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参上! 花筏ノ巫女編
災厄、再び
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時は数刻前に遡る。事実上戦力外となった金髪野郎とポンチョ女を背に、猫耳パーカーと前衛として奮闘する。
カエルやミキティウスが、その小さい身体を存分に活かしてスケルトン・アークの注意を惹き、御玲が得意の氷属性の技でスケルトン・アークをノロマにしていく。
スケルトン系に光と火以外は無効だから、この中で肉体能力が最も低い御玲が損な役回りだが、俺が側にいる。いざってときは肉壁になってでもアイツを守る。仲間に傷一つつけるわけには、もういかない。
「それにしても……!」
目の前で暴れ回る骸骨の巨人を恨めしく見やる。
スケルトン・アーク。ただでさえ厄介なスケルトン系魔生物の中で、その上位種と言われる存在。実際に戦ってみたが、こんなのそこらの人類が敵う相手じゃない。というか、肉体能力が人類の種族的限界に達しているような英雄でも話にならないとすら思った。
流川本家派当主の俺でさえ、忌々しいが竜人化して肉体能力のリミッターを外さないとマトモに戦える気がしなかった。それぐらい強い。
弱点属性のはずの火の球攻撃すらあまり効いている様子もなく、俺がどれだけ攻撃しても怯む様子が全くない。おそらく弱点属性がどうのこうの以前に、魔法防御が単純に高すぎるのが原因だろう。
これに加えて物理攻撃無効が当然の如く備わっているのである。火属性しか扱えない俺ができることなど、ほとんどないに等しいものだった。
となると頼りになるのは、属性変換なる裏技で、事実上全ての属性を扱える猫耳パーカーのみとなる。
猫耳パーカーはスケルトン系魔生物に対し最も効く属性である光属性の霊力をその身に宿し、本来なら効かないはずの拳と蹴りのみで互角以上の戦いを繰り広げていた。
ただの物理攻撃は無効化されてしまうが、身体全体に光属性の霊力を纏っていれば、触れただけでダメージとして傷痕を残すことができる。
唯一物理攻撃でスケルトン系を圧倒できる裏技なのだが、今回ばかりは猫耳パーカーも苦渋の表情を隠せていなかった。ダメージを与えられるといっても、効果的にダメージが与えられているわけじゃないからだ。
物理攻撃分のダメージを実質ゼロにされるため、ダメージ量は光属性の霊力をどれだけ出力しているかで決まる。
数十倍以上の体格差があるスケルトン・アーク相手に、ぱっと見ド派手な格闘戦を繰り広げ互角以上に戦っているように見えるが、俺の霊感は猫耳パーカーの変化を見逃しちゃいない。奴の体内霊力がみるみるうちに減っており、いずれは霊力切れでぶっ倒れる未来を透けて見えた。
おそらくこのまま回復なしで戦い続ければ、限界まで戦ったとして最大十五分で戦闘不能になるだろう。そうなるとダメージを与えられるのは、俺だけということになる。
「クソ、かったりぃな……」
見通した戦況が暗黒であることに、剣を握る手が僅かに緩んだ。
小さい頃から、なにかしら無効化してくる敵は苦手だった。自分の闘い方が通じない。それはまるで、自分が嘲笑われているような気がして不快だからだ。
最初にそんな奴と戦ったのは母さんだった。
母さんには俺のあらゆる攻撃が通じない。殴る蹴るで全力応戦しようが、火の球を無限に撃って自分ン家の庭ごと焼き尽くそうが、母さんは無傷だった。むしろ俺の攻撃を真正面から全て受け止めてくる上、受け止める度に火事場力か何かでどんどんパワーを上げてくる。
気合を入れるための咆哮だけで大地をかち割り空を穿ち、俺を昏倒させて無限に殴り殺してくる格闘戦の怪物。
あんなバケモノが三十年前、戦場を走り回っていたのだからさぞかし他の奴らからすれば天災そのものだったことだろう。息子の俺ですら、母さんは生ける自然災害にしかみえないのだから。
二人目はつい最近殺した親父。
アイツも俺との最終決戦時、ズルもいいところな装備でその身を包み、俺を翻弄してきた。
防具のせいで物理も魔法も大して効かず、接近すると強制的にのけぞらされて杖で無限に殴られるという地獄。更には親父も俺と同様の不死身さを持ち合わせていたという胸糞悪さ。
俺の大切なものをことごとく奪い去り、俺の人生すらも大きく狂わせたことも相まって、仲間全員が心を一つにできてなかったら絶対に倒せなかったと胸を張って言える相手だろう。
三人目が二週間かそこら前に戦った、あの女アンドロイド。
生体融合とかいうわけわからん技で肉体能力を無限に強化できる上に、経年劣化しているって話だったのに俺と御玲と金髪野郎たち、そして機械系においては無類の強さを誇る久三男全員を一度に相手取り、圧倒してみせた機械のバケモノ。
当然物理も魔法もまったくと言っていいほど効かなかった上、生半可な魔法を下手に使えば全て吸収してくる凶悪さも兼ね揃えていた。
あまりに絶望的な戦力差に、今まで一度たりとも表立って参戦しなかったあくのだいまおうが、腰を上げたほどである。
あのときあくのだいまおうの協力と助言、そして俺が久三男の願いを聞き入れなかったら―――俺たちに未来はなかったかもしれない。
そして最後。俺の人生史上最悪の相手だったと言っても過言じゃないソイツ。鏡のような銀髪を靡かせ、生きているのか死んでいるのか分からない暗澹とした銀色の瞳を持つ少年―――名を裏鏡水月。
コイツに至っては物理が効かないとか魔法が効かないとか、そんなレベルじゃない。魔法や物理は当然の如く効かないばかりか、攻撃そのものを、全部跳ね返してくる悪辣さに加え、終いには俺が絶対使いたくないと心に決めた外道の法、焉世魔法ゼヴルードを唯一無効化してきた最大最悪の反則野郎。
単純に無効化してきただけじゃなく、どうやったか知らないが無効にしてきた後にパクってきて改変してきたほどだ。
初戦も初見殺しすぎてわけが分からなかったが、二度目に戦ったときなんか、もうなんで負けたのか、何をされたのかすら理解する暇もないまま、一瞬にして負かされてしまった。
スポーツマンシップだとか正々堂々だとか、そんなものクソもない。俺が戦った相手の中で、最も反則な奴と言ってもいいだろう―――。
そこで、また悶々と無駄な考え事に労力を割いていることに気づいた。
一度のめり込んでしまうと止まらない。嫌な記憶ほど、戦って不快だった相手ほど、忘れたくても忘れられないものだ。
親父は俺が殺したからもうこの世におらず、母さんと女アンドロイドは味方だから別としても、裏鏡は味方でも敵でもない。この世界のどこかで、今ものうのうと生きている。そう考えると今こうして無駄に悩んでいる俺が、益々馬鹿らしくなってくる。
目の前のスケルトン・アークだって、その不愉快な相手の一人に数えられるのかと思うと、それが更に俺の中に渦巻く不愉快さに拍車をかけてくるのだった。
「畜生がぁ……忌々しい、煩わしい」
ここ最近の戦いは、理不尽な相手との戦いが多すぎた。親父との戦いは元より、女アンドロイドや、そして今のスケルトン・アークまで、どうしてこんなにも理不尽な相手ばかりが俺に集まってくるのか。
確かに俺は流川の本家、その当主だけど、その願いはごくごく当たり前のもので、ただ仲間と一緒に幸せに暮らせればそれでいいそれだけを胸に抱いて生きている人間だ。
親父に天災竜王とかいうゲテモノを植え付けられてほぼ人外に等しい身体にされちまったが、それでも心は理想溢れる人間でいたいと思う一人の少年な自覚はある。
最終的にはゼヴルエーレとかいう伝説の存在をどうにかしなきゃならない身だし、そのために仲間と力を合わせると決めたけれど、よくよく考えれば今の戦いは直接ゼヴルエーレの糸口になんら関係ないというのに―――。
「お、おい!?」
「なにしてんだおまえ!?」
背後から金髪野郎とポンチョ女の声。その声色から鬼気迫った何かがあったことは感じとれる。
思わず意識をソイツらの方へ向けた。向けてしまった。向けた瞬間、一瞬とはいえコイツらに意識を割いてしまったことを後悔する。
「え……? は……? そん……な」
信じたくはない。嘘だ。これは夢だ。タチの悪い、嘘で塗り固められた夢だ。
いつか見た、ただの別物と化した澪華がメリーさんムーブかましてくるあの夢と同じ。こんなつまらん考え事を戦場でしてしまったから、間抜けな幻覚を見てしまっただけだ。
何の問題もない、焦る必要もない。夢は必ずいつか覚める。考え事ならすぐやめればいい。
幻覚なら所詮幻。惑わされる方が馬鹿だ。心に隙がある証拠。
そう、俺が見た情景は全て幻だ。嘘八百で構築された仮想現実に近い何か。そうだ、きっとそう。きっと―――。
「み、れい……が……俺は……?」
現実が思考を侵蝕していく。腹に闇の矢がぶっ刺され、死んだように顔面を蒼白させて倒れ込む御玲に、俺の視界は黒味を帯びた赤色に染まっていく。
俺は何をしていた。戦いの中で、スケルトン系の理不尽な能力を前に一人悶々として、勝手に不機嫌になって、御玲を意識から外してしまうなんて。
仲間は死んでも守り切る。たとえ自分がどれだけ傷つこうと構わない、なぜなら俺は不死だから。その思いで今を生きると、そう決めたんじゃなかったのか。
だが現実はどうだ。目の前で仲間が矢に射抜かれ倒れた。カエルやミキティウスが治療してくれているが、そもそもこうなる前に俺が盾になるんじゃなかったのか。
そういえば、思い返せば女アンドロイド戦のときも、俺が守る暇もなく御玲は一度死にかけの状態にまで追い詰められた。あのときは久三男が手を回してくれていたから自分を見失わずに済んだが、今回は久三男の援助があったわけじゃない。カエルたちがいたからこそであり、俺は御玲に何もしてやれていない。
ただ無駄な考え事に思考を費やし、向けるべき意識を仲間に向けていなかったのだ。
これが許されるか。否、許されない。怠慢だ。心に隙があったからこそ起こった無駄。俺が戦場でアホな考えさえ巡らせなければ、御玲は傷つかずに済んだはずなんだ。
俺は俺自身のルールを破った。それを無かったことにするには、目の前で大剣を振りまわし、口から霊力弾をゲロみたいに吐き散らかす骸骨巨人を跡形もなく消し去ること。
女アンドロイド戦で御玲がなんだかんだで助かったから、俺は油断していたのだ。
こんなことなら、最初から御玲を参加させなければ誰も傷つくことはなかっただろうに、全部、全部、俺のせい。だからその責任も、罪も、全て跡形もなく骸骨巨人ごと消滅させる。それが俺の、今できる最善の行動だ。
澪華を失ったことで、俺の心は一度闇に堕ちた。澪華のいない世界なんていらない、いっそのこと全てを破壊し尽くしてしまえばいいと、本気で考えた。今はそこまで考えていないが、目の前の敵を破壊するためならば、仲間を傷つけた報いをうけさせるためならば、いかなる禁忌にも手を染めよう。
発動するのは三ヶ月かそこら以来になるか。北の魔境へ遠征したとき、理不尽にも魔生物の軍勢を一瞬で消しとばしたところを目の当たりにし、二度と使わないと決めたはずの呪法。
だがそれを守って仲間の一人も守れないんじゃ、何の意味もない。要は無差別破壊さえばら撒かなければいいだけの話。骸骨巨人だけを破壊すれば、それで済む。
スケルトン・アークは大剣を振り回し、木々を薙ぎ倒し、岩肌を削って暴れ回る。久しぶりに使うから忘れていたが、焉世魔法ゼヴルードは発動までに時間がかかる。このままだと向こうが俺に攻撃する方が速い。ならば。
竜人化した状態で放つことができる特大霊力砲。魔法防御の高さなどパワーで押し切ればいい。倒せなくても吹き飛ばせればいいし問題ない。ケリはもう、コイツでつける。
こんなこと、あってはならない。俺が仲間をさしおくなどありえない。そんな現実はなにがなんでも否定する。存在するなら、この世界から消さねばならない。
跡形モナク、一欠片モ残サズ、コノ世界カラ。ソレデ大切ナ仲間ヲ守ルコトガデキルノナラ―――。
「……ああ、あああ、ああああアアアアアアアアアアア…………」
``破壊``したい。壊したくて、暴れたくて、叫びたくて、堪らない。心の奥底から湧き出る真っ黒な何かがせりあがり、なにもかもを問答無用で飲み込んでいく感覚。
それは親父に復讐を誓ったあの頃と、全く同じ感覚だった。
「……ヤメダ。モウヤメダ」
視界が血を彷彿とさせる紅から、闇を彷彿とさせる黒へ。思考はドス黒い破壊の渇望で満たされていく。
「ブチ壊ス……御玲ヲ傷ツケタ……俺ノ邪魔ヲスル……ソノ全テヲ」
頭上に広大な魔法陣が描かれた。それは血のように紅く、呪詛のように禍々しい。この世の恨み辛みを詰め込んだかのような邪悪が、文字となって魔法陣に組み込まれていく。
今まさに、全てを消し去る外道の法が、産声をあげようとしていた。
カエルやミキティウスが、その小さい身体を存分に活かしてスケルトン・アークの注意を惹き、御玲が得意の氷属性の技でスケルトン・アークをノロマにしていく。
スケルトン系に光と火以外は無効だから、この中で肉体能力が最も低い御玲が損な役回りだが、俺が側にいる。いざってときは肉壁になってでもアイツを守る。仲間に傷一つつけるわけには、もういかない。
「それにしても……!」
目の前で暴れ回る骸骨の巨人を恨めしく見やる。
スケルトン・アーク。ただでさえ厄介なスケルトン系魔生物の中で、その上位種と言われる存在。実際に戦ってみたが、こんなのそこらの人類が敵う相手じゃない。というか、肉体能力が人類の種族的限界に達しているような英雄でも話にならないとすら思った。
流川本家派当主の俺でさえ、忌々しいが竜人化して肉体能力のリミッターを外さないとマトモに戦える気がしなかった。それぐらい強い。
弱点属性のはずの火の球攻撃すらあまり効いている様子もなく、俺がどれだけ攻撃しても怯む様子が全くない。おそらく弱点属性がどうのこうの以前に、魔法防御が単純に高すぎるのが原因だろう。
これに加えて物理攻撃無効が当然の如く備わっているのである。火属性しか扱えない俺ができることなど、ほとんどないに等しいものだった。
となると頼りになるのは、属性変換なる裏技で、事実上全ての属性を扱える猫耳パーカーのみとなる。
猫耳パーカーはスケルトン系魔生物に対し最も効く属性である光属性の霊力をその身に宿し、本来なら効かないはずの拳と蹴りのみで互角以上の戦いを繰り広げていた。
ただの物理攻撃は無効化されてしまうが、身体全体に光属性の霊力を纏っていれば、触れただけでダメージとして傷痕を残すことができる。
唯一物理攻撃でスケルトン系を圧倒できる裏技なのだが、今回ばかりは猫耳パーカーも苦渋の表情を隠せていなかった。ダメージを与えられるといっても、効果的にダメージが与えられているわけじゃないからだ。
物理攻撃分のダメージを実質ゼロにされるため、ダメージ量は光属性の霊力をどれだけ出力しているかで決まる。
数十倍以上の体格差があるスケルトン・アーク相手に、ぱっと見ド派手な格闘戦を繰り広げ互角以上に戦っているように見えるが、俺の霊感は猫耳パーカーの変化を見逃しちゃいない。奴の体内霊力がみるみるうちに減っており、いずれは霊力切れでぶっ倒れる未来を透けて見えた。
おそらくこのまま回復なしで戦い続ければ、限界まで戦ったとして最大十五分で戦闘不能になるだろう。そうなるとダメージを与えられるのは、俺だけということになる。
「クソ、かったりぃな……」
見通した戦況が暗黒であることに、剣を握る手が僅かに緩んだ。
小さい頃から、なにかしら無効化してくる敵は苦手だった。自分の闘い方が通じない。それはまるで、自分が嘲笑われているような気がして不快だからだ。
最初にそんな奴と戦ったのは母さんだった。
母さんには俺のあらゆる攻撃が通じない。殴る蹴るで全力応戦しようが、火の球を無限に撃って自分ン家の庭ごと焼き尽くそうが、母さんは無傷だった。むしろ俺の攻撃を真正面から全て受け止めてくる上、受け止める度に火事場力か何かでどんどんパワーを上げてくる。
気合を入れるための咆哮だけで大地をかち割り空を穿ち、俺を昏倒させて無限に殴り殺してくる格闘戦の怪物。
あんなバケモノが三十年前、戦場を走り回っていたのだからさぞかし他の奴らからすれば天災そのものだったことだろう。息子の俺ですら、母さんは生ける自然災害にしかみえないのだから。
二人目はつい最近殺した親父。
アイツも俺との最終決戦時、ズルもいいところな装備でその身を包み、俺を翻弄してきた。
防具のせいで物理も魔法も大して効かず、接近すると強制的にのけぞらされて杖で無限に殴られるという地獄。更には親父も俺と同様の不死身さを持ち合わせていたという胸糞悪さ。
俺の大切なものをことごとく奪い去り、俺の人生すらも大きく狂わせたことも相まって、仲間全員が心を一つにできてなかったら絶対に倒せなかったと胸を張って言える相手だろう。
三人目が二週間かそこら前に戦った、あの女アンドロイド。
生体融合とかいうわけわからん技で肉体能力を無限に強化できる上に、経年劣化しているって話だったのに俺と御玲と金髪野郎たち、そして機械系においては無類の強さを誇る久三男全員を一度に相手取り、圧倒してみせた機械のバケモノ。
当然物理も魔法もまったくと言っていいほど効かなかった上、生半可な魔法を下手に使えば全て吸収してくる凶悪さも兼ね揃えていた。
あまりに絶望的な戦力差に、今まで一度たりとも表立って参戦しなかったあくのだいまおうが、腰を上げたほどである。
あのときあくのだいまおうの協力と助言、そして俺が久三男の願いを聞き入れなかったら―――俺たちに未来はなかったかもしれない。
そして最後。俺の人生史上最悪の相手だったと言っても過言じゃないソイツ。鏡のような銀髪を靡かせ、生きているのか死んでいるのか分からない暗澹とした銀色の瞳を持つ少年―――名を裏鏡水月。
コイツに至っては物理が効かないとか魔法が効かないとか、そんなレベルじゃない。魔法や物理は当然の如く効かないばかりか、攻撃そのものを、全部跳ね返してくる悪辣さに加え、終いには俺が絶対使いたくないと心に決めた外道の法、焉世魔法ゼヴルードを唯一無効化してきた最大最悪の反則野郎。
単純に無効化してきただけじゃなく、どうやったか知らないが無効にしてきた後にパクってきて改変してきたほどだ。
初戦も初見殺しすぎてわけが分からなかったが、二度目に戦ったときなんか、もうなんで負けたのか、何をされたのかすら理解する暇もないまま、一瞬にして負かされてしまった。
スポーツマンシップだとか正々堂々だとか、そんなものクソもない。俺が戦った相手の中で、最も反則な奴と言ってもいいだろう―――。
そこで、また悶々と無駄な考え事に労力を割いていることに気づいた。
一度のめり込んでしまうと止まらない。嫌な記憶ほど、戦って不快だった相手ほど、忘れたくても忘れられないものだ。
親父は俺が殺したからもうこの世におらず、母さんと女アンドロイドは味方だから別としても、裏鏡は味方でも敵でもない。この世界のどこかで、今ものうのうと生きている。そう考えると今こうして無駄に悩んでいる俺が、益々馬鹿らしくなってくる。
目の前のスケルトン・アークだって、その不愉快な相手の一人に数えられるのかと思うと、それが更に俺の中に渦巻く不愉快さに拍車をかけてくるのだった。
「畜生がぁ……忌々しい、煩わしい」
ここ最近の戦いは、理不尽な相手との戦いが多すぎた。親父との戦いは元より、女アンドロイドや、そして今のスケルトン・アークまで、どうしてこんなにも理不尽な相手ばかりが俺に集まってくるのか。
確かに俺は流川の本家、その当主だけど、その願いはごくごく当たり前のもので、ただ仲間と一緒に幸せに暮らせればそれでいいそれだけを胸に抱いて生きている人間だ。
親父に天災竜王とかいうゲテモノを植え付けられてほぼ人外に等しい身体にされちまったが、それでも心は理想溢れる人間でいたいと思う一人の少年な自覚はある。
最終的にはゼヴルエーレとかいう伝説の存在をどうにかしなきゃならない身だし、そのために仲間と力を合わせると決めたけれど、よくよく考えれば今の戦いは直接ゼヴルエーレの糸口になんら関係ないというのに―――。
「お、おい!?」
「なにしてんだおまえ!?」
背後から金髪野郎とポンチョ女の声。その声色から鬼気迫った何かがあったことは感じとれる。
思わず意識をソイツらの方へ向けた。向けてしまった。向けた瞬間、一瞬とはいえコイツらに意識を割いてしまったことを後悔する。
「え……? は……? そん……な」
信じたくはない。嘘だ。これは夢だ。タチの悪い、嘘で塗り固められた夢だ。
いつか見た、ただの別物と化した澪華がメリーさんムーブかましてくるあの夢と同じ。こんなつまらん考え事を戦場でしてしまったから、間抜けな幻覚を見てしまっただけだ。
何の問題もない、焦る必要もない。夢は必ずいつか覚める。考え事ならすぐやめればいい。
幻覚なら所詮幻。惑わされる方が馬鹿だ。心に隙がある証拠。
そう、俺が見た情景は全て幻だ。嘘八百で構築された仮想現実に近い何か。そうだ、きっとそう。きっと―――。
「み、れい……が……俺は……?」
現実が思考を侵蝕していく。腹に闇の矢がぶっ刺され、死んだように顔面を蒼白させて倒れ込む御玲に、俺の視界は黒味を帯びた赤色に染まっていく。
俺は何をしていた。戦いの中で、スケルトン系の理不尽な能力を前に一人悶々として、勝手に不機嫌になって、御玲を意識から外してしまうなんて。
仲間は死んでも守り切る。たとえ自分がどれだけ傷つこうと構わない、なぜなら俺は不死だから。その思いで今を生きると、そう決めたんじゃなかったのか。
だが現実はどうだ。目の前で仲間が矢に射抜かれ倒れた。カエルやミキティウスが治療してくれているが、そもそもこうなる前に俺が盾になるんじゃなかったのか。
そういえば、思い返せば女アンドロイド戦のときも、俺が守る暇もなく御玲は一度死にかけの状態にまで追い詰められた。あのときは久三男が手を回してくれていたから自分を見失わずに済んだが、今回は久三男の援助があったわけじゃない。カエルたちがいたからこそであり、俺は御玲に何もしてやれていない。
ただ無駄な考え事に思考を費やし、向けるべき意識を仲間に向けていなかったのだ。
これが許されるか。否、許されない。怠慢だ。心に隙があったからこそ起こった無駄。俺が戦場でアホな考えさえ巡らせなければ、御玲は傷つかずに済んだはずなんだ。
俺は俺自身のルールを破った。それを無かったことにするには、目の前で大剣を振りまわし、口から霊力弾をゲロみたいに吐き散らかす骸骨巨人を跡形もなく消し去ること。
女アンドロイド戦で御玲がなんだかんだで助かったから、俺は油断していたのだ。
こんなことなら、最初から御玲を参加させなければ誰も傷つくことはなかっただろうに、全部、全部、俺のせい。だからその責任も、罪も、全て跡形もなく骸骨巨人ごと消滅させる。それが俺の、今できる最善の行動だ。
澪華を失ったことで、俺の心は一度闇に堕ちた。澪華のいない世界なんていらない、いっそのこと全てを破壊し尽くしてしまえばいいと、本気で考えた。今はそこまで考えていないが、目の前の敵を破壊するためならば、仲間を傷つけた報いをうけさせるためならば、いかなる禁忌にも手を染めよう。
発動するのは三ヶ月かそこら以来になるか。北の魔境へ遠征したとき、理不尽にも魔生物の軍勢を一瞬で消しとばしたところを目の当たりにし、二度と使わないと決めたはずの呪法。
だがそれを守って仲間の一人も守れないんじゃ、何の意味もない。要は無差別破壊さえばら撒かなければいいだけの話。骸骨巨人だけを破壊すれば、それで済む。
スケルトン・アークは大剣を振り回し、木々を薙ぎ倒し、岩肌を削って暴れ回る。久しぶりに使うから忘れていたが、焉世魔法ゼヴルードは発動までに時間がかかる。このままだと向こうが俺に攻撃する方が速い。ならば。
竜人化した状態で放つことができる特大霊力砲。魔法防御の高さなどパワーで押し切ればいい。倒せなくても吹き飛ばせればいいし問題ない。ケリはもう、コイツでつける。
こんなこと、あってはならない。俺が仲間をさしおくなどありえない。そんな現実はなにがなんでも否定する。存在するなら、この世界から消さねばならない。
跡形モナク、一欠片モ残サズ、コノ世界カラ。ソレデ大切ナ仲間ヲ守ルコトガデキルノナラ―――。
「……ああ、あああ、ああああアアアアアアアアアアア…………」
``破壊``したい。壊したくて、暴れたくて、叫びたくて、堪らない。心の奥底から湧き出る真っ黒な何かがせりあがり、なにもかもを問答無用で飲み込んでいく感覚。
それは親父に復讐を誓ったあの頃と、全く同じ感覚だった。
「……ヤメダ。モウヤメダ」
視界が血を彷彿とさせる紅から、闇を彷彿とさせる黒へ。思考はドス黒い破壊の渇望で満たされていく。
「ブチ壊ス……御玲ヲ傷ツケタ……俺ノ邪魔ヲスル……ソノ全テヲ」
頭上に広大な魔法陣が描かれた。それは血のように紅く、呪詛のように禍々しい。この世の恨み辛みを詰め込んだかのような邪悪が、文字となって魔法陣に組み込まれていく。
今まさに、全てを消し去る外道の法が、産声をあげようとしていた。
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【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
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