無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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覚醒自動人形編 上

緊急任務発令

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 北支部内に響く警報音。ついに北支部の監視塔からも視認できるくらいの距離にまで、ロボットの軍団が迫っていた。

 脅威が目と鼻の先に迫り、慌ただしくなる請負人たち。俺たちにとっては大したことないとしても、支部勤めの請負人たちにとってフェーズS任務はまさに死線。脅威との距離が縮まれば縮まるほど、覚悟のできていない奴から騒ぎ始める。

 でもだからといってただ騒いでいるだけかと言ったらそんなことはない。パニックになりそうな雰囲気の中、北支部の正門を蹴り破る勢いで開けた奴が現れるや否や、ガヤガヤと騒いでいた連中が一気に静かになった。

「聞けノロマども! 私は任務請負官デュクス・ロベルタである! 緊急任務発令により、貴様らは私の指揮下に入った!」

 腰まで届く白色の髪を大きくなびかせ、汚れ一つない銀色の鎧を身に纏う女騎士。どこの時代の奴なのかというツッコミをしたくなる時代錯誤野郎がやってきたことに、思わず呆然としてしまう。

 背に背負っていたクソデカい大剣を抜き、そのクソでけぇそれを目の前で騒いでいたチンピラ請負人の目と鼻の先に真顔で突きつける。体験を振り下ろした風圧で、近くにあったテーブルやらなにやらが全部吹き飛んだ。

「お……おいお前ら、早く並べ!! 真っ二つにされっぞ!!」

 恐々となる請負人たち。ついさっきやってきた本部勤めの請負人が壇上に立ち、警報に負けないくらいの大声で忙しない請負人どもを束ねていく。

 落ち着いているのは俺と御玲みれい澄連すみれん。そして金髪野郎とポンチョ女だけだ。

「よりによってなんであいつなんだよー……べらむすのほーがよかった」

「気持ちは分からなくもないがな、こればかりは運だ。諦めろ」

 眠そうな顔で、巨大化した百足の腹に寝転がるポンチョ女。すかさず手を握り金髪野郎が引っ張り起こす。

澄男すみおさまも行きますよ」

「チッ……分かってらぁ」

 そんな俺も、御玲みれいに腕を引かれて列へ加わる。

 正直見ず知らずの奴の下につきたくない。俺らは俺らで動きたいし、というか動けるし、このデュクスなんとかに従う義理なんぞこれっぽっちもないのである。

 他の奴らはビビって並んでいる感じだが、俺からしたら本部勤めと聞いて金髪野郎より強いのかと思えば、身体能力を測れば拍子抜けする数値だった。

 全能度こそ五百八十と確かに支部連中じゃ敵わないレベルで高いが、逆に言えばそれだけで、どのパラメータも百を超えていなかった。金髪野郎のように一部のパラメータが百を超えているとかならまだ納得できたが、満遍なく高いけど百に満たないともなると、俺らからすればただの器用貧乏である。

 万能型と言えば聞こえは良い方で、俺らからしたらちょっと強い程度の雑魚だ。正直、逆らって怒らせても返り討ちにしてやれる自信があった。

澄男すみおさま。念のために言っておきますが、変な気だけは起こさないでくださいよ?」

「眉間に皺寄ってるっすよ? すーぐ顔に出ますね、澄男すみおさんは」

「下痢便かオメェは。そこは便秘五日目の糞みてぇにお硬くいけや」

 ごちゃごちゃと追い討ちをかけてくる蛙と熊。御玲みれいがいるからって調子こきやがってコイツら。

「わーってるっつってんだろうが。アイツが変な事言ってこなきゃキレたりしねぇよ」

 御玲みれいの目から光が消える。嘘をつく気はないし、ありのままを言っただけだ。俺は悪くない。

「鎮まれぇぇぇぇぇぇぇい!!」

 騒いでいた請負人たちが一瞬で静まり返る。うっせぇな焼くぞと火の弾撃ちたくなった衝動を全力で抑えつつ、デュクスなんとかの話に耳を傾ける。

「現在、武市もののふしは未曾有の危機を迎えている! 敵は数千を超える自立駆動型戦闘ゴーレム軍団! だが恐れるな! 我ら任務請負人は、数々の苦難を乗り越えてきた! 今回もまた同じである!」

「……」

「まだ支部勤めの浅い新参には悪いと思っている! だがこれは試練だ! 貴様ら新参者が、更なる高みへと昇り詰めるための試練! 是非この危機を乗り越え、その強さに更なる磨きをかけてほしい!」

「……」

「その強さは必ずや貴様らの糧となる! 忘れるな! 危機は危機ではないと! 危機とは乗り越えるべく存在する試練だと! 等しく力ある者全てにやってくる試練だと!」

「……っ……」

「私は信じているぞ! この試練を無事乗り越え、貴様らが任務請負官となってくれることをな!!」

 北支部に鳴り響く歓声。大音量の警報を余裕で塗り潰す大喝采は皆の士気が高める反面、俺はただただ苛立ちを募らせた。

 要はただの精神論じゃねぇか。

 こんなこと言う暇があったら早くバリゲート作って戦場整えた方が良かったよね並んで損したよてっきり役回りをすぐにポンポン決めていく流れだとばかり思ってただけに物凄く徒労感が半端ないんだけどなんつーかもう勝手にやっていいですかね正直勝手にやった方が確実だし速いし無駄がないしあーもう弥平みつひら弥平みつひらがいたらこんなストレスかからなくて済むのに脳筋に脳筋足したところで生産性もクソもねぇぞふざけやがってあーあ弥平みつひらからなんか連絡とかないかしら―――。

『兄さん! 兄さん聞こえる?』

『んだテメェ、潰すぞ?』

『唐突に何!?』

 怨嗟の中に割り込んでくる愚弟からの霊子通信。炎の如く燃え盛る精神を落ち着かようと、精神世界内でわざとらしく咳払いをする。

『気にすんな。ただちょっっっっと虫の居所が悪かっただけの些事だ。話あるならとっとと話せ』

『あ、ハイ。弥平みつひらが転移撤退してきた。結構ヤバい』

『今が既にヤベェ状況だろうが寝ぼけてんのかテメェは? 弥平みつひらいるなら早く呼べや』

『いまあくのだいまおうと話してて……通話繋ぐように頼むから、ちょっと待ってて』

 霊子通信が一旦切られた。だがすぐに繋がる。

『申し訳ありません。あくのだいまおうと情報の擦り合わせを行っておりまして』

『いや、いい。それは必要な事だからな。それで、どうした?』

『はっ。それが……』

 弥平みつひらの話によると、なんとまあ幸か不幸か、ロボット軍団を指揮していると思われる黒幕と早速交戦したらしい。

 相手もまたアンドロイドで、それも外見は女。確実に情報を持ち帰るために撤退を選び、援護に向かったミキティウスとヴァズが現在進行形で戦闘中とのこと。かなり余裕がないようで、ヴァズからの応答も一切なく、久三男くみおが自力で戦況を追っているのが今の状況だそうだ。

 まさか親玉と疑わしい奴の方から仕掛けてくるとは思わなかったが、それはそれで僥倖。今すぐにでも俺らが出向くべきだろう。

『情報サンキューな。ところでお前、大丈夫だったか?』

『はい。右腕を切断されましたが、どうにか』

『はぁ!? いやいやいや、全然大丈夫じゃないよねそれ!? 一生ものの大怪我なんですけど!?』

『あ、いえ。分家派で製造された回復薬で再生しましたので、問題ありません』

 淡々と答えてくれているが、俺としては内心ヒヤヒヤだ。

 弥平みつひら御玲みれいは力こそ強いとはいえ、治癒力はあくまで人間だ。自己再生とかいう人外地味た真似なんぞ当然できるわけがなく、部位欠損なんてされた日には卒倒する自信がある。

 確かに流川るせんの回復薬は上質なんてレベルじゃないかもしれないけど、あんまり自己犠牲的なやり方は控えてほしい。俺と違って、致命傷受ければ回復薬もクソもないし。

『あ、あんまり無理はするなよ……』

『大丈夫です。見極めには自信がありますから』

『いやまあ……それでもな。万が一もあるし』

『それを言っていたら、密偵など務まりませんよ』

 そこまで自信持って言われると返す言葉がない。むしろこれ以上グダグダ言うとこっちが野暮に思えてくる。

 分かった、と言い、とりあえずその場では納得しておくことにした。

『うし、話を戻すぞ』

 ついついサラッと重大事実が報告されたせいで心臓が縮こまってしまったが、気を取り直してヴァズたちが戦っている黒幕らしき女型アンドロイドについて話し合う。 

弥平みつひら、お前が右腕切られたときどんな感じだったんだ? たとえば引きちぎられたとか、剣で斬られたとか』

『それが、よく分からないのです……』

 密偵らしからぬ発言。気負いながらも、弥平みつひらは右腕を飛ばされたときの感覚を如実に語ってくれた。

『別の場所に移動しようと思ったら、そのとき既に切られてた、と……ヤバくね?』

『攻撃の瞬間を視認できませんでした。周囲に敵影は捕捉できませんでしたし、近接攻撃によるものではないと推察します』

 となると遠距離からの狙撃か、弥平みつひらの察知能力をもってさえ認識できないような、異常な奴のどちらかだ。前者ならまだいいが、後者だとクソ厄介この上ない。戦闘能力の目測をめちゃくちゃ大きくして動く必要がでてくる。

『武器の投擲という可能性は?』

 話に聞き耳を立てていた御玲みれいが割って入る。槍使いとして戦術の一つである槍投げをよく披露する御玲みれいならではの発案だったが、弥平みつひらの反応は芳しくない。

『私としましては、集束光線による狙撃だと考えています』

『根拠をお聞きしても?』

『腕を断ち切られる直前、視界の端に一瞬ですが、白色光が一度だけ明滅したのを確認しております。最初は街灯かと思ったのですが、改めて考えてみると光線を発射した瞬間だったのではないか、と』

 集束光線、要するにビームか。

 相手がアンドロイドならありがちな攻撃だ。実際ヴァズだって霊力を弾丸にしたものをミニガンで連射できるし、口からゲロみたいにビーム出せた記憶がある。

 アンドロイドが全員そんな真似をするとは思えないけど、ビームくらい指先とか目とかから出せそうなイメージがある。そこらへんは久三男くみおに聞いた方がいいか。

『どうなんだ久三男くみお

『え!? いや、僕に聞かれても……実際にその機体を詳しく調べてみないことには』

 舌打ちをぶちかます。が、よくよく考えればそれも当然かと思い至り、怒りの矛を収める。

『でも、そうだね……』

 眼鏡を怪しく光らせながら、顎に手を当てて考える素振りを見せる。でもそれも一瞬。久三男くみおはすぐに顔を上げた。

『僕が作り手だったら敵に気づかせず超遠距離から脳を撃ち抜いて即死させる集束光線狙撃ユニットを装備させたりするね。技術的に可能なら確実に』

 だってそうした方が無駄ないし、と恐ろしいことをサラッと言い放つ我が弟。

 確かに久三男くみおならやらかしそうだ。コイツは戦いを最高効率で済ますべきって考え方を持っている。相変わらず前に出て戦う力がない癖に太々しい考え方だが、コイツのマッドサイエンティストっぷりを見れば、それだけの能を持っているからあながち否定できない部分がある。

 親も親なら子も子というように、久三男くみおによって造られた人造人間カオティック・ヴァズも似たような考え方を持っていた。女アンドロイドだって同じ考え方を持っていてもなんら不思議じゃない。何せ相手はアンドロイドなのだから。

 でも、だからこそ何か引っかかる。もやもやするというか釈然としないというか。

『不敬を承知で申しますが、久三男くみおさまが言う狙撃ユニットなるものを、そのアンドロイドが装備していたとして、何故そのアンドロイドは弥平みつひらさまの頭蓋を撃ち抜かなかったのでしょうか』

 沈黙する精神世界の中、御玲みれいがふと顔を上げ、手を上げた。

 アンドロイドはいくら人間に似ているといっても中身は機械。人をぶっ殺すのに感情などあるはずもなく、ただ殺すために一番確実だと考える行動を迷いなく選ぶはず。

 そう考えると右腕だけをふっ飛ばし、弥平みつひら本人を生かして撤退まで許したことが、一気におかしく思えてくる。

 生かしてくれたこと自体、俺らにとってはものすごく都合がいい。だが俺らにとって都合がいいことは、普通に考えれば敵にとって都合が悪いはず。人間だったら万が一でも慈悲的な意味で、もしくは何らかの理由や思惑があって、わざと殺さずに逃がす行動をとる可能性もあるかもしれない。

 だが相手はアンドロイド。言っちまえば高性能な人型コンピュータだ。

 都合が悪い。そう考えたなら弥平みつひらを生かして帰すなんて真似は絶対せず、殺して情報を封殺する方向で行動するのが理に適っている。

 実際、弥平みつひらを殺しておけば俺らにここまで詳しい情報がいくこともなかったし、俺らは何事もなければ支部防衛戦に参加していたから、自分で言うのも癪だけど俺らに先手を打てたはずなのだ。

『うーん……もしかして、だけどさ』

 思考が八方塞がりになる直前、ずっと考え込んでいた久三男くみおが口を開いた。

弥平みつひらの右腕って、その女型アンドロイドに吸収されたんだよね? それで、体内霊力がその瞬間に増したと』

『はい。私の右腕が一瞬で液状化したと思いきや、彼女の手の中に吸収されて』

『もしかしてだけど、その女型アンドロイド、全盛期に戻ろうとしてるんじゃない?』

 相変わらず何気ない久三男くみおの発言に、精神世界の時が止まった。

 弥平みつひらの腕が吸収されたことと体内霊力が増したことは、この話の初めの報告で聞いていた。他人の腕を液状化させて吸収と聞いたときはびっくりしたけど、俺としてはただ単に肉体強化に回したか、何かで消費した霊力の補給でもしたんだろうと軽く考えていた。

 それこそ弥平みつひらの腕を断ち切ったときに発射した集束光線的なもので霊力を消費し、その分を回復させたと考えれば何ら不思議でもない行動と言える。

 だがよくよく考えてみれば、ただの補給が目的ならそれこそミキティウスやヴァズが来る前に弥平みつひらを殺して死体を回収し、安全な場所まで撤退して回復を図ればいい話で、ミキティウスやヴァズと戦う必要はない。むしろ戦った方が自分の身をかえって危険に晒してしまう上に、せっかくチャージしたエネルギーを無駄に消費してしまうだけである。

 アンドロイドにしては、``無駄な``行動をしているように思えた。

『多分だけどその女型アンドロイドは、機体が酷く損壊していて本来の性能を発揮できない状態にあり、どうにか修復を試みようとしている。弥平みつひらを殺さなかったのも、殺すだけの力がまだ回復してなくて殺せなかっただけで、腕だけでも吸収して少しでも機体を強化改修したかったんじゃないかな?』

『ってーと、その女アンドロイドは弥平みつひらの腕を食って、あわよくば弥平みつひらブッ殺して死体ぶんどって撤退する予定だった。でも隙を縫うようにミキティウスとヴァズが来ちまって、退くに退けなくなってやがると?』

 多分ね、と首肯する。

 俺としては久三男くみおの推測以外に名案は浮かばない。久三男くみおの推測を前提に、俺たちは動くのが妥当といったところか。

『待ってください。それは仮説ですよね。久三男くみおさまなりの根拠はあるんですか』

 粗探し役の御玲みれいに隙はない。納得しかけたところに、すかさずメスをぶちこんでくる。

 そういえば確かに久三男くみおの言っていることはもっともらしいが根拠は何もない。酷い話、机上の空論とも言える代物だ。

 危うく納得しかけた俺だったが、とりあえずそこは「そうだぞ、根拠はあんのか」と乗っておく。威厳は大事にしないといけない。

『ははは、面白い事聞くね』

 久三男くみおが顔を翳らせる。メガネのレンズが怪しげに光り、不気味さとキモさが爆上がりした。

『生体融合を自力で行うということは、高性能とかそんなレベルじゃない。現代ロボット工学では再現できないオーバーテクノロジーのバイオロイドだ。むしろ、造れる奴がいたらお目にかかりたいもんだね。僕でもまだ、人造人間の発明例がカオティック・ヴァズしかないのに』

 目尻が異様に鋭い。御玲みれいだけじゃなく、実の兄の俺ですら口を挟むのを思わず躊躇ってしまうほどの気迫が、精神世界を侵食する。

 研究だとか開発だとか、そんなことになると途端に凄むあたり、コイツの研究への執念も相当な気がする。俺の精神世界に澱んだ何かが滲み出てきていて、なんだかちょっと気分が悪くなってきた。

『でもそれだとヤバいんじゃないすか』

 ずっと聞き役に徹していたカエルが口火を開く。久三男くみおから流れるドス黒い濁流など諸共せず、一方的に話を進めていく。

『要は久三男くみおさんの技術力をもってして再現できねぇヤべーヤツが、この武市もののふしをうろついてるってんでしょう? そうなると、ちんたらやってたら総力戦でも勝ち目なくなるんじゃないすか?』

 どうしたというのだろう。いつも馬鹿な奴らと馬鹿やっている総隊長様がやたらめったら有能に見える。一瞬、弥平みつひらかよと思ってしまった。

 まさしくカエルの言う通りなのだ。

 久三男くみおのチートめいた技術力で再現できないアンドロイド。それすなわち、性能的にはあのカオティック・ヴァズを遥かに凌ぐことを意味する。

 どんな攻撃も頑丈すぎるほどに堅い装甲で防ぎ切り、口からは霊力集束砲、両手をミニガンとかに変化させられるし、パワーだって俺以上。音速を超える速度で飛ぶこともでき、更には自己学習能力までついているときた。

 もう正直ガタイのでけぇ人間と大差ないぐらい、ヴァズは人間らしく作られている。腕をミニガンに変化さえしなければ、人間だと言い張る限り突き通せるだろう。

 それくらい久三男くみおの技術は卓越したものになっているのだが、俺らが戦おうとしているアンドロイドは、そのヴァズ以上の性能がある可能性が出てきた。それを意味するところは、つまり―――。

久三男くみお、お前さっきアンドロイドの奴は全盛期に戻ろうとしてるって言ってたよな?』

『ああ、言ったね』

『つまり、つまりだぞ? 全盛期……本来の性能を出せるようになったら、ヴァズよりも強いってことだよな?』

『そういうことになるね。どこまで強くなるか分かんないけど、自力で生体融合とかできるくらいだから、結構狂ってんじゃないかなぁ』

 他人事のように言ってくれるよな、全く。嫌味を言いたくなる衝動を抑え、弥平みつひら御玲みれいと顔を見合わせる。

 これ以上話している場合じゃなくなった。敵はまだ本領を発揮できる状態じゃない。倒すなら全快する前にぶっ壊してしまわなきゃ手に負えなくなっちまう。

 本当なら支部防衛戦しながら、弥平みつひらやミキティウス、ヴァズの報告を待ちつつ、影ながら親玉を始末しようと考えていたが、こりゃあもう支部防衛戦すら参加している暇もない。

『皆、事は重大だ。後手に回る前に、俺は動く』

 一切の反論を許さない。霊力回線を通し、霊圧で皆を抑え込むが、やはりというべきか、弥平みつひら御玲みれいの表情は芳しくない。

『支部に派遣された任務請負官の命令に背くことは、機関則第二条違反です。澄男すみお様は確か既に……』

『ああ。同士討ち未遂食らってんな。だがアレは三回でアウトなんだろ? だったらあと一回はセーフってワケだ』

『で、ですが……』

弥平みつひら。もう今動かねぇと後がねぇ。お前の心配も分かる。でも大丈夫だ、要は親玉ぶっ飛ばせば帳消しにしてくれるだろうからさ!』

 そんな問題じゃない。弥平みつひら御玲みれいからの視線が痛く感じられる。

 流石の俺だって、敵の親玉ぶっ飛ばせば命令違反が帳消しになるとは思っていない。違反は違反だし、それはそれ、これはこれって言われるのがオチだろう。

 でもここで動かなきゃ、おそらく負ける。

 確かに命令違反でペナルティが増えれば、今後の活動で俺に後がなくなる。一歩間違えればクビにされてしまうのだ。そうなれば後々面倒ごとを背負い込むことになってしまう。

 でもそもそもの話、この国自体が戦いで跡形もなくなったら任務請負人も機関則もクソもない。ここで渋って後手に回ってなにもかも潰れるのと、俺がペナルティ一個食らう程度で事が収まるのと、どちらかが得か。考えるまでもないはずだ。

 沈黙する精神世界。ダメ押しのパワープレイで押し切ろうにも、この場には理性的に動く輩が三人。澄連すみれんはともかく、渋る表情には変化はない。

 だが、ここで意外な人物が立ち上がる。

『私は澄男すみおさまの専属メイド。こうなったら、どこまでもお付き合い致しますよ』

 弥平みつひらは最後まで考え込んでいたが、先に結論を出したのは何とも不思議。なにをトチ狂ったのか、合理主義者の御玲みれいさんだった。

『おいおい、いいのか? お前までペナルティ食らうと収入目減りするぜ?』

『構いません。ならばいつもの倍の任務をこなせばいいだけの話ですし』

『つーか、減俸くらいで済むかな』

『そのときは代わりにヴァズを派遣しましょう。あの者なら、人間と遜色ないですから』

 俺と御玲みれいは弥平を見つめる。ずっとうつむいて考えこんでいた弥平だったが、彼もまた顔を上げてくれた。

『ふむ……今の状況を考えると、流川るせんの名を掲げる者として動かざる得ない、ですか。分かりました』

 その表情に、さっきまでの迷いはない。

 澄連すみれんも見渡す。だがコイツらに関しては相談など不要だった。最初から行く気満々、むしろ行かないと言い出そうものなら、文句が出そうな雰囲気すら出してやがる。

 久三男くみお、あくのだいまおう、パオングも異論はない様子。

『よし、方針は決まった。全員、今から任務請負人とその使い魔としてではなく、流川るせん本家派当主とその部下達という体で動く。俺に続け!』

 勢いよく立ち上がる。全員が精神世界で意志を一つにし、本来の姿を表す決意を固めたのだ。

 それは本能の解放であり、戦いへの下準備。新参の任務請負人というレッテルを一方的にかなぐり捨て、流川るせんという世界最強の存在として活動を再開するということに他ならない。

 全員が精神世界より退室する。現実世界にいるであろう、新手の脅威を討ち滅ぼすために―――。
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