歪なる世界と結晶奇術師-No point illusionist-

韋虹姫 響華

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第二章

暴力は呻きの螺旋 〜その伍〜

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 殺人事件に巻き込まれたことが、まるで嘘だったかのように旅館に到着した乗客達は、賑わいを見せていた。温泉も名物の一つであることから、行き交う人集りが通過する廊下のベンチに座る男女。

「気分は落ち着いたか大江?」
「う、うん。ありがとう水祓みずはら君。恐かった、人殺しが身近で起きるなんて……わたし、わたし……」

 同じ車輌内にいた乗客のカップル。それも暴力彼氏とひ弱そうにしていた彼女、その両方が共犯で四人も殺害したとなれば、恐怖を覚えてしまうのも無理ないこと。
 しかし黎創はそういった状況に、少し慣れ始めていることに違和感を持っていた。大江の見せている反応こそ、本来こういった場面に直面した時に起きる反応だった。旅館に到着してから、ずっと震えている手をそっと握り隣に居続けた。それくらいしか、して挙げられることがなかった。
 ようやく震えが止まったところではあるが、他の客のように切り替えが早くなんて慣れるはずもなく、大江は黎創の手をそっと握り返した。

「よぉ、おふたりさん!お熱いねぇ?」
「べ、別にそんなんじゃないよ!てか、ゆかりはもう露天風呂行ってきたの?」
「行ってきたよ♪なんかもう、とんでも凄いって感じだったよ♪あ、でも残念ながら混浴じゃなかったよ?」

 一緒に来ていた学友のゆかりが、黎創と大江の二人を目で交互に見ながらニヤニヤとそう言った。
 だからそんな関係じゃないと、語気を強く否定する大江。黎創も同じように、昔からの付き合いってだけで友情に近いと言って二人同時に頷いた。すると、黎創のお腹がぐぅぅと鳴った。旅館へ来てからずっと、何も食べていないものであったことを思い出させる。
 クスクスと笑って、ゆかりは大江の手を取って自分達の部屋に連れ帰ろうとする。手を振って二人を見送り終えた黎創は、自室へ向かうのであった。

 部屋へ戻ると、夕飯が卓上に並べられていて嫁神かがみ達は食べ始めていた。ようやく戻って来たかと、口にものが入ったまま声を発する嫁神。澄羅綺すめらぎの隣に座って、箸を持ち旅館の料亭メニューを食すことにした。

「あの~……」
「これ美味しいな。黎創も食べてみなよ」
「ちょっとぉ……?」
「うむ、カニ料理とはまた乙なもの♪出来ることなら酒を飲みたくなるな♪」

 料理の味に酔いしれている二人、相反して箸の手を止める黎創。その視線の先には、椅子に縛り付けられている喜久汰きくた 寄凪よりなの姿があった。

「疑いは晴れたんだから、アタシを解放してくださいよ所長ッ!!」
「む?はて?いつ寄凪君の疑いが晴れたのかね?」
「今回の事件、2人の人間がクリスタルを兼用して使っていた犯行。クリスタルは破壊されて、警察に身柄を差し渡したじゃないですか?」

 確かに寄凪の言うとおりだった。
 今回の列車での殺人事件、結果的に三人の推理は外れていたことになるが、傀魔クリスタルを使用した二人の人間の犯行を暴き、見事事件を解決した。その時寄凪にかけられた殺人容疑も、晴れたと主張しているのに対してお茶を啜り終えた嫁神が首を向けた。
 そして、そのまま横に振って真剣な表情を取り戻し箸を置いた。澄羅綺と黎創には、食事を続けながらで構わないと言って話し始めた。

「あのカップルが殺害したのは3人で間違いないだろう。寄凪君にかかっている容疑で殺されている男性、最悪なことにゼナァークの構成員だが彼を殺した犯人は。それもこの館内に我々と同じ顔をして、忍び込んだということになる」

 食事なんて、していられる内容の話ではなかった。
 つまりまだ事件は終わっていない。奇しくも嫁神の予想どおり、もう一体傀魔が紛れ込んでいることになる。
 しかし、嫁神がこれを荒立てないのには理由があった。一つは下手に乗客へ不安を煽ることにならないよう、配慮してのこと。同時にその動機が明確になっていないため、こうして奇術師しか居ない状況になるまで黙っていた。

「どうして動機が分からないのですか?」
「いや、殺す動機なら分かっている。あのネームタグはゼナァークの売人ではなく、販売後の観察員が身につけるものだった。暁咲あきさ君に確認を入れたから、確かな情報さ。それにしても───」
「?まだ何かあるんですか?」

 澄羅綺が不思議がっていると、嫁神は食事中だったにも関わらず仕事用のパソコンを立ち上げて、何かを確認していることに気が付いた。
 箸を置いて中断した二人も、嫁神の横へ移動してパソコンを覗くとそこには、今やって来ている旅館のクチコミサイトであった。これには思わず二人とも、漫才師のようにズッコケてみせる程である。
 それでも当の本人は、真剣な顔つきでクチコミを眺め続けている。ふざけている訳ではないのかと、再び画面を覗くも何の変哲もないクチコミがスラリと並んでいるだけであった。

「別に普通なことしか書いていないじゃないですか」
「いや、おかしい。なんでだ……」
「澄羅綺君も気が付いたか」

 自分だけ理解出来ていないことにモヤモヤする黎創、一人寂しく自席に戻り箸を持って食事を再開する。取り分け皿に幾つか乗せて、寄凪のもとへ向かった。

「何よ?嫌がらせ?」
「そうじゃなくて、2人だけで事件はまだ終わっていないとか言って、全然分からないからこっちに来たんです。食べるかなと思って、持って来たんですよ。俺はもうお腹いっぱいなので」
「黎創君……、アナタは神ね……」

 キラキラとした目で黎創を見上げ、ヨダレが溢れ出しそうな口を開いている寄凪に、持って来た料理を食べさせようとする。

「え、ちょっと?縄くらい解きなさいよ。食べれないじゃない」
「いや、流石に容疑がかかっているわけだし。俺一人の依存で決めることは出来ないので、俺が食べさせます」

 せっかくのムードが台無しとは、よく言ったものだ。寄凪の場合、災難に災難が重なった最悪の思い出の一ページを、刻む事となる瞬間であった。
 食べられないよりはマシだと、割り切って口を開ける寄凪。その舌に触れる食事は、文句のつけどころがない程に美味であった。口に運び込まれるすべてが、寄凪の置かれている状況の苦しみを忘れさせた。

「どうでもいいんですけど、目……閉じる必要あります?」
「いいから!次ッ!!あ~~ん」

 次々と黎創をこき使って料理を食べる寄凪。頬を緩めて幸せを噛み締める、願わくば拘束されていない状態で自分の意思で堪能したかったと、悔し涙を流しながら次の料理を食べ続ける。
 やがて持ってきてもらった料理を食べ終え、口まで丁寧に拭かせてから飲み物で喉を潤した。すると二人を見ている黎創に向かって、首を向けて言葉を発した。

「事件が終わっていないって話。理解出来てないみたいね」
「え?ええ、まぁそうなんですよ。寄凪さん、自分がなんでまだ疑われているのか分かっているんですか?」
「何となくだけどね。アタシが殺したことになっている……、いや、殺したことにされているゼナァークの構成員は、毒殺されている可能性があるわ。でもあのカップルの使っていた《ポイズンフロッグ》がなせる毒とは、ちょっと違っているのよ」

 つまり、あの場にカップルとは別の傀魔が潜んでいたことになる。その傀魔クリスタルを保有している人間は、何らかの理由で構成員と接触し殺害に至っている。
 それと加えて、今二人がクチコミサイトを見ておかしいと言っている話について、寄凪は続けて話す。
 そもそもの話だ。何故、完全予約制の抽選式宿泊なのにのだろうか。黎創は驚愕する、確かにその通りだと。ならば同時に確認しておくことがある。
 過去はどうなのか。抽選式になる前からリピーターが居て、クチコミをしているのであれば切り替わったタイミングを隠すための、所謂サクラの可能性が生まれてくる。そうなれば何の変哲もないクチコミサイトとして、推理考察からは優先度を下げてもいいのではないかと。

「お?黎創君もなかなかに冴えてきたな。しかし残念だ、その推理は私もついさっきまで候補に入れていたのだがね。このクチコミが上がるようになっているのは、この旅館が抽選式になってからのようだ。それも───」

 すべてアカウントを使用してログインしたものであることを、澄羅綺が別のパソコンでハッキングして確認を完了させていた。
 つまりこれはサクラを使っての自作自演とは、言いきれない部分が大きくなったということである。しかし、謎だけを深めた訳でもない。そこに確認出来たアカウント名から、今回列車に乗車していた人物が二人いることを突き止めていた。
 その内の一人は、寄凪とともに殺人の容疑をかけて拘束していた茅野 芳佳だったのである。彼女はフリーの記者で、この旅館に来たのは今回が初めてと言っていたことを、寄凪は全員に話した。

 何がともあれ、その両名に聴き込みを行なう必要があるとして、夜も更けて来たため一旦は就寝することにする一同。そこへ部屋をノックする音が木霊する。

「み、水祓っ!?た、たた……大変なんだ!?悠逢がっっ!?」
「ゆかり、どうしたんだ落ち着け。大江がどうしたって?」
「露天風呂で、た、倒れたんだ!!し、しかも……明らかに温泉の湯じゃない液体被ってて……。い、今救急車で運ばれて……」

 完全にパニック状態になっているゆかりに対して、落ち着くように言って聞かせる黎創。その後ろで眉間に力の入った剣幕で、嫁神が小さく声を漏らした。

「こんなにも早く、傀魔が動いたというのか?あまりにも……」

 この言葉の意味を理解することは、今の黎創達には無理な話であった。

 黎創は着替えて、大江が搬送された病院までゆかりと共に向かった。澄羅綺と嫁神は、この事を他の旅行客に知らせるのは翌朝にするように目撃者や、騒ぎを聞き付けた人達に言って回るのであった。
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