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【第六話 みずほ先輩と学園祭に輝く七つの星】

【6-5】

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 みずほ先輩の強い眼差しは、上級生をひるませるに十分な威圧感があった。

 部長たちは互いに顔を見合わせた。

「……それで私たちに何を協力しろと?」

 軽音楽部の部長である丸山先輩が訝しげに尋ねる。みずほ先輩はよどみなく続ける。

「まず、会場はわたしたちが指定する部屋を使っていただきたいのです」
「場所まで生徒会が指定する気なの? あなたたちにそんな権限はないわ」

 そこで家須先輩が口をはさむ。

「丸山先輩、これはどこかひとつの部活が反対すれば成立しない謎かけです。皆のためだと思って聞き入れてください」

 聞いた丸山先輩は口を閉ざす。寡黙で理知的な家須先輩のひとことには異質な気迫が感じられた。

 この提案に同意しなければ、ここにいるほかの代表者の部活に迷惑をかけてしまう、という意味が込められている。まさに反論を封じる一手だった。

 みずほ先輩はさらに条件を提示する。

「それから、私たちが決めたキャッチコピーを、それぞれのイベント会場に掲示してほしいんです」
「勝手にキャッチコピーを決めるだって⁉ 俺たちの芸術に土足で踏み込むつもりなのか!」

 美術部の村本先輩は唇を噛みしめる。今度は円城先輩が言い返す。

「先輩たちはここまで生徒会にお膳立てをさせたのですから、そのぶん俺たちの言うことを聞いてもらえませんか」
「ぐっ、そこまで自信があるのか円城!」
「はい。なにせ俺たちは最強の生徒会ですから」

 円城先輩はいたって強気だ。これで謎解きの仕掛けがうまく機能しなければ、俺たちは絶対、火だるまだ。失敗は許されない。

 最後にみずほ先輩が上級生に釘をさす。

「けれど、訪れたお客さんに満足してもらえるかどうかは、先輩方の部活がどれだけ面白いイベントを催せるかにかかっています。わたしたちは全力を尽くしますので、息を合わせてほしいんです。お願いします!」

 俺たちは同時に頭を下げる。

「……じゃあ、今回はそれで納得する。だが、もしも来訪者が少なかったらわかってるな。そのときは首を洗っておけよ」

 そう言って彼らは立ち上がり、生徒会室を後にした。

 団結した意思で部長たちを押し切ることができた。皆、大きくため息をつく。

「とりあえずは納得してもらえたかな。でも、このぶんだと当日は忙しくなりそうだわ」
「そうっすね。じゃあ最初に広報誌での宣伝からですね。あとは当日のポスターも作らないと」
「かつき君、頼りにしてるからね」
「よっしゃ、黒澤克樹、微力ながら頑張ります!」

 その翌週、みずほ先輩は広報誌に広告を載せた。大胆にも見開きを占拠して書かれている。

『求む、挑戦者!

 校舎の中で蠢く、七つの部活に隠された秘密の暗号を解いてみよ!

 謎が解けたら、校舎の出口のそばに生徒会の屋台があるから、生徒会のメンバーに答えを教えてね♪

 正解者にはとっておきのサービスがあるよ。

 (注意事項)

 ・友達同士で答えを教えあってもいいよ。

 ・メモ用紙と鉛筆があるから自由に使ってね。

 ・陽が暮れるとヒントが出てくるよ。

 それではみなさん、頑張ってね!』

 そして、広告にはふたりの人物の顔が描かれていた。俺とみずほ先輩をデフォルメした頭の部分だ。みずほ先輩からは吹き出しで『生徒会長 清川瑞穂からの挑戦‼』と書かれており、俺の吹き出しには『俺らの絵もヒントのひとつさ!』と書かれていた。

 大きなポスターも同時に作成した。

「このポスターは学園祭の入り口に貼っておくわ」
「これなら間違いなく来場者が増えるだろうな。黒澤のアイディアは賞賛ものだな」
「家須先輩にそう言ってもらって光栄っす」

 俺たちは皆、作成したポスターを前にしてうなずく。

「あと、家須君には当日のサービスの材料を揃えてほしいの。円城君は受付をよろしく」
「「任せておけ」」
「わたしたちは当日の様子を見てから合流するから」
「いつものタッグだな。よろしくな、黒澤!」
「了解っす!」

 準備は万端だ。あとはそれぞれの部活が、正しく謎を仕掛けてくれることを願うばかりだ。

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