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11話  『レヴィンを敵認定?』

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 森の中に魔物の咆哮と、冒険者たちの叫び声が響き渡る。 ロイが大きく開けた口には、黒いオーラの球体が創り出されていた。 武器を構えた冒険者たちに黒いオーラを放つと、避けきれなかった冒険者たちが草地に倒れる。

 何個もの心の闇のオーラが作り出された。 1人、難を逃れた冒険者は、ギルドへ報告する為、街に向かって森の中を走った。

 背後から音もなく近づいて来た魔族の影が冒険者の身長を超え、行く手を阻む。 頭上を見上げた冒険者は、驚愕の表情で魔族を見た。 魔族はまだ、15・6歳の成人を迎えるかという年齢に見えたからだ。

 「なっ! 若いっ」

 足を止めた冒険者に一瞬で間合いを詰めたレヴィンは、黒いオーラを放つ黒い鎌を振るった。 レヴィンの足元に冒険者の死体が転がる。

 レヴィンは鎌の一振りで、熟練の冒険者を真っ2つに切り捨てたのだ。 ニヤリと嗤ったレヴィンは、自身の従魔に声を掛けた。

 「行くよ、ロイ。 新しい下僕を連れてきて。 それが終わったら、あっちで眠っている魔物を荒野に置いて来て」

 指示されたロイは、レヴィンの指示に従い。 巨大化すると闇のオーラに飲み込まれた下僕を背に乗せて跳躍した。 ロイの背に飛び乗ったレヴィンは、魔道具の街のスラム街にある廃墟へ向かった。

 ――瑠衣たちは、店のカウンターで青ざめた顔を突き合わせていた。
 
 冒険者ギルドを仕切っているバルドから、最近、魔物討伐に向かった冒険者たちが行方不明になっている案件を聞いたからだ。 バルドから『お前たちは、余計な事をするなよ』と釘を刺された。

 瑠衣たちは一応、今までも魔族が関わってそうな話を聞くと、事件に首を突っ込んでいた。 魔族に対抗できるのは、自分たちしかいないと分かっているからだ。

 「まさかとは思うけど、魔道具の街に紛れてる魔族の仕業か? 気配を消した魔族の位置も分かればいいんだけどっ」
 
 優斗が悔しそうに顔を歪める。
 
 「優斗の所為じゃないだろう。 今回の魔族はちょっと面倒な奴なだけだ」
 「ねぇ、冒険者たちが行方不明になった森へ行ってみようよ。 魔族の残り香があるかもしれない」
 
 フィルの意見に皆が賛成し、店は午前中だけ閉める事にした。 店の床に優斗の転送魔法陣が展開される。 ぽっかり空いた魔法陣の穴に、瑠衣たちは飛び込んでいった。 瑠衣は風神に乗り、後ろに仁奈を乗せて肩には雷神が乗っていた。
 
 優斗は巨大化したフィンに華と乗る。 最後にフィルが優斗の頭の上に乗ると、一瞬の間に森へ転送された。

 森の中は、しんと静まり返っていた。 獣の声も鳥の声も聞こえなかった。 異常な森の状態に、瑠衣たちはゴクッと喉を鳴らした。 静まり返った森の中でフィルの声が響く。

 「やっぱり! かすかにまぞくのにおいが、のこってるよっ!」
 「そうか、やっぱり魔族の仕業かっ」
 
 優斗が自身の頭の上に乗っているフィルと、器用に視線を合せ会話をしている。
 
 「という事は、行方不明になった冒険者たちは下僕に落ちたって事だな」
 
 瑠衣の意見にフィルとフィンが頷いた。
 
 「そうね。 ここに人間の血が落ちてるわ。 闇に落ちなかった冒険者は、下僕の餌になったんじゃないかしら」

 フィンは銀色の少女に変わり、血が落ちている草地にしゃがみ込み、周囲の匂いを嗅いでいる。 フィンの話に仁奈と華が『うげっ』と嫌そうに顔を歪めた。 瑠衣と優斗も想像したくないとげんなりしている。

 『下僕に自身が狩って来た餌を与える。 下僕に、自身が飼われている事を自覚させる作業の様な物だろうな』

 瑠衣の頭の中で、風神の声が聞こえた。 瑠衣の眉間が更に寄った。 フィルが優斗の頭の上から降りると、銀色の少年の姿に変わる。 銀色のおかっぱと、銀色の繋ぎの裾が揺れた。

 「エルフが居たら、ここの周囲を浄化魔法で綺麗に出来るんだけどね」
 
 チラリとフィルは華を見た。 フィルに見つめられた華が顔の前で両手をめちゃくちゃに振る。
 
 「えっ! 無理無理っ! エルフの浄化の魔法なんて使えないよっ!」
 「そうじゃないわよ。 エルフの秘術の中に、浄化薬があるはずなの。 魔族や下僕は浄化出来ないと思うけど。 浄化薬モドキでこの辺の周囲だけでも浄化出来ると思うのよね」
 「えっ! そうなの?! フィン、もっと早く教えてくれてもっ!」
 
 フィンは華をじっと見ると、あっさりと宣った。
 
 「ごめん、すっかり忘れてた。 それに浄化はエルフにしか出来ないって思い込んでたし。 1回、ファイルを見てくれる?」
 「うん、分かった」

 華の頭の中には、世界樹から授かった錬金術と、エルフのセレンの血を受け継いだ時、エルフの秘術のファイルが納められている。 エルフの秘術は聖水を利用して作られる。

 聖水はエルフにしか作り出せない為、華には本物は作れない。 しかし、魔力で作り出された魔力水を使って、エルフの秘術のモドキが作れるのだ。 モドキなので、本物の様な効果は出せないが、気休めにはなるだろう。

 キラキラと華の掌で、浄化薬モドキが釣り出された。 浄化薬モドキは、穢れた場所にかけるタイプだった。 浄化薬モドキを掛けた場所だけ、キラキラと光っていた。 『おお』と全員の感心したような声が上がる。

 浄化薬モドキは、魔力水を浄化薬モドキに変えた物のようだ。 華の鞄(元の世界で使用していた学校指定のスクール鞄だ)には、大量の薬瓶も収められている。

 大量の浄化薬モドキをその場で作り、皆で手分けして振りかけていく。 いつも鞄に入っている3体ほどの『ポテポテ』も駆り出された。 数秒後、森は正常に戻った。 フィルが辺りを見て瑠衣たちを振り返った。

 「これで大丈夫だと思うよ。 そのうち、動物たちも戻って来るんじゃないかな」
 
 瑠衣が伸びをして、皆を振り返っていつもの様に言った。
 
 「んじゃ、帰りますか。 ここでの情報は、これ以上は得られないだろうし」
 「そうだな。 後は、魔道具の街に紛れている魔族の情報を得ないとな」
 
 優斗の意見に皆が頷く。
 
 「あ、そうだ。 帰る前に一応、レヴィンさんの武器の素材を探してから帰らない? 雷神が居るかもしれないって連絡があったから」

 いつの間にか雷神の姿がない事に仁奈から言われて気かづいた。 雷神は上空を飛んでいた。 遥か上空から、雷神の鳴き声が瑠衣たちの元に降りて来た。 瑠衣たちは二手に別れて周囲を探したが、お目当ての魔物は見つからなかった。

 流石に魔族が暴れた後なのか、警戒して何処かに隠れてしまったようだ。 瑠衣たちは、今日は諦め『ポテポテ』を置いて監視する事にした。 もしかしたら、魔族の情報も得られるかもしれないと思っていた。

 3体の『ポテポテ』を森に放ち、瑠衣たちは優斗の転送魔法陣で店へ戻っていった。

 ――店に戻って来た瑠衣たちは、開店準備を急いだ。
 
 開店して直ぐにレヴィンがやって来た。 今日も人の良い笑顔を浮かべている。 レヴィンは午前中、狩をしていたらしく、本日の成果を皆に報告していた。 瑠衣は楽しそうに話をしているレヴィンに少しの違和感を覚えた。

 (ん? なんだろう、なんか前と違うような気がするな)

 瑠衣はレヴィンの腰のベルトに下げている魔法石で作られた飾り紐に目が留まった。 飾り紐は華が創作していて、店でも売っている商品だ。 購入する人の要望に応えて、色々な魔法を付与する事が出来る。

 (あれ? レヴィンって、飾り紐付けてたか? あれはうちの店で売ってるやつだな)

 店独自のオリジナルがあるので、大体何処の店のものか、誰が制作した物か分かるのだ。 飾り紐は、瑠衣たちの店にしか売っていないのだ。 瑠衣が3年前に華から誕生日プレゼントで貰った時に、特許を取っておいた。 いずれ、店を開く時の為にと。

 そして、優斗はまだ気づいていないが、腰の黒い竜のベルトに下げている飾り紐には『女避け』の魔法が掛かっている。 瑠衣は『華ちゃん、中々したたかだな』と思った事を覚えている。

 少し違和感を感じた瑠衣は、風神に指示を出した。 何故、こんなにレヴィンを怪しく思うのか分からないが、瑠衣はレヴィンを信用していなかった。

 きっと、あの胡散臭い人が良さそうに見える笑顔の所為だ。 瑠衣が人を欺く時に浮かべる笑顔と似ているからだと、冷静に自身の事を分析した。

 (風神、レヴィンにバレない様に追跡魔法を掛けられないか?)
 
 『承知した』

 風神の魔力がレヴィンの足元に広がると、対象を飾り紐に設定した。 瑠衣の左目の前に魔法陣を展開させる。 一連の作業を皆に気づかれないように細心の注意を払った。

 ピクリと肩を小さく跳ねさせた優斗の様子が視界に映った。 優斗の監視スキルは誤魔化せなかったようだった。 優斗と視線がぶつかる。

 瑠衣の瞳にはレヴィンが映し出されていた。 レヴィンを指した吹き出しに、彼の詳細が書かれていた。 何処も不審な所は無い様だった。 レヴィンの足元に広がった風神の魔力が、追跡魔法の魔法陣に変わる。 瑠衣はその様子を左目に映し出された映像で見ていた。 瑠衣の左目は、魔法石で出来ている。

 3年前、勇者召喚に巻き込まれた瑠衣の本物の左目は潰れたらしい。 助けてくれた主さまが、瑠衣が気づかない速さで治してくれたそうだ。 その事を風神に聞かされた時は、本当に愕然としたと瑠衣は思い出した。

 風神の追跡魔法が弾かれた事で、昔を思い出し物思いに耽っていた瑠衣は我に返った。 瑠衣はレヴィンを見ると眉を顰めた。

 (失敗したのか?)
 
 『すまぬ、主。 飾り紐に、追跡魔法の防止魔法がかけられている。 魔法に弾かれた。 飾り紐へ魔法をかけたのはハナだ』
 
 (う~ん。 華ちゃんからそんな報告受けてないんだけどなっ。 それか、俺に報告来てないだけか)
 『もしかしたら、あの飾り紐は別の人間の物ではないか?』
 (別の人? なるほどそうか。 帳簿を調べるか)
 「俺、薬湯の在庫を調べて来るわ。 後、頼むな」

 皆の『了解~』の明るい声を背に、瑠衣はカウンターの奥の扉から2階に上がる。 2階の会議室にしている部屋に店の帳簿が閉まってある。 瑠衣は帳簿を取り出してページを捲ると、飾り紐の項目を調べた。

 「飾り紐が売れたのは、2週間前が最後か。 購入者は冒険者で、しかもかなりレベルが高い人だな。 やっぱり、レヴィンの購入履歴はないな。 付与魔法は、追跡魔法の防止っ! 飾り紐の形は?! あいつがつけてるのと同じだ。 付与魔法は人それぞれだから、簡単に他人に譲るなんてこともしないだろうし。 まさか、遺品とかか?」
 
 『主、どうした?』
 
 (風神、ギルドに放っている『ポテポテ』に連絡を取ってくれ。 直ぐに調べて欲しい事がある)
 
 『承知した』

 瑠衣は帳簿を元に戻すと、深い溜め息を吐いた。 会議室の扉がノックもなしに開けられた。 入って来たのは予想通り、優斗だった。 いつになく真剣な顔した優斗が口を開いた。

 「瑠衣、何があった?」
 
 苦笑を零した瑠衣は、今、分かった事を話す事にした。
 
 「なんで何かあったって分かったんだ?」
 「風神の魔力と監視スキル、後は、瑠衣の胡散臭い笑顔」

 優斗の推測を聞いて『流石は、親友』と頬を引き攣らせた。 話をすると、優斗も少しおかしいと思っている事を話してくれた。

 優斗の話と総合して、少しレヴィンの素性を調べた方がいいのではという事になり、レヴィンに暫く『ポテポテ』を付ける事にした。 そして優斗の監視スキルはレヴィンを敵認定した。
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