転校生は転生者

Z姫

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嵐の転校生

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「学校の好きなところは図書館です。静かだし、沢山の本たちに囲まれながら好きな本を読むことが出来るからです」

「小学校について」と言うテーマで書くように配布された作文。
 そして一行目のそれは5年2組の藍沢紫月が書いたものだ。

 文章から分かる通りに、紫月はあまり活発的ではない。
 とは言え、暗い性格でもないし、クラス内にも友達も幾らかいた。

 元来明るい性格だったが、現在は見る影もなく積極的に1人の殻に閉じこもっていたのだ。
 とある1つのコンプレックスが、彼を内向的にせざるを得なかったのだ。

 その内容はと言うと、『言いたいことを言えない』だ。

「はぁ……怖いなぁ」
 藍沢紫月はパタリと本を閉じて、眼鏡を拭いた。

 表紙には『実録・現代怪談』とある。
 K社が出しているサブカルチャー本だ。
 コンビニでH本と混ぜて陳列されてそうな薄っぺらいタイトルとは裏腹に、結構ディープなファン向けの作品集である。

 紫月は怪談本が大好きであった。
 幽霊が好きと言うよりかは、ドキドキやワクワクを味わえる。いわゆる冒険感が、たまらなく紫月を惹きつけたのだ。
「あれ、アイザワ君また本読んでるの?」
「あーどうせ暗いやつだろ。なんか幽霊とか出てくるヤツ」

 突然のクラスメイトの声に、紫月の心臓がバクリと跳ねあがる。
 本に夢中で気づかなかったが、時刻は朝の8時を既に過ぎており、とうに皆が登校し出す時間であった。
「ち、違うよ。これはボーガンって人が書いた……洋書で」
 ギクシャクと愛想笑いを振り撒きながら、紫月は隠すように本を引き出しにしまう。

 へー、と興味なさそうに彼らは自席へと去って行った。
「どちらにせよ詰まんないよな」と捨てセリフの様な言葉を残して。

 勿論彼らにも悪意があるわけではない、ましてや嫌味などでは全くないだろう。
 しかし、「スポーツやカードゲーム、スマートフォンの方が楽しいし、小説なんか読んでる奴は少し暗い奴」
 この様な考え方が大抵の小学生には少しあるものだ。

 ーー「いや、意外に面白いんだよ! 例えばこの話はね」
 心の中にセリフを閉じ込めて、紫月は口をつむぐ。

 紫月に彼らに弁明及び、本の面白さを語る資格はなかった。
 怪談本を愛する彼自身が、嘘をついて存在を秘匿してしまったのだから。

 紫月は本音を見せることが怖かった。
 何より波風をたててしまう事で、周囲の人の自分を見る目が、変わる可能性が怖かったのだ。

「えーー!!!ボール無くなったのかよ!」
 突如の背後からの大声に、紫月はサッと振り返る。
 そこにはロッカーの前でたむろする4人の男子がいた。

 どうやら共用のサッカーボールを紛失したらしい。
 リーダー格のクラスメイトの松本を中心に大げさに騒ぎ立てている。
 確かに今からでも始業時間までは20分程の猶予があり、一試合をするには十分な時間があった。

 それを楽しみに登校してきた松本らの落胆ぶりには、少なからず同情させられるものがある。
 しかし松本の苛立ちや不満は直ぐに、1つの好奇によってすり替わる。

 彼の視界の先に映るのは眼鏡を掛けた気弱そうな少年。
「なぁ紫月、ボール知らないか?」

 声を掛けられてビクリと全身を震わせる紫月。
「し、知らないよ。僕は読書してたし」
「へーどんな本だよ」
 ニヤニヤと嫌らしく笑う松本。
 彼はパッと一気に距離を詰めて、紫月の肩に手を置いた。

「見せてくれよ」の声に紫月は思わず顔を伏せる。
「えー怪しいぞ。紫月引き出しの中に隠してるんじゃないか?」
 どう考えてもサッカーボールが引き出しに入る訳がない。
 彼らもそれを分かって言っているのだ。

 苛めと言うほどではない、軽い弄り。
 しかし紫月はたまらなくそれが嫌だった。
「見せてくれよ」
 松本が紫月を羽交い絞めにした。

「あっ!」
 その間に後ろから他のクラスメイトが、紫月の引き出しに手を突っ込んだ。

 ーー「やめてよ!」
 たったの4文字が紫月には出せない。

 ーーあーあ、なんで僕は言いたいことも言えないんだろう。

 しかし次の瞬間。
 紫月の沈黙の膠着を破るように、

 "となりの壁が破られた"。

『ドゴォン!!!!!!』
 と爆発の様な音が炸裂し、校庭側の壁が丸々吹き飛んだのだ。
 吹き飛ばされた細かい破片が、パラパラと紫月らの頬を軽く叩く。

「え、、?」
 クラスメイトらは皆反対の壁際にまで吹き飛ばされており、衝撃に意識を失っているようだ。
 松本らに囲まれていた紫月だけが、偶然自我を保っていた。
 結果的に肉の盾の様になったらしい。

「お、お前が新しいclassmateか」
 消え去った壁の側面から、1人の少年が教室に飛び込んできた。
 金色の髪に、緑の瞳、細身ながら体格はしっかりしている美少年だ。

 彼はヨロシク頼む、と紫月に向けて片手を差し出してきた。
「え、あ、?」
 と紫月は、吹き飛んだ壁と少年を交互に指さす。
「あん? ああ、これか。遅刻しそうだったから浮遊魔法を使ったんだが、途中で"変な糸"に引っかかってな。着地に失敗して、壁も壊しちまった」
 そう言って少年は千切れた電線を指さした。

「まほう……?」
「あ、この世界にはないんだっけ。魔法だよ魔法。超人的な力や能力を発揮できるアレ。それで俺は転生者で、転校生の『王・ヘンリー』って言うんだ」
「……!? 転生ってもしかして別の世界から生まれ変わり……? ってそれはともかく、ダメだよ君! あんな爆発起こしたら死人や大怪我が出てるよ!」
 そう言って必死に背後を指さす紫月。

 一方、王・ヘンリーは涼しい顔で、紫月を指さし返す。
「いや、壁は粉々にしたから、誰も怪我すらしてないはずだぞ。ビビッて気絶しただけだろ」
 紫月がバッと振り返ると、吹き飛ばされた生徒達の何人かは、パチパチと目を覚ましていた。
 それ以外でも、見る限り目立った怪我をした人もいないようだ。

「だ、だとしても、壁とかどうするの!」
「ほい」
 そう言ってヘンリーが腕を振るとみるみる内に壁が修復されていった。
 数十秒足らずで元通りになった教室の壁がそこにはあった。

「っっ!!」
「まだ何かあるか?」
 自分でも不思議なほどにムキになって、引き下がらない紫月。
「てっ、転生者とか言ってたよね。魔法が常識の世界から来たとか」
 コクリと頷くヘンリー。

「この世界では壁を壊して屋内に入るのは常識ではないよ」
「ッ!! それは俺の世界もそうだよ! 俺は修復魔法が使えるから」
「それだよ。この世界ではその"修復魔法"も常識ではないんだ」
 その一言にヘンリーはピクリと固まる。

「それだけ強大な力が下手に目立つと。国や機関とかに捕まって、研究対象として監禁されたり、軍事利用されたり」
 ビクリとヘンリーの肩が揺れる。

「つまり、マズイ事になるよ」
 ガーン!と衝撃に打ちのめされた様にヘンリーの顔色が真っ青に変わる。

「どうしよう……」
「逃げるしかないね」
 紫月の回答にヘンリーは肩を落とす。
「面倒な手続きをなんとか潜り抜けたのに……もう普通に暮らすにはこの学校しかないんだ……」

 ヘンリーについては上辺すら知らない紫月だが、彼の落胆ぶりや深刻な表情に、アドバイスの言葉を考え込んでいた。
「なら、魔法で今の出来事についての記憶を消す、とか」

 その手があった、とばかりにヘンリーは手を叩く。
「そうしよう。その後は俺も気絶したフリで倒れておけばいいんだ」
「え、? 皆が倒れてる……?」
 紫月の隣でクラスメイトの女子が目を覚まして、周囲を見渡していた。

 ヘンリーは彼女に近づいて、手をかざす。
 すると少女はふわりと眠り込んだ。
 同様の手段で、ヘンリーは次々と目を覚ましているクラスメイトらの記憶を消して回った。

 そして紫月の前に立った。
「最後は君ね。痛みとかはないから、直ぐに終わるよ」
 その声に、紫月は目を開く。

 ーー言わなきゃ、言わなきゃ!
 と、そこで紫月の心の声が外に出ようと暴れ出した。

 いや、正しくはヘンリーが現れた時点で、紫月の心臓は早鐘を打ち鳴らしていた。
 それは恐怖や、緊張ではない。

『興奮』であった。
 冒険や未知との遭遇の代用として、読みふけった数千冊近くの怪談本が、走馬灯に様に薄っぺらく脳内を通り過ぎた。
 今までの全てが霞むようなドキドキとワクワクがそこにはあったのだ。

『言いたいことが言えない』
 周りの目が変わるのが怖いから。

 だけど今や周りの目はない、正面に居るのは僕を知らない未知の存在。
 どうせ何を言ったところでこの記憶は消される。

 それらが後押ししたのか、数年ぶりに本音が飛び出した。
「ぼくの記憶だけは、取っといてくれないか!」

 想像以上の大声が飛び出した。
 紫月の急変に驚いたように、ヘンリーは目を見開く。
「でも、俺の立場が危うくなるって言ったのはお前だぜ」
 よく考えたらリスクを考慮して1人残さず記憶を消すべきだと思う、とヘンリーは続けた。

「それに、記憶を消した後でも、もう一度仲良くするつもりだよ」
「そ……」
「悪い。もう決めたんだ。申し訳ないが許してくれ」
 そう言ってヘンリーは紫月の口を塞ぐように手をかざす。

「僕が君の辞書になる」
 ピタリとヘンリーは止まる。

 以後は自分にも驚くほどにつらつらと言葉が飛び出した。
「例え、今を上手くやり過ごしたとしても、またヘンリー君は何かをやらかすかもしれないよ。その前に事情を把握してセーブ出来る人間が必要なんじゃない? その点僕は適任だと思うよ」

 面白そうに笑いながらヘンリーは手を下した。
「何故適任だと思うんだ?」
「僕は口が堅いからだよ。『本当に言いたいことすら言えないんだ』」

 その日。藍沢紫月には1人の変わった友人が出来た。
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