【完結】斎国華譚 ~亡朝の皇女は帝都の闇に舞う~

多摩ゆら

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航悠編

14、航悠と藍良

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「あら、航さん。あたしをご指名なんて珍しいわね」

「昼だけどな。……刻み煙草たばこの葉が切れそうでよ。近々ちょっと遠出するから、補給しとこうと思って」

「ふぅん。いつもは雪華を代理で立てるのに、お金払ってあたしに会いに来るなんて珍しいのね。どういう風の吹き回しかしら」


 翌日、航悠が薫風楼を訪れると藍良が物珍しげに出迎えた。からかい混じりの妓女の言葉に、航悠はバツが悪く視線を逸らす。

「……あら。あらら? あの子と何かあったの?」

「あー、いや。別に何もねぇんだけどよ。ちっと状況的に頼みづらい……つーか、あいつが引き受けてくれなさそうでよ」

「何それ。怒らせたの?」

「ああ。無理やり唇奪ったらブン殴られた」

「……は!? え、何それどういうこと? 詳しく教えて航さん!」

 獲物を見つけた猫のように、藍良の目がきらりと輝いた。
 普段の艶やかな雰囲気はどこに行ったのか、好奇心丸出しでわくわくと詰め寄る女に航悠も少々気圧される。

「いや、そんな興奮するなよ。いい女の顔が崩れるぞ」

「あ……おほほ、やあねぇ。あたしとしたことが、ちょっと驚いちゃったわ」

 わざとらしくしなを作り、藍良が一歩下がる。珍しい光景を見た航悠は溜息をつくと、乱雑に髪をかき上げた。

「ちょっと頭に来ることがあってよ。あいつを黙らせるつもりで、つい……な」

「ふぅん。つい……ねえ? あたしには、航さんがつい・・女に口付けするような青い男には見えてなかったんだけどね。……本当は、『つい』なんかじゃなかったんじゃないの?」

 からかうような流し目を送り、藍良が唇を笑ませる。男としてはそそられる表情だが、航悠は淡々とその追求をあしらった。

「さあな。黙秘する」

「あら、つまらないのね。……いいわよ、煙草用意するからちょっと待っててね」

「悪いな。……そういやお前、あんま吸ってるところ見たことねぇけど今でも吸うのか?」

「んー、最近はあまり吸わないわねぇ。ほぼ客寄せの演出用って感じ。体にもあまり良くないし、妓女じゃなかったらやめてるでしょうね」

 飾り棚を探りながら藍良が応える。目当てのものを手に戻ってくると、藍良は飾り気のない笑みでそれを差し出した。

「航さんも、ほどほどにね。……はい、これ。どこか行くみたいだし、体に気をつけてね」

「おう」

「雪華のこと……どうするの?」

 刻み煙草の葉を受け取ると、笑みを掻き消して藍良は物憂げな表情で航悠を見上げた。親友を心配するその視線から、航悠は顔を背ける。

「どうもしねえよ。帰ってきた頃にはいつも通りだろ」

「もう、つれない人」

「お前こそ、青竹のこと少しは考えてくれてんのか?」

「どうもしないわ。通ってくれる分にはおもてなしするけど」

「つれない妓女だこと」

 言ったことをそのまま返し、互いに苦笑する。片手を上げると、まったく色っぽい雰囲気にならないまま航悠は藍良の部屋から退出した。


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