どうやら異世界の歪みに落ちた様ですっ!

伊織愁

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7話

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 ログアウトが出来なくなって三日目、お手伝いクエストで、家の手伝いをする事になった綾は、兄にこき使われていた。

 「おい、ソルティ。 これ、親父に持って行ってくれ」
 「えっ……」

 兄ソールが差し出して来たのは、昼食のおにぎりだ。 ゲームなので日本食もあるんだと、なんだか胸がほっこりとする。

 洋食に混ざって出て来る和食にも慣れて来た。 まだ味噌スープが出て来ないのが残念と、思ってしまう。

 受け取ったトレイを手に、綾は店の奥にある厨房というか、作業場へ向かった。

 大量の饅頭作りには、魔道具が必須。

 魔道具が動く音が鳴る作業場へ入った。

 父のソルトは、魔道具の前で腕を組み、じっと出来上がりを見ている。

 いつも父の足元にいるサングリエが居ない。 周囲を見渡すと、のっそりと魔道具の影から出て来た。

 何してたんだろう?

 「どうした、ソルティ」
 「あ、お昼を持って来ましたっ」
 「ああ、もうそんな時間か……そこのテーブルに置いておいてくれ」
 「はい」

 ソルトの言う通り、お昼のトレイをテーブルの上へ置くと、扉の方へ足を向ける。

 「今日は冒険者ギルドの方はいいのか」
 「あ、今日のお店の手伝いは、冒険者ギルドのお手伝いクエストでっ」
 「そうか……」
 「はい」
 「まぁ、いい。 お前も昼にしろ」
 「はいっ!!」

 綾は慌てて作業場から出て行った。

 作業場から出ると、綾から大きな溜め息が吐き出された。 金髪が揺れる。

 「大丈夫、マスター?」
 「大丈夫よ、綺麗」
 「マスターは何でお父さんが苦手なの?」
 「……っ、う~ん、何でだろうっ」

 何故、苦手なのか分かってる。 現実世界の父と上手くいってないからだよねぇ。 しかも、無口でぶっきらぼうな所は同じだし。

 「まぁ、それはいいじゃないっ。 店に戻ろう、綺麗」
 「うん」

 綺麗は納得していない声を出した。

 何とか依頼書に書かれていた時間、ブラック企業並みの手伝いをして、ボランティアであるお手伝いクエストを終わらせた。

 「マスター、次はどうするの?」
 「うん……どうしようかなぁ」

 本当は少しでもレベル上げをしたいけど……。 ログアウト出来ないのがとても気になる。 あっ、そうだ!

 「何で今まで気づかなかったんだろ。 他にもプレイヤーがいるじゃない! 家族やギルドマスターとかは、NPCだろうけど!」
 「マ、マスター?」
 「綺麗、ギルドに行くよ。 クエスト終了の報告をして、他のプレイヤーから情報収集をする!」

 力強く拳を握り締め、気合を入れた。

 「……随分、張り切ってるけど、大丈夫かなぁ」

 綺麗は今までの綾を思い出し、心配そうに呟いた。

 やって来ました冒険者ギルド! ここには色々なプレイヤーが来るから、バグに詳しい人もいるかも!

 期待を胸に、綾はギルドの扉を開けた。

 誰に話しかけようかと、周囲を確認してプレイヤーたちを品定めする。

 「あの人の方が話しかけやすそうかな」
 「マスター、先にお手伝いクエストの報告をしないと、実績にならないよ」
 「あ、そうだった!」
 
 空いている受付に、いそいそと報告に行った。 報告はすんなりと終了し、綾は改めてギルドの中を見渡した。

 ラノベやアニメに良くあるギルドだ。

 一階にギルドの受付があり、依頼ボードが壁に設置され、横には食堂兼酒屋だ。

 二階から上は、宿舎や資料室などがあるらしい。 綾は当然ながら、一階にしか来た事がない。 ギルドに訪れる冒険者は、皆、守護精霊を連れている。

 守護精霊は色々な姿をしていて、幼生から成獣の姿をしている。 そして、高級そうな装飾品や魔法付与がされている防具をつけている守護精霊もいる。

 凄いっ! 皆、もう精霊の格をあげてるんだ。 でも、まだ三日目だよね?

 フィールドが開放されて三日目で、綾の視界には強そうなサングリエを連れた冒険者たちが映る。 冒険者たちも強そうだ。

 ゲームで三日目という事は、9時間かぁ。 9時間であそこまで強くできるの?

 綾は周囲の冒険者たちを凝視する。

 綾の視線に気づいた冒険者たちは、ギョッとして離れて行った。 人によっては喧嘩を売っている様に見える為、トラブルを避ける為にもやめた方が良い。

 しかし、綾は気になって仕方がなかった。 連れている守護精霊もサングリエだけではない。 一番多いのはサングリエ、次に多いのはチィーガル(虎)、シャン(犬)だ。

 綾が暮らす国は炎の国、フィアンマなので、フィアンマにある街を守る守護精霊が多い。 チィーガルはかっこいい虎の精霊が多く。 シャンは可愛い犬が多かった。

 次は森の国、シルウァの街を守っている守護精霊。 ギルドマスターがシルウァの出身だからという事もあるだろう。

 他には、ラパン(兎)やティール(鳥)、シルウァの守護精霊が続く。 後の守護精霊は一割二割という所だ。

 契約精霊に魔法石を与えないと駄目だから、プレイヤーは色々な街と国を旅するはずなんだけどなぁ。 それにしても、守護精霊、強そうっ。

 「ゲーム時間で三日間(現実は9時間)で、こんなに育つの? 皆、廃人なのかなぁ?」
 「廃人?」
 「綺麗に言っても分からないよねぇ。 なんでもないの」
 
 もう一つ気づいた事、誰も契約精霊を連れていない。 契約精霊も守護精霊と同じ様に初期でイベントがあるというのに。

 やはり受付のお姉さんの言う通り、皆は自身の守護精霊しか興味がないのか、冒険者たちは契約精霊を連れていなかった。

 「どうやって、契約精霊と出会えればいいのか分からないよっ。 ログアウトしたら、攻略サイトで調べた方がいいよね。 よし、取り敢えず誰か話しやすそうな人に声を掛けよう」

 綾は人見知りする方なので、初対面の人に話し掛けるのは、とても勇気がいる。

 依頼ボードの前に、綾と同じ様に簡素な防具を付けている若い冒険者を見つけた。

 「よし、あの子たちに決めた!」
 
 一心に依頼ボードを見つめる少年少女のグループを見つめ、綾は意を決して足を向けた。

 ◇

 赤い魔法石が圭一朗に吸収されていく。

 炎レベルが3になった事で、新たな魔法石が必要になったからだ。

 しかし、レベルってどれくらい上がるんだろう? まぁ、青い炎までだろうけど、大分、かかりそうだよな。

 必要分の魔法石が吸収され、光を放っていた圭一朗の身体から光が収まっていく。

 圭一朗の脳裏に綾の姿が思い浮かぶ。

 「アイツ、無理してないといいけどな。 あぁ、せめて猪俣がどうしているかだけ、知りたいわ! 本当、死ぬ様な事するなよ!」

 圭一朗は一年時に、綾が保健室登校をしていた時の事を思い出した。

 綾は楽しそうにゲームの話をし、VRゲームだから死なない事をいい事に、物凄く無茶をしていたと話をしていた。

 圭一朗から深い溜め息が吐き出された。
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