36 / 38
第二章 中宮殿
九ノ巻ー子猫①
しおりを挟む本当に可愛い。
何がといえば、もちろん鈴だ。生まれたての子猫となり、とにかく可愛い。一日ずっと抱いていたいのだが、よく眠るようになった。赤ちゃんだ。しょうがない。
起きているときの愛らしさは格別だ。つぶらな瞳。可愛い鳴き声。
先日、ようやく白藤がこちらに顔を見せてくれた。
「白藤、本当にありがとう。怪我はその後大丈夫?」
「あい、もうすっかり良くなりやした。それにしても……なんというか、その……」
白藤は鈴をじっと見て、複雑な顔をする。
「すっかり猫のあやかしの棟梁は百舌になり、一応落ち着いてしまいましたけんど、あちきは複雑で……鈴の憎まれ口が聞こえなくなって……なんか、調子が狂ってどうも落ち着かないんす」
鈴は相変わらず、白いかごの中で丸くなってすやすや寝ている。乳を飲んだばかりだからしばらく目を覚まさない。
「……そうね。私も何かが足りないと思っていたのは、それだわ」
「え?」
「憎まれ口というか、私に要所要所でアドバイスや揚げ足を取る鈴の……」
白藤と目を見合わせて苦笑いした。
「あちきでさえ、かわいいと思ってしまうくらいで、他のあやかし達に利用されないか心配しているんです。いいあやかしばかりじゃあありやせん。兼近様の百舌が見ているとはいえ、この力のなさでは邪悪なものに利用されるやも……」
「そういわれたらそうね。夜はもっと気を付けないとだめだわ」
「鈴は敵が多ござんした。ここぞとばかりに仕返しされるかもしれません」
私は心配そうな白藤の顔を見て、少し感慨深かった。あんなに、会えば口喧嘩ばかりして、兄上様がいつも釘を刺していたくらいだ。それがどうだろう。可愛い姿で力のほとんどを失っている鈴を、誰より心配しているあやかしが白藤とは嬉しいような驚きだ。
「ほおう、白藤もやはり母性というものがあるのやもしれないな。女というのはどんな動物でも赤子は可愛いと母性が出るらしい。特に、鈴に対しては特別な思いがあるのだろう。鈴、よかったな。私も心配していたが、白藤が夜はついてくれるだろう」
「兼近様!」
白藤は真っ赤になって、廂に上がってきた兄上を見て中腰になった。白藤は今、御簾の中で私と話しているのだ。
「兄上。言い方が意地悪です。白藤の言う通り、百舌の力が鈴に及ばないのであれば、猫のあやかしを統率せねばなりません」
兄上は眉を上げて私を見た。
「ほう、お前も言うようになった。まあ、確かにそれはある。特に、事件前の鈴は修行して、百舌より能力が頭ひとつ上になっていたからな」
「そんなことはございません。私だってできます!」
後ろから百舌が言った。百舌は兄上の猫。常に兄上の側にいる。
「まあ、わかっておるから安心しろ百舌。お前にはお前の良さがある。統率力という点ではお前のほうが上だ。性格的にもお前のほうが棟梁には向いているのはわかっていた」
「ありがとうございます」
嬉しそうな百舌。ゴロゴロと喉を鳴らした。
「だがな、白藤の言うことにも一理ある。鈴は潜在能力が高く、邪悪なあやかしが狙っている。今の状態で乗っ取られたらひとたまりもない。夜はきちんと管理しろ。私も護符を作る」
「はい」
「白藤。今日の夕方お客様がお見えになる。準備を頼む」
「あい」
白藤は下がっていった。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!
ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
ハーレム系ギャルゲー『シックス・パレット』の捨てられヒロインである侯爵令嬢、ベルメ・ルビロスに転生した主人公、ベルメ。転生したギャルゲーの主人公キャラである第一王子、アインアルドの第一夫人になるはずだったはずが、次々にヒロインが第一王子と結ばれて行き、夫人の順番がどんどん後ろになって、ついには婚約破棄されてしまう。
しかし、それは、一夫多妻制度が嫌なベルメによるための長期に渡る計画によるもの。
無事に望む通りに婚約破棄され、自由に生きようとした矢先、ベルメは元婚約者から、新たな婚約者候補をあてがわれてしまう。それは、社交も公務もしない、引きこもりの第八王子のオクトールだった。
『おさがり』と揶揄されるベルメと出自をアインアルドにけなされたオクトール、アインアルドに見下された二人は、アインアルドにやり返すことを決め、互いに手を取ることとなり――。
【この作品は、別名義で投稿していたものを改題・加筆修正したものになります。ご了承ください】
【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる