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防衛西支部編
灰色の敵意
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西支部ビルから数キロメト離れた建物の屋内。そこに集められたのは軽く六十程度の武装した兵たち。
皆同じ服を着て、誰しもが口を開かず跪く中、部屋の最奥にて凛と立つ存在が一人。その者は少女であった。
二十代から三十代あたりの男たちが部屋中を占める中で、その少女は一際が弱く、脆く見えた。無駄な贅肉が一切ない細い身体に、極限まで肉付きが洗練された脚。腕も細く、外見上は年相応の華奢な少女にしか見えない。
腰まで届く濡れ烏色の髪が窓の隙間から吹き抜ける風になびき、輝きの失われた暗澹の瞳は部屋に満ちる大気を凍らせる。
ただ一つ、部屋を埋め尽くす男たちを気圧すほどの濃密な霊圧を放ち、部屋の雰囲気を支配していることを除けば。
「此度は助力をいただき、誠にありがとうございますぅ!」
全員が膝を折り、口も開かず顔すら上げない厳粛な雰囲気の中で、その空気を粉砕するように、一人の男が人の間を縫って少女に近づく。
手と手を擦り合わせ、これでもかと媚びへつらう男は、少女の三歩前で立ち止まり、平伏の意を示す。
「貴女様のおかげで、この私めを愚かしくも追い出した、あの憎き``竜殺``を討つという悲願が叶います! 此度の花添え、感謝してもしきれません!」
少女は沈黙。男が手振りで己の内に秘めたる歓喜を全力で表現する一方、少女の眼から放たれる視線は、男が全力で表現する歓喜をことごとく凍てつかせていく。
場の空気が温まる気配は微塵もない。むしろ少女の眼を根源に、暗澹とした闇黒が、男もろとも全てを食らい尽くした。
最後に残ったのは、声を上ずらせ生唾を飲み込む男の引き攣らせた宣誓のみ。
「つ、つきましては……此度の悲願が成就しました折、貴女方の血族の末席に加えていただきますよう、陛下に口添えしていただければ幸いです……」
男はそそくさと退いた。近づくときは横柄だったにもかかわらず、遠ざかるときは脱兎如く。そんな小動物に少女は一瞬で興味を失い、自分の眼前に広がる全ての雑兵を睥睨する。
「我らが主の命だ。行け」
少女の指示は、あまりに端的だった。
詳しい説明も、作戦会議などない。ただ決められた場所へ行き、果てろと言わんばかりに、彼女の言葉からは感情というものが完全に欠落していた。
明らかに少女よりも年上であろう彼らは、何の不満も口に出す様子はない。むしろ少女の投げやりな指示に黙々と従い、散って行った。
武市において、強さは地位に直結する。
たとえどれだけ歳をとっていようと、相手の実力が上回っているならば、年下だろうと絶対服従。それはつまり、この場にいた男たち全員が仮に少女の敵に回ったとしても、少女はその全てを殺し尽くせるということ。敵対すれば死が確定している中で、余程自暴自棄になっている輩でもない限り、敵対しようとは誰も思わないのだ。
全員が部屋から去り、少女はフードを深く被る。身元が割れないようにするためのものなのか、無駄な装飾が一切ない灰色のフード付きコートを身に纏う姿は、廃屋の瓦礫の隙間からこぼれる日の光に照らされ、禍々しい輝きを放つ。
此度は晴天。雲一つない朗らかな一日だが、フードの隙間から覗く少女の瞳には朝日すら通さない常闇が、とぐろを巻いて渦巻いていた。
皆同じ服を着て、誰しもが口を開かず跪く中、部屋の最奥にて凛と立つ存在が一人。その者は少女であった。
二十代から三十代あたりの男たちが部屋中を占める中で、その少女は一際が弱く、脆く見えた。無駄な贅肉が一切ない細い身体に、極限まで肉付きが洗練された脚。腕も細く、外見上は年相応の華奢な少女にしか見えない。
腰まで届く濡れ烏色の髪が窓の隙間から吹き抜ける風になびき、輝きの失われた暗澹の瞳は部屋に満ちる大気を凍らせる。
ただ一つ、部屋を埋め尽くす男たちを気圧すほどの濃密な霊圧を放ち、部屋の雰囲気を支配していることを除けば。
「此度は助力をいただき、誠にありがとうございますぅ!」
全員が膝を折り、口も開かず顔すら上げない厳粛な雰囲気の中で、その空気を粉砕するように、一人の男が人の間を縫って少女に近づく。
手と手を擦り合わせ、これでもかと媚びへつらう男は、少女の三歩前で立ち止まり、平伏の意を示す。
「貴女様のおかげで、この私めを愚かしくも追い出した、あの憎き``竜殺``を討つという悲願が叶います! 此度の花添え、感謝してもしきれません!」
少女は沈黙。男が手振りで己の内に秘めたる歓喜を全力で表現する一方、少女の眼から放たれる視線は、男が全力で表現する歓喜をことごとく凍てつかせていく。
場の空気が温まる気配は微塵もない。むしろ少女の眼を根源に、暗澹とした闇黒が、男もろとも全てを食らい尽くした。
最後に残ったのは、声を上ずらせ生唾を飲み込む男の引き攣らせた宣誓のみ。
「つ、つきましては……此度の悲願が成就しました折、貴女方の血族の末席に加えていただきますよう、陛下に口添えしていただければ幸いです……」
男はそそくさと退いた。近づくときは横柄だったにもかかわらず、遠ざかるときは脱兎如く。そんな小動物に少女は一瞬で興味を失い、自分の眼前に広がる全ての雑兵を睥睨する。
「我らが主の命だ。行け」
少女の指示は、あまりに端的だった。
詳しい説明も、作戦会議などない。ただ決められた場所へ行き、果てろと言わんばかりに、彼女の言葉からは感情というものが完全に欠落していた。
明らかに少女よりも年上であろう彼らは、何の不満も口に出す様子はない。むしろ少女の投げやりな指示に黙々と従い、散って行った。
武市において、強さは地位に直結する。
たとえどれだけ歳をとっていようと、相手の実力が上回っているならば、年下だろうと絶対服従。それはつまり、この場にいた男たち全員が仮に少女の敵に回ったとしても、少女はその全てを殺し尽くせるということ。敵対すれば死が確定している中で、余程自暴自棄になっている輩でもない限り、敵対しようとは誰も思わないのだ。
全員が部屋から去り、少女はフードを深く被る。身元が割れないようにするためのものなのか、無駄な装飾が一切ない灰色のフード付きコートを身に纏う姿は、廃屋の瓦礫の隙間からこぼれる日の光に照らされ、禍々しい輝きを放つ。
此度は晴天。雲一つない朗らかな一日だが、フードの隙間から覗く少女の瞳には朝日すら通さない常闇が、とぐろを巻いて渦巻いていた。
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