叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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女性嫌いの理由2

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  湖の側まで歩いて行き、湖を見ながら話を聞いた。

 「俺が見合いや女性を遠ざけていたのには実は理由がある。それをお前に話したかった」

 「何があったんですか?」

 私は彼の横顔を見ながら話を聞いた。

 「次期総帥就任間近だった父は、仕事が忙しくて家庭を顧みることがほとんどなかった。具合の悪くなってきていた母に気付くことがなかった。母も父のためにそのことを内密にしていたんだ。病気が進行して、今度は父の足手まといだと言って、この別荘へ俺と越してきたんだ」

 「そうだったんですね……」

 「母は寂しそうだった。近くで見ていたから俺にはわかっていた。父は母のことを愛していたが、母が悪くなっていくのを見ながらおびえていたんだと思う。会いにくるのを怖がっていた」

 「そんな……」

 「父は母が亡くなってから、仕事をあまりやりたがらなくなった」

 「そうだったんですか……」

 「仕事のせいで母を亡くしたと後悔しているんだと思う。そして、今や慈善活動のほうに熱心だ。医療関係の慈善活動なんだよ。母の病気のせいだと思う」

 「後悔されているんですね、きっと」

 「清家財閥の総帥は恐ろしいほど忙しい。そして、重責だ。今は俺が次期跡取りと思われている。俺も忙しい。仕事は好きだが、そんな両親を見てきたせいか家庭を持つ自信がない。だから、女性を遠ざけてきた」

 彼は私をじっと見た。

 「君はそんな俺に雷を落とした。俺はそれに感電して、心を入れ替えた。そして……君となら家庭を持つこともできるかもしれないと思ったんだ」

 家庭を持つって言った?それって……え?

 「……どうして?」

 「お互いに遠慮するような関係では両親のようになる。会いたいときは会いたいといい、相手に不満があれば口に出す。そして、素直になる。君は最初からそれができる。俺を御曹司と思って遠慮するようなこともない。俺自身を見てくれるだろ?」

 「それはそうですけど。私じゃなくてもそういう人はこれからも現れますよ。こうやって女性と話すようになれば玖生さんには私なんかよりもっと素敵な女性が出てきます。今までは全ての女性をよく知りもせず遠ざけてきたでしょ」

 玖生さんは私の方をじっと見た。

 「……由花」

 「はい」

 「俺は他の女性にこれからも愛想良くするつもりはない。お前だけでいい……」

 「ダメよ。そんなこと言ってたら……女性嫌いを治すのが私の役目だったんですから」

 「お前は俺が嫌いか?友達以上にはしたくないか……」

 悲しそうな顔を向ける。
 そんなことを言わせるつもりはなかった。

 「嫌いなわけがないでしょ。どうしてそう思うの?あなたはとても素敵な人よ。こんな大切な話をしてくれた。私は……」

 私は、彼が嫌いなどころか惹かれている。でも。どうしても踏み出せない理由がある。それは……。
 私が下を向いて黙ってしまったのを見て、彼はため息をついた。

 「……すまない。俺の気持ちを押しつけるようなまねをして。わかっているんだ。君の気持ちが向くのを待つべきだと」

 ふたりで沈黙が続き、私は口を開いた。

 「そんな風に言わないで……嬉しかったの。あなたが自分の心にある誰にも見せなかった思い出を私に見せてくれた。でも私はそんなあなたにすぐ返せるものがない」

 「由花。君が俺を遠ざけたいと思わないうちは側にいさせて欲しい。まだ友達でもいいが、アプローチはさせてくれ」

 私は彼の真剣な顔を見た。湖に夕日が落ちてきている。これこそ最初に言っていた素晴らしい告白にピッタリの場面だったのに……私は最低かもしれない。

 「わかったわ。まだ、友人でいてもいい?」

 「ああ。もちろんだ。さあ、帰ろうか」

 そう言って、背中を向けた彼に本当は飛びつきたかった。あなたが御曹司でなかったら良かったのに。口にしたら彼を傷つける。私は何も言わず彼の後をついていった。
 

 私は彼の運転中の横顔をじっと見つめた。
 
 今日一日一緒にいただけで、楽しかった。そして彼の誠意を感じられて、嬉しかった。

 でも、御曹司の恋人は正直こりごり。しかも、お父様の代わりに総帥へ就任する可能性があるとすれば、そんなに時間的猶予はないはず。

 やはり、結婚が条件だとすると、私への気持ちよりも優先するものがあって優しくしてくれているのかもしれないと思ってしまう。元々は、口喧嘩ばかりの関係だったし……。

 「由花?どうした……?」

 赤信号で止まった彼は、私を覗き込むように見ている。彼を直視できず、返事が遅れた。

 「なんでもない」

 「俺の言葉を気にしすぎるな。お前の気持ちがないのに手に入れたいとは思わない。今のままでも十分だ」

 彼は翌日から一週間出張だと言っていた通り、姿を見ることがなかった。

 私は自分の仕事をこなしながら、会社にいると彼の姿を思い出して彼のことを考えることが自然と多くなった。

 真っ直ぐに気持ちを伝えてくれたあの湖での出来事が私の中に大きなさざ波を落としていた。
 
 家に帰ると、おばあちゃんから仕事の話を聞いた。

 「来週土曜日、ホテルでのレセプションの花を飾って欲しいと依頼があったわ。都内のツインスターホテル。どうも、何かのパーティーがあるようよ。しかもお前を指名してきたのよ。何か心当たりある?」

 「そうなの?特に何もないけど、何かしら?珍しいわね、ツインスターホテル?」

 「そうよねえ。今までなかったから、他の所に頼んでいたんだと思うんだけど……まあ、なぜお前なのかわからないけど、今後に繋がるチャンスでもある。しっかりやってちょうだい。メールが来てたから、詳細は話し合っておいてね」

 「はーい」

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