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12話
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学園寮の執務室、長いテーブルを囲んで六人の男女が顔を付き合わせ、園遊会について話し合う為に集った。
テーブルには、誕生日席にファブリツィオが座っている。他の面々は。
ヴァレリア、フィオレラ、フリオ。
ヴァレリオ、フラヴィオ。
と、この並びで座った。皆が席に着くと、会議が始められたが、王族との会議に少し緊張気味な空気が漂う。フリオだけは、何故、自身が呼ばれたのか分からないと、困惑した表情を浮かべていた。
ピエトロは執務室の自身の席で仕事をしており、広い執務室の端の方に、彼の背中が見えていた。
オルガが皆に紅茶を運ぶ為、ワゴンの車輪を小さく鳴らし、皆の席に配膳していく。暫し淹れたての紅茶を愉しむ。
園遊会の会議が始まった。
「では、我々の来月に行われる園遊会だが、どういうテーマにするか、何か意見はあるか?後、一か月もないから今日決めたい」
「は~い、女の子たちを集めて、僕のファンクラブミーティングを開催するってどう?」
早速、フラヴィオが空気を読めない意見を出してきた。皆が無言でフラヴィオの意見を無視し、ファブリツィオが呆れた様にフラヴィオを見た。
「フラヴィオ、お前は自身の顔の広さを利用して、多くの生徒を園遊会へ連れてくる。後は、園遊会で提供する菓子や料理の紹介と、流通を確保するのが仕事だ」
「えっ!僕の意見は聞いてくれないの?!」
「どうせお前は、今の様にくだらない事しか言わないだろう」
「会議の意味?!くだらない意見から、いいアイディアが生まれたりするものだよ、殿下」
パチンと左目の瞼が下され、ファブリツィオにウィンクが落とされる。
ウィンクを落とされた方は、物凄く嫌そうな顔してフラヴィオを見た。
「フラヴィオ、ふざけていたら、執務室か追い出すぞ」
「は~い」
軽い返事をするフラヴィオは、全く悪びれていない。皆から笑いが起こり、少しだけ緊張して張り詰めていた空気が和む。
全く、フラヴィオの奴。空気を変える技は俺にはないな。
漂う空気が柔らかくなった後、会議は盛り上がった。秋なので、詩の発表会や芸術作品の品評会、色々な意見が出されたが、ヴァレリアとフィオレラの企画書が採用された。彼女たちの企画とは。
秋なので、皆で楽器演奏を披露しようと、いうものだった。学園の行事でも音楽祭はあるが、音楽祭で楽器演奏が出来る生徒は限られていて、演奏技術もプロ並みの技術を持っている生徒が選ばれる。
貴族子女にとって楽器が演奏出来る事は必須事項だ。音楽祭の様にプロ並みの演奏が出来なくとも、気軽に演奏披露が出来る場があれば、楽しいのではないかと二人は思ったのだ。
「では、園遊会のテーマは楽器演奏という事で、皆の得意な楽器は何だ?因みに俺はチェロだ」
「私はピアノです」
と、ヴァレリア、続いてフィオレラとフリオ。
「私はフルートですわ」
「俺はトランペットだ」
「は~い、僕はバイオリン!」
「フラヴィオは安定の定番だな。ヴァレリオは?」
「私もバイオリンですね」
ニヤリと笑ったファブリツィオは、意地悪な事を口にする。
「そうか、楽器が被るな。どっちか上手い方にして、下手な方はカスタネットだな」
「ちょっと殿下!僕が下手って決めつけてるでしょ!何で僕の方を見て言うのさ!」
「仕方ないだろう。ヴァレリオは天才と言われている程、バイオリンが上手いんだから」
「え~、マジで?!それは本当なの?」
ファブリツィオの話を聞き、フラヴィオがゆっくりとヴァレリオの方へ視線をやる。にこりと笑ったヴァレリオは、フラヴィオに最後通告を出す。
「バイオリンの師匠からはお墨付きを頂いています」
「因みに、師匠は誰?」
ヴァレリオが上げた師匠の名前に、ファブリツィオとヴァレリアの二人以外、フラヴィオ、フィオレラとフリオの三人は驚きの表情で固まった。
ヴァレリオは幼い頃にバイオリンの才能を開花させた。早くに気づいた亡きストラーネオ前侯爵がお金を掛けて有名な師匠を付けた。お陰でヴァレリオは、宮廷楽団から声をかけてもらっている。
「同じ世代で、その事を知らないと言う事はフラヴィオ、お前のバイオリン技術が分かるというものだな」
「むぅ、確かに僕の技術はただ弾けるってだけだね」
「カスタネットに決定だな」
「ちぇ~」
「後はお前の顔の広さに期待している」
皆の楽器が決まった所で、会議の続きが始まった。概要は、ファブリツィオたちがトップバッターを務め、新生徒会の面々で楽器演奏を披露する。
後は、自由に生徒が楽器演奏をしていく。
提供する菓子や料理は、最初に言っていた通り、フラヴィオの伝手に任せる事に。
「まぁ、殿下がそう言うならやるけどね。
殿下、僕の顔の広さを思い知らせてあげるよ」
「過度な期待をしない様、楽しみにしておこう」
挑戦的なフラヴィオに、ファブリツィオは意地悪な笑みで返した。
ファブリツィオとフラヴィオを見て『意外と仲良くやってるんだ』、とフィオレラとフリオが同時に呟く。双子の呟きはヴァレリアにしか聞こえていなかった。
◇
会議の後、フラヴィオは学園寮の執務室からサロンへ移動した。夕食前だという事で、サロンには少なくない人数が集まっていた。
んと、取り敢えず、あの辺の女子に声かけておこうかな。
サロンの一角、ソファーセットで談笑している五人の女子生徒に狙いを定め、そっと近づいた。
楽しそうに談笑している女子生徒たちは、近づいて来ているフラヴィオに気づいていなかった。
「やぁ、楽しそうだね。僕も仲間に入れて欲しいな」
優しくふわりと笑みを浮かべたフラヴィオに、楽しそうに談笑していた彼女たちはフラヴィオの笑みに気色を浮かべた。
「フラヴィオさまっ。!」
「喜んで!どうぞ、こちらにお座りになって下さいませ」
「ありがとう」
フラヴィオは更に笑みを深め、座るよう促してれた女子生徒の隣へ距離を詰めて座る。距離を詰められた女子生徒は、頬を染めてフラヴィオを見上げた。
「皆、何の話をしていたの?」
先程まで話していた事を聞かれ、女子生徒たちは気まずさから、表情を固まらせた。女子生徒たちの表情から、どんな話をしていたのか察したフラヴィオは、眉尻を下げた。
「……もしかして、僕の悪口だった? タイミングが悪い所へ来ちゃった? 僕」
「まさか!そんなことありませんわ。 フラヴィオ様の悪口は言っていませんわ!」
『僕の悪口は、』ね。それはそうだろね。 離れてて声は聞こえなかったけど、表情と唇を読めば、カーティアの悪口を言っていた事は分かったからね。揉み消されてるけど、カーティアは何組か婚約破棄させてるからなぁ。まぁ、彼女自身が壊したんじゃなくて、カーティアを好きになった男子生徒が勝手にした事だけど。
今度は安心した様に、にこにこと笑みを浮かべるフラヴィオは爆弾を落とした。
「そうだよね。お淑やかなお嬢様が、人の悪口なんて言わないよね?」
「え、ええ、そうですわ。そんな事致しませんわ。ねぇ、皆さま」
「ええ、致しませんわ!」
「良かった。じゃ、何か楽しい事を話そうよ」
すっかり萎縮してしまった令嬢たちだが、フラヴィオの笑みに、たちまち立ち直った。初めましての令嬢がいたので、趣味や得意な物を聞き出し、女子生徒たちの楽器演奏の有無まで聞き出した。
「じゃ、今度、君たちの得意な楽器演奏が聴きたいな」
「ええ、是非!」
声を揃えた女子生徒たちに、フラヴィオは目を細めた。
週末はお茶会に引っ張りだこだな。まぁ、お茶会でそれとなく、園遊会へ招待しよう
序でに隣に座った令嬢の耳元で囁くと、令嬢は真っ赤になって高速で頷いた。
話は終わったので、彼女たちと別れると、フラヴィオはサロンを出た。
初めましてな子がいて良かった。あの子が居なかったら、楽器演奏まで誘導するのは大変だったよ。
そして色々な場所へ行き、知り合いや初めましての女子生徒に声を掛けた。
学園寮の中庭に居た女子生徒に声を掛けた後、今日はもう終わりかなと、思った頃、話しかけて来た一人の令嬢。
「やぁ、カーティア。久しぶりだね」
「ええ、フラヴィオ。貴方、相変わらず沢山の女子生徒に声を掛けてたのね。貴方がいつも何処から、可憐な女の子を連れてくるのかと思っていたの」
「そう、そう言う君も、アドルフォたちが知らない男たちと会った帰りかい?」
「えっ…何を言ってるの、フラヴィオ。 何の話か分からないわ」
「ふ~ん、とぼける気なんだ?」
フラヴィオは面白そうな表情でカーティアを見つめた。
「とぼけてなんていないけど……」
相変わらずフランクな話し方だな。僕の方が家格が上なんだけど。まぁ、僕も殿下にはフランクだから、人に言えないかな。 で、カーティアの目的はなんだろう?
「で、どうしたの?」
「えっ」
「僕に何か話があって声を掛けて来たんでしょ?」
「……よく分かるのね」
「まぁね、色んな女の子を見て来たし、一応、女の子の機微には敏感な方だよ。
で、用件は何?」
「フラヴィオ、此方に戻って来ない? アドルフォやサヴェリオも困っているの」
「あぁ、彼らが雑用をしなくてはいけなくなって、カーティアも雑用を押し付けられて、今更ながら困った状況になっているんだ?」
図星を疲れたのか、カーティアは焦った表情を浮かべ、視線を彷徨わせた。
「前までは、率先して雑用係をしてたじゃない?」
「……っそれは、」
「殿下の為だったから?でも、裏で半分くらいは実行委員を使ってやってたよね? 悪いとは言わないよ。それが常識の範囲内だったら、人を動かせる人材な訳だし、上に立つ者の必要なスキルだよね」
フラヴィオは笑みに『僕に苦情が来てたんだよ』、と滲ませる。フラヴィオの意図を察したのか、カーティアは言葉を詰まらせた後、しどろもどろに言葉を紡ぐ。
「そういう事じゃなくて……フラヴィオが居なくなって、寂しくて、ただそれだけよ。フラヴィオに雑用をやらせようなんて、思っていないわ」
実感の篭らない『寂しくて』の言葉にフラヴィオは首を傾げた。
生徒会が割れたからか、サポートをする実行委員会も割れた様だし。サヴェリオは委員長なのに、ほぼ放置しているだろうな。
「顔の広い僕が入れば、色んな生徒を園遊会に呼べるものね?でも、カーティアは本気で僕に戻って来て欲しいなんて思っていないでしょう?何が目的なの?」
「目的なんて、私は皆と学園での生活を楽しんでいるだけだわ」
「ふ~ん、学園生活を楽しんでいるね? でも、カーティアの家格にしては、殿下を狙うのは身分不相応でしょ?いくら二人が上手くいってなかったとしても」
カーティアが俯いた隙に、フラヴィオは視線を木の影に走らせる。
「アドルフォを唆したの、カーティアでしょう?」
「何の話かしら?フラヴィオの言っている意味が分からないわ」
「だから、殿下を手玉に取って婚約破棄を狙ってたんでしょう?知ってると思うけど、王家から望んだ婚約を殿下が破棄したら、ファブリツィオ殿下は王籍から排斥される事態だよ」
カーティアは眉間に皺を寄せ、口を引き結ぶ。本音を隠せていない彼女は珍しい。
カーティアが黙っている事をいい事に、フラヴィオは話を続けた。
「まさかとは思うけど、もしかしてファブリツィオ殿下の排斥を狙ってるの?」
カーティアの身体が小さく反応し、貼り付けたような笑みを浮かべた。
ん~、これは図星なのかな?排斥される事を知らないで殿下を狙った訳じゃないんだ。どうして殿下の排斥を狙っているのかは分からないけど。僕が話した事は、全部ではないけど……マウリツィオ殿下が言っている事なんだよね。
チラっと木の陰へ視線を走らせると、何やら殺気が漂って来た。身体を震わせたタイミングで夕食の時間を知らせる鐘が鳴らされた。
「……私は、フラヴィオとまた一緒に生徒会がしたいだけだったの。私、フラヴィオが戻って来るの待ってるね」
今更感があるけど、ブレないなぁ。
そんなに必死だと返って物凄く、怪しいね。
カーティアは真っ直ぐにカフェテリアに走って行った。
背後から、踏んで小枝が折れる音と、足音を鳴らして近づいてくる人の気配、フラヴィオの肩が大きく跳ね上がった。
恐る恐る背後を振り返る。
「ダメではないですか、ジラルデンゴ侯爵子息。私が隠れている方向へ視線を向けるなんて、隠れて聞いてる事がバレるところでしたよ」
ピエトロの黒い笑みがフラヴィオを襲う。涙目で訴えるフラヴィオ。
「……っ、そんな事言ったって……あんな風に女の子を責め立てるなんて、初めてなんだから。目的は分からなかったけど、何か裏がある事は分かったから、もういいよね?」
一瞬、ピエトロの表情からスッと感情が抜けた後、笑みを貼り付ける。
その笑み! 二重スパイをしろなんて言わないよねぇ?!
「貴方が殿下の元へ来る為に、私が出した条件を覚えていますか?」
「……っ、覚えているよ。僕が殿下に隠れてカーティアに手を出した事の償いでしょう?今のでチャラではないの?!」
「なりませんね。殿下はジラルデンゴ侯爵子息が女ったらしな事を汲んで許した形ですが、私は許してませんからね。殿下を裏切った事、小馬鹿にしていた事、末代まで恨みます」
「……っ怖すぎ」
瞳の奥が笑っていないピエトロに見つめられ、フラヴィオは諦めた。
それって、マウリツィオ殿下もって事だよね。僕、末代まで祟られるのか……仕方ないね。僕もカーティアに流されたとは言え、考えなしだった。勉強になると思って受けるしかないかぁ。
「分かったよ。向こうには戻らないけど、カーティアの情報は聞き出すよ」
ピエトロは少しだけ眉を上げた。
「ファブリツィオ殿下の側は意外と心地いいからね。二度目の裏切りはしないつもりだよ」
片手を上げてカフェテリアへ向かうフラヴィオの背中を見つめ、ピエトロは小さく息を吐いた。
テーブルには、誕生日席にファブリツィオが座っている。他の面々は。
ヴァレリア、フィオレラ、フリオ。
ヴァレリオ、フラヴィオ。
と、この並びで座った。皆が席に着くと、会議が始められたが、王族との会議に少し緊張気味な空気が漂う。フリオだけは、何故、自身が呼ばれたのか分からないと、困惑した表情を浮かべていた。
ピエトロは執務室の自身の席で仕事をしており、広い執務室の端の方に、彼の背中が見えていた。
オルガが皆に紅茶を運ぶ為、ワゴンの車輪を小さく鳴らし、皆の席に配膳していく。暫し淹れたての紅茶を愉しむ。
園遊会の会議が始まった。
「では、我々の来月に行われる園遊会だが、どういうテーマにするか、何か意見はあるか?後、一か月もないから今日決めたい」
「は~い、女の子たちを集めて、僕のファンクラブミーティングを開催するってどう?」
早速、フラヴィオが空気を読めない意見を出してきた。皆が無言でフラヴィオの意見を無視し、ファブリツィオが呆れた様にフラヴィオを見た。
「フラヴィオ、お前は自身の顔の広さを利用して、多くの生徒を園遊会へ連れてくる。後は、園遊会で提供する菓子や料理の紹介と、流通を確保するのが仕事だ」
「えっ!僕の意見は聞いてくれないの?!」
「どうせお前は、今の様にくだらない事しか言わないだろう」
「会議の意味?!くだらない意見から、いいアイディアが生まれたりするものだよ、殿下」
パチンと左目の瞼が下され、ファブリツィオにウィンクが落とされる。
ウィンクを落とされた方は、物凄く嫌そうな顔してフラヴィオを見た。
「フラヴィオ、ふざけていたら、執務室か追い出すぞ」
「は~い」
軽い返事をするフラヴィオは、全く悪びれていない。皆から笑いが起こり、少しだけ緊張して張り詰めていた空気が和む。
全く、フラヴィオの奴。空気を変える技は俺にはないな。
漂う空気が柔らかくなった後、会議は盛り上がった。秋なので、詩の発表会や芸術作品の品評会、色々な意見が出されたが、ヴァレリアとフィオレラの企画書が採用された。彼女たちの企画とは。
秋なので、皆で楽器演奏を披露しようと、いうものだった。学園の行事でも音楽祭はあるが、音楽祭で楽器演奏が出来る生徒は限られていて、演奏技術もプロ並みの技術を持っている生徒が選ばれる。
貴族子女にとって楽器が演奏出来る事は必須事項だ。音楽祭の様にプロ並みの演奏が出来なくとも、気軽に演奏披露が出来る場があれば、楽しいのではないかと二人は思ったのだ。
「では、園遊会のテーマは楽器演奏という事で、皆の得意な楽器は何だ?因みに俺はチェロだ」
「私はピアノです」
と、ヴァレリア、続いてフィオレラとフリオ。
「私はフルートですわ」
「俺はトランペットだ」
「は~い、僕はバイオリン!」
「フラヴィオは安定の定番だな。ヴァレリオは?」
「私もバイオリンですね」
ニヤリと笑ったファブリツィオは、意地悪な事を口にする。
「そうか、楽器が被るな。どっちか上手い方にして、下手な方はカスタネットだな」
「ちょっと殿下!僕が下手って決めつけてるでしょ!何で僕の方を見て言うのさ!」
「仕方ないだろう。ヴァレリオは天才と言われている程、バイオリンが上手いんだから」
「え~、マジで?!それは本当なの?」
ファブリツィオの話を聞き、フラヴィオがゆっくりとヴァレリオの方へ視線をやる。にこりと笑ったヴァレリオは、フラヴィオに最後通告を出す。
「バイオリンの師匠からはお墨付きを頂いています」
「因みに、師匠は誰?」
ヴァレリオが上げた師匠の名前に、ファブリツィオとヴァレリアの二人以外、フラヴィオ、フィオレラとフリオの三人は驚きの表情で固まった。
ヴァレリオは幼い頃にバイオリンの才能を開花させた。早くに気づいた亡きストラーネオ前侯爵がお金を掛けて有名な師匠を付けた。お陰でヴァレリオは、宮廷楽団から声をかけてもらっている。
「同じ世代で、その事を知らないと言う事はフラヴィオ、お前のバイオリン技術が分かるというものだな」
「むぅ、確かに僕の技術はただ弾けるってだけだね」
「カスタネットに決定だな」
「ちぇ~」
「後はお前の顔の広さに期待している」
皆の楽器が決まった所で、会議の続きが始まった。概要は、ファブリツィオたちがトップバッターを務め、新生徒会の面々で楽器演奏を披露する。
後は、自由に生徒が楽器演奏をしていく。
提供する菓子や料理は、最初に言っていた通り、フラヴィオの伝手に任せる事に。
「まぁ、殿下がそう言うならやるけどね。
殿下、僕の顔の広さを思い知らせてあげるよ」
「過度な期待をしない様、楽しみにしておこう」
挑戦的なフラヴィオに、ファブリツィオは意地悪な笑みで返した。
ファブリツィオとフラヴィオを見て『意外と仲良くやってるんだ』、とフィオレラとフリオが同時に呟く。双子の呟きはヴァレリアにしか聞こえていなかった。
◇
会議の後、フラヴィオは学園寮の執務室からサロンへ移動した。夕食前だという事で、サロンには少なくない人数が集まっていた。
んと、取り敢えず、あの辺の女子に声かけておこうかな。
サロンの一角、ソファーセットで談笑している五人の女子生徒に狙いを定め、そっと近づいた。
楽しそうに談笑している女子生徒たちは、近づいて来ているフラヴィオに気づいていなかった。
「やぁ、楽しそうだね。僕も仲間に入れて欲しいな」
優しくふわりと笑みを浮かべたフラヴィオに、楽しそうに談笑していた彼女たちはフラヴィオの笑みに気色を浮かべた。
「フラヴィオさまっ。!」
「喜んで!どうぞ、こちらにお座りになって下さいませ」
「ありがとう」
フラヴィオは更に笑みを深め、座るよう促してれた女子生徒の隣へ距離を詰めて座る。距離を詰められた女子生徒は、頬を染めてフラヴィオを見上げた。
「皆、何の話をしていたの?」
先程まで話していた事を聞かれ、女子生徒たちは気まずさから、表情を固まらせた。女子生徒たちの表情から、どんな話をしていたのか察したフラヴィオは、眉尻を下げた。
「……もしかして、僕の悪口だった? タイミングが悪い所へ来ちゃった? 僕」
「まさか!そんなことありませんわ。 フラヴィオ様の悪口は言っていませんわ!」
『僕の悪口は、』ね。それはそうだろね。 離れてて声は聞こえなかったけど、表情と唇を読めば、カーティアの悪口を言っていた事は分かったからね。揉み消されてるけど、カーティアは何組か婚約破棄させてるからなぁ。まぁ、彼女自身が壊したんじゃなくて、カーティアを好きになった男子生徒が勝手にした事だけど。
今度は安心した様に、にこにこと笑みを浮かべるフラヴィオは爆弾を落とした。
「そうだよね。お淑やかなお嬢様が、人の悪口なんて言わないよね?」
「え、ええ、そうですわ。そんな事致しませんわ。ねぇ、皆さま」
「ええ、致しませんわ!」
「良かった。じゃ、何か楽しい事を話そうよ」
すっかり萎縮してしまった令嬢たちだが、フラヴィオの笑みに、たちまち立ち直った。初めましての令嬢がいたので、趣味や得意な物を聞き出し、女子生徒たちの楽器演奏の有無まで聞き出した。
「じゃ、今度、君たちの得意な楽器演奏が聴きたいな」
「ええ、是非!」
声を揃えた女子生徒たちに、フラヴィオは目を細めた。
週末はお茶会に引っ張りだこだな。まぁ、お茶会でそれとなく、園遊会へ招待しよう
序でに隣に座った令嬢の耳元で囁くと、令嬢は真っ赤になって高速で頷いた。
話は終わったので、彼女たちと別れると、フラヴィオはサロンを出た。
初めましてな子がいて良かった。あの子が居なかったら、楽器演奏まで誘導するのは大変だったよ。
そして色々な場所へ行き、知り合いや初めましての女子生徒に声を掛けた。
学園寮の中庭に居た女子生徒に声を掛けた後、今日はもう終わりかなと、思った頃、話しかけて来た一人の令嬢。
「やぁ、カーティア。久しぶりだね」
「ええ、フラヴィオ。貴方、相変わらず沢山の女子生徒に声を掛けてたのね。貴方がいつも何処から、可憐な女の子を連れてくるのかと思っていたの」
「そう、そう言う君も、アドルフォたちが知らない男たちと会った帰りかい?」
「えっ…何を言ってるの、フラヴィオ。 何の話か分からないわ」
「ふ~ん、とぼける気なんだ?」
フラヴィオは面白そうな表情でカーティアを見つめた。
「とぼけてなんていないけど……」
相変わらずフランクな話し方だな。僕の方が家格が上なんだけど。まぁ、僕も殿下にはフランクだから、人に言えないかな。 で、カーティアの目的はなんだろう?
「で、どうしたの?」
「えっ」
「僕に何か話があって声を掛けて来たんでしょ?」
「……よく分かるのね」
「まぁね、色んな女の子を見て来たし、一応、女の子の機微には敏感な方だよ。
で、用件は何?」
「フラヴィオ、此方に戻って来ない? アドルフォやサヴェリオも困っているの」
「あぁ、彼らが雑用をしなくてはいけなくなって、カーティアも雑用を押し付けられて、今更ながら困った状況になっているんだ?」
図星を疲れたのか、カーティアは焦った表情を浮かべ、視線を彷徨わせた。
「前までは、率先して雑用係をしてたじゃない?」
「……っそれは、」
「殿下の為だったから?でも、裏で半分くらいは実行委員を使ってやってたよね? 悪いとは言わないよ。それが常識の範囲内だったら、人を動かせる人材な訳だし、上に立つ者の必要なスキルだよね」
フラヴィオは笑みに『僕に苦情が来てたんだよ』、と滲ませる。フラヴィオの意図を察したのか、カーティアは言葉を詰まらせた後、しどろもどろに言葉を紡ぐ。
「そういう事じゃなくて……フラヴィオが居なくなって、寂しくて、ただそれだけよ。フラヴィオに雑用をやらせようなんて、思っていないわ」
実感の篭らない『寂しくて』の言葉にフラヴィオは首を傾げた。
生徒会が割れたからか、サポートをする実行委員会も割れた様だし。サヴェリオは委員長なのに、ほぼ放置しているだろうな。
「顔の広い僕が入れば、色んな生徒を園遊会に呼べるものね?でも、カーティアは本気で僕に戻って来て欲しいなんて思っていないでしょう?何が目的なの?」
「目的なんて、私は皆と学園での生活を楽しんでいるだけだわ」
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カーティアが俯いた隙に、フラヴィオは視線を木の影に走らせる。
「アドルフォを唆したの、カーティアでしょう?」
「何の話かしら?フラヴィオの言っている意味が分からないわ」
「だから、殿下を手玉に取って婚約破棄を狙ってたんでしょう?知ってると思うけど、王家から望んだ婚約を殿下が破棄したら、ファブリツィオ殿下は王籍から排斥される事態だよ」
カーティアは眉間に皺を寄せ、口を引き結ぶ。本音を隠せていない彼女は珍しい。
カーティアが黙っている事をいい事に、フラヴィオは話を続けた。
「まさかとは思うけど、もしかしてファブリツィオ殿下の排斥を狙ってるの?」
カーティアの身体が小さく反応し、貼り付けたような笑みを浮かべた。
ん~、これは図星なのかな?排斥される事を知らないで殿下を狙った訳じゃないんだ。どうして殿下の排斥を狙っているのかは分からないけど。僕が話した事は、全部ではないけど……マウリツィオ殿下が言っている事なんだよね。
チラっと木の陰へ視線を走らせると、何やら殺気が漂って来た。身体を震わせたタイミングで夕食の時間を知らせる鐘が鳴らされた。
「……私は、フラヴィオとまた一緒に生徒会がしたいだけだったの。私、フラヴィオが戻って来るの待ってるね」
今更感があるけど、ブレないなぁ。
そんなに必死だと返って物凄く、怪しいね。
カーティアは真っ直ぐにカフェテリアに走って行った。
背後から、踏んで小枝が折れる音と、足音を鳴らして近づいてくる人の気配、フラヴィオの肩が大きく跳ね上がった。
恐る恐る背後を振り返る。
「ダメではないですか、ジラルデンゴ侯爵子息。私が隠れている方向へ視線を向けるなんて、隠れて聞いてる事がバレるところでしたよ」
ピエトロの黒い笑みがフラヴィオを襲う。涙目で訴えるフラヴィオ。
「……っ、そんな事言ったって……あんな風に女の子を責め立てるなんて、初めてなんだから。目的は分からなかったけど、何か裏がある事は分かったから、もういいよね?」
一瞬、ピエトロの表情からスッと感情が抜けた後、笑みを貼り付ける。
その笑み! 二重スパイをしろなんて言わないよねぇ?!
「貴方が殿下の元へ来る為に、私が出した条件を覚えていますか?」
「……っ、覚えているよ。僕が殿下に隠れてカーティアに手を出した事の償いでしょう?今のでチャラではないの?!」
「なりませんね。殿下はジラルデンゴ侯爵子息が女ったらしな事を汲んで許した形ですが、私は許してませんからね。殿下を裏切った事、小馬鹿にしていた事、末代まで恨みます」
「……っ怖すぎ」
瞳の奥が笑っていないピエトロに見つめられ、フラヴィオは諦めた。
それって、マウリツィオ殿下もって事だよね。僕、末代まで祟られるのか……仕方ないね。僕もカーティアに流されたとは言え、考えなしだった。勉強になると思って受けるしかないかぁ。
「分かったよ。向こうには戻らないけど、カーティアの情報は聞き出すよ」
ピエトロは少しだけ眉を上げた。
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食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
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「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
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