課長のケーキは甘い包囲網

花里 美佐

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彼の誕生日



 彼の誕生日。

 私の作ったものは、ハンバーグ。そして付け合わせ。スープにサラダ。ごく普通の夕食だが、ハンバーグには色んな野菜が入っている。切った断面は赤黄緑色が混ざっている。スープはカボチャのポタージュにした。

 そう、彼はコンビニでカボチャプリンを勧めてきた人。カボチャが大好きらしいが、季節ではないので冷凍のものを使って作った。

 彼のキッチンにはフードプロセッサーやブレンダー、ミキサーなどもたくさんある。それを使って作ると時短になってとても便利だし、たくさんの材料を一度に切って混ぜることも出来るから、野菜を多く使える。

 包丁使いの下手な私には本当に強い味方。このたくさんの機械を使って色々作る。ハンバーグもお肉以外に色々入れたりして私らしいものを作った。

「ただいま」

「お帰りなさい。お疲れ様でした。早くあがってくれたんですね」

 彼は、テーブルを見て驚いている。

「すみれ、飾り付けうまいな。さすが料亭の娘」

「……そうですか?嬉しいな」

「今年の冬はあちらに帰省したら少し手伝って驚かせてやれ」

 そんな……自信ない。どうせ、求められるものの水準が高すぎる。彼が私の頭を撫でた。

「大丈夫だ。俺も一緒に行ってやるぞ」

「え?」

「さてと、食べよう。美味しそうだ」

「準備しますので、先に着替えてきてください」

「ああ」

 彼はテーブルに並ぶ料理を見て嬉しそうに座った。

「お誕生日おめでとうございまーす。カンパーイ」

「うん、うまいぞ。合格だ。特にこのカボチャのポタージュうまいな」

「本当ですか?ありがとうございます、カボチャプリンの師匠のお陰です」

 ふたりで顔を見合わせて笑い出した。その後、彼は真面目な顔をして話し出した。

「今思えば……すみれは俺の作ったものを食べる度に美味しいと褒めてくれて、俺に笑顔を見せてくれた。そのお陰で原点に立ち返ることが出来た。もう一度ケーキを作れるかもしれないと思えたんだ」

「誠司さん……」

「お前をうちに連れてきて本当に良かった。俺自身、少しおかしいんじゃないかと思うくらい強引だったのは自覚していた。必死にお前を連れてこようとする自分をどこか俯瞰で見ていた。それでもお前を側に置きたかったんだよ」

「私も冗談に紛れて、エッチな下心丸出しの課長の家に上がり込んで、拒否しない自分は何なんだろうと実は思っていました。今思えば、最初に店で助けられた時から誠司さんに惹かれていたんだと思います」

「……下心丸出しとは何だ。俺は大分我慢していただろ」

「よく言いますよ……最初から胸の谷間がどうとか、ほっぺにキスしたり、結構セクハラまがいでしたよ」

「まあ、言われてみればそうだな。すみれ、よく逃げ出さずにいてくれた」

「だから言ったでしょ。最初から私わかっていて……騙されてあげたんです」

「じゃあ、両思いだったんだな。何しろ、お前も下心があったんだろ?」

「失礼な。エッチな下心なんて皆無でした。ほぼ未経験の私に何を言うんです?変な話、恋愛経験に乏しい私は上司としての課長を信用していたんです。とにかく、恩人だったし、お兄ちゃんみたいだったし……」

「だから、お兄ちゃんって言うのはやめてくれ。お前のお兄ちゃんは俺じゃない」

 私は笑いながら、食べ終わった食事を片付けて、ケーキを出した。

 有紀さんから送られてきたケーキは特製ケーキだった。店では売られていないものだ。

 彼のために作ったんだろう。メロンやイチゴ、オレンジなどのフルーツを全部盛りのケーキ。

 本当は材料費だけでも値段はかなり高かったはず。請求書の金額より、もっとしたと思うんだけど、彼女がかなり安くしてくれていた。

 ハッピーバースデーのプレートもケーキに立ててあった。

「お前、このケーキ……いったいどうした?」

 彼は黙って立ち上がり、キッチンへ行くとパッケージを見て戻ってきた。

「特製ケーキですよ。どこにも売ってません。注文品ですからね」

 ケーキを大きく切って彼の前に出した。何も言わないで私を睨んでる。一口食べた彼は、ため息をつきながら呟いた。

「お前。まさか、あいつに直接頼んだのか?」

「春日課長が紹介してくださいました」

「……あいつめ」

「でも、全て私が頼んだことです。イチジクのケーキを食べたときから一度会いたいとずっと思っていました。こんな美味しいケーキを作る人に悪い人はいませんよ、絶対」

「ケーキが美味しいからいい人というのは、間違いだぞ!」

「そんなことありません。お話したくさんしてきました。とても素敵な方でした。さすが誠司さんの元カノ。これからは誠司さんらしいケーキをたくさん作って欲しいと言ってましたよ」

「どうして勝手にお前が間に入る?あいつとのことは、過去のことだ」

 吐き捨てるように言った。あ、やっぱり怒った。覚悟していたからしょうがない。

「ごめんなさい。私が彼女に会いたかっただけです。私の入社を決めたケーキを誠司さんと作った人なんですよね。純粋にファンなんです。推しへ会いに行っただけ。桜井さんのように団扇作りたくなるくらい有紀さんのケーキも好きなんですよ」

「何を馬鹿なこと言っているんだ。あいつはな……」

「もういいんですよ。課長のことも私のことも応援してくれるそうです。これで私は安心です。課長が悪いこと出来ないようにしましたよ」

「何を言ってる。悪いことなんかしていないし、これからもしない」

「うふふ。あー、美味しい。これ最高傑作ですよ、きっと」

「すみれ、これを見ろ」

 誠司さんがバッグの中から小さな商品パックを出してきた。
 開けてみると、可愛い練り切りの和菓子が出てきた。これって……。

「これってもしかして……」

「ああ、やっとできたよ。お兄さんといろいろやり取りして作った和菓子だ。ああ、そうだ。何をモチーフにしているか、わかるか?」

 丸い黄色の練り切りの和菓子のうえにすみれの花がかたどられた薄紫の寒天がのっている。

「……すみれ?」

「ああ、そうだ。お前の和菓子だ。これを料亭初めての商品として売ることになったぞ」

 私は嬉しくてその和菓子をじっと眺めたまま涙を流した。

「……おい、すみれ!?」

「ありがとう、誠司さん。嬉しい。夢みたい……私の名前の、可愛いお菓子……」

「喜んでくれて嬉しいよ。それと、うちの商品で同じすみれをモチーフにしたクッキーを作って一緒に売る予定だ」

「え……!」

「坂田長野ホテルはきっと初夏から人が大勢くるぞ。料亭から夏の時期だけ二ヶ月お兄さんがホテルに店を出す。和菓子の練り切りは料亭の名前、洋菓子のクッキーはうちの店の名前で一緒に売る予定だからな」

「そうなんですか?いつの間に……色々ありがとうございました」

「礼はいらないぞ。俺は親族になるんだからな」

「……誠司さん」

「そろそろ公表する覚悟をしておけ。俺へのプレゼントは公表を許可すること。実際には来月の月末あたりだな」

「……」

 それって、私の誕生日ってことだよね?その日にもしかしてプロポーズしてくれるっていうこと?私は嬉しくて涙が止まらなかった。彼は私の横に来るとそっと私を抱き寄せた。泣き止むのを待って言ってくれた。

「今日は色々ありがとう。嬉しかったよ、すみれ」

「誕生日のプレゼント何がいいかわからなかったから、明日一緒に何か見に行きましょう」

「俺のプレゼントはいい。でも、ふたりでペアのものを選びたいから明日一緒に行こう」

「腕時計とか?」

「もっと大切なやつだよ。来月までに注文して作りたいんだ。これからも俺の側でこのえくぼを見せてくれ」

 彼は私の笑顔を見て、頬のえくぼを撫でたのだった。

 fin.


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