歪みゆく世界と結晶奇術師 〜奇術屋ーバンジーへようこそ〜

韋虹姫 響華

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第0章

プロローグというものは、いつもこう……

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 パトカーのサイレンが鳴り渡る。
 真夜中。高層ビルから一人の中年男性が転落死した。駆けつけた刑事の一人がハンカチで口元を押さえながら、仏さんの状態を確認する。

「頭部を打ち付けられて、顔の方はほとんど原形を留めていません」
「こりゃあ酷い……。うっ、それで?何がおかしな点なんだ?」

 刑事は嘔吐きながら、ブルーシートを被せてその場から踵を返す。横を着いてくる臨床班の男性は説明を続ける。

 一見すれば、人間が同士が目合ってビルの上層階から突き落とした。それくらいの問題だろう。ところが驚くべきは、人体の外傷から落下した時よりも前に死亡推定時刻を過ぎていると言うのだ。
 死体は落下させられるよりも前に、一度死んでいるとしか考えられない。

「ちょっと待ってくれ。司法解剖はまだやっていないのだろう?なのになんでそんなことが言えるんだ?」
「お気づきになりませんでしたか?あの仏さん、身体が凍っているんですよ。それもまだ凍り続けていて……」

 その一言で、死体は有り得ない方法で亡くなっていることが明らかだ。

 通常凍死とは、体温が低体温を迎えてから溺水状態となって絶命することであって、本当に氷漬けになって凍りつくことを意味していない。
 これでは本当に凍死したことになるのだが、一つ大きな問題がある。気温だ。今の気温は冬時期であるとはいえ、精々がプラス気温の9℃。氷点下にもなっていない空間で、体内をも凍らせるとなると冷凍倉庫にでも裸で入れておかない限り、簡単には出来ないだろう。

「これは超常犯罪……!?いや、待て!この高層ビル内に瞬間冷凍出来る何かが……」
「それならありませんよ」
「────ッ!?」

 刑事がこじつけにも近い方法で、無理矢理にでも推理しようとする背後から女性の声が、刑事の推理を否定した。

 振り返った刑事達。すると、臨床班の男がうわっと嫌な顔をする。また来たよとすら言いたげな表情に、刑事は不思議に思い視線を交互に向ける。

「瞬間冷凍という線は頂いておきましょう。こんな肌寒いくらいの真夜中に、落下死に見せかけた凍死体……。やれやれ……」
「き、君?警察関係者では、なさそうだが?」
「む?おや失礼。実は私、こういうものでして」

 そう言うと、女性は懐から名刺を取り出して刑事に渡した。
 探偵事務所ムメイの嫁神かがみ 御稞みら。まるで色落ちでもしたのかというくらいに、透き通った銀の髪。紅い瞳。コートの下にはブレザーを着ているかと思えば、へそ出しのワイシャツを着ている。
 何ともヘンテコな格好であるがゆえに、刑事はこの名刺も偽物なのではないかと疑いの目を向ける。

「これで同様の犯行は5件目になりますよね、刑事さん?」
「え?あぁ……」
「はい。そうですね。この死体も恐らくは、同様の事象であると司法解剖しなくても判断されるでしょうから。まったく……探偵気取りが現場だけ荒らして…………」

 臨床班の男は女探偵にわざと聞こえるように、小言を零しながら撤収作業に加わりに消えて行った。
 これが初めての殺人ではないと知った刑事は、同様の事件が多発していることを知っていた女探偵を呼び止める。何故、そうまでして事件を追っているのか。

「探偵が危険に首を突っ込むとすれば、考えられるのは一つですよ。依頼があったからです、その犯人である人の────ご親族から……」

 その一言だけを残し、女探偵は踵を返して事件現場を去る。重要参考人として、任意同行を依頼することも出来る刑事。だが、追いかけることが出来なかった。
 刑事は彼女の背中に、異様な雰囲気を感じ取っていた。あの女探偵も謎の変死体も、あまりにも現実離れし過ぎて脳が追いつかないだけだったのかもしれないと、後にその刑事は語るのであった。


 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


(───さて、これ以上依頼人を悲しませないためにも、そろそろ星を押さえなくてはね)

 暗い夜道を歩く嫁神は、心の声でそう呟いた。
 手元に控えてあるメモを覗き、次に向かう場所を定めてメモを細かく裂いてライターを取り出す。
 まるで煙草に火でも点ける手捌きでメモだった紙切れを燃やし、地面に踏みつけて鎮火させるとゴミ箱に燃えカスを入れた。

(やれやれ、プロローグというものはいつも────どうしてこう、味気のないものなのだろうか?)

 推理するまでもないことだから。嫁神にとっては、この事件は既に解決済みだ。

 謎解きまでが楽しいが、その後は楽しくはないといった態度で歩みを再開する嫁神。彼女の向かう先は一体───。
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