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玖生の縁談3
しおりを挟む「突然なのに会ってくれてありがとう」
洗練された美人だった。そして、目に力がある。自分に自信があるのだろう。
海外でずっと働いていると聞いて、そのせいだろうと感じた。
「私のこと聞いていたから会ってくれたのよね?」
「はい。総帥が玖生さんに勧めている縁談と聞いていますがあっていますか?」
彼女はにっこり笑った。
「そうね。父から総帥に正式に申し入れさせて頂いて、総帥も私がいいと推薦してくださったようなの」
私は何も言わず、お茶を飲んだ。
「玖生さんは今までお付き合いをしている人はいなかったようだけど、女性が嫌いな訳でないのはずっと前から見ている私は知っていたの。結婚だけを避けているっていう感じだった」
「そうですか……」
「私ね、学生時代からだからもうかれこれ十年くらいは彼に片思いをしている。でも決して突き放すことはなさらない。それにいずれ結婚されるのはわかっていたから、彼に特定の人が出来ない限り私は待とうと決めていたのよ」
十年……そんな前からのお付き合いだったの……しかも待っていたっていうのはいずれ自分を選んでくれると思っていたって事なのね。そう思わせる何かがあったということかもしれない。
「何も言わないのね」
「杉原さんが私に会いたいとおっしゃったんですから、お話しをうかがうだけです」
こちらをじっと見ている。
「総帥に玖生さんがなるときは結婚しているのが条件と聞いていたので、近々総帥が引退される予定ということは、玖生さんが継ぐということが決まったんだと思ったの。それで結婚のことを聞いたけど決まってなかった。だから、勝負に出たのよ」
「……そうだったんですね」
「あなたのことを最近耳にして、父は一昨日玖生さんに会ったんだけど、この結婚について返事をもらえなかったらしいの。日本に好きな人がいてその人の意向で結婚がまだできないって聞いて……あなたのことで間違いないかしら?」
「ええ、そうです」
「正直驚いたわ。ちなみに総帥は私のことを孫同然に可愛がって下さっているの。すでに二十年以上のお付き合い。私がまだ小さい頃から知っているから……」
総帥は私をどう思っているかなんて、今の話を聞けばわかった。私より彼女を孫の嫁として望んでいるということ。
健吾のときと全く一緒ね。御曹司ご家族が私を選ぶことはない。早くこの不毛な話を終わりにしたかった。
「それで、私がどんな人間かを見にいらしたんですか?」
つい、攻撃的な物言いになった。
「それはそうでしょ。玖生さんが結婚を急がないといけない理由を知りながら、自分のことを優先して彼を放っておくなら、彼のために身を引いてほしい。すぐに結婚できる私をあなたから彼に推薦して欲しかったのよ。玖生さんに直接会って結婚の話をする前にはっきりさせたかった」
「私にも事情があるとは思われなかったんですか?」
「それも聞いたわよ。自分の襲名が大切で、玖生さんとのことを後回しにしてるんでしょ?」
「私もできるだけ急いで襲名して、玖生さんとのことも考えるつもりです。彼はそれを理解してくれました」
「ふーん。というか、その襲名をして清家の総帥の妻も両方できるの?」
「……それは、これから決めることです。でも織原流には全国にお弟子さんがいますし、私は四代目です。玖生さんの妻だから家元の仕事をやらないという選択をする気はありません。大奥様ともご相談させて頂くつもりでした」
はっきりと彼女の目を見て言った。ここはどうしても負けられない。
「気が強いという噂は本当だったのね。なんでも以前は神田ホテルグループの御曹司とお付き合いされていたとか。婚約直前までいったのに、結局他の女性にとられてしまったと聞いたわ。それでも懲りずにまた御曹司とお付き合いするなんて、勘ぐられても仕方ないんじゃないの?」
目を光らせて攻撃してきた。皆同じ事しか言わないのね。
「玖生さんとのお付き合いと今までのことは関係ありません。わざわざ私に日本まで会いにいらしたのに、噂を信じて話すくらいなら会わなくてもよかったのではありませんか?とても残念です」
私はそう言うと、立ち上がりレシートを取った。
「時間がないのでこれで失礼します。お会計はしておきますので、お許し下さい」
「待って。私はビジネスでも彼のことを理解しているつもりよ。海外で彼との仕事は二人三脚でやったこともある。諦めないからそのつもりでいてちょうだいね」
「わかりました。失礼します」
頭を下げて立ち去った。
宣戦布告されちゃった……でも、最終的に結婚相手を決めるのは彼女でも総帥でもない。もちろん私でもない、彼なのだから……私は彼の言葉を信じるだけだった。
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