共有夢中

牛酪 落花生

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静穏と英明  前編

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千差万別の夢の中で堕ちて往く彼女の夢の中で終わりたい、此処はまだ夢の中。
 空間が歪んでいて例える事も出来ない、
 未知の世界。
 あっ、彼女が目覚めるらしい。
 今日の彼女の夢は不安になるよ。
 丸でこの空間の歪みが何か良くない事を予兆する様に。
 
――七月三日 昼 板垣高等学校
 キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴った聞き慣れ過ぎて逆に心地良いなあ。
 日に当たって温かくなった机の上は夏の風物詩。
 今日は過ごしやすいな。
「オーイ、ユメ~一緒に昼食べよー」
 机に伏せていた私の肩は揺さぶられた、親友のスズちゃんだ。
「折角、気持ち良く寝てたのにー」
 眠くてあまり声が出ないな。
 お腹空いてたし、まあ良いかな
「ほらほらっそんな事言わないで起きて起きてっ!」
 私は白昼夢から現実に引き寄せられた。
 私は鞄から小さく可愛らしいがま口を取り出して
 椅子から体を離した。
 私達は食堂に向かった。
 食堂には今いる二階から一階に行く必要がある。
「階段ってめんどくさいよねー」
 スズが言う、その目を見る限り半分本気で言っている様に思えた。
「でも、まあ、運動不足のスズには丁度いいんじゃない?」
「私は部活でバスケやってるから運動不足には何ないよっ」
 確かに、スズは部活でバスケしている、バスケはメチャクチャ激しく身体を動かすスポーツなのは知ってる、ルールは知らない。ボールをリングに通したらゴールって事は知ってる。
「ユメの方が運動不足じゃない?どうせずっとアニメ見ていたんでしょ」
「クッ図星で何も言えない」
「でしょ~ランニングぐらいしなよー」
 コツコツと一段一段階段を降りる私達は何気ない会話をしながら食堂へ向かう。
 スズとは中学校から同じ、一緒に遊んだり勉強したり、中学生活も高校生活も中々良い青春を謳歌してるんじゃないかなって私は思う。
 何気ない会話はやけに弾む、歩幅を合わせながら食堂に向かって校内を歩いた。
 いつしか食堂に着いたみたい。
「んじゃあー、いつもの購買のカレーパンとカレー定食買ってくるから~」
 スズはそう言うと手の平を私の胸の上あたりに差し出してカレーパン代を出すよう促した
「オッケ~」
 私はゆるーく返事をしてカレーパン代の百五十円をポケットに入れておいた、がま口を取り出して、がま口からお金を引き抜いてスズの手の平に置いた。
 スズは其れを受け取ると手を振りながら笑顔でカレーライス定食と購買のカレーパンを買いに行く。
 私は食堂のいつもの席に着いた。
 窓辺の席だ、窓にはボックスウッドが並べられ緑しか映らない。
 私はその緑をじっと何を考える訳でもなくただ見つめていた。
 食堂のカレーライス定食はそこまで生徒から人気ではない、正直、私もコンビニのカレーライスの方が美味しいと感じる。そんな食堂のカレーライス定食はスズの大好物。
 購買のカレーパンはコンビニのカレーパンより美味しいがやや辛い。
「ねぇ、君、ちょっと良い?」
 窓に映る緑を見つめる私に突然、誰かが話し掛けて来た。
 声はやや低く先生では無い男の人の声だった。
 何故が何処かで聞いたことある声をしてている。
 同じクラスの人なのだろうか?
 私は声をする方へ顔と身体を向ける。
 目に映った声の主は当然、制服姿の男であり。
 同じクラスの人物だった。
 彼の容姿は整っており、正に容姿端麗。
 噂で良く耳にする男子だ。
 私は男の人が大嫌い。
 中学一年生以来、男子に話掛けた事も無ければ、話掛けられる事も無かった。
 そんな、私は容姿端麗な男子に声をかけられた。
「なんのようですか?」
 嫌悪を顕にして言った。
 其れを聞いた彼は何も動じる事がなかった。
 攻撃をしていても全く効果が無かった様で癪に障った。
「コレ、アイツから」
 とやや気だるげな声で言い、A六サイズぐらいの半分にした紙をテーブルにさっと置いた。
 そうすると向こう側に居る彼の友達らしき人物の方を指差した。私は彼の綺麗な指先の差す方を見た。指差さされている男の顔は遠くに居て良く見えないが静穏である様に思えた。
 彼が私を見る事はなかった。
「んじゃ、手紙読んどいて」
 彼はスマートに言い、スマートに友達のいる方へ戻って行った。
 手紙には筆文字で『大原ユメさんへ』と私の名前が書いてあった。その字は丸でプロの書道家が書いているかの様に美しかった。
 パソコンで打ち込んで筆のフォントを付けた様にも思える。
 私は貰った手紙を眺めていた。
 内容はまだ見ていない。見る気が起きなかった。
「ねぇねぇ、その手紙……」
 少し経ってスズが戻ってきた。スズは頬を赤らめて言葉を噤み、興奮しているのか笑顔見せながら両手に持っていたカレーライス定食のトレイを机に置き、席に着いた。
 トレイの上には私が頼んだ購買のカレーパンも乗っていた。
「ラブレター!」
 噤んでいた言葉を紡いだ。大きい声を出さない様に努力したのか、その声は周りの生徒の迷惑にはならない程度のボリュームだった。
「どうだろね、きっと悪戯だよ」
「いやいや、わざわざ手紙を書くんだよ、其れにその文字見てよ筆で書いたんじゃない?めっちゃ綺麗な字じゃん!」
 スズは興奮している。早口になっているのが分かる。
 悪戯であって欲しいけれど、悪戯じゃ屈辱だから本当であって欲しいモヤモヤな気持ちが何回も頭の中を猛スピードで駆け回る。
 ホント、こう言うの世界から無くなって欲しい。
「何書いてるかな?確認して見よっ!ほらっ読んで!読んで見てっ!」
 ハァー、スズはこう言うの好き過ぎる。
 しょうがない、このモヤモヤな気持ちを晴らす為だ。私は半分に折られた手紙を開き音読を試みる。
「大原 ユメさんへ
 この度は親友の大越トモキの手助けを得て貴女様に手紙を送り致した事をお許しください。
 ワタクシは菅原ユウと申します。
 この手紙をしたためている張本人で御座います。
 単刀直入に申します、ワタクシは貴女様を好いています、臆病なこのワタクシと交際を申し込みます。貴女様と初めて巡り合ったのは一年程前であります。その時から恍惚として止まないのです。
 この、一年どうすれば貴女様に想いを伝えられるかを考えていました。そして漸く想いをこうして伝えられる事を心から嬉しく思います。
             菅原ユウより」
長い、そして丁寧、過ぎる。
 一通り音読したけど、驚いた。
 字も筆文字で綺麗だし。
「うん、うん、良かったねユメっ」
 スズは感極まって泣いてる。
 カレーライス定食を食べながら泣いていた。
 私としてはあまり嬉しく無い、私の事ばかり書いて自分の事、全く書いていなかった。
 思いを伝えるのに手紙は古いし告白は会って面と向かってするもんだと思う。
 本人には悪いけど、まだ悪戯の可能性が拭えない私としては、何一つとして心に響かなかった。
「どうする返事?」
「どうするも何も、悪戯だよ」
 スズは悪戯の可能性を全く考えてない。
 悪戯で恥を掻くのはイヤ。
「大丈夫だって、悪戯する様な人、私知らないよ」
 確かに、クラスや学年の人全員を全員詳しく知ってる訳じゃないけど、いじめとかはこの学校では聞いた事は無い。
「ごめん、悪いけど付き合ってくれない?」
 また、突然、さっきの男が現れた。
 男は私達のデーブルの側まできていた。
 名前は恐らく大越トモキだ。
「えっ!なに!もしかしてこの手紙書いた人?」
「いや、俺じゃない、ごめん早くしないとアイツヤバいから」
 男は少し急いでる様だった。
 彼は私の腕を掴み無理矢理でも連れて行こうとしていた、私は男の人の力には逆らえないので素直に従った。スズは手を振っていた。スズは楽観的だ。
 男の人なんか大嫌い。
 彼は私の腕を掴んで階段を一段一段と上り二階に行き二年一組の教室の前まで私を連れ去った。
 私のクラスの隣クラスだ。
 彼は教室の前まで着いて言った。
「ごめんな、連れ回して教室にアイツ以外誰も居ないからアイツの話し聞いてあげてくれ」
 彼は私の返事を待たず教室の扉をガラッと開け中に入るよう促した。
 私は一歩、また一歩、教室に近づいて言った。
「私、良い回答しないから」
 私は彼の顔に向かって言ってやった。
 彼は無頓着な顔をし続けていた。
 ホントにこの男、嫌い。
 私は教室に入り扉をガラッと閉めた。
 中には本当に誰も居なく、手紙を書いた張本人であろう男、菅原ユウが窓側の席に座っていた。
 彼は椅子と机を窓の方に向け窓を見ていた。
 相変わらず静穏としている様子。
 教室の照明は消えていたが部屋は明るい。
 彼は天日に照らされて眩しそうな顔をしているのだろうか?目を瞑って私を待っているのだろうか?
 はたまた、彼は抜け殻状態で宙を見つめて何も考ないで、ただ時を待っているのだろうか?
 彼の後ろ姿は何故か考えさせられる。
 扉の音に気づいてないのかな?
 それとも、私から話し掛けるのを待っているのかな?もう、扉の前で三分は経ってる。
 早く、スズの元に戻りたい。
 しょうがない、私から話し掛けてみるしかない。
「ねぇ、貴方が手紙書いたの?」
 私は扉の前から話し掛けた。
 私の声を聞いた彼は振り返らない。
 何も言わない。何も反応を示さない。
 不思議に思った。確かめたくなった。
 何故、彼は何もしないのか。
 恐る恐る彼の元へ近寄ったその間もずっと窓の方を向いている。彼との距離が縮まった。
 手を伸ばせば彼の背中に届く距離。
 肩をポンッと叩いてみるか、その場から呼び掛けてみるか迷う。
 いや、寝ている可能性がある。
 一度、彼の顔を覗いてみる事にした。
 なんと、彼は目を瞑って寝ていた。
 男の人の顔をまじまじと見るのは趣味ではない。
が、酷く見入ってしまった。
 寝ているなら無理に起こす必要はない。
 気持ち良く昼寝をしているのを遮られて気分が悪くなるのは私が一番知ってる。
 スズの元へ帰ろう。
 彼の寝顔をうっかり見入ってしまっていた私が恥ずかしい。
 客観的に見て相当気持ち悪い光景になってしまっただろう。誰も影から見ていない事を祈ろう。
 一歩、また一歩、教室の扉へと近づいてるなか、一つ疑問点が浮かんできた。
 なぜ、お昼休みなのに誰も教室に居ないんだろう?少数からず教室に誰かが居るはずだし、誰かがこの間に教室に入ってきても可笑しくない。
 良く、思い返してみたら、食堂の時、アイツが私に手紙を渡して来た時から可笑しいんだ。
 そうだ、きっとコレは皆んなが、口裏合わせて私を陥れていれようとしているんだ。
 考えれば考えるほど、アイツへの怒りが出てくる
 教室の扉をガーッと力強く開いた。
 前へ力強く一歩前へ出ると、そこは、さっき出てった筈の二年一組の教室が広がっていた。
 窓の近くに菅原ユウが居るのも照明が消えているのも、全てさっき見た光景だ。
「え、どうして?」
 思わず声が出た。何が起きてるの?どうなってるの?さっき私は教室を出たのに。
 丸で、アニメや映画、ドラマで起きる事が私の身にも起きてしまった。
『無限ループ』が起きてしまってる。
 信じれない。現実じゃない、きっと夢だ。
「そう、コレは夢だ」
 教室の何処からか声が聞こえた。聞いた事がない声だ、青年の声なのは確か。
「私の夢なら直ぐに覚めるわよね?」
 コレが本当に夢ならば、直ぐに覚める。
 当たり前だ。
 夢の中で自我を持って夢を自分の自由自在にする事が出来る人をテレビで取り上げられていたのを思い出した。
「アナタは誰?」
 誰かも分からない声は非常に気味が悪い。
「僕は菅原ユウ」
「えっ」
 仰天して声が出た、教室の至る所を見ていた私はその声を聞いた瞬間、焦点が窓の方向を見て眠っていた菅原ユウに焦点が向けられた。
 彼は今、目を開いて喋っているのだろうか?
「どう言う事?コレは私の夢なんじゃないの?」
 何もかもが可笑しい。動揺しかしてない。
「コレは、君と僕の夢さ」
 窓を見ていた彼は立ち上がり、扉の前で呆然としている私を凝視した。
 彼は再び口を開いた。
「此処は君と僕の共有夢中、君と僕は生まれた時から同じ夢の中を共有していたらしい」
「ちょっと、待って、意味が分からない。
 何でそんな事分かるの」
 彼は何も言わず黒板の前に向かった。
 黒板に着くとチョークを手に持ち、図を描いた。
 二つの人型の頭上にモヤモヤと円を重なる様に描いて二つの円の中を跨ぐ様に『共有』と描いた。
 非常に見やすい。
 彼はチョークを置き、私を見て口を開いた。
「此処までは理解してくれてるよね」
 彼は黒板を指差して言った。
「そこまでは理解した、だけど何でそんな事になるのかが分からない」
「この世には科学的に証明出来ない物が沢山ある、もし、この現象が分かる時が来れば二人で喜びましょう」
 原因不明が一番怖い。
「まあ、大丈夫、僕がいれば大丈夫、夢から覚める方法があるから」
 疑問が浮かんだ。
「ちょっと待って、何で私はこの事を今日まで知らなかったのよ」
「君はいつも、同じ質問ばかりするね」
 彼は笑顔を作った、その顔は孤独を想わせる。
 ある話しを思い出した。
 飼い犬が主人を失い飼い犬が主人の墓の前で舌を出しハァーハァーと呼吸を繰り返して決して戻る事のない主人の帰りを待つ、そんな話し。
 それと少しニュアンスは少し違うけれどそれと似た事が起きていたのではなかと背筋が凍った。
 彼のその一言で全てを悟った。
 俯いてしまった。
「夢の中は一時的に記憶の接続を行っているんだ
 夢は自身の妄想や記憶からなってる、まあ諸説あるけどね、僕はね赤ちゃんの頃の記憶を覚えてるぐらい記憶力が良いんだその気になれば夢の内容ぐらいは思い出すよ、普通の人は今朝見た夢の内容は起きて直ぐなら辛うじて覚えてるけれど昼間になれば夢の内容なんかあやふやになる、君はその普通の人」
 彼の話す事は説得力があった。話す事もスラスラと入るから、彼が話し終わる頃には自然と脳が話してる事を理解する。だから、頷いてしまう。
「じゃあ、早速、この夢中から抜け出そう」
 彼は真面目な眼差しから陽気な眼差しに変えた。
 私の目の前に来て、手の甲を私の腹の辺りに出した。
「えっ、何?」
「ほらエイエイオーだ、毎回、君に説明し終わったらやっているんだ」
 彼の第一印象は『静穏』だったが今の彼への印象は『英明』だ。
「はぁー、分かりました一回だけだからね」
 手と手と声と声を重ね合わせて二人は言った
「エイエイオー!!」

     
     第一話「静穏と英明」前編 完 
             後半へ つづく
 
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