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【陸】百々目登場
②
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広間の一部が、警察関係者の宿泊に貸し出されるようだ。襖が閉じられ、後ろの八畳ふたつが仕切られた。彼らの食事は、青梅の仕出し屋からそこへ運ばれる。
来住野家の一同は、広間と廊下を挟んだ食堂で、不知火家は洋館で。亀乃がそれぞれに食事を運ぶ。
「お手伝いするわよ」
桜子が声を掛けるが、
「私の仕事ですから」
と断られた。桜子は何とか、この不憫な働き者と仲良くなり、その心を開きたいのだ。
そのための方策として、二人は炊事場に隣接した配膳室で食事を取る事にした。
「……今日の煮物も美味しいわ。この厚揚げなんで、中までお出汁が染みてて絶品よ」
桜子は実に美味しそうにものを食べる。見ていて清々しいほどだ。洗い物をしながら、亀乃が笑った。
「ありがとうございます」
零も倣ってみる。
「この焼き魚は鮎ですか? 独特の味付けが良い味です」
「それは鯵の開きです」
「…………」
零は桜子の白い目から逃れようと、ひとつ咳払いをして話題を変えた。
「亀乃さんは、いつからこちらで?」
「三年前からです。松子様がご結婚され、こちらに住まわれると決まった直後です」
「……え、じゃあ、あなた小学生の時から働いてるの?」
すると、亀乃は目を伏せた。
「父が早くに亡くなり、母は病弱で。弟や妹が多いので、私が働いて家計を支えています」
「それは大変ね……」
だから、十四郎にあのような折檻を受けても、逃げ出す事もできないのだろう。
「今、こちらのお屋敷で住み込みをされているのは、亀乃さんと貞吉さんの、お二人だけなんですよね」
「はい。松子様と清弥様のお住いを建てるために、使用人用の別棟が壊される事になって、他の方たちはその時に雇い止めに。お年を召した方が多かったですが」
「亀乃ちゃんのお部屋、今朝見たわ。あれは酷くない? 炊事場の横なんだけど、元物置よね? 土間にスノコが敷いてあるだけじゃない」
「貞吉さんよりはマシです。昔々に建てられた長屋門の中なんて、私、怖くて」
「貞吉さんは、いつ頃からあそこに住んでおられるのですか?」
「私がこちらに来た時には、もうおられました。……多分、十何年かにはなるんじゃないかと」
零は眉を寄せた。大々的に使用人を切る機会が三年前にあったにも関わらず、なぜ、あの愚鈍な彼を引き続き雇っているのか。……それと、ひとつ裏を取っておく必要がある。
「……彼は時々、お茶を盗み飲みしているようですね。それはご存知でしたか?」
「ええ。でも、どうせ捨てるものだし、そんな小さな事を告げ口して、貞吉さんが叱られるのは、可哀想なんで」
「見て見ぬふりをしていたと」
「はい」
「昨晩も貞吉さんは、こちらでほうじ茶を盗み飲みしたそうですね」
「そうみたいです。刑事さんにも聞かれました。私は見ていませんと答えましたけれど……」
零にはその言い方が引っかかった。
「――けれど……?」
すると亀乃は洗い物の手を止めた。
「ちょっと、気になるんです。……いつも貞吉さんがお茶を飲む時は、急須を空にするんです。でも昨日は、残っていました」
「…………」
零と桜子は顔を見合わせた。
――夜七時。
広間の後方の襖には、入れ代わり立ち代わり出入りはあるが、前方の床の間の前に並んだ人々には、関係のない事だった。
すっかり日の落ちた百合御殿だが、今宵の百合園は闇に包まれている。燃え尽きた篝火も片付けられ、屋敷のある一角のみ、石灯籠の明かりがぼんやりと照らしていた。
広縁越しに見えるそんな景色の中に蛍を見つけて、桜子はそれを眺めていた。
床の間を背に正座をするのは、百々目と喜田である。
彼らと向き合うように、来住野家の面々と不知火夫妻、そして貞吉と亀乃が並ぶ。来住野梅子は普段通りの姿に着替えていた。フリルを多用した、首から指先までを覆うドレスに、レースのタイツも履いている。左耳の上の、白百合の髪飾り越しに見える表情は、人形のように皆無だった。
彼らから少し離れて、犬神零と桜子が並んで座る。……零は百々目に参席するよう言われたらしいが、桜子は場違いさを覚えて、目をキョロキョロと泳がせていたのだ。
三つ揃いで包んだ背筋をピンと伸ばし、百々目は口を開いた。
「ご挨拶が遅れました。私は、警視庁から派遣された、百々目と申します。捜査本部のお手伝いをさせて頂きます」
女性陣が軽く頭を下げる。十四郎と不知火清弥は姿勢を変えない。
「さて、この度の、ご令嬢・来住野竹子氏殺害事件についての捜査状況を、改めてご報告したく、お集まり頂きました。
――まずは、村の診療所の菊岡医師と、青梅の監察医の見立てにより検死の結果ですが……」
喜田が百々目に書類を渡す。
「死亡推定時刻は、今朝、七月二十日の午前零時から二時の間、死因は、紐状のもの――つまり、注連縄です――によって、首を梁に吊るされた事による縊死。遺体と現場の状況から、殺害現場は遺体発見現場と同じ、天狗堂であると推測されます」
これは、赤松の見立てと同じである。一度聞いた内容のため、一同に反応はない。
「……そして、殺害事件であるからには、犯人が必ず存在します。それを特定し、逮捕する事が、我々警察の役目です。それと同時に、関係者の皆様には、その捜査に協力する義務が生じます。その際に、隠し立てをしたり嘘を言ったりすれば、別の罪に問われる場合もありますので、是非正直に、ありのままをお話しください」
言葉遣いは柔らかいが、彼の言葉には、有無を言わせぬ説得力がある。百々目はそう言って、黒表紙の綴りを一同に見せた。
「ここに、赤松警部補が皆様にお聞きした、昨晩、祭りが終わった午後八時頃から今朝までの行動を示したものがあります。来住野十四郎氏にも、先程お話をお伺いしました。――その中で、私は被害者の死亡推定時刻、つまり、深夜零時から二時に掛けてのアリバイを重点的に調べました」
百々目は調書の綴りを膝に置き、一同を見渡した。
「それによると、不知火清弥氏以外、皆様にアリバイは存在しない事になります」
「なぜ、こいつにだけアリバイがあるんだ!」
十四郎が清弥を睨んだ。
「昨夜、清弥氏は銀座で飲酒され、泥酔しておられた。それは、彼をこの屋敷まで送ったハイヤーの運転手にも、当時長屋門で見張りをしていた警官にも、確認は取れています。そして……」
と、百々目は零を見た。
「犬神探偵の調査により、竹薮で酔い潰れておられた痕跡が見つかりました。現在、その物証となる物を検証に出していますが、まず間違いないでしょう」
十四郎は不機嫌に鼻を鳴らした。
「捜査は振り出しに戻った、という奴か」
「いや、そういう訳でもありません。……先程、青梅に行った赤松警部補から連絡がありました。これも、犬神探偵の発案のようですが、昨晩出されたほうじ茶に、睡眠薬が混入されていた可能性があり、調べて貰いました」
百々目の言葉に、一同は息を飲む。
「これは、薬品反応を見れば簡単に調べられるのです。――結果、十分に効力を発揮するだけの、睡眠薬が検出されました」
一同がざわめく。百々目は再び調書の綴りを示した。
「このため、ここにある皆様の行動に於ける事情が大きく変わってきます。――つまり、ほうじ茶を飲んだ方には、アリバイがあるという意味です。睡眠薬で確実に眠らされていた訳ですから」
零と桜子も顔を見合わせる。――彼らにもまた、確実なアリバイがあったのだ。
「その視点で見直すと――、アリバイの証明ができないのは、来住野梅子さん、あなたは紅茶を好まれ、ほうじ茶は飲まれない。そして、亀乃さん、あなたはお茶を飲まれない」
「待て、貞吉も入るだろう」
「彼は時折、お茶を盗み飲みしていました。昨晩も飲まれていたようですね」
「……すんません」
貞吉は首を竦めた。
「……でも、そうなるとおかしいわ。竹子がお茶を飲んだところを、私、この目で見たもの」
そう言ったのは松子である。
「どうやって天狗堂にまで行ったのかしら?」
「ほうじ茶を飲んだ直後、睡眠薬の効果が出る前、とも考えられますね」
百々目が口髭を撫でる。
「彼女が天狗堂で寝入っていたところを殺害するのなら、犯人としてもやりやすいでしょう」
「待ってください」
声を上げたのは犬神零だ。
「ご家族のアリバイとしてはそうなります。しかし、動機の点から考えると、外部の者の犯行という可能性もあるのではありませんか?」
「――つまり、天狗伝説という奴ですな」
百々目は答えたが、その目は冷めていた。
「屋敷の周囲を見ましたが、ここは戦国時代、砦となっていた場所です。周囲を石垣に囲まれ、実に隙がない。……水川咲哉君の言っていた抜け道も確認しましたが、あれは普通の人間が通れる場所ではありません。祭り関係の村人には全員当たりましたが、全員、誰かと行動を共にしており、この屋敷へ忍び込むだけの時間があった者はいませんでした。……強いて言えば、善浄寺の住職ですが、今朝の様子を見た人の話によると、竹子さんの死を、とても驚いていたそうですね。殺害した犯人の反応とは思えないのです。
……何より、彼らが炊事場のほうじ茶の茶筒に、睡眠薬を混入できた可能性は、極めて低い」
「水川咲哉さんが、まるいやの勝太君と、つづら折れの下で会ったという証言の裏付けは?」
百々目が喜田に視線を向ける。すると、喜田が代わりに答えた。
「それが、彼は今朝から、遠い親戚に不幸があったとかで、出掛けていまして。喪中で祭りを遠慮するほどの間柄ではなく、彼はなぜか祭りには来たがらないので、彼を家族の代表として、ひとりで行かせたそうです。かなり遠いので、帰りは明日か、明後日になるかもしれません。一応、用件が済んだらすぐ帰るよう、電報を打っておきました」
「……つまり、咲哉さんの証言は嘘である、という可能性も、現状否定できない、と」
百々目は頷いた。
「――あと、昨晩、祭りで見かけた不審者は……」
すると、百々目が新聞の切り抜きを見せた。
「今日の夕刊の消息欄です。……権藤議員の秘書が、心不全で亡くなっています。私から言えるのはそれだけです」
来住野家の一同は、広間と廊下を挟んだ食堂で、不知火家は洋館で。亀乃がそれぞれに食事を運ぶ。
「お手伝いするわよ」
桜子が声を掛けるが、
「私の仕事ですから」
と断られた。桜子は何とか、この不憫な働き者と仲良くなり、その心を開きたいのだ。
そのための方策として、二人は炊事場に隣接した配膳室で食事を取る事にした。
「……今日の煮物も美味しいわ。この厚揚げなんで、中までお出汁が染みてて絶品よ」
桜子は実に美味しそうにものを食べる。見ていて清々しいほどだ。洗い物をしながら、亀乃が笑った。
「ありがとうございます」
零も倣ってみる。
「この焼き魚は鮎ですか? 独特の味付けが良い味です」
「それは鯵の開きです」
「…………」
零は桜子の白い目から逃れようと、ひとつ咳払いをして話題を変えた。
「亀乃さんは、いつからこちらで?」
「三年前からです。松子様がご結婚され、こちらに住まわれると決まった直後です」
「……え、じゃあ、あなた小学生の時から働いてるの?」
すると、亀乃は目を伏せた。
「父が早くに亡くなり、母は病弱で。弟や妹が多いので、私が働いて家計を支えています」
「それは大変ね……」
だから、十四郎にあのような折檻を受けても、逃げ出す事もできないのだろう。
「今、こちらのお屋敷で住み込みをされているのは、亀乃さんと貞吉さんの、お二人だけなんですよね」
「はい。松子様と清弥様のお住いを建てるために、使用人用の別棟が壊される事になって、他の方たちはその時に雇い止めに。お年を召した方が多かったですが」
「亀乃ちゃんのお部屋、今朝見たわ。あれは酷くない? 炊事場の横なんだけど、元物置よね? 土間にスノコが敷いてあるだけじゃない」
「貞吉さんよりはマシです。昔々に建てられた長屋門の中なんて、私、怖くて」
「貞吉さんは、いつ頃からあそこに住んでおられるのですか?」
「私がこちらに来た時には、もうおられました。……多分、十何年かにはなるんじゃないかと」
零は眉を寄せた。大々的に使用人を切る機会が三年前にあったにも関わらず、なぜ、あの愚鈍な彼を引き続き雇っているのか。……それと、ひとつ裏を取っておく必要がある。
「……彼は時々、お茶を盗み飲みしているようですね。それはご存知でしたか?」
「ええ。でも、どうせ捨てるものだし、そんな小さな事を告げ口して、貞吉さんが叱られるのは、可哀想なんで」
「見て見ぬふりをしていたと」
「はい」
「昨晩も貞吉さんは、こちらでほうじ茶を盗み飲みしたそうですね」
「そうみたいです。刑事さんにも聞かれました。私は見ていませんと答えましたけれど……」
零にはその言い方が引っかかった。
「――けれど……?」
すると亀乃は洗い物の手を止めた。
「ちょっと、気になるんです。……いつも貞吉さんがお茶を飲む時は、急須を空にするんです。でも昨日は、残っていました」
「…………」
零と桜子は顔を見合わせた。
――夜七時。
広間の後方の襖には、入れ代わり立ち代わり出入りはあるが、前方の床の間の前に並んだ人々には、関係のない事だった。
すっかり日の落ちた百合御殿だが、今宵の百合園は闇に包まれている。燃え尽きた篝火も片付けられ、屋敷のある一角のみ、石灯籠の明かりがぼんやりと照らしていた。
広縁越しに見えるそんな景色の中に蛍を見つけて、桜子はそれを眺めていた。
床の間を背に正座をするのは、百々目と喜田である。
彼らと向き合うように、来住野家の面々と不知火夫妻、そして貞吉と亀乃が並ぶ。来住野梅子は普段通りの姿に着替えていた。フリルを多用した、首から指先までを覆うドレスに、レースのタイツも履いている。左耳の上の、白百合の髪飾り越しに見える表情は、人形のように皆無だった。
彼らから少し離れて、犬神零と桜子が並んで座る。……零は百々目に参席するよう言われたらしいが、桜子は場違いさを覚えて、目をキョロキョロと泳がせていたのだ。
三つ揃いで包んだ背筋をピンと伸ばし、百々目は口を開いた。
「ご挨拶が遅れました。私は、警視庁から派遣された、百々目と申します。捜査本部のお手伝いをさせて頂きます」
女性陣が軽く頭を下げる。十四郎と不知火清弥は姿勢を変えない。
「さて、この度の、ご令嬢・来住野竹子氏殺害事件についての捜査状況を、改めてご報告したく、お集まり頂きました。
――まずは、村の診療所の菊岡医師と、青梅の監察医の見立てにより検死の結果ですが……」
喜田が百々目に書類を渡す。
「死亡推定時刻は、今朝、七月二十日の午前零時から二時の間、死因は、紐状のもの――つまり、注連縄です――によって、首を梁に吊るされた事による縊死。遺体と現場の状況から、殺害現場は遺体発見現場と同じ、天狗堂であると推測されます」
これは、赤松の見立てと同じである。一度聞いた内容のため、一同に反応はない。
「……そして、殺害事件であるからには、犯人が必ず存在します。それを特定し、逮捕する事が、我々警察の役目です。それと同時に、関係者の皆様には、その捜査に協力する義務が生じます。その際に、隠し立てをしたり嘘を言ったりすれば、別の罪に問われる場合もありますので、是非正直に、ありのままをお話しください」
言葉遣いは柔らかいが、彼の言葉には、有無を言わせぬ説得力がある。百々目はそう言って、黒表紙の綴りを一同に見せた。
「ここに、赤松警部補が皆様にお聞きした、昨晩、祭りが終わった午後八時頃から今朝までの行動を示したものがあります。来住野十四郎氏にも、先程お話をお伺いしました。――その中で、私は被害者の死亡推定時刻、つまり、深夜零時から二時に掛けてのアリバイを重点的に調べました」
百々目は調書の綴りを膝に置き、一同を見渡した。
「それによると、不知火清弥氏以外、皆様にアリバイは存在しない事になります」
「なぜ、こいつにだけアリバイがあるんだ!」
十四郎が清弥を睨んだ。
「昨夜、清弥氏は銀座で飲酒され、泥酔しておられた。それは、彼をこの屋敷まで送ったハイヤーの運転手にも、当時長屋門で見張りをしていた警官にも、確認は取れています。そして……」
と、百々目は零を見た。
「犬神探偵の調査により、竹薮で酔い潰れておられた痕跡が見つかりました。現在、その物証となる物を検証に出していますが、まず間違いないでしょう」
十四郎は不機嫌に鼻を鳴らした。
「捜査は振り出しに戻った、という奴か」
「いや、そういう訳でもありません。……先程、青梅に行った赤松警部補から連絡がありました。これも、犬神探偵の発案のようですが、昨晩出されたほうじ茶に、睡眠薬が混入されていた可能性があり、調べて貰いました」
百々目の言葉に、一同は息を飲む。
「これは、薬品反応を見れば簡単に調べられるのです。――結果、十分に効力を発揮するだけの、睡眠薬が検出されました」
一同がざわめく。百々目は再び調書の綴りを示した。
「このため、ここにある皆様の行動に於ける事情が大きく変わってきます。――つまり、ほうじ茶を飲んだ方には、アリバイがあるという意味です。睡眠薬で確実に眠らされていた訳ですから」
零と桜子も顔を見合わせる。――彼らにもまた、確実なアリバイがあったのだ。
「その視点で見直すと――、アリバイの証明ができないのは、来住野梅子さん、あなたは紅茶を好まれ、ほうじ茶は飲まれない。そして、亀乃さん、あなたはお茶を飲まれない」
「待て、貞吉も入るだろう」
「彼は時折、お茶を盗み飲みしていました。昨晩も飲まれていたようですね」
「……すんません」
貞吉は首を竦めた。
「……でも、そうなるとおかしいわ。竹子がお茶を飲んだところを、私、この目で見たもの」
そう言ったのは松子である。
「どうやって天狗堂にまで行ったのかしら?」
「ほうじ茶を飲んだ直後、睡眠薬の効果が出る前、とも考えられますね」
百々目が口髭を撫でる。
「彼女が天狗堂で寝入っていたところを殺害するのなら、犯人としてもやりやすいでしょう」
「待ってください」
声を上げたのは犬神零だ。
「ご家族のアリバイとしてはそうなります。しかし、動機の点から考えると、外部の者の犯行という可能性もあるのではありませんか?」
「――つまり、天狗伝説という奴ですな」
百々目は答えたが、その目は冷めていた。
「屋敷の周囲を見ましたが、ここは戦国時代、砦となっていた場所です。周囲を石垣に囲まれ、実に隙がない。……水川咲哉君の言っていた抜け道も確認しましたが、あれは普通の人間が通れる場所ではありません。祭り関係の村人には全員当たりましたが、全員、誰かと行動を共にしており、この屋敷へ忍び込むだけの時間があった者はいませんでした。……強いて言えば、善浄寺の住職ですが、今朝の様子を見た人の話によると、竹子さんの死を、とても驚いていたそうですね。殺害した犯人の反応とは思えないのです。
……何より、彼らが炊事場のほうじ茶の茶筒に、睡眠薬を混入できた可能性は、極めて低い」
「水川咲哉さんが、まるいやの勝太君と、つづら折れの下で会ったという証言の裏付けは?」
百々目が喜田に視線を向ける。すると、喜田が代わりに答えた。
「それが、彼は今朝から、遠い親戚に不幸があったとかで、出掛けていまして。喪中で祭りを遠慮するほどの間柄ではなく、彼はなぜか祭りには来たがらないので、彼を家族の代表として、ひとりで行かせたそうです。かなり遠いので、帰りは明日か、明後日になるかもしれません。一応、用件が済んだらすぐ帰るよう、電報を打っておきました」
「……つまり、咲哉さんの証言は嘘である、という可能性も、現状否定できない、と」
百々目は頷いた。
「――あと、昨晩、祭りで見かけた不審者は……」
すると、百々目が新聞の切り抜きを見せた。
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