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アップルと王位継承会議

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「それでは、亡きスイカ国王様の次女、アップル様の新女王就任を・・・。」
 アップルと他の5人の王族、イチゴ、ミカン、カキ、カリン、カンキツの6名の出席で新しい王を決める王位継承会議が行われていた。
「認めません!」
「な!?」
 アップルの新女王就任は、出席者全員の反対で否決された。
「どうしてですか? なぜ私が女王になること反対されるのですか?」
「やはり国の王は、男がなる者だよ。」
「そうそう、まだ若いんだから、老いた者に王座は任せなさい。」
「女王なんかしないで、さっさと結婚しなさい。」
「うちの息子はどうかな? スイカの城や財産も手に入るし、なんなら私の愛人にしてやろうか?」
「抜け駆けはいけませんぞ!? 私が可愛がってやろう。イッシッシ。」
 王族たちは利権が絡み合い、アップルの女王就任を認めませんでした。
「よく考えてみたまえ、今、世界は危機に瀕している。」
「そうだ。我が国は殺人鬼を退治できたからいいが、世界各国では、まだ殺戮が行われているというじゃないか。」
「そんな時に、象徴だけのために小娘に国の王位を継がせる訳にはいかない。」
「その通り。また別の悪魔が我が国に攻めてくるかも分からないんだからね。」
「ということで、我々男の中から、次の王位を決めようか。」
 最初から話し合われていた。昨日の国葬で、一瞬で国民の支持を得た、カリスマ性のあるアップルの演説を聞いて、警戒した他の王族たちは、最初からアップルを女王にしないように、昨夜、他の王族たちは談合して、アップルを排除することを決めていたのだった。
「あの、少し気分が悪いので、休憩を頂けないでしょうか?」
 アップルの顔はショックで青ざめていた。
「いいだろう。我々も、どうやって王を決めるか、考える時間が必要だからな。」
「ありがとうございます。」
 アップルは体調が悪そうに会議室から退出していく。

「クソッ! 人間如きが、神に認められた私の行く手を遮るとは! 許せん! 絶対に許さないぞ!」
 ボカン! っとトイレの壁を殴り、怒りと悔しさを吐き出すアップル。
「アップルも人間じゃないか!?」
「私はいいのよ。神様公認の純粋な人間なんだから。エヘッ。」
 人とは、自分に都合の良いように考える生き物である。
「男尊女卑、年功序列、女は子供を産む機械、財産目当て、物欲性欲、全て自分の欲望だけではないか!? なんと汚らわし! これが国民のことを第一に考えなければいけない王族のなのか!?」
 他の王族に対する怒りがアップルの中に湧き上がってくる。
「いいわよ。5人で私を排除しようとするなら、私も、あなたがたを排除するだけです。なんせ、私は国民の期待を裏切る訳にはいかないのでね。」
 アップルは意を決して女子トイレから出て行く。

「お待たせしました。」
 アップルが会議室に戻ってきた。
「みんなが休憩から戻って来るまで待て。」
 会議室には、カンキツだけがイスに座っていた。
「戻ってこないと思いますけど。」
「それはどういう意味だ?」
「皆さん、体調が悪いと先に帰られたみたいです。」
「なんだと!?」
 不敵な笑みを浮かべるアップルを、怪訝そうな顔で睨むカンキツ。

 女子トイレを出たアップルは、休憩中の他の王族に一人一人声をかける。
「イチゴさん。」
「なんだ小娘? 女は男に従えばいいのだ。」
「女をなめていると痛い目に合いますよ? ニヤッ。」
 アップルは、大きな口を開けてイチゴを丸飲みする。そして、よく口の中で噛み砕き人間を味あう。まさにイチゴのフレッシュジュース。
「不味い。でも、今は仕方がない。まだ3人いるのだから。」
 アップルは、続いて自分の女王就任を認めなかった他の王族のミカン、カキ、カリンのフレッシュジュースを飲んだ。
「不味い。これからはシナモンフレーバーでも持ち歩こうかしら?」
 アップルの美味しい人間の食べ方の研究も進む。

「どうでしょう? 私が女王になることを認めていただけないでしょうか?」
「認めない。」
 再び会議室に戻る。アップルとカンキツの話合いが続く。
「私が女王になれば、あなたは副国王か宰相に任命します。それで手をうっていただけないでしょうか?」
「認めん! 私は、私は長い間、王座が空くのを、ずっと待っていたのだ! 千載一遇の機会を見す見す見逃してたまるものか!」
 あくまでもアップルの女王就任を拒むカンキツ。
「そうですか。残念です。死んでいただきましょう。」
 アップルは口を大きくしてみせる。
「な、な、な、な、な、なんだ!? その口は!?」
「神の口です。私は自己利益のために世界を滅ぼす邪悪な人間を減らす様に、神様に命を授かりました。」
「ふ、ふざけるな! 化け物! はあッ!? まさか!? スイカ国王の家族の中で、アップル!? おまえだけが生き残ったのは!?」
「はい。美味しくいただきました。」
「ギャアアアアア!?」
 気づいてはいけないことに気づいてしまったカンキツ。
「た、助けてくれ!? 命だけは!? 女王でも何でも認めるから、殺さないでくれ!?」
「そのお言葉、もっと早くに聞きたかったですわ。あなたなら、正体を知った人間を生かして帰しますか?」
「ギャアアアアア!?」
「私の行為は、神の行為も同然。私は神様公認の存在なのですから。それでは神の名のもとに、いただきます。」
 アップルは大きな口で、カンキツを丸飲みにして、血や肉片が飛び散らないように注意しながら食べていく。
「たかが人間如きが神に歯向かうとは、人とは何て愚かな生き物なのでしょう。おえー、本当に不味い。」
 アップルの女王就任は、他の王族の欠席放棄ということで認められることになった。新しい女王の誕生である。
 つづく。
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