妄想中

渋谷かな

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旧暦忍者3 姫、現れる!?

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「なに!? ここが江戸城!?」
 睦月は、皇居周辺の道端に立ててある案内図を読んで驚いた。
「天守閣が無いではござらぬか!? まさか!? ペリーの黒船に積んであった長距離弾道弾発射用の大砲で集中攻撃を受けて、吹き飛んでしまったのではないか!?」
 あくまでもペリーを目の敵にする睦月。
「え? どうして私がペリーを嫌いかって? 日本固有の忍者が古いもので、大砲などの西洋文化が最先端の流行に嫉妬したわけではない。私がペリーを嫌っている1番の原因は・・・言葉だ。私は、英語が話せない。」
 睦月は、英語が苦手だった。故にペリーを始めとして、外国人観光客には抵抗があるのだった。
「何がサンキューだ!? 何がアイムソウリーだ!? 西洋人どもの使う謎の言葉、英語は、ある意味で妖怪よりも、ペリーの方が恐ろしいわ!」
 睦月にとって、英語=ペリーなのである。
「さぞ殿も無念であっただろうに・・・ウルウル。」
 泣いて主君の無念を思う睦月。
「殿の無念は、この睦月が必ずや晴らしてみせますぞ! 江戸城を、江戸幕府を再建して見せる!」
 そして睦月は、2020年の日本に江戸幕府の再興を企てるのであった。超半端ない睦月の企画力である。
「そのためには、もう少し江戸城跡地のことを調べなければいけない。きっと江戸城を解体した悪党が住んでいるはずだ! そいつらを追い出して、私が住む!」
 睦月は、自分の住所を皇居に決めた。
「元々旧暦家は、将軍家にお仕えする由緒正しき忍者の一族。江戸城に住んできたのだから、私には江戸城跡地に住む権利があるのだ!」
 もし江戸時代に土地の登記簿があれば、睦月の旧暦家の住所は、江戸城の屋根裏部屋で、台所から食べ物を盗み、殿の入った後に大浴場で入浴、睦月の父親の零は大奥を覗き見していたかもしれない。
「いざ! 我が住まいを取り戻さん! ペリーの寝首をかいてやる!」
 睦月は、皇居に侵入して、ペリーを暗殺しようと企んだ。

「いや~! さすが江戸城の台所だ! ご飯がうまい!」
 まず睦月は、美味しそうな臭いに誘われて、台所に侵入した。
「忍法! つまみ食い!」
 そして料理人の目を盗んでは、ご飯やみそ汁、おかずを食べ尽くしていくのであった。台所の屋根裏部屋でミッションインポッシブ〇のトムクルー〇顔負けのロープ・アクションを繰り広げるのであった。
「あれ? ご飯がないぞ?」
 首を傾げる料理人も、まさか忍者に食べられたとは思いもよらなかった。

「いい湯だな~! あははん~!」
 次に睦月は、年頃の娘らしくお風呂が大好きだった。
「こんな大浴場があるとは、さすが江戸城! お肌もスベスベ! まさに天然温泉でござる!」
 睦月は、年頃の娘なので、きれい好きなのでお風呂が大好きである。忍者の様な肉体労働をしているくせに、睦月がきれいなのは、将軍家が入るお肌がスベスベになる効能の温泉に盗み入浴しているからである。
「忍法! 無銭入浴の術! これで私も伝説のくのいち、お金さんに近づける! ニンニン!」
 お金とは、諸国漫遊が趣味の副将軍だった老人にお仕えしていた伝説のお風呂大好き女忍者である。睦月の憧れの存在である。
「誰かいるの?」
 その時、お風呂場に女の細い声が響いた。
「ふ、不覚!?」
 お風呂に夢中だった睦月は、女が近づいてくることに気づかなかった。
「誰? おかしいわね。誰かいたと思ったのに。」
 湯煙の中、近づいてきた女だったが、湯船には誰もいなかった。睦月の姿はなかった。
「忍法! 水遁の術!」
 睦月は、竹を口に咥えて、湯船の中に沈んでいたのだった。
「ああ~、疲れた。皇室の娘も大変だわ。プリンセスでも、姫でも言い方なんて同じなのに。」
 体を洗い終えた女は、湯船に入ろうとする。
「姫!?」
 姫という言葉を聞いて、お風呂のお湯の中にいた睦月は無意識に反応して飛び出してしまった。
「キャアー!? カッパー!?」
 女の子は、お風呂から飛び出してきた睦月に驚いた。
「姫!? 拙者でござる!? 睦月でござるよ!?」
「睦月!? そんな河童は知らないわよ!?」
「河童ではございませぬ!? 忍者です!? 忍者の睦月でござる!?」
「そんなの知らないわよ!?」
 睦月と姫は、突然の遭遇により興奮している。
「何をおっしゃいますや!? 姫!? 奏姫ではございませんか!?」
「え!? どうして河童が私の名前を知っているのよ!?」
「その顔、その声、奏姫様にソックリです! まさに瓜二つ! 間違いござらん! あなた様は、奏姫の生まれ変わりに違いないでござる!」
 睦月は、出会った女の子に、自分がいた江戸時代の徳川家の姫、奏姫の面影を感じていた。
「そ、そんなに似ているの?」
「はい。ソックリです。」
 奏は、目の前の女の子が真剣な眼差しなので、嘘を吐いている様には思えなかった。
「そういえば!? あなたも!?」
「おおー!? 睦月のことを思い出したでござるか!?」
「昔、飼っていた鼠に似てるかも? 死んじゃったけどね。」
「ネズミ!? 睦月は、忍者でござるよ?」
「ハッハハハ! 睦月ちゃん、面白い。」
「姫こそ。未来でもお元気そうで何よりです。」
 睦月と奏は、妙な所で警戒心を無くし、分かり合った。
「奏様! 悲鳴が聞こえましたが、大丈夫ですか?」
 その時、奏の悲鳴を聞きつけたメイドが脱衣所から大きな声で尋ねてきた。
「大丈夫よ! 何でもないわ!」
 奏は、不法侵入者の睦月をかばう。
「ホッ。ありがとうでござる。奏姫。」
「睦月ちゃん、私たち友達になりましょう。」
「友達でござるか?」
「忍者が友達だなんて、なんだか面白そうだわ。」
「睦月は、姫を陰から支える友達になりまする。」
「よろしくね。睦月ちゃん。」
「よろしくでござる。奏姫。」
 こうして皇室の娘の奏と、忍者の睦月は友達になった。
 つづく。
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