スライムを輸血されたんだが、

Z姫

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ACT4/学校へ行こう

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 一晩経って、俺は冷静になった。

 うん、アレはやはり夢じゃない。

 腹を撫でると、指先にゴワゴワとした感触があった。
「だって傷、あるし」

 姿見に映る俺の全身は、やはり傷だらけのままである。
 しかし母に見せようとすると、不思議と傷が消え去ってしまうのだ。

 ここで俺は確信した。
 ホーム下に潜んでいたあの青色のナニカが、俺に"ナニカ"したのだ!
 えー、その、ナニカと言うのを具体的に言うと……うーん、"何か"は分からないけど、何かに"何か"をされたらしい。

 しかし俺が生きてるのは間違いなくソイツのお陰だ。
 とは言え、あの不吉な気配からして、あの生物が"良いモノ"とは到底思えない。
 事実、あの女を線路に引きずり込もうとした犯人は間違いなく奴だろう。
 ならば尚更怪しい限りだ。
 何の目的があって、俺を生かしたのだろうか。

 昨日半日考えたが全く答えが出なかった。
「いや、待てよ」
 もしかしたら前提がおかしいのかも知れない。

 元々ヤツは女を引きずり込もうとしていた辺り、電車に轢かせて魂でも食べるつもりだったのだろう。
 しかし代わりに落ちてきたのは俺で……そしてまだ生きていた。
「だから、食べられなかった?」

『ドクンッ』

「おはよー」
「おはよー」
 同じ高校の制服を着た女子たちが、家の前を駆けていく。
 ひとまず俺も、いつも通り学校へ向かうことにした。

 しかし今日は"やけに"霊が少ないな。
 小型の霊は特に電柱やゴミ箱の裏などを好む。
 彼らは何をするでもなく、影から明るい場所を覗いている。
 意識があるかも定かでないが、おそらく目的はないと思う。
 そしてこれも持論だが、犬が電柱にマーキングするのは彼らが視えているからだと思う。
 一種の縄張り争いだ。

「ありゃ」
 再び電柱の影を覗き込むが、何もいなかった。
 ううむ、珍しい。これで四本目である。
 いつもなら五本覗けば五本とも、数匹の小物が住処にしているものなのだが、まるで慌てて夜逃げした後の様にもぬけの殻だった。
いよいよ自分の中で、嫌な予感が当たりそうな気がする。

 五本目の電柱を覗こうとしたところで、肩に手が置かた。
「あーおいクン!」
「うわあああああッ」
「なにヨそんなに驚くことないじゃない。このビビり」
 不良のクセに、と怪訝な顔をするこの少女の名前は、
「なんだ、七瀬瑠璃ななせるりか」
「なんだとはなんだ。なんでフルネームなんだ」
 大人っぽい中分けのロングを揺らして、子供っぽく彼女は頬を膨らませる。
 瑠璃は同級生、同校、同クラスと三拍子揃った"タダの幼馴染"である。
 いや、何故かは分からないが、昔から生まれた病院、幼稚園、小中学校、そして高校と全てが同じで、尚且つ全て同じクラスだったのだ。

 ここまで来ると怨恨じみた何かを感じてしまい、時々怖くなるのは俺だけだろうか。

「なーに、ぶつぶつ言ってんのサ。ほら、ガッコ行くよ」
 瑠璃は母にも劣らない馬鹿力で、俺の襟を掴んで引きずってい……こうとしたが、出来なかった。
「ありゃ? アオイちゃんもしかしてアンタ激太り!?」
 馬鹿言わないで欲しい。
 中学の文化祭の時、彼女は俺が持ち上げられなかった80キロ近い学校の備品ですら、楽々運べていたのだ。
 つまりそんな彼女ですら引きずれないとなると、俺の体重は"まるで100キロ"を優に超えていることにでもなる。
「瑠璃こそ、最近ドーナツの食いす……」
 みぞおちに本気のエルボーが喰い込んだ。

「ガッコー行く?それとも死ぬ?」
 笑顔で彼女はそう続ける。
「……ガッコ、いかせてください」
 全く、冗談なのにマジで殴らなくてもいいじゃんか。


「うーん不思議だ」
「?」
 何が?と言う俺の相槌より早く、彼女は続ける。
「今日は霊が少ないネー」
「うん」
 瑠璃もまた霊が見えてしまう数少ない人間だ。
 俺とは異なり、そう言う家系らしい。
 幼いころから"視える"絡みで、色々苦労をしてきたが、ここまで生きてこられたのは彼女のお陰も大きいと思う。

「で、いつ話してくれるの?」
 彼女の会話と質問はやけに要領を得ない。
「なにが?」
 プチンと、血管の切れる様な音がした。
 瑠璃は立ち止まって、不機嫌そうに俺を睨みつけた。
「バカにしないでよ。アタシが視えてないと思ってるの!」
「瑠璃……」
「風邪なんか一度も引いたことなかったくせして、無断で五日も学校休むし、久しぶりに学校来たかと思えば、訳わかんないくらいヤバいのに憑り憑かれちゃってるし、アタシだってシンパイするじゃんか」
そうだ。彼女は視えるのだ。
だからもし"俺が何かに憑りつかれている"のなら、一目でそうと分かる。

「すまねぇ、説明が難しくて」

『ドクンッ』

 瑠璃の手を握ると、彼女は綺麗な顔を歪めて、震えた声を漏らす。
「ごめんね。大変なのは葵の方だよね。アンタの……葵の中から漏れるどす黒い気配。どう考えても普通じゃない。霊がみんな逃げちゃってるもん、多分ウチのおばあちゃんでもどうにも出来ないと思う」
「……心配させてワリぃ、でも俺は大丈夫だから」
 瑠璃を抱き寄せると、彼女は俺の胸で小さく頷いた。

 さて、困った。
 俺が例の幽霊的な何かに憑り憑かれている事が確証に変わったことも、そうだが、

 今は幽霊よりも、みんなの視線が怖い。
 敢えて書かなかったが、ここは正門前である。
 つまり俺たちは死ぬほど周りの視線を浴びている。

 まぁ友人に見られなかっただけマシか。
 そう思った次の瞬間、同級の小室や、林たちが囃し立てながら通り過ぎていった。

 ……ああ、憂鬱だ。

 どうやら俺の学園生活に、しばらく平穏は戻りそうにない。
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