4 / 4
お友達サークル
しおりを挟む
場所をヒメルニア嬢の部屋へと移動した。
ヒメルニア嬢の部屋は、なぜかトイレの隣にあった。
「エステル、おねしょする」
悩むことなく謎を暴露するセレスディア。
「セレスくん!!」
隠したい秘密を暴露され、赤面しながらヒメルニア嬢が声を上げる。
「私のことは、『お姉ちゃん』と呼んでって言ってるでしょ!?」
怒るところは、そこなのか?
「いや」
「じゃあ、『愛しいエステル』でもいいですわよ」
「いや」
本気で嫌そうだ。ヒメルニア嬢を睨みながら、私の後ろに隠れる。
ヒメルニア嬢が魔王と言っていたのは、彼の正直な気持ちだったのかも知れないな。
「むぅ。とりあえず、お座りくださいな」
赤いソファーを勧めるヒメルニア嬢。そそくさと私とマリアカートの間に座ろうとするセレスディアの襟を掴み、無理やり自分の隣に座らせる強引娘。
私が腰を下ろすと、ソファーの柔らかさで体が沈む。
「いかがですか?思考錯誤でやっとできた『人をダメにするソファー』ですわ」
あぁ、確かにソファーにやる気を吸われるような、安らぎが優しく包んでくれる。
「さぁ、マリアカートさまも、どうぞ」
「申し訳ありません、私はあくまでサシャフィールさまの秘書なので」
「構わぬ、座るといい。逆にヒメルニア嬢に失礼だ」
「…わかりました」
マリアカートがゆっくりソファーに座る。
「うっはああああああ!?」
初めて聞くマリアカートの嬌声に笑みが零れる。
「し、失礼しました」
赤面し、下を向くマリアカートの新しい一面に、新鮮な気持ちが宿る。
その情景に微笑みながらヒメルニア嬢がテーブルに置かれた鈴を鳴らすと、すぐに扉がノックされる。
「入ってくださいな」
「失礼いたします」
漆黒の髪の長身の青年が扉から現れる。
「申し訳ありません、4人分の紅茶を」
「はい、ご準備しております」
すぐさま扉の外へ歩くと、部屋から見えない位置に移動した。
二分ほどであろうか、トレイに紅茶を乗せて現れた。
紅茶の良い香りが鼻腔を擽る。
「目の前でティーポッドから注ぎたいのですが…申し訳ございません」
ちらっと、ヒメルニア嬢を見たので、彼女に原因があるのだろう。
そんな視線を気にも留めずに、問題児が紅茶を手にして、その香りを楽しんでいる。
「ありがとう、ジークフリート」
「いえ」
ゆっくり会釈して、退室しようとする青年。
「失礼、君は執事なのかね?」
私の言葉に執事の足が止まる。
気になったのは、青年の足の運びだ。執事というより精錬された剣士のそれだった。
青年がヒメルニア嬢に視線を送ると、主は静かに頷いた。
「自分は、アルネフィートの騎士団長ジークフリート・ディルハルドと申します」
「…一応、警戒されていたと思っていいか?」
なんの不思議ではない。魔王と揶揄される人物が自分の主と対面しているのだ。警戒するのは然るべきことであろう。
「いえ、執事は趣味でございます」
「え!?」
私と陰ながらその所作に学ぶべきモノを感じていたであろうマリアカートはジークフリートの顔を見上げた。
「単なる趣味でございます」
趣味って…騎士団長が私たちに紅茶を淹れているのか…。
「貴方様に殺意がないことぐらいは、認識できます。エステルお嬢様はともかく、セレスディアさまの見る目は確かでございますから」
「うん、そう」
こくこくと頷くセレスディアくん。
ジークフリートとしては、セレスディアくんに対し敬意と忠義を抱いているように見える。
決して、その対象がエステル嬢ではなさそうだ。
「呼び止めてすまなかったな」
「いえ。魔王…噂は所詮噂ということでしょうか?」
「ジークフリートくんが、そう思ってくれるだけで大丈夫だ」
わざわざ、魔王ではないと流布する必要はない。
その意図を汲んでくれたのか、「はい」と静かに頷いた。
「では、ごゆっくりなさってください」
騎士団長は深く頭を下げ、部屋から姿を消した。
おそらく、近くに控えているのだろう。気配は微塵も感じないが。
「セレスディアくん、ジークフリートくんに気に入られているんだな」
「私も、ジークすきだ」
満面の笑みを浮かべるセレスディア。
「パパも好き。ママも好き」
その笑顔のまま、私とマリアカートを見た。
「暖かい気持ちになる。私はそんな暖かい世界が好き」
私もマリアカートも釣られて笑顔を湛えた。
できれば、そこにエステル嬢も加えてあげないか?
しかし、当のお嬢様は思案する表情を浮かべていた。
コロコロと表情を変える少女だと思う。
「……オルアジェスト、ヒメルニア、サシャフィール、マリアカート…そうですわ!」
急にソファーから立ち上がる。
「家名の頭文字をとって『おひさま』!私たちはお友達サークル『おひさま』ですわ!目的は、『おひさまの暖かい世界を作ること』よ!」
おひさま、か。
「そうだな。その理想はとても良いと思う」
暖かい世界か…。
「素敵ですね」
「エステルにしては、良いことを言う」
そう。こうして私たちの居場所である『おひさま』は結成されたのであった。
ヒメルニア嬢の部屋は、なぜかトイレの隣にあった。
「エステル、おねしょする」
悩むことなく謎を暴露するセレスディア。
「セレスくん!!」
隠したい秘密を暴露され、赤面しながらヒメルニア嬢が声を上げる。
「私のことは、『お姉ちゃん』と呼んでって言ってるでしょ!?」
怒るところは、そこなのか?
「いや」
「じゃあ、『愛しいエステル』でもいいですわよ」
「いや」
本気で嫌そうだ。ヒメルニア嬢を睨みながら、私の後ろに隠れる。
ヒメルニア嬢が魔王と言っていたのは、彼の正直な気持ちだったのかも知れないな。
「むぅ。とりあえず、お座りくださいな」
赤いソファーを勧めるヒメルニア嬢。そそくさと私とマリアカートの間に座ろうとするセレスディアの襟を掴み、無理やり自分の隣に座らせる強引娘。
私が腰を下ろすと、ソファーの柔らかさで体が沈む。
「いかがですか?思考錯誤でやっとできた『人をダメにするソファー』ですわ」
あぁ、確かにソファーにやる気を吸われるような、安らぎが優しく包んでくれる。
「さぁ、マリアカートさまも、どうぞ」
「申し訳ありません、私はあくまでサシャフィールさまの秘書なので」
「構わぬ、座るといい。逆にヒメルニア嬢に失礼だ」
「…わかりました」
マリアカートがゆっくりソファーに座る。
「うっはああああああ!?」
初めて聞くマリアカートの嬌声に笑みが零れる。
「し、失礼しました」
赤面し、下を向くマリアカートの新しい一面に、新鮮な気持ちが宿る。
その情景に微笑みながらヒメルニア嬢がテーブルに置かれた鈴を鳴らすと、すぐに扉がノックされる。
「入ってくださいな」
「失礼いたします」
漆黒の髪の長身の青年が扉から現れる。
「申し訳ありません、4人分の紅茶を」
「はい、ご準備しております」
すぐさま扉の外へ歩くと、部屋から見えない位置に移動した。
二分ほどであろうか、トレイに紅茶を乗せて現れた。
紅茶の良い香りが鼻腔を擽る。
「目の前でティーポッドから注ぎたいのですが…申し訳ございません」
ちらっと、ヒメルニア嬢を見たので、彼女に原因があるのだろう。
そんな視線を気にも留めずに、問題児が紅茶を手にして、その香りを楽しんでいる。
「ありがとう、ジークフリート」
「いえ」
ゆっくり会釈して、退室しようとする青年。
「失礼、君は執事なのかね?」
私の言葉に執事の足が止まる。
気になったのは、青年の足の運びだ。執事というより精錬された剣士のそれだった。
青年がヒメルニア嬢に視線を送ると、主は静かに頷いた。
「自分は、アルネフィートの騎士団長ジークフリート・ディルハルドと申します」
「…一応、警戒されていたと思っていいか?」
なんの不思議ではない。魔王と揶揄される人物が自分の主と対面しているのだ。警戒するのは然るべきことであろう。
「いえ、執事は趣味でございます」
「え!?」
私と陰ながらその所作に学ぶべきモノを感じていたであろうマリアカートはジークフリートの顔を見上げた。
「単なる趣味でございます」
趣味って…騎士団長が私たちに紅茶を淹れているのか…。
「貴方様に殺意がないことぐらいは、認識できます。エステルお嬢様はともかく、セレスディアさまの見る目は確かでございますから」
「うん、そう」
こくこくと頷くセレスディアくん。
ジークフリートとしては、セレスディアくんに対し敬意と忠義を抱いているように見える。
決して、その対象がエステル嬢ではなさそうだ。
「呼び止めてすまなかったな」
「いえ。魔王…噂は所詮噂ということでしょうか?」
「ジークフリートくんが、そう思ってくれるだけで大丈夫だ」
わざわざ、魔王ではないと流布する必要はない。
その意図を汲んでくれたのか、「はい」と静かに頷いた。
「では、ごゆっくりなさってください」
騎士団長は深く頭を下げ、部屋から姿を消した。
おそらく、近くに控えているのだろう。気配は微塵も感じないが。
「セレスディアくん、ジークフリートくんに気に入られているんだな」
「私も、ジークすきだ」
満面の笑みを浮かべるセレスディア。
「パパも好き。ママも好き」
その笑顔のまま、私とマリアカートを見た。
「暖かい気持ちになる。私はそんな暖かい世界が好き」
私もマリアカートも釣られて笑顔を湛えた。
できれば、そこにエステル嬢も加えてあげないか?
しかし、当のお嬢様は思案する表情を浮かべていた。
コロコロと表情を変える少女だと思う。
「……オルアジェスト、ヒメルニア、サシャフィール、マリアカート…そうですわ!」
急にソファーから立ち上がる。
「家名の頭文字をとって『おひさま』!私たちはお友達サークル『おひさま』ですわ!目的は、『おひさまの暖かい世界を作ること』よ!」
おひさま、か。
「そうだな。その理想はとても良いと思う」
暖かい世界か…。
「素敵ですね」
「エステルにしては、良いことを言う」
そう。こうして私たちの居場所である『おひさま』は結成されたのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる