「じゃあ住所教えろ。始末しにいく」

「俺が知るわけねぇだろ。それに始末ってお前、言葉からして物騒だぞ。冷静になれよ」

「ざけんじゃねぇ。俺の仲間に劣情垂れ流した出来損ないの間抜けどもをのうのうと生かせと?」

「落ち着けって。帰したのには理由があんだよ。これはお前のためにやったことなんだ」

「俺のため?」

 そうだ、だから座れと指を刺して座るようにしつこく促してくる。気づけば感情のあまり椅子から立ち上がっていた。

 頭に血が上っていて全く気づかなかったが、あの無能どもの所在がわからん以上、ここで暴れても足しにならない。

 なんで帰したのか、コイツをブチのめしたくなってきたが、それは理由とやらを聞いてからでも遅くはなさそうだ。いざとなったら弟に調べさせればいい。

「じゃ、改めて。なんであの無能の出来損ないのゴミどもを帰したのか。聞かせてもらえるか」 

「そうだな。だがその前に」

 レク・ホーランの表情が一層険しいものになった。金色の瞳が俺を強く射抜く。これは睨んでいるよう見えるんじゃなく、本当に俺を睨んでいるのだ。俺も負けじとガンを飛ばす。

「同じ請負人に対して無能だとか出来損ないだとかゴミだとか、そういう悪意に満ちた暴言はやめろ。無駄な争いの元にしかならねぇから」 

「その争いの元を作ったのはソイツらなんだが? なんで俺に言うのかな?」

「そりゃお前が今言ったからだよ。今後は慎めと言ってる。俺もきちんと言い聞かせておくからさ」

「んじゃそれでソイツらがまた同じこと繰り返したら今度こそ始末するわ。ちなみにお前も連帯責任な?」

 レク・ホーランの目が、更に険しくなった。ブルー・ペグランタンは無表情だが、さっきより表情が硬くなった気がする。

「…………新人。言い忘れてたがな」

 レク・ホーランを中心に、若干だが剣呑とした雰囲気が滲み出始めた。それに比例して俺の威圧も更に強くなるが、レク・ホーランは大きく深呼吸をして、その黄金色の瞳に宿る光を強めた。まるで己の中の怒りを抑え、それを眼光に変えたように、奴の瞳から放たれる光はさっきより数段鋭い。

「この任務請負機関じゃあ、悪意のある同士討ちは最大の禁忌タブーだ。やっちまった時点で即懲戒解雇処分になる。食いぶち失くして路頭に迷いたくはねぇだろう?」

「じゃあ何か? ソイツらを見逃せと? のうのうと生きてるソイツらを指咥えて見てろと、テメェは言うのか?」

「第一な。別にお前の連れは直接手出しされたわけじゃねぇんだろ? そこまで目くじら立てることか?」

「ざけんじゃねぇ!! 劣情をぶつけた、ただそれだけで許せねぇんだよ!! あっちゃならねぇんだ!! それで、それで俺の友は……!!」

 そこまで言って、余計なことを口走ろうとしていたことに気づく。

 レク・ホーラン、今日出会ったばっかのコイツに、かつての友―――木萩澪華きはぎれいかのことを話して何になる。

 理解なんてされるわけないし、されたところで共感もしてくれない。分かるわけがないんだ。目の前で大切なものが穢されて壊される、その瞬間を見たこともねぇような奴に。

 北支部や請負人界隈では有名とはいえ、所詮支部内で燻っていたような、ただのキザ野郎だ。そんなのに同情されても不快なだけ。不快で不愉快で、同情なんてされようものなら殺したくなる。

 ああもうくそ、コイツのせいで思い出したくもない記憶が掘り起こされちまった。どうしてくれる、どうしてくれる―――。

「すまん。ちと言葉が悪かったな」

 レク・ホーランから放たれる眼光が、少し緩んだ。気だるそうに頭をかき、糸を張ったような緊張感がほんの少し解れる。

「お前にも色々あったんだな。無神経なこと言っちまった。このとおりだ」

 まさかの頭を下げられた。一瞬何の真似だと思ったが、どうやらレク・ホーランは本気らしい。黄金色の目にはただの一瞬でも、真摯以外の感情が見受けられない。

 哀れみも怒りもなく、ただ悪いことをしたから謝っている。純粋にそれだけしか感じない。俺を騙すつもりなのかとも一瞬考えたが、奴の瞳を見てすぐに分かった。瞳に濁りがねぇ奴は、嘘をつかない。コイツは正真正銘、本気なのだ。

「……お、俺もつい頭に血が上っちまった……こっちこそ、その、すまん」

 静かに、そそくさと椅子に座る。なんだか自分だけ勝手にキレててちょっと阿呆らしくなってきた。恥ずかしいので夕焼けを眺めてみる。

 地平線に沈んでいく太陽は呑気に寝こけようとしてやがる。そのせいか、空も雲も、どこか呑気に間延びしている感じがした。

 御玲みれいがホットコーヒーと煙草を勧めてくる。コーヒーの方は砂糖を多めに入れた甘めのやつだ。

 とりあえず気分を変えるためコーヒーを飲んだ後、煙草を一本取り出し、指先で火をつけて夕日に向かって吐き散らす。煙草の煙も、頑固に匂いが残るいつもより、空気に溶け込んでいく方が早いような、そんな気がした。

「さて落ち着いたようだし、話の続きをしよう。さっきも言ったが悪意のある同士討ちは禁忌タブーだ。破れば即懲戒解雇だが……同士討ち未遂も実はペナルティが発生する」

 コーヒーを飲み、夕焼けでも眺めながら一服していたのも束の間。静寂を取り戻したばかりの精神に、再び別のざわめきが立ち始める。

「まあ未遂とはいえ悪意があったわけだからな。当然相応の罰則がある。任務請負証を開いて、ペナルティリストを見てみな」

 急いでそのペナルティリストとやらを開くよう念じる。視界にペナルティリストと書かれたオブジェクトが視界の端からヌン、と姿を現し、そこに黄色い帯の上に黒字のたびっくりマークが描かれた謎の表記とともに、「罪状:同士討ち未遂、機関則第二十条違反」などという項目が、なんか勝手に追加されていた。

「な、なんだこれ……?」

「黄色い帯の上に黒字のびっくりマークがあんだろ、それがペナルティだ。それが三種類重なるとレッドマーク、もれなく懲戒解雇処分になる」

 背中から冷汗が滴る。だったらあと二種類ペナルティ食らったらアウトじゃねぇか。確かにこの百足が邪魔してなかったら確実に消し炭にしていたけど、殺ってもないのにペナルティつくのって理不尽ではなかろうか。だって殺ってないし。

「ペナルティ内容はどうなってる?」

「え? えっと…………嘘だろ。全任務報酬六割減俸!?」

「期間は?」

「……今年の八月二十七日まで……」

「まー、じごーじとく?」

 どんまーい、と溶けかけの氷菓をなめながら、他人事のように言ってくるブルー・ペグランタン。

 無一文になったばかりで、今から稼ぐぞってときに報酬六割減俸はキツいんだが。

 六割って、ほとんど消えるじゃん。四割ぽっちしかもらえなくなっちまうのか。ただの同士討ち未遂で。そりゃないぜ。

「つーわけだからよ。同士討ちは未遂でも結構痛手だ。一応新人監督役の俺が止めたから減俸程度で済んでるが、本来なら請負証停止処分は食らう案件だ。今後は絶対するなよ」

 まさかのこれでも減刑されていた事実。請負証停止処分なんて洒落にならん。もしそうだとしたら俺、二ヶ月はまともに働けないことになる。それはもうキツイなんてもんじゃあない。

「気になることがあるんですが」

 御玲みれいがシロップ一つ注いだアイスティーを飲みながら、レク・ホーランに視線を向ける。 

「どうしてあなたが止めると、澄男すみおさまのペナルティが軽くなるんです? あなたが止めたからといって、澄男すみおさまのペナルティが軽くなる道理がないと思うんですが」

 興味なさすぎて、思わず肩を落とす。

 それ聞いて腹の足しにならないと思うんだが。いいじゃん軽くなる、で。それ以上深く考える必要ないと思うんだ。。

「それはな、俺が``新人監督``だからだ」

 半ばどうでもよくてフェードアウトしかけている俺をよそに、ブラックコーヒーをぐびっと一口で飲み干す。

「各支部には新人を教える研修講師役の請負人がいるもんなんだ。他の支部は知らんが、北支部は俺でね。新人が本来背負うべき責任の一部を、俺が代わりに負う制度があんのさ」

「それで澄男すみおさまのペナルティが軽くなったわけですね」

「まあな。一応言っとくが、代わりに背負うかどうかは俺に決定権があるし、同一人物に使うには回数制限がある。限界と限度ってのがあるから、あんまりアテにはしないでくれ」

 同士討ちなんて二度も庇う義理なんざねぇしな、と低めの声音で俺に視線を戻してくる。

「出勤三日目で勘当なんざ洒落になんねぇし、もうわーったよ……明日にでもソイツらに言い聞かせておいてくれ。ただ……」

「ただ?」

「本来、ソイツらに二度目のチャンスなんざない。アンタの忠告でも止まらねぇようなら、始末とまでは言わずともケジメだけはつけさせたいんだが?」

 負けじと俺もガンを飛ばす。

 俺には絶対に成さなきゃならねぇ目的がある以上、そんなつまんねぇ奴らのために請負人をクビにされるわけにはいかない。

 始末できないのは納得できやしないが、俺だってもうガキじゃねぇ。それがルールなら仕方ないと割り切ってみせよう。

 でも、流石に三度目はない。

 明らか甘えだし、ケジメの一つや二つはつけねぇと舐められる。新人だからとこれからわけわからんのに絡まれるのは腹立つし、いざってときはビシッといきたいわけだ。

 そんな俺の思いを既に悟っていたのか、レク・ホーランは澄まし顔を絶やさず詰め寄ってきた。 

「そんときゃあ決闘の場を設けてやるさ。請負機関じゃあ同士討ちは禁忌タブーだが、ケジメをつけるための決闘は、新人監督の監視のもとで許されてる。まあまずは俺に任せとけって」

 笑みにほんの少し黒さが混じった。何をする気なのか、詳しくは聞くまい。もしこれでホントにアイツらがだる絡みしてこなくなりゃあ、新人監督としての手腕はモノホンってことも証明されるわけで、おおむね俺からは文句はない。

「つーわけで、よろしくな。新人」

 黄金色の瞳で見つめてきながら、手を差し伸べてくる。

 瞳から放たれる光は依然として鋭利だ。怒っているわけじゃなかろうに、怒っているように見えるってのは皮肉なもんだが、同じ経験をしている俺だからこそ、コイツの表情はきちんと伝わる。

 似た奴は世界に三人いるとかなんとか、そんなことわざを聞いたことがあるけど、あながち間違いじゃないかもしれない。

 気怠そうで不真面目そうな態度とは裏腹に、輝く黄金色の眼光が気になってここに入ったも同然だったが、はてさて、どんな仲になれるのやら。

 俺は明らかに喧嘩慣れしてるのが丸わかりな、そのデカい手を取ったのだった。
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