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第二章 中宮殿

九ノ巻ー子猫①

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 本当に可愛い。

 何がといえば、もちろん鈴だ。生まれたての子猫となり、とにかく可愛い。一日ずっと抱いていたいのだが、よく眠るようになった。赤ちゃんだ。しょうがない。

 起きているときの愛らしさは格別だ。つぶらな瞳。可愛い鳴き声。

 先日、ようやく白藤がこちらに顔を見せてくれた。

「白藤、本当にありがとう。怪我はその後大丈夫?」

「あい、もうすっかり良くなりやした。それにしても……なんというか、その……」

 白藤は鈴をじっと見て、複雑な顔をする。

「すっかり猫のあやかしの棟梁は百舌になり、一応落ち着いてしまいましたけんど、あちきは複雑で……鈴の憎まれ口が聞こえなくなって……なんか、調子が狂ってどうも落ち着かないんす」

 鈴は相変わらず、白いかごの中で丸くなってすやすや寝ている。乳を飲んだばかりだからしばらく目を覚まさない。

「……そうね。私も何かが足りないと思っていたのは、それだわ」

「え?」

「憎まれ口というか、私に要所要所でアドバイスや揚げ足を取る鈴の……」

 白藤と目を見合わせて苦笑いした。

「あちきでさえ、かわいいと思ってしまうくらいで、他のあやかし達に利用されないか心配しているんです。いいあやかしばかりじゃあありやせん。兼近様の百舌が見ているとはいえ、この力のなさでは邪悪なものに利用されるやも……」

「そういわれたらそうね。夜はもっと気を付けないとだめだわ」

「鈴は敵が多ござんした。ここぞとばかりに仕返しされるかもしれません」

 私は心配そうな白藤の顔を見て、少し感慨深かった。あんなに、会えば口喧嘩ばかりして、兄上様がいつも釘を刺していたくらいだ。それがどうだろう。可愛い姿で力のほとんどを失っている鈴を、誰より心配しているあやかしが白藤とは嬉しいような驚きだ。

「ほおう、白藤もやはり母性というものがあるのやもしれないな。女というのはどんな動物でも赤子は可愛いと母性が出るらしい。特に、鈴に対しては特別な思いがあるのだろう。鈴、よかったな。私も心配していたが、白藤が夜はついてくれるだろう」

「兼近様!」

 白藤は真っ赤になって、廂に上がってきた兄上を見て中腰になった。白藤は今、御簾の中で私と話しているのだ。

「兄上。言い方が意地悪です。白藤の言う通り、百舌の力が鈴に及ばないのであれば、猫のあやかしを統率せねばなりません」

 兄上は眉を上げて私を見た。

「ほう、お前も言うようになった。まあ、確かにそれはある。特に、事件前の鈴は修行して、百舌より能力が頭ひとつ上になっていたからな」

「そんなことはございません。私だってできます!」

 後ろから百舌が言った。百舌は兄上の猫。常に兄上の側にいる。

「まあ、わかっておるから安心しろ百舌。お前にはお前の良さがある。統率力という点ではお前のほうが上だ。性格的にもお前のほうが棟梁には向いているのはわかっていた」

「ありがとうございます」

 嬉しそうな百舌。ゴロゴロと喉を鳴らした。

「だがな、白藤の言うことにも一理ある。鈴は潜在能力が高く、邪悪なあやかしが狙っている。今の状態で乗っ取られたらひとたまりもない。夜はきちんと管理しろ。私も護符を作る」

「はい」

「白藤。今日の夕方お客様がお見えになる。準備を頼む」

「あい」

 白藤は下がっていった。

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