『私に嫌われて見せてよ』~もしかして私、悪役令嬢?! ~

伊織愁

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10話

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 リラの瞳に映るエディとリュシアンは、不仲ではなく、とても仲が良いように見えていた。 記憶している小説とは違う展開に、最初は様子を見ようと思っていた。 しかし、入学して一か月、リュシアンに会えなくて、堪え性の無いリラはやらかしてしまった。

 今、リラの目の前でエディとリュシアン、サージェントの二人が楽しそうに食事をしている。

 まるでリラの事など最初から目に入っていない様な態度だ。 周囲のひそひそと噂する内緒話も気になり、耐え切れなくなったリラは堪らず食堂を出て行った。

 (くっ悔しいっ~! でも、どういう事?! 水災害って何よっ、そんな事、知らないわよっ)
 
 貴族や生徒たちのゴシップには興味があっても、時事や政治の事にはあまり興味を持っていないりらは世間に疎く、皆が水災害で騒いでいた時もリュシアンを探して学園を駆けまわっていた。

 何なら、大聖堂や王宮の一般人が入れる所まで探していた。 勉強にも手がつかず、入学して最初の週にあった学力テストも散々な結果だった。 入試は前世の記憶が戻る前に受けていたので、まぁまぁ上位の成績を収めていたのに、記憶が戻った事で成績も落ちていくだろう。

 虹色の魔力を保持している為、リラには野良のサージェントがいた。 しかし、記憶が戻ったからなのか、前世の人格が前へ出過ぎている事が影響しているのか、何故かサージェントとの契約が切れた。

 リラのサージェントはウサギの小人獣人だ。 幼少の頃に出会い、今は前へ出て来られない現世のリラがロールと名付けた。 ロールは今、リラの母親の世話になっている。

 顔を上げたリラは気を取り直して、別の方法でリュシアンを奪おうと考えを巡らした。

 ◇

 憤怒の形相でリラが食堂を出て行った後、リュシアンがエディへ問いかけて来た。 耳元で囁くので、エディの首筋に髪が掛かり、とてもくすぐったい。

 「ねぇ、あの令嬢は何?」
 「……さぁ? 何でしょうね?」

 エディは淑女の笑みを浮かべようとして失敗した。 内心では分かっている。 きっと小説の主人公なのだろう。 しかし、少女の様子からして、ダークヒロインの気がしてならない。

 入学してからずっとヒロインと思われる少女は、エディに今の様な感じで絡んで来たのだ。 だから直ぐにロジェにお願いしていた。 テーブルに着く時はエディが壁側で、ロジェが通路側で横並びに座ってくれと。 入学式からそばにいたロジェは、主の願いに快く引き受けてくれた。

 (そうよね、だって大体の悪役令嬢物のライトノベルはそうだった。 転生悪役令嬢の相手はダークヒロインがライバルだった。 という事は……)

 少しだけ頭が悪そうな少女と、リュシアンが真実の愛に目覚めるのだ。 そして、悪役令嬢ポジションのエディは悲惨な最後を迎える。 隣で、綺麗な所作で美味しそうに食堂のランチを頬張っているリュシアンを絶望の表情で見つめる。

 (なんか、納得できないっ……リュシアンがあのちょっと頭悪そうなヒロインと恋に落ちるの……?)

 何かに絶望した様な表情を浮かべ、じっと見つめてくるエディと視線があったリュシアンの肩が小さく跳ねた。

 「どうしたのっ、エディ?! なんで、そんなに絶望してるのっ?! 今の一瞬で何があったのっ?!」

 リュシアンの声でハッと我に返ったエディは、慌てて顔を左右に振った。 若干、気持ち悪くなるほどだった。 心配気に見つめて来るリュシアンは、エディの『大丈夫だ』と言う言葉に納得いかないのか、眉を顰めている。

 しかし、悪役令嬢のバッドエンディングが思い出せないエディの脳裏に閃きがあった。

 (あら? 転生悪役令嬢物って、悪役令嬢が主役だったよね? 主人公であるヒロインはダークヒロインっぽい……という事は、もしかしなくても……私が主役っ!!)

 青くなったり、瞳を輝かせたり、暫し考え込んだりと、忙しく表情を変えているエディを最初は心配そうに見ていた。 しかし、色々と表情を変えているエディを見て、面白くなった様だ。

 リュシアンは、じっとエディの妄想をしている姿を隣で見つめていた。

 (あっ、でも、小説を思い出せないし……本当にリュシアンとヒロインが恋に落ちるかもしれない。 でも、あのヒロインに、私の知っているリュシアンが恋に落ちるとは思えないっ)

 エディが百面相する様子をリュシアンが楽しそうに眺めている事に、エディは全く気付いていなかった。 楽しそうに見つめるリュシアンの瞳が、慈愛の籠った優しい眼差しをしている事にも。

 ◇

 復帰早々の放課後、リュシアンの姿は学園の裏庭に建てられている食堂と図書室、生徒会室がある建物の中にあった。 生徒会室では、リュシアンの前に生徒会のメンバーが勢揃いしていた。

 「では、リュシアン殿下。 よろしくお願いします」

 生徒会長である二年生、サンディ・ドゥ・プール侯爵子息がリュシアンに挨拶を促した。 サンディに頷いたリュシアンが一歩前へ出る。
 
 「こんにちは、生徒会の皆さん。 初めましての方も、入学前のお茶会で会っている久しぶりな方も、本年度、生徒会へ加入しました、リュシアン・ディ・ルブランだ。 先の水災害で入学早々、休んでいたが、やっと復旧作業も終わり、皆と合流する事になった。 副生徒会長を任命された事には、全力で頑張るので、よろしく」

 学園へ来て早々、リュシアンは生徒会から副会長を勧められた。 来年、二年生になれば、生徒会長をお願いされている。 言わば、平民から貴族が通う学園は、国の勢力図を小さくした物だ。

 学園での生徒会活動は、卒業後の国を運営する為の練習の様な物だ。 一番高位の者が生徒会長、次に位の高い者が副生徒会長を担っているが、成績の優劣や性格、学年なども考慮されている。

 愚か者には、高位の貴族でも生徒会長は任せられない。 高位の貴族になるほど傲慢になりやすく、優秀な者も多いが、生徒会のメンバー全員が未来のリュシアンの補佐候補たちだ。

 リュシアンの挨拶が終ると、顔見知りだが生徒会のメンバーの挨拶が始まった。 三年生は生徒会には携わっていない。 卒業論文があるので、三年生の一年間は論文に費やす。

 「リュシアン殿下、お久しぶりです。 水災害の復旧作業の陣頭指揮、お疲れ様でした」
 「ガッド、ああ、ちょっと大変だったが……着いて来てくれた騎士団の皆が良くやってくれたから、大事なかったよ」
 「そう、それは何よりです。 私も本年度の生徒会役員に抜擢されました。 よろしくお願いします」
 「ああ、よろしく」

 リュシアンとガッドが爽やかな笑みを浮かべて挨拶を交わし、握手をする。 両方ともが握手に力が入っていた。 笑顔だがこめかみに青筋が立っているのが見える。

 生徒会メンバーは、二人の只ならぬ雰囲気に狼狽えていた。

 (ガッドは補佐候補から外さないとなっ)

 ガッチリとガッドと握手を交わしている手の上から、もう一つの手が添えられた。 伸ばされた手の主を見ると、同じ一年生のヴァーノンだった。

 「俺も新しく生徒会のメンバーになった一年生だ。 よろしく、リュシアン。 それと、ジュレ家のご子息。 同じ一年生同士、仲良くしようぜ」

 にっこり笑った彼は、ヴァーノン・ド・ルジェという。 ルジェ伯爵子息だ。 ルジェ伯爵は騎士団の第三騎士団の団長で、ヴァーノンは嫡子なので学園卒業は騎士学校へ進学予定だとか。

 「ヴァン、お前、よく生徒会に入れたね」
 「失礼だな、リュシアン。 実力だぞ、先の実力テストでは20番以内に入ったんだからな」
 「おお、凄いじゃないかっ」
 「だろう、もの凄く頑張ったんだぞ」

 スッと表情を失くしたガッドがサッと手を外す。 先程まで嫌なくらい爽やかな笑みを浮かべていたというのに。 ガッドは視線だけヴァンに向けた。

 「まぁ、よろしく」

 素っ気なく返事を返したガッドはそばを離れ、自身の机へ腰掛けた。

 「……なんか、お前にだけ冷たくないか? あいつ」
 「ああ、多分だけど。 小さい頃にガッドの好きだった子が俺の婚約者になったからだろうな。 あの時は物凄く睨まれたし、今も恨まれてるみたいだ」
 「ヴァンが婚約したのって、確か、12くらいだったっけ?」
 「ああ、そうだ。 もう、三年は経ってる」
 「根深いな……」

 ヴァンの婚約者は二歳下で、とても可愛らしい令嬢だと、リュシアンは記憶している。 小さく息を吐いたヴァンも自身の机へ移動して行った。 生徒会長は二人が離れた事で話が終ったと見たのか、声を掛けて来た。

 「殿下、殿下の机はこちらです」
 「ああ、ありがとう」
 
 窓際に三つ並んだ机の一つを生徒会長が指さした。 並んでいる三つの机は、生徒会長と二人の副会長の物だ。 真ん中に生徒会長、左右に副会長が座る形になっていた。

 リュシアンは左側の机に座り、生徒会長から仕事をもらう。

 「今は、秋に行われる音楽祭の準備で忙しいのです。 殿下は、音楽祭の後にある芸術祭のプログラム作成をお願いします」
 「分かりました。 もう、参加者も決まっているんですね」
 「はい、去年の芸術祭が終った後から、もう一度参加したいと既に申し出ている方ばかりですけど」
 「なるほど」
 「では、お願いしたします」
 「はい」

 (音楽祭か……エディは出るのかな? いや、無理か……)

 リュシアンが遠い目をして昔の思い出に想いを馳せている頃、エディは音楽祭のお知らせの掲示板を見上げていた。 お知らせは校舎の正面入り口にでかでかと張り出されていた。

 「お嬢様、もしかしてなくても、音楽祭に出たいんですか?」
 「……歌なら負けないんだけどな……」
 「ですね、お嬢様は楽器を一つも弾けませんもんね」
 「……そうね」
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