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<ジルベール>恋愛ルート
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しおりを挟む準備は出来たが、足が重い。ドアノブに手をかけようとしたが、出来ずにまた戻す。
―― どんな顔して、会えば良いんだ
バクだろうが付き合うという事実は、存在する。一体どんな顔――いや顔は何時も通りか。モブであるから表情差分が、極端に少ない。内心で何を考えてようと、基本的に俺の表情は無愛想なままだ。
―― よし、行くか
心の内が表情に出ない。何時もならもっと愛想良い差分がほしいと思うところだ。けど今回に関しては、良いのかも知れない。
大体此処でぐだぐだ悩んでも、どうしようもない。俺は講義を受けたいから、サボるなんて選択肢はないんだ。
―― よし
また決意を込めて手を上げて、扉を開けると何かぶつかった音が聞こえた。
「なにをしているんだ」
扉は外側に開く。庭なんてないから、開けたら直ぐ道路だ。だから開けたら人にぶつかる可能性はゼロではない。もしや通行人にぶつかったかと思えば、なぜか顔を覆っているジルベールがいた。
「大丈夫か」
「うん、大丈夫。ごめん」
一歩遅れてジルベールの顔面に、扉をぶつけたことに気付く。悪いと思ったが、なんで玄関の扉が開いたらぶつかる距離にいるのかという疑問が湧いてくる。方向的に真正面を向いているから、通行の途中ではない。扉の前に、立っていたことになる。
―― 本当になにしてたんだ?
再度疑問が湧いたが、確認はあとにすることにした。ジルベールの高い鼻が赤くなっている。冷やすのが先だ。
「あのレイザード」
「冷やしているから、少し待て。動くな」
術を構築して氷を作る。薄くしてからジルベールの鼻にあてた。あまり冷たくしすぎると、逆効果になるから気を遣う。
「もう大丈夫だから、手を離してくれると……」
「手を当てていたほうが、微調整がしやすい。我慢しろ」
鼻に手を当てられたままの状態が、不満なようだ。ただ訓練の時のように氷を作って、あとは攻撃っていう大雑把なのと違うんだ。皮膚という人体にあてているから、冷やしすぎて凍傷という結果にもなりかねない。
―― 加減、間違えたか?
これでも細心の注意を払ったつもりだった。だがジルベールの顔全体が、赤い。冷やしすぎを通り越して、凍傷を起こしてしまったのだろうか。
赤くなった鼻を冷やすつもりが、顔面凍傷にまで悪化してしまった。加減を間違えたでは済まない。どうすればいいんだ。医者か薬か。凍傷の応急処置って、どうすればいいんだ。
―― なんてことだ、いや待て
混乱しながら術を解いて、気まずげに視線をそらしたジルベールに盛大に勘違いをしていたことに気づく。これは照れて顔が、赤くなっているだけだ。
―― ああ、なんと罪深きバグなのか
ジルベールは現在バグのせいで、俺を好きだと思い込んでいる。というかジルベールにとっては、それがバグのせいだとか関係ない。事実だ。
忌々しいバグに、腹が立つ。思わず舌打ちをしたい気分になったが、なんとか堪えた。ここでそんなことをしたら、ジルベールが悪いほうに誤解する。
「気安く触って、悪かったな。嫌だったろう。許せ」
バグだからと言って、好きな相手にいきなり触られたようなものだ。奥手のジルベールには、あまり歓迎すべき事案じゃない。素直に謝ろうと思ったのに、なぜこう不愛想な物言いになってしまうのか。
「嫌じゃない! 違うんだ、えっとその、ごめん。慣れてなくて……ああ、すごく格好悪い」
離そうとした手をつかまれる。不快ではなかったらしい事に安堵したのだが、声が萎んでいき最終的には肩が落ちてしまった。なんというか凄く落ち込んでいるように見える。
―― なんというか
画面の外から見ていたジルベールと、本当にイメージが異なる。外側から見ていた時は、主人公相手にいつも余裕があって取り乱すことなんてなかった。
けど此処にきて前より親しくなって、知らない面を多くみてきた気がする。あきれる位に良いやつでお人好しなところもあって、行為を向けた相手には超がつく奥手だ。まったくイメージが異なる。
―― それでも嫌じゃないけどな
感じるのは不快なものじゃない。好ましいって思うことだって多かった。
「安心しろ。お前はどんな状態でも、格好良い」
いろいろと世話になったし迷惑もかけた。それでも呆れることもなくいてくれた。そんなジルベールに自信を取り戻させるために、口にしたことを否定する言葉を伝える。
―― また、間違ったな
目を見開いて、さらに顔を赤くしたジルベールを見て、また対応を間違ったことに気づいた。
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