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第1章
6話
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私は村の外、つまり結界の外に出た。
武器を持たず、防具もなく、されど私は悪魔へと向かって行く。
あぁ、安心した。この程度の悪魔であれば、何の問題もない。
おそらくは、悪魔の中でも下位種。ヤラドの話から予測はしていたが、ホントに下位種であってよかった。
これなら被害は出ないだろう。
しかし、そんな私の思惑が村人たちに分かるはずがない。
村の中からは私を心配する声が聞こえてくる。私が何も持っていないからだろう。
「作製、デーモンバスター」
発声と同時か、それより早いか。
私の手に長剣が現れた。この剣は悪魔殺しの剣で、悪魔退治に最も使われる。
声を発さずともコリウスとアイルラに作ったベンチのようにデーモンバスターを作ることはできるが、彼らを安心させる為にも、私はわざと声を張った。
「『止まれ』」
悪魔は前進する私にしゃがれ声で命令した。その言葉には魔力がこもっており、私の見立てだと、自身より魔力量の少ない相手を一時的に従わせる呪いのようなものだ。
「『黙れ。私に命令するな。膝を地につけ、手を後ろで組め』」
悪魔は私の命令どおりに従った。悪魔にとっては屈辱的だったらしく、私に怒りを向けてくる。
私は悪魔と同じ手法をとっただけだ。違ったのは悪魔は一つの命令しか出来なくて、私は複数の命令をできることのみ。
しかし、それが悪魔と私の力の差を証明する。
断言していい。私の敵ではない。
「そう怒るな。まずは話そう」
ゆっくりと、乾いた声で悪魔に言う。
「グルルル」
悪魔は私に対話を求めていないらしい。バカなヤツだ。主導権を握っているのは私だというのに。
「お前を殺すと決めてるわけじゃない。だから話をしないか」
私は今度は優しく言ってみる。
私は村人からしか話を聞いていない。それなのに、悪魔をはなから悪だと決めつけるのは少し強引が過ぎるのではないか。
まあ、善と悪の定義など人それぞれで、あてにできるものではないのだが......
だから、私は私が納得できる方法でこの悪魔の処遇を決めるのだ。
幸いにもこの悪魔に仲間はいないらしく時間的猶予はある。
でも誤解しないでほしいのは、私は何があろうと村人の味方だと言うことだ。
つまり、善と悪の定義とはそう言うこと。常に裁定する側の主観が絡む。
私はそれが別に悪いことだとは思わないのだけれど。
「おっと、そうか。私が黙れと命じたから話せないのか。道理で吠えることしかしないわけだ。 『発声許可』」
悪魔は一つ縛りから解放された。そして汚い声音で私に言葉を吐き捨てた。
「貴様、このオレに楯突いてタダで済むと思うなよ。まずはお前を殺してから、村人も殺し...」
シュッ。
悪魔の右腕が跡形もなく消し飛ぶ。
私の剣にはヤツの血がベタリとついていた。
「グァァァァ」
悪魔の断末魔が虫のように響き渡った。
「勘違いするな。私はお前を殺さないとは言っていない。己の分をわきまえよ」
痛みにもがく悪魔に私はそう言った。
「ヒール」
私の掛け声でヤツの切断された腕が緑色の光に包まれる。そして雨のように吹き出していた血は止まった。
「さて、お前に問う。なぜお前はここに来た?」
するとどうだろう。悪魔は目に涙を浮かべて一気に喋り始めた。
「む、村人たちと遊ぶ約束をしていたんだ。何も悪いこと、シテナイ。だから、だから、アンタもその剣を仕舞っ...」
ボシュッ。
悪魔の体が消滅する。
神速の如く放たれた我が剣は悪魔の身体を捉え、粉微塵にしてしまった。
「もっと、マシなウソをつけないのか」
小声で私はそう囁いた。悪魔は自分が助かる為なら平気で嘘をつく。そうだとしても、牛の悪魔の嘘は酷いものであった。
_______
いろいろ思うことはあるが、なんにせよ終わったわけだ。
しかし、村人たちには一瞬にして悪魔が消え去ったようにしか見えなかったらしく、聞こえるはずの歓声がない。
私はくるりと村人たちの方を向き直し、血で汚れた剣を天に突き上げた。
「刮目せよ」
昇った太陽が私を照らす。
「ここに、悪魔は退治された。もう恐怖に屈することはない。死を恐れる必要もない。存分に生を謳歌するといい」
村人たちはシーンと一言も発さなかった。状況が読み込めていない。しかし、村長だけは違った。
「オオー、我らの勝利だ!」
村長は怒号を発するかのように声を上げた。彼のおかげで村人たちは何がどうなったのか理解出来たらしく、次々に歓声を放つ。
村人たちが喜びの渦に包まれる中、私は悪魔の最期を思い出す。
今回の一件で敵は敵なのだということを再認識させられた。
私はため息をつき、今は被害を出さずにことを終えたことに安堵した。
武器を持たず、防具もなく、されど私は悪魔へと向かって行く。
あぁ、安心した。この程度の悪魔であれば、何の問題もない。
おそらくは、悪魔の中でも下位種。ヤラドの話から予測はしていたが、ホントに下位種であってよかった。
これなら被害は出ないだろう。
しかし、そんな私の思惑が村人たちに分かるはずがない。
村の中からは私を心配する声が聞こえてくる。私が何も持っていないからだろう。
「作製、デーモンバスター」
発声と同時か、それより早いか。
私の手に長剣が現れた。この剣は悪魔殺しの剣で、悪魔退治に最も使われる。
声を発さずともコリウスとアイルラに作ったベンチのようにデーモンバスターを作ることはできるが、彼らを安心させる為にも、私はわざと声を張った。
「『止まれ』」
悪魔は前進する私にしゃがれ声で命令した。その言葉には魔力がこもっており、私の見立てだと、自身より魔力量の少ない相手を一時的に従わせる呪いのようなものだ。
「『黙れ。私に命令するな。膝を地につけ、手を後ろで組め』」
悪魔は私の命令どおりに従った。悪魔にとっては屈辱的だったらしく、私に怒りを向けてくる。
私は悪魔と同じ手法をとっただけだ。違ったのは悪魔は一つの命令しか出来なくて、私は複数の命令をできることのみ。
しかし、それが悪魔と私の力の差を証明する。
断言していい。私の敵ではない。
「そう怒るな。まずは話そう」
ゆっくりと、乾いた声で悪魔に言う。
「グルルル」
悪魔は私に対話を求めていないらしい。バカなヤツだ。主導権を握っているのは私だというのに。
「お前を殺すと決めてるわけじゃない。だから話をしないか」
私は今度は優しく言ってみる。
私は村人からしか話を聞いていない。それなのに、悪魔をはなから悪だと決めつけるのは少し強引が過ぎるのではないか。
まあ、善と悪の定義など人それぞれで、あてにできるものではないのだが......
だから、私は私が納得できる方法でこの悪魔の処遇を決めるのだ。
幸いにもこの悪魔に仲間はいないらしく時間的猶予はある。
でも誤解しないでほしいのは、私は何があろうと村人の味方だと言うことだ。
つまり、善と悪の定義とはそう言うこと。常に裁定する側の主観が絡む。
私はそれが別に悪いことだとは思わないのだけれど。
「おっと、そうか。私が黙れと命じたから話せないのか。道理で吠えることしかしないわけだ。 『発声許可』」
悪魔は一つ縛りから解放された。そして汚い声音で私に言葉を吐き捨てた。
「貴様、このオレに楯突いてタダで済むと思うなよ。まずはお前を殺してから、村人も殺し...」
シュッ。
悪魔の右腕が跡形もなく消し飛ぶ。
私の剣にはヤツの血がベタリとついていた。
「グァァァァ」
悪魔の断末魔が虫のように響き渡った。
「勘違いするな。私はお前を殺さないとは言っていない。己の分をわきまえよ」
痛みにもがく悪魔に私はそう言った。
「ヒール」
私の掛け声でヤツの切断された腕が緑色の光に包まれる。そして雨のように吹き出していた血は止まった。
「さて、お前に問う。なぜお前はここに来た?」
するとどうだろう。悪魔は目に涙を浮かべて一気に喋り始めた。
「む、村人たちと遊ぶ約束をしていたんだ。何も悪いこと、シテナイ。だから、だから、アンタもその剣を仕舞っ...」
ボシュッ。
悪魔の体が消滅する。
神速の如く放たれた我が剣は悪魔の身体を捉え、粉微塵にしてしまった。
「もっと、マシなウソをつけないのか」
小声で私はそう囁いた。悪魔は自分が助かる為なら平気で嘘をつく。そうだとしても、牛の悪魔の嘘は酷いものであった。
_______
いろいろ思うことはあるが、なんにせよ終わったわけだ。
しかし、村人たちには一瞬にして悪魔が消え去ったようにしか見えなかったらしく、聞こえるはずの歓声がない。
私はくるりと村人たちの方を向き直し、血で汚れた剣を天に突き上げた。
「刮目せよ」
昇った太陽が私を照らす。
「ここに、悪魔は退治された。もう恐怖に屈することはない。死を恐れる必要もない。存分に生を謳歌するといい」
村人たちはシーンと一言も発さなかった。状況が読み込めていない。しかし、村長だけは違った。
「オオー、我らの勝利だ!」
村長は怒号を発するかのように声を上げた。彼のおかげで村人たちは何がどうなったのか理解出来たらしく、次々に歓声を放つ。
村人たちが喜びの渦に包まれる中、私は悪魔の最期を思い出す。
今回の一件で敵は敵なのだということを再認識させられた。
私はため息をつき、今は被害を出さずにことを終えたことに安堵した。
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