神代の王

お花

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第1章 

4話

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 村長の名前はヤラドといった。彼は六十歳くらいの老人で、昔は冒険者をしていたと語ってくれた。

 それで彼が三十を過ぎた時、生まれ育ったこの村に帰ってきたのだという。

 確かに彼は六十にしては体つきが良く、冒険者をしていたと言われても納得がいく。

 私は彼を見て、職業は戦士だったのではないかと思った。
彼が大剣、又は棍棒などの武器を振り回している姿が容易に想像出来る。

「それで、お嬢さんの名前は?」

ヤラドが私に問う。

「これはすまない。まだ名を告げていなかったな。名をセンリルという」

 お嬢さんと呼ばれるような歳ではない、
とは思ったものの私は口にしなかった。
 
 そんなどうでもいいことよりも先に尋ねたいことがあったから。

「村長、単刀直入に聞くが話とはなんだ?本題に入って頂きたい」

 私が村長をせかすと、彼は少し頬をひきつらせて、話しましょうかのう、と言ってため息をついた。

「事の起こりは三日前の夕方じゃった。ワシらは皆、昼の農作業から帰って来てくたびれておった。そんな時じゃ、悪魔めが来おったのは」

 ヤラドの表情は以前と比べて氷ついていた。悪魔に恐れを抱いているのだろう。
私は彼が話を再開するのを待った。
 
 ヤラドは、大きく深呼吸をする。そしてまた、語り始めた。

「悪魔はワシらに上魔石を要求して来たんじゃ。バカな話とは思わんかね。ワシら農民がそんな高価なもの持ってるはずもなかろうて」

「そうだな。仰るとおりだ」

 上魔石といえば魔石の上位互換だ。売れば高値で売れるし、買えば魔力の回復もできる優れもの。また、斧や剣などに魔石を付与すれば魔斧、魔剣となって威力が倍増したり、特殊効果が得られたりする。
他にも防具に付与したり、魔具を作る時に用いる。
 
 人間による魔石の使い道はこんなものだろうか。

 対して悪魔は己が力をより高めるために魔石を求める。

 だから、今回のように悪魔が魔石を人に要求するのは、割とあることなのだ。
しかし、これは......

「それにしてもその悪魔、相当に頭が悪いな。悪魔が街に出没することはあっても、村はなかなかない。村に来る時は、大抵腹ごしらえの時だけだ。しかし、それなら尚更に解せない。お目当ての魔石がなかったのに人間を生かしておくなど普通はあり得ないことだぞ」

「あぁ、そのことじゃがワシが悪魔に三日だけ待ってくれと言ったんじゃ。それまでに用意すると約束しての」

 ヤラドの言うことが理解出来なかった。それもそのはず、三日で魔石を用意するなんて不可能だから。

 いや、問題はそこではない。何故、猶予があって逃げないのか。
逃げないなんておかしな話ではないか。

 私はこの男に怒りを覚え始めていた。

「なぜ逃げない?」
 
 私は強めに言った。怒りが込み上げてきていた。

 逃げなかったために期限は明日に迫り、もう打つ手がないのだから。

 もし私がこの村を訪れていなかったらヤラドも村人たちも、そしてコリウスやアイルラも明日、確実に死ぬことになっていただろう。

 それが私を心底憤慨させる。

しかし、ヤラドは落ち着いて私に言った。

「何を言うんじゃ。逃げるはずないじゃろう。ワシらセンル教徒が解放祭を行わないとなれば、ワシら人間のために戦って下さったセンル様に申し訳ないが立たん」

 私は呆気に取られた。まさか、それほどまでにセンルが愛されていたとは知らなかったのだ。

「ワシらとて死にたい訳じゃない。じゃが、命よりも大切なものは確かにある」

 彼らは覚悟を決めていたのだ。たとえ命を落とすことになっても、センルへの信仰を貫くのだと。

「そうか」

 私はそれだけしか言えなかった。

 私とヤラドは数刻の間、黙っていた。私と彼との間に沈黙が流れる。

 だが、沈黙を破ったのはヤラドの方だった。

「ワシら大人でこの村に残ると決めたんじゃ。子供らは知らなんだ。あの子らに罪はない。じゃからあの子らだけでも今から逃してはくれないだろうか。祭の最中に何処かへ行くなど決して許されない行為じゃが、その罰はワシら大人が引き受ける。
じゃからどうか、この老いぼれの願いをきいてはくれんかのう」

 私は黙って彼の一語一語を聞いていた。
なんと優しく勇気のある老人であることか。

 私は彼の勇姿、そして志に感服してしまっていたのだ。

だから、私は決める。

「そう言うな、村長。私が必ずどうにかしよう」

彼ら村人を救うことを。

我があざな、センルの名にかけて。







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