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私小説 3

栄町のアラビア館

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 読者よ。私はこれから風俗のことを書かないといけないが、一番、やってはいけないのは、「風俗最高!」で締め括ることである。これは、戦争もののドラマを描く時に「人殺しって愉快だ」なんて言ってしまうのと同じことであり、セックスそれ自体は楽しいものであるが、風俗で楽しかった。なんて書いてしまうのは、文学者としてもどうかと思うのだ。

 だから、厳粛なる気持ちで、風俗に行くことにしたい。でも、やっぱりほら、流行病だし、段々と行くの嫌になってきた。ミルク少女が風俗で働いているという設定はそのままにして、私は断りの電話を入れる。

「あのさ。やっぱり、風俗やめるわ」
「えー、何で」
「流行病、怖いじゃん。だから、ここ数年、俺、風俗行ってないもん」
「はっ……」
「どうしたの」
「あたしも、それ思っていたんだ。やっぱり、風俗やめた方がいいかな」
「いや。やった方がいいよ」
「何で」
「この世の中でも風俗に行きたいって言っている奴は筋金入りのバカなんで、バカは死んだ方がいいと思うから」
「だから、あたしも死んじゃうじゃない」
「そうだね。やめよう!」

  ストップ 流行病 蔓延!!!

 ということで、ミルク少女は風俗の仕事を辞めるのだった。私は私で、彼女に手製のあのマットを作ってもらって、風俗的な奉仕をしてもらいたいと思ったけど、それも面倒なのでやめた。私は色んなことが面倒で、楽して小説でも書いて儲けることが出来たらいいな、なんて思っているが、なかなか難しい。
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