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終黎 創愛 side
終末と野望の中で
しおりを挟む噂零課。
政府からの後ろ盾を経て、作られた組織。情報統制局が表立ったものとならないように、怪異を人知れず討伐する活動をより正当のものとするため、アリス・ルードが施設した組織。
しかし、それも今一人の男に取っては、無用の長物となり得るため斬り捨てるべき対象となっていた。
「きょ、局長代理……これは────ぐあ……っ……」
「見てのとおりだ。君達、噂零課及び情報統制局は、俺にとってはもう邪魔な存在でしかない。さぁ、早くそこを通してもらうか?」
凡浦 須羽侶。
彼の目的は、創愛達に怪異を呼び覚ますための、実験台となってもらった施設。その地下に眠る【毒酒の女帝】の遺産、空中庭園であった。
本来は、【毒酒の女帝】は自らの血を分けた怪異達を格納し、空へと飛び立ちインフェクターとの決別を謀っていた。そのことを取引の中で知った須羽呂は、人間を利用してきたインフェクターすらも利用し、奪還する計画を立てていた。
「アリス局長はもとより怪異の側の手先であると気付いていた。だから彼女は君達を助けには来ない。最も……、我々の命令を無視したとする怪異ハンターを拘束しに差し向けた局員は全滅した際に残した通信記録から、アリス局長が怪異となった旨の報告があった。今頃は命令違反者の手にかかったか、違反者どもを殺して一般人でも襲っている頃だろう」
情け容赦、人の良心の呵責すら持ち合わせていない口調で語りながらも、局員を着実に一人ずつ葬っていく手を緩めない。とうとう最後の一人となった、局員のエマージェンシーコールに誰も反応しなくなり、須羽呂が首を跳ね飛ばして命を奪った。
「────安心しろ。君達の死に意味はある。これで、世界に新たな秩序を……。人々から同種族を恨み憎しみ合う世界を変えられる────」
最後のシェルターへと続く、セキュリティゲートのダイヤルキーを切り刻みこじ開けて奥へと進んでいく須羽呂。のさりのさりと、最深部へと向かうその足音を掻き消すように、バイクの音が急速に接近して来ていた。
次の瞬間、バイクは須羽呂を目掛けて飛び上がり運転手の手を離れて、真っ直ぐ向かってきた。もちろん、当然のようにバイクを向かってくる箇所から、真っ二つに斬り伏せてバイクを手放した運転手の方を見て口を開いた。
「生きていたんだな……。それで?何をしに来た?」
「決まってんだろ。邪魔しに来た」
少し想定外のことが起きたと肩をすくめると、自分の計画とその目的を語りはじめた。
この世界は戦争が続いている。それも血を流すことある紛争やテロから、領地や食糧を巡ってそれらを所有する権利を、何処が持つべきか。生まれながらに怪異ハンターとして、人生を送ってきた須羽呂は人類に絶望していた。こんな自分勝手で傲慢な生き方をしている人間が蔓延っているなか、世間一般に拡大させまいとそれらの我欲が生んだ怪異を処刑する毎日。
結局、何食わぬ顔で生きている人間の尻ぬぐいのために、命懸けで闘い続けても誰からの賞賛もなく、挙げ句出来ないことがあると、制約まで設けてくる始末。
これでは、怪異に関わったものは生きていようといまいと、政府のいい道具として使い捨てられていくだけだと思った須羽呂は、怪異を世界の敵として知らしめることで、怪異がいる世界を日常化させることが目的となったのだ。
「セミラミスはいい働きをした。奴の【空中庭園】には、君達に使った血毒と性質は同じであれ、濃度はその倍となる変異毒が蓄えられている。俺はその毒を地上に放ち、世界を怪異で溢れ返らせて混沌を創り出す。そして────、人類に人殺しという過ちを取り上げ、怪異の掃討に意識を統一させる。人々はかつての平和を取り戻すために手を取り合っていけるだろう。無論、そうなるまで俺は世界に怪異を放出し続けるっ!!」
「狂ってるよ…………あんた。少なくとも、あたしにこの力をくれたセミラミスって怪異よりは、人間をやめた考え方をしてるよ」
冷めきった目で、須羽呂を見つめて放った創愛の言葉に眉を顰めた。そして、手に持っていたレイピアを、槍に変形させて創愛に向かって投げつけた。
「────来いッ!!【最後の審判】ッ!!」
創愛の掛け声に応じて、天井を貫いて現れた邪剣に槍は弾かれて、須羽呂のもとへと戻った。お互いに主の意志を聞きつけて、生きているかのように一人でに動く武器が両者の手元から離れて、空中で斬り合いを始めながら、持ち主同士も走り寄って激突した。
格闘戦での闘いは、須羽呂の方が実戦経験の数からして、圧倒的に有利。かに見えていたが、創愛は訓練所にいた二ヶ月間組み手を組んだ教官にすら、負けなかった。我流の体術は須羽呂にも有効打を作らせない立ち回りで、終始互角の闘いを繰り広げた。
そして、お互いに武器となる怪異が手元にないのでは、埒が明かないと呼び合うように叫んだ。
【最後の審判】ッ!!
【全能王下す裁き】ッ!!
レイピア形態となったオーディンが、創愛の心臓を狙う。
対して、ドゥームズデイは己が主を庇うように胸前に自ら割り込んで防ぎ、創愛の反撃に転じるという無意識下の意志を、汲み取って動き攻勢に出た。
「その力……厄介だな…………」
「へへっ……。お節介な怪異からの忘れ形見みてぇなもんでなッ!!あんたを止めてくれて、頼まれてんだよッ!!」
鍔迫り合いになる前に押し切って、間髪入れずに持ち上げるように斬り上げた剣身をぶつけて、仰け反ったところにスライディングを入れて攻めの手を止めることなく、進撃を続けた。
須羽呂もただただ後手に回る訳もなく、僅かながらに生まれる隙に突きを入れることで、創愛にかすり傷を与えていた。
「ぬっ……痛────ッ!!うあぁぁ!!!!」
「くっ!?このぉぉぉ!!!!」
肩で敢えて突きを受けた、肉を切らせて骨を断つ捨て身の戦法で距離を詰めて振り降ろした創愛の一撃が、須羽呂の胸の薄皮膚を斬り裂いた。対する須羽呂も、レイピア形態からランス形態へとオーディンの姿を変えて、グリップ部分を創愛の腹部突き当てて薙ぎ飛ばした。
後退りながらも倒れないように耐え切ると、再び突撃してぶつかり合ってそのまま地上に向かって、二つの閃光が螺旋を描いて伸びていき、怪異能力のテストを行なうシュミレーションルームで二手に別れた。
「君にはここで死んでもらう。俺の理想のために────」
「はっ!!その理想のために何人も死んで、あんたの理想が叶った世界では元は人間だった奴らが人類共通の敵となる世界なんだろ?」
そんな世界には、させるわけにはいかない。
例えその考えで、本当に世界から争いの火種を消せたとしても、それが叶った後の清算に、人の生命では償いきれるものではない。その事実を知らないもの達が意味のない平和を手にしたところで、世界は何も変わらないと創愛は確信していた。
同時に創愛は信じていた。そう遠くない未来に、人間も怪異も関係のない。すべてがあって成り立つ意味のある世界が創られていくことを───。いや、創愛は創ると決めた。来幸に託されたこの世界の未来と、セミラミスと約束した誰にも負けず、打ち勝っていく。その二つが終わりと始まりを結び、新しい可能性と選択肢を与えてくれると願い、ドゥームズデイを強く握った。
「───────、ん?…………はは…………」
「何が可笑しい?まぁいい……これで終わりにしてやろう」
「そうだな。スゥ────…………」
金色の光を槍に集約させていく須羽呂と、両眼を閉じ深く息を吸って腰を落とし、剣を構える創愛────。そして、臨界点を迎えた両者の大業が激突する。
━━━仲間との約束を抱いて、自分達の未来を刻めッ!!ドゥームズ、デイッッッ!!!!!!
━━━遍く万象の一切を───、その罪すらも神の絶対零度で凍結させよッ!!ブレス・オブ・オーディンッッッ!!!!!!
須羽呂が槍先を刺し出すと、背後に騎馬を駆る騎士の化身が姿を現し赫く、槍を解き放った。創愛も振るったドゥームズデイから放たれた、黒紫色の斬撃を十字にして迎え撃ち激しい反射を巻き起こして衝突を耐えた。
「ぐ、……ぅぅ────っっ!!??」
「…………。本当に目障りな存在だよ君は。俺の計画の中で《終焉》の力を持つ者は確かに必要であった。感染源を自らが招いたあと、全てをいつでも終わらせられるようになっ!!だが、君はその《終焉》すらも越えた存在をその身体に宿していた」
それが、【最後の審判】だった。須羽呂の計画は、創愛がこの世界に首を突っ込んでアリスの手によって、覚醒させられたあの時から本末転倒した経営計画も同然に、崩れ去っていた。
当初の計画では、アリスと接触しこの施設にセミラミスの持つ空中庭園が、此処に隠されていることが確認さえ出来ればよかった。しかし、奇しくもアリスとセミラミス────、両者が怪異同士の取引で作り出した怪異使いの人間の中に、《終焉》の力を持つ者が現れてしまった。須羽呂は、ことを起こした後に最後の希望を探すという名目で探すつもりだったそれが、事件が起きる前から誕生してしまった瞬間であった。
「だから、俺は君が誕生しなかったことにするべく、命令違反をさせてセミラミスとの同士討ちを謀った。だが、結果は君が俺の邪魔をする形で終わった。ならば────」
ここで消す。ここで終わらせる。
すべては己が正義となる新たな世界を始めるために───。
「その世界に君は、いや…………貴様は必要ないっっ!!!!」
「────。」
「この一撃が世界の在り方を変えるっ!今こそ、我ら怪異ハンターを起点に世界から争いの火種を注ぐ。そして、我ら人類は新たな転換を迎えるっ!!」
言葉が強くなるのに合わせて、槍の放った一閃が斬撃を押していき、創愛のもとに迫ったいく衝突光。すると、創愛はドゥームズデイを握る手を緩めて、右手の手相を見るように見つめ始めた。そこには、先程刺し違えて吐血した際に口元を押さえて、着いた血が紅く染めていた。
そう、創愛の血は赤かったのだ。怪異の力を酷使したり、怪異に呑まれた人間は等しく黒い血を流す。同時にそれは、セミラミスの毒血によって強制的に力を覚醒された、代伊伽や蘇鉄も例外なくこの症状を引き起こしていた。先の戦闘で初めて【最後の審判】を手にした時から、それほどの時が経っていないにも関わらず、創愛の血は人間のソレであった。
創愛は、それを見て大業を撃つ前のように鼻で笑った。そして、今一度ドゥームズデイを強く握りしめて、スピードスケート選手のように姿勢を落として衝突光を目掛けて、スタートダッシュをきった。
「何っ!?自殺行為だ!?!?」
「あたし達は────、ここから始まるッッッ!!!!!!」
創愛が頭上に真っ直ぐ伸ばした、ドゥームズデイを地面に直線を描いて振り降ろしたタイミングで、十字からクロスになるように回転し、アスタリスク状の斬撃となった。創愛は身体を回転させながら勢いをつけるべく、後ろに下がり右手でアスタリスクの中心を捉えるように差し出した。左手で剣を握り、弓に矢を込めて引く姿勢を取り斬撃を突き刺した。
━━四重奏の終止符ッッッ!!!!
創愛、代伊伽、蘇鉄、そして来幸。四人の想いを一つにするようにそう呼称し、全力で叫び【全能王下す裁き】の大業との衝突光に向けて斬り放った。
己の身を省みずに、前進した目の前で反発して爆散する光。創愛はもちろん、力を注ぎ続けていた須羽呂も吹き飛んだ。
同時にシュミレーションルームだけでなく、研究施設の地上階一帯は消し飛んでいた。辺りには、建設物が確かにあったであろう痕跡を残す程度にしか、何も残っていなかった。
建物が二人の放った光によって消し去る前に、創愛は背中を壁に打ちつけた拍子にドゥームズデイを手から手放してしまい、そのまま床に落ちて気を失ってしまった。激しい砂煙で辺りが覆われて静かに地上風が冷たく吹き抜けて行った。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
「…………、くっ────、はっ!?」
「終わりだな……」
衝撃を受けて、壁に叩きつけられてから意識を取り戻した創愛。だが、立ち上がろうとしたところに、須羽呂のレイピアの切っ先が創愛の急所を捕らえていた。
なんと、須羽呂は反発して破裂する寸前で、化身を差し向けながらランス形態を解きレイピア形態にすることで、直撃を退いていたのだ。しかし、急な変形に耐えられなかった【全能王下す裁き】は、もうランス形態に戻すことが出来なくなっていた。
だが、そんなものはもう関係のないことであった。
「貴様の負けだ」
「はは。────なぁ?」
「ん?」
「あたしの血────、赤いんだよ……?」
創愛は自分からレイピアの切っ先に、首の薄皮をわざと斬らせて、血を流して見せた。確かに、零れ落ちた血は一滴もその色を変えすことなく、鮮血色をしていた。それがどうしたと首を傾げている須羽呂に、創愛は半笑いしながら問いかけた。
「こんだけ人の道を外れた考え方で、沢山の人を殺してきたあんたの血は……何色なんだろうなって思ってさ……?」
「────下らん。その減らず口を遺言にあの世にいけっ!!」
今度は、須羽呂が矢を引くようにレイピアを引いて、狙いを定める。一息に創愛の生命を奪うために────。トドメを刺そうとした次の瞬間、目の前に居る創愛の姿すら見えない濃霧が辺りを包み出した。
それはシュミレーションルームまで上がってくる最中に、穿った穴から沸き立っていた。須羽呂は濃霧を起こしたものが、創愛が乗っていたバイクであると直ぐに理解出来た。すると、創愛がその一瞬で須羽呂の膝関節に脚を入れて、体勢を奪い生じた隙で立ち上がった。しかし、その手にはドゥームズデイはなく窮地を救ってくれた濃霧のせいで、どこにあるのかも分からなかった。
創愛は、口を開いて小さく呟いた。
「ありがとよ……来幸。おかげであたしは、まだ戦えるよ」
「やはりこの霧はあの女の力か。それも、バイクに仕込んでおいた1回きりのギミックのようだが?────ん?それは……」
須羽呂は見えにくい視界の中、捉えたのはレッドポーション。
それは本来、自身の手元に届き試験的に効果を試す予定であった霊薬。八百谷がもとから持つ怪異、【八百比丘尼】の力を見込んで彼女を誘致し、血液を抜き取り製造させた霊薬を、創愛は飲み干していき傷を治していく様子からして、実験は成功したことをその目で確かめることは出来た。だが、不服気味に「やはり貴様は危険だ」と口にして、斬りかかる。
創愛は大して関わらずに居た、八百谷にも感謝を内心でしつつも、須羽呂の攻撃を避けながら着ていた代伊伽のジャケットを脱いで、腕に巻き付けると、ジャケットが水色に輝くオーラを纏う。すると、ドリル状に腕に巻き付けたジャケットに宿った。
須羽呂の突き攻撃をジャケットで受け流して、螺旋を描くコークスクリューを胸部に叩き込んだ。一発、二発と強く強く。何度も。何度も。これまで利用されてきて、家族との再会を果たすのに苦労した代伊伽に代わって、想いをぶつけるように踏ん張って強打をみぞおちに加えていく。
「ぶほっ、はぁ!?」
「お次はこれだッ!!」
「んぼぉあ!?!?」
倒れずに耐え忍び、向き直った須羽呂の口に蘇鉄に託されたクッキーを押し込んで、ニヒッと笑って離れた。戦闘中に味もしない異物を口に入れらたと、須羽呂は口から吐き出して掌に乗せ、それがクッキーであると見るやプライドをズタズタにされた貴族でも、しないような顔で苛立ちを見せて握り潰した。
「爆発っ!────って言うんだっけ?蘇鉄はさ……?」
創愛のかけ声でクッキーが爆発して、須羽呂の左腕が吹き飛んだ。
蘇鉄は訓練施設を出てから、噂零課の情報部に入隊していた。もちろん、同じ所属の須羽呂のことを知らないわけもなく、そのやり方にかなりの不満をいただいていた。
『あの阿呆にいっぱい食わせてやってほしいんや♪最も、そんなびっこじゃあいっぱいにはならへんけどねぇ♪』
創愛は蘇鉄ならそうするだろうと、須羽呂の神経を逆撫でするように敢えて口の中へ、押し込んでから皮膚に付着するタイミングが生まれることにかけて、行動に出ていた。正直にいって、賭けに近い方法ではあったが、須羽呂を追い詰めることに成功した。
片腕を失いながらも、戦意を失わずにレイピアを構えて向かってくる姿は、最早人間と呼べるものではなかった。ため息を零しながら、よろよろと近付いてくる須羽呂に抱きつく創愛。自身の胸を押し付けるほどに深く、抱きついてきた創愛に動揺した次の瞬間────。
チクッ...!!
須羽呂の腹部に一瞬痛みが走った。それも、片腕を失った痛みに直ぐ掻き消されたために、何をされたのか分からなかった。耳元で今起きたことを理解させる一言を、創愛は浴びせた。
「よかったな。これであんたの目指した正義の象徴になったぜ……」
肩を押して、突き放した創愛の手には注射器が握られていた。
───『これを……使うが、いい……』
それは【毒酒の女帝】から託された、最後の血毒薬だった。須羽呂は、身体を硬直させつつも刺された衝撃を憶えた部分へと、恐る恐る視線を落とした。言葉を失いながら後ずさっていくなか、顔色も徐々に優れなくなっていっていた。
「来幸……それから八尾谷。代伊伽……蘇鉄、セミラミス……。これで終焉だ────……」
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!!!!」
完全に錯乱してしまった須羽呂は、やけくそにレイピアを振り回しながら創愛を目掛けて、一直線に向かってきた。
創愛は小さく、ここまでやってこれたことは仲間の助けがあってこそと、呟いて剣を持っていない両手を剣を振るように、エアーモーションをして須羽呂を迎え討った。すると、創愛の持ち手に光が宿りはじめた。
━━終幕を飾る五重奏ッッッ...
刺し違えた須羽呂は、その身を大回転させながら地に倒れ付した。
斬り伏せた創愛の手には、時を越えて修復を果たした【終焉の秒針】がブレイドモードで握られていた。
まるで、演奏を終えた演奏者と指揮者。その頭上で、六色の光の玉がお互いを求め合うかのように、ゆらゆらと円を書いて空へと履けて行った。創愛はその様子を、自分とここまでの道のりをともにして意志を交わした敵味方を重ねて、見送ると踵を返して、まだ息のある須羽呂の方へ歩みをはじめた。
「それで、さっきの質問なんだけどさ……。あんたの血の色は何色なんだ?」
「く、くふ……ぅ。化け物めっ……、プッ────ググッ。いいのか?ここで俺を殺せば、上官殺しだぞ?」
既に怪異の反発作用が生じて、満足に思考が回らない須羽呂が顔を創愛の方へ向ける。その眼は両眼で異なる色、形状をしており怪異に半身が侵食を受け始めていた。
さながら、絵に収められた天使と悪魔を一人の人間が表現すると、こうなるといった風貌をしている。しかし創愛は、それを見届けることなく首を跳ねた。
「忘れたのかよ……。あたしはもう噂零課じゃないだろ……。それに不安がらなくても、あんたはとっくに人間じゃなかったみたいだぜ……」
創愛が見つめたラグナロッカーには、ドス黒い血がべっとり着いていた。水のついた傘の水を払うように、ラグナロッカーに着いた血を振り払った。同時に、霧が晴れていった。
これにて一件落着。───とはいかず、創愛はそのまま穿った大穴に飛び込み、須羽呂がこじ開けた最深部へと続くゲートを潜って、【毒酒の女帝】の大きな忘れ物である空中庭園のある場所へと、向かうのであった。
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