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最終章
最終回 4 瞑想対決エンド
しおりを挟むあの戦いから三年目の朝、山頂の僧院の六畳一間の窓から差し込む陽光を前にして私は正座していた。そして、ひたすらにイメージをしていたのである。オデコに生卵が溶ける様を。それは、瞑想の初歩とも言える訓練法であったが、私はそれを完璧にすることを三年がかりで行っていたのである。
「遂に、できた」
と思わず呟いてしまった。それはもう、現物の百倍はリアルな卵が割れた様を額の上に再現できたのである。これは、瞑想においてほとんど究極の域に達したと、言っても過言ではなかった。
私はそのことを弟子の一人に言うと、彼は大喜びで周りの人々に伝えたのであった。私は、しかしながら、まだまだ卵をもっと克明に感じる余地があることを知っていたから、再び瞑想をしていると、会田鉄夫からお呼びがかかる。
「はい?」
私が彼の部屋に行くと会田鉄夫は無表情で座っていた。私は彼のこの姿勢でわかったのだ。これは、瞑想勝負をしようと言うことであった。よく見ると会田の額には既に卵が載っているのがわかった。それは想像状のものであったが、ある程度、瞑想をしていると気づくものなのである。
私も座って額に卵を出す。すると、鉄夫は目を見開いた。それほど、私の卵がリアルにくっきりと映ったのであろう。得意になった私は、さらに卵をくっきりと解像度を上げにかかった。
会田は、それを見て、さらに自分の卵を鮮明にさせる。私はそれを見ても少しも驚かなかった。確実に私の方が勝っていたからである。それがわかると会田鉄夫は寄り目になる。
「?」
次の瞬間であるが、会田の額の卵が火の玉のようにはっきりと実現化したのだ。私は驚いてしまった。これほど強く実現化なんてできるものではない。そして、その卵は
「ピカッ!」
と光ると西の空へと飛んでいった。思わず、私は
「参りました」
と平伏したのであるが、応じる声がない。ポトリと床に何かが落ちた。それは、会田鉄夫の二つの眼球だった。 完
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