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第二章 中宮殿
六ノ巻-本質③
しおりを挟む「その筋では有名です。静姫様が今こうしておられるのもすべて女房殿のお力だとその界隈では有名です」
尚侍ではない、知らない声が答えた。あやかしだ。わかる。
「月影。失礼ですよ。申し訳ございません。しつけがなっておりませんで、お恥ずかしいことです」
尚侍が答えた。月影というのはあやかしの化けた女房なのだろう。匂いがする。
「直接お話しなさい、夕月。許します」
静姫が言った。
「どうぞ、夕月さん。お話出来て嬉しいです。私と同じ境遇の方ですよね」
つまり、神社の娘だということだろう。
「はい。夕月と申します。尚侍様、本心をお聞かせください。中宮様は尚侍様の入内に際し、御心を寄せてくださったはずです。今回のことはどういうことでしょうか?」
「……中宮様に私は感謝しかございません。でも父は皇子が出来てから変わってしまいました。私ひとりの力では抑えることができませんでした。本当に申し訳なく思っております。そちらに伺い止めたかったのです」
やはりそうだったか。静姫と私は顔を見合わせた。また、あやかしの気配がする。
鈴がにゃあとわざと鳴いた。あちらのあやかしがこちらに気づいた。
「おやめ、月影。申し訳ございません。この者達の存在に夕月様が気づかれてここへお見えになったのでしょう?」
「中宮殿だけでなく、弘徽殿や清涼殿にも入り込んでいますよね?」
「そうです。父が手配していますが、ここに私がいる限り好き勝手はさせません。私にも多少は力がありますので、何かすれば私のほうで術をかけて私の命をかけて阻止します」
「……姫様!」
月影というものが叫んだ。
「そうでしたか。安心しました。どうしても腑に落ちなくて……私も中宮様にお目にかかり、中宮様が尚侍様を気遣われていたと聞いたのでおかしいと思ったのです。つまりは吉野のお父君の独断ですね?」
「……はい。お願いです。命を懸けてなんとかしますので、御上には、それだけは……」
「姫様!お父上が聞かれたら嘆かれます」
「嘆かわしや月影。お前は人ではないからきっと私の気持ちはわからない。お慕いするということがどういうことか。御上は命。皇子も私にとっては癒しなの。あの子を武器にせよと父上は言うけれど、このままでいいのです。位が上がらなければずっとあの子は側にいてくれる」
私は尚侍様に伝えた。
「尚侍様。どうか、お父上様をお止めください。兄が手を下す前に……」
静姫も次いで答えた。
「藤壺様。兼近様には御上へのご報告は控えていただくようお願いしてあります。それも、今日の結果次第です。御上が知れば藤壺様への深い愛情から板挟みでお悩みになられると存じます」
「静姫様……」
「御上の愛情を大切にしたいなら、お父上様をご説得ください」
「話し合っても聞いてくれないかもしれません。父は吉野の片田舎の神官で、元々はそのようなことを考えるような人ではありませんでした。でも、私が入内するということになり、皇子を授かり、夢を見てしまったのでしょう」
私は個人的に一番聞きたかったことを直接尋ねた。
「尚侍様はかなり巫女としてのお力がおありだったとお聞きしました」
「ええ。昔は父上に違わぬくらい力がございました。でも今は、御上に私の力を分けてあります。決して父に何かされることのないよう、御上を守っているのです。そのせいで私自身の力は分散して小さくなりました。でも、よいのです」
あまりの言葉に驚いた。
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