叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

文字の大きさ
13 / 36

女性嫌いの理由2

しおりを挟む
 

  湖の側まで歩いて行き、湖を見ながら話を聞いた。

 「俺が見合いや女性を遠ざけていたのには実は理由がある。それをお前に話したかった」

 「何があったんですか?」

 私は彼の横顔を見ながら話を聞いた。

 「次期総帥就任間近だった父は、仕事が忙しくて家庭を顧みることがほとんどなかった。具合の悪くなってきていた母に気付くことがなかった。母も父のためにそのことを内密にしていたんだ。病気が進行して、今度は父の足手まといだと言って、この別荘へ俺と越してきたんだ」

 「そうだったんですね……」

 「母は寂しそうだった。近くで見ていたから俺にはわかっていた。父は母のことを愛していたが、母が悪くなっていくのを見ながらおびえていたんだと思う。会いにくるのを怖がっていた」

 「そんな……」

 「父は母が亡くなってから、仕事をあまりやりたがらなくなった」

 「そうだったんですか……」

 「仕事のせいで母を亡くしたと後悔しているんだと思う。そして、今や慈善活動のほうに熱心だ。医療関係の慈善活動なんだよ。母の病気のせいだと思う」

 「後悔されているんですね、きっと」

 「清家財閥の総帥は恐ろしいほど忙しい。そして、重責だ。今は俺が次期跡取りと思われている。俺も忙しい。仕事は好きだが、そんな両親を見てきたせいか家庭を持つ自信がない。だから、女性を遠ざけてきた」

 彼は私をじっと見た。

 「君はそんな俺に雷を落とした。俺はそれに感電して、心を入れ替えた。そして……君となら家庭を持つこともできるかもしれないと思ったんだ」

 家庭を持つって言った?それって……え?

 「……どうして?」

 「お互いに遠慮するような関係では両親のようになる。会いたいときは会いたいといい、相手に不満があれば口に出す。そして、素直になる。君は最初からそれができる。俺を御曹司と思って遠慮するようなこともない。俺自身を見てくれるだろ?」

 「それはそうですけど。私じゃなくてもそういう人はこれからも現れますよ。こうやって女性と話すようになれば玖生さんには私なんかよりもっと素敵な女性が出てきます。今までは全ての女性をよく知りもせず遠ざけてきたでしょ」

 玖生さんは私の方をじっと見た。

 「……由花」

 「はい」

 「俺は他の女性にこれからも愛想良くするつもりはない。お前だけでいい……」

 「ダメよ。そんなこと言ってたら……女性嫌いを治すのが私の役目だったんですから」

 「お前は俺が嫌いか?友達以上にはしたくないか……」

 悲しそうな顔を向ける。
 そんなことを言わせるつもりはなかった。

 「嫌いなわけがないでしょ。どうしてそう思うの?あなたはとても素敵な人よ。こんな大切な話をしてくれた。私は……」

 私は、彼が嫌いなどころか惹かれている。でも。どうしても踏み出せない理由がある。それは……。
 私が下を向いて黙ってしまったのを見て、彼はため息をついた。

 「……すまない。俺の気持ちを押しつけるようなまねをして。わかっているんだ。君の気持ちが向くのを待つべきだと」

 ふたりで沈黙が続き、私は口を開いた。

 「そんな風に言わないで……嬉しかったの。あなたが自分の心にある誰にも見せなかった思い出を私に見せてくれた。でも私はそんなあなたにすぐ返せるものがない」

 「由花。君が俺を遠ざけたいと思わないうちは側にいさせて欲しい。まだ友達でもいいが、アプローチはさせてくれ」

 私は彼の真剣な顔を見た。湖に夕日が落ちてきている。これこそ最初に言っていた素晴らしい告白にピッタリの場面だったのに……私は最低かもしれない。

 「わかったわ。まだ、友人でいてもいい?」

 「ああ。もちろんだ。さあ、帰ろうか」

 そう言って、背中を向けた彼に本当は飛びつきたかった。あなたが御曹司でなかったら良かったのに。口にしたら彼を傷つける。私は何も言わず彼の後をついていった。
 

 私は彼の運転中の横顔をじっと見つめた。
 
 今日一日一緒にいただけで、楽しかった。そして彼の誠意を感じられて、嬉しかった。

 でも、御曹司の恋人は正直こりごり。しかも、お父様の代わりに総帥へ就任する可能性があるとすれば、そんなに時間的猶予はないはず。

 やはり、結婚が条件だとすると、私への気持ちよりも優先するものがあって優しくしてくれているのかもしれないと思ってしまう。元々は、口喧嘩ばかりの関係だったし……。

 「由花?どうした……?」

 赤信号で止まった彼は、私を覗き込むように見ている。彼を直視できず、返事が遅れた。

 「なんでもない」

 「俺の言葉を気にしすぎるな。お前の気持ちがないのに手に入れたいとは思わない。今のままでも十分だ」

 彼は翌日から一週間出張だと言っていた通り、姿を見ることがなかった。

 私は自分の仕事をこなしながら、会社にいると彼の姿を思い出して彼のことを考えることが自然と多くなった。

 真っ直ぐに気持ちを伝えてくれたあの湖での出来事が私の中に大きなさざ波を落としていた。
 
 家に帰ると、おばあちゃんから仕事の話を聞いた。

 「来週土曜日、ホテルでのレセプションの花を飾って欲しいと依頼があったわ。都内のツインスターホテル。どうも、何かのパーティーがあるようよ。しかもお前を指名してきたのよ。何か心当たりある?」

 「そうなの?特に何もないけど、何かしら?珍しいわね、ツインスターホテル?」

 「そうよねえ。今までなかったから、他の所に頼んでいたんだと思うんだけど……まあ、なぜお前なのかわからないけど、今後に繋がるチャンスでもある。しっかりやってちょうだい。メールが来てたから、詳細は話し合っておいてね」

 「はーい」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺にお前の心をくれ〜若頭はこの純愛を諦められない

ラヴ KAZU
恋愛
西園寺組若頭、西園寺健吾は夕凪由梨に惚れた。 由梨を自分の物にしたいと、いきなり由梨のアパートへおしかけ、プロポーズをする。 初対面のヤクザにプロポーズされ、戸惑う由梨。 由梨は父の残した莫大な借金を返さなければいけない。 そのため、東條ホールディングス社長東條優馬の婚約者になる契約を優馬の父親と交わした。 優馬は女癖が悪く、すべての婚約が解消されてしまう。 困り果てた優馬の父親は由梨に目をつけ、永年勤務を約束する代わりに優馬の婚約者になることになった。 由梨は健吾に惹かれ始めていた。でも健吾のプロポーズを受けるわけにはいかない。 由梨はわざと健吾に嫌われるように、ある提案をした。 「私を欲しいなら、相手になります、その代わりお金頂けますか」 由梨は健吾に囲われた。 愛のないはずの優馬の嫉妬、愛のない素振りをする健吾、健吾への気持ちに気づいた由梨。 三人三様のお互いへの愛。そんな中由梨に病魔が迫っていた。

前世でイケメン夫に殺されました

鈴元 香奈
恋愛
子爵令嬢のリタには前世の記憶があった。それは美しい夫に殺される辛い記憶だった。男性が怖いリタは、前世で得た知識を使い店を経営して一人で生きていこうとする。 「牢で死ぬはずだった公爵令嬢」の厳つい次男ツェーザルのお話ですが、これ単体でも楽しんでいただけると思います。 表紙イラストはぴのこ堂様(イラストAC)よりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。 (C)2018 Kana Suzumoto

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

その出会い、運命につき。

あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

処理中です...