17 / 44
第一章 入社と出会い
俊樹の想い
しおりを挟む俊樹は猛烈にイライラしていた。
やっと手に入れた菜摘が、まさか男女の関係になってまでも仕事のことで自分に反旗を翻すとは想像していなかった。
確かに自分が甘かったのかも知れない。恋愛経験のない彼女とそういう関係になればすぐに堕ちると軽く考えていた。
だが、彼女は自分の目をしっかり見て先ほどプライベートと仕事は別だとハッキリ言った。彼女のどこが好きだったのか、今更気付いても遅い。
そういう所が好きだったはずだ。並外れた能力。女を武器にせず自分をしっかり持っているところ。
だが、譲れない。これだけは譲れないんだ。
俊樹は手を握りしめる。
以前から決めていることがある。兄もそうなのだが、公私共に愛する人とは一緒にいると決めているのだ。
兄の秘書の京子も彼の妻だ。一日中ずっと一緒にいる。
兄は言う。彼女のことで心配することがないし、俺の潔白も証明できる。手を伸ばせばいつでもキスできる。まあ、それはおいておくとしても、それがベストだと自分も思っていた。
兄とは違うが、自分はテリトリーに入れる人間をかなり選ぶ。少数精鋭主義。あまり社交的でない自分をよく分かっているし、正直兄はいずれ社長だが、自分はそれを支える立場でしかない。
仕事も今は他社へ父の意向もあって入り、秘密が多い。自分をさらけ出せる人が側にいないと疲れてしまう。
家では自分を知り尽くし、自分が認める女としか、一緒にいたくないと思っていた。そして秘書は特にその色合いが濃い。自分の出自を隠すのも大変だからだ。
「やっと見つけたんだ。逃すかよ……」
無意識で呟く俊樹は、ここまで彼女に深入りしている自分に初めて気付いて、どうやったら鎖で繋げるか真剣に考えはじめた。
戻った俊樹は社長室へ寄った。
「俊樹、久しぶりだな。どうした?」
いとこの彼は気さくにソファーを指し示した。座らせてもらう。
「春からのことですが、僕の担当部門に業務部をそのまま入れて頂けますか?」
「もう業務部のほうはいいんじゃなかったのか?」
「そうですね。本当は営業のほうをやるつもりでしたが、ちょっと事情があって。できれば担当役員にしてもらえませんか?」
「……まあ、まだ内定段階だから内定している役員に君を担当のままとすることを伝えて了承してもらえればだが……業務部は担当したいという役員が多いんだよ。会社の中枢だからね。説得に時間がかかる。理由を聞いていいか?」
「個人的な理由です。秘書がうるさくて……」
社長は俊樹の顔を見て、笑い出した。
「はは、これは面白いものを見せてもらった。お前のそんな顔、いや、最高だ。なるほどね。そういや森川さんは業務部の宝だからねえ。彼女が嫌がってるんだな。役員室へ連れてくるって言ってたからな。俺もたいしたもんだと思っていたんだよ。やはり、彼女拒絶したんだな」
俊樹は笑われるとは思っていなくて、顔をしかめた。
「わかったよ。面白かったから協力してやるよ。特別にいとことしてな。いとこの大切な人のためだ。で?付き合うことになったのか?」
「ああ。それはそうなんだが……」
「お前も面倒くさいなあ。どうせお前も陽樹さんみたいにしたいんだろ。俺なんて会社でも妻と一緒なんてまっぴらごめんだね。つまみ食いもできないだろ」
冷たい目で社長を俊樹は見る。そういう考え自体が自分と違いすぎるのだ。氷室家は父も母一筋だ。浮気とか考えられない。だからこそ、相手にもその覚悟を求めるのだ。
「とにかく、お願いします。そのつもりで行動しますので、あとでダメとかなしですよ」
「わかったよ。社長権限でどうにかするよ」
「じゃあ。忙しいところすみませんでした」
ひらひらと手を振る社長を後に、俊樹は自分の部屋へ足を向けた。
俊樹は本部長室へ帰ると、すぐに仕事に取りかかった。菜摘が何故いないのかわからなかったが、外出先の案件を先に片付ける必要があった。
すると、ノックの音がして菜摘が入ってきた。
目が赤い。泣いたのか?俊樹は自分が冷たくしていたことに思い至り、驚いて立ち上がった。
「……どうした?」
菜摘は赤い目で自分を見ると、頭を振った。
「いえ。お帰りなさい。お迎えもせずすみません。遅くなりました」
そう言うと、書類を自分の前において、背中を向けた。
俊樹は驚いて、彼女の腕をつかんだ。
「どうしたんだ?泣いたのか?俺のせいか?」
確か、自分が外出中に新村と打ち合わせだったはず……だとすると、彼の前で泣いたのかも知れない。
菜摘を大切にする彼がきっと慰めただろう。ほだされて、自分を捨てる気なのか?
俊樹は怖くなった。菜摘が自分に背を向けて出て行くのではないかとおびえはじめた。
急いで机を離れると、出て行こうとする彼女をうしろから羽交い締めにした。菜摘はされるがままだ。
「菜摘。すまない。大人げなかった。泣かせるつもりじゃなかったんだ。許してくれ」
彼女の身体を自分のほうに向けると、顔をのぞき込む。菜摘はうつろな目で自分を見つめ、口を開いた。
「業務部の仕事を取れば、別れることになるんですね?」
俊樹は驚いた。昏い目で自分を見ている。こんな目をさせるつもりはなかった。
「菜摘。変だぞ、どうしたんだ……」
「いいです。あとでお時間下さい。帰りにでもお話ししましょう」
そう言って彼女は出て行った。あまりの衝撃で俊樹は何も言い返せなかった。
1
あなたにおすすめの小説
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
モース10
藤谷 郁
恋愛
慧一はモテるが、特定の女と長く続かない。
ある日、同じ会社に勤める地味な事務員三原峰子が、彼をネタに同人誌を作る『腐女子』だと知る。
慧一は興味津々で接近するが……
※表紙画像/【イラストAC】NORIMA様
※他サイトに投稿済み
氷の上司に、好きがバレたら終わりや
naomikoryo
恋愛
──地方から本社に異動してきた29歳独身OL・舞子。
お調子者で明るく、ちょっとおせっかいな彼女の前に現れたのは、
“氷のように冷たい”と社内で噂される40歳のイケメン上司・本庄誠。
最初は「怖い」としか思えなかったはずのその人が、
実は誰よりもまっすぐで、優しくて、不器用な人だと知ったとき――
舞子の中で、恋が芽生えはじめる。
でも、彼には誰も知らない過去があった。
そして舞子は、自分の恋心を隠しながら、ゆっくりとその心の氷を溶かしていく。
◆恋って、“バレたら終わり”なんやろか?
◆それとも、“言わな、始まらへん”んやろか?
そんな揺れる想いを抱えながら、仕事も恋も全力投球。
笑って、泣いて、つまずいて――それでも、前を向く彼女の姿に、きっとあなたも自分を重ねたくなる。
関西出身のヒロイン×無口な年上上司の、20話で完結するライト文芸ラブストーリー。
仕事に恋に揺れるすべてのOLさんたちへ。
「この恋、うちのことかも」と思わず呟きたくなる、等身大の恋を、ぜひ読んでみてください。
恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-
プリオネ
恋愛
せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。
ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。
恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。
課長のケーキは甘い包囲網
花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。
えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。
×
沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。
実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。
大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。
面接官だった彼が上司となった。
しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。
彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。
心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる