叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐

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お互いの転機1

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 翌日、おばあちゃんの病室へ行ったが検査中とのことで、時間を潰すために中庭を歩いていたらふとベンチを見つけて座った。

 目の前には大きなハナミズキの木。花が咲いている。それを見ていたら、ふと思い出した。

 そうだ、昔まだお母さんが亡くなる前だった。お父さんが亡くなり、お母さんも意識が戻らず、悲しくて廊下で泣いていた。
 
 その時、制服を着た男子高校生に声をかけられ、慰められた。中庭につれてきてくれてその時もベンチにふたりで座った。そして中庭に咲いている花を眺めながら話をしたんだ。

 そうだ、ハンカチも貸してくれた。あのハンカチはどこへしまっただろう。
 
 顔は覚えていない。背が高かったから目が合わなかったし、ブレザーの制服ばかり見ていた。でも一度話していたら笑ってくれた。嬉しかった記憶がある。

 病室へ戻り、おばあちゃんの顔色が昨日より良くなっていたので安心した。

 「おばあちゃん。私、家元を継承しようかと思うんだけど、どう?」

 おばあちゃんは笑顔でうなずいた。

 「実は私からそう言おうと思っていた所よ。本当だったらもう十年以上前にお前の父が継いでいたはず。長く私がやり過ぎたわ。お前ならもう大丈夫。手続きしていいわ」

 「うん。色々心配もあるけど、おばあちゃんの身体のためにも今継いだ方がいいと思うの。玖生さんが大奥様を味方につけて、年配のお弟子さんをまとめてもらえばいいと言ってくれたの」

 「さすが玖生さん。それはいい考えね。事務局の担当さんに連絡して相談なさい。清家の大奥様は良い方だし、おそらくお前と玖生さんが親しくしているのをきっと喜ばれているはず。なんでもしてくれるはずよ。それにとても素晴らしい方なのはお前も知っているでしょ」

 「ええ。無駄話をしないでお稽古されるのは大奥様だけだもの」

 「ふふ、あ、いたた……」

 おばあちゃんは笑いながら胸を押さえた。

 「大丈夫、おばあちゃん?先生呼ぼうか?」

 「ううん。大丈夫よ。ああ、これで私も安心だわ」

 「やめてよ、おばあちゃん。これからだよ、大変なのは。実務は私がやるけど、おばあちゃんが後ろに控えてもらっていてこそ皆がついてくるんだもの」

 「まあ、何とかなるわ。実力はあるから心配無用よ。結果を見ればついてくるはず。由花、玖生さんとのご縁、真剣に考えなさい」

 「……おばあちゃん」

 「素直になりなさい。御曹司が皆、神田さんのような人ではないでしょ。それは彼を見ていたらわかるはずよ」

 「……」

 「さあ、帰りなさい。家のことは頼んだわよ」

 「はい、わかりました」

 その頃。
 玖生は本社の総帥である祖父に呼ばれて部屋へ入った。
 
 見ると、父もいる。
 何か言われると直感した。

 「玖生。わしももうすぐ八十になる。いい加減、お前に家督を継いで、わしは引退するつもりだ」

 「……おじいさま、父さんがいますよ」

 「……玖生。わかっているだろ?俺はすでに仕事から手を引いて十年近くになる。今更何もできないし、皆ついてこない。お前の手腕を清家グループの者達は認めている。安心しろ」

 いつか言われるだろうと最近は危惧していた。おじいさまの誕生日がXデイになるだろうと周囲が皆最近口にしていたからだ。

 「だが、条件がある。わかっているだろ?」

 「……その条件はいずれということではだめですか?」

 「いずれ結婚するだろうと思い、口を出さずに待っていた」

 父が言う。父は自分のせいで俺が女性と結婚しないのを知っている。この仕事が忙しく、家族を顧みる時間がないかもしれないと一度言ったことがあるからだ。
 
 この不用意なひとことが父を追い詰めた。母のことを俺が暗に言ったと思ったはずだからだ。俺は後悔したが遅かった。父はますます仕事から遠ざかった。

 「実は好きな人がいます。彼女もうなずいてくれるなら、結婚したいと思っています」

 「母さんが紹介した、お花の先生の孫だろ?聞いている」

 父さんがこちらをじっと見ながら言った。

 「彼女は両親がいないそうだな。しかも今そのただ一人の肉親であるおばあさんも入院中と聞いた。母さんがお前に紹介したのは結婚相手ではなく、できればお前が女を遠ざけているのを治すためきっかけにしたかったようだぞ」

 「……そうですか」

 おじいさまは黙って見ていたが、ひとこと言った。

 「玖生。お前はわかっているはずだ。お前の嫁には必要なものがいくつかある。それを忘れるな」

 「それはないよりはあればいいという程度のものです。僕が結婚をしようと思える相手であることが何より大切でそれ以上でもそれ以下でもありません。おじいさまが求めるものは、他の方法で補うこともできます。僕が必要とするものがあればそれでいいのです」

 ふたりは驚いたように俺を見ている。

 祖父が言った。

 「玖生……やはり変わったな。彼女のせいか?最近仕事に対しても前よりも深みが出てきたように感じていた」

 「そうかもしれません。彼女の存在は俺にとっては大きいので……」

 「だが、志津に聞いたところいまだ付き合っているわけではないそうだな。お前はその気でも彼女にその気がないならしょうがないだろう」

 「……」

 「玖生。アメリカで一緒に仕事をしていた杉原社長から亜紀さんと一緒にならないかと正式に縁談の申し入れがあった。彼女は昔からわしもよく知っているし、父親である社長も優れた人物。親子共々お前とは縁があるようだしな。仲もいいだろう」

 「学生の頃からの知り合いですので、まあ気心がしれていたのでそう見えたのかもしれません。ですが……」

 祖父が言った。

 「とりあえず、一ヶ月程度アメリカを拠点に仕事をして、わしの後任として回ってきてもらいたい。国内はお前ということですでに根回しはすんでいるが、あちらは取引先を納得させねばならん」

 「今でなくてはだめですか?もう少し、せめて一ヶ月程度遅らせて欲しいのです」

 「あちらの話では二週間後くらいには準備ができると言っていた。それでどうだ?」

 祖父の話はわかる。だが、今は由花の側にいてやりたい。

 「その娘さんのためか?身内がいないようだしな……」

 俺が黙っているのを見て、父が祖父に言った。

 「父さん。玖生が継いでくれるというなら多少のわがままは多めに見てやって下さい。私が継がないということで許してもらうんですから。何かあれば私が責任をとりましょう」

 祖父は父を睨んで言い放った。

 「馬鹿者。お前の責任など何の意味もないわ。玖生。とりあえず海の向こうは準備や根回しもあるからお前のいいようにはできない。そのつもりでおれ」

 わかっている。国内ではないからこそ、時差もあり勝手はできない。フライトの予定もずらすのは難しいのだ。

 「……わかりました」

 「ただ、縁談はお前に任せよう。あちらで杉原社長や亜紀さんとよく話し合え。特に亜紀さんは乗り気のようだぞ。彼女は素質や背景は満点だ。もちろん見た目も美しい。お前との相性も悪くないようだし、わしは志津の紹介した娘さんよりお前にはいいと思う」

 「結婚だけは自分の意思で決めます。やり直しをする気はないので」

 「ああ、そうしろ。いいですよね、父さん」

 父が祖父をなだめてくれた。苦い顔をしている祖父を尻目に席を立つ。

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